NII学術情報基盤オープンフォーラム2017 #SINET5

今年もNIIのオープンフォーラムに出張で参加してきた(3年連続かな)。

思うところはあらかたツイートしたけど、所感を簡単にまとめておきたい。(トゥギャれよ、と言われそうですが、私はTogetterにログインできない病にかかっており……誰か頼みます……。)

リポジトリトラック「学術機関リポジトリの最新動向 - オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)の取組み -」

http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/day1_4.html

会場は昨年と同じ、250名も入る大部屋。そしてなんか犬がいた。

さすがに関係者なのでJPCOARの活動報告部分は新鮮味がまったくなかったりする(ので詳細は割愛します)。質疑で「オープンアクセス方針策定ガイドにはライセンスがついてないが自由に使っていいのか?」とあったのは、片手落ちで大変申し訳なく。。

JAIRO Cloudの話はノンユーザとして興味深く聞ける。今年夏にリリースされる予定のJAIRO Cloudの新機能のなかでは、

  • DOI付与条件チェック
  • DOI付与済アイテムの非公開化・削除防止
  • JAIRO Cloudで雑誌のカバー画像を登録・表示可能に

が気になった。

3点目については、昨年度リリースされたJAIRO Cloud→ERDB-JPの連携があるのだから、この画像のURLもERDB-JPに反映させて表示するところまでやってほしい。その際にはERDB-JPで採用しているKBART2拡張に当該要素を追加する必要があるだろう(ついでに姓しか入力できないfirst_authorという残念要素をなんとかしてほしい)。
https://erdb-jp.nii.ac.jp/ja/content/metadata_schema

ほか、東洋大学の後藤さんのプレゼンは、聞き手に向けたメッセージが明確に絞り込まれていて、元気で、さわやかだった。

JAIRO CloudのORCID対応に関する質疑も重要。

現時点では資料が公開されていないけど、片岡さんのプレゼンでは、これまであちこちで「CiNii for Data(仮)」と称されていたサービスの画面案が「CiNii Research」として紹介された。資料のうちこのページは公開されないとか……。

自分のプレゼンのメモ

メタデータスキーマ改訂の背景―なぜ新しいスキーマが必要なのか?―
http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/pdf/20170607PM_R_07_hayashi.pdf

持ち時間は10分と短く、内容的にも完全に前座なので、ライトニングトークの気分で、勢いよく、早口で、メッセージだけを残すようなイメージで話すことにした(それが成功したかどうかは分からない)。5分で終わるかなと思ったけど、7分くらいだった。

文字起こしするとこんな感じ:

  • この後はメタデータの話が2つ続くので、前座としてふわっと聞いていただきたい。
  • 2005年のjunii2、2017年のJPCOAR Schema。12年経ってそろそろ改訂すべきだと思ってもらえるならそれでいい。
  • あるいは抽象的な基本方針を読んで納得していだけるようならそれでいい。
  • でも大半のひとは???ですよね。それはまずいと思っている。メタデータの入力で大切なのはビジョン。入力したデータが最終的にどうやって活用されるのかというイメージを共有することが、クオリティの高いデータの維持につながっていく。
  • その例として最近Unpaywallというブラウザ拡張機能がリリースされた。これをインストールして電子ジャーナルの論文を表示すると、そのOA版があるかどうかがアイコンで示される。Unpaywallの背後ではoaDOIというサービスが世界中のOAコンテンツを集めて整理している。
  • ここで大事なのはメタデータ、厳密なメタデータである。みなさんが入力したしっかりしたメタデータが、こういうふうにしてユーザの役に立ちうる。そのためにjunii2より厳密なJPCOAR Schemaを開発している。

コンテンツトラック「これからの学術情報システムは何を目指すのか : 所蔵目録から情報資源の発見とアクセスへ」

http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/day2_6.html

これから(略)委員会の活動については、私自身は部外者ではあるけれど、公表されている報告書を読んでいればそんなに目新しい情報はない感じだった。
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/2017/03/nacsis-catillnacsis-cat28.html

前日のリポジトリトラックで聞いたJAIRO Cloud→ERDB-JP連携機能は、JCだけが対象かと思いきや、北山さんのプレゼンを見ていたら単なるファイル渡しっぽいしどんなシステムでも対応できるんだろうなと気づく。これはやってみよう。

本トラックの個人的なハイライトはここ。LSPってそういうもんだし、まあそうなりますよねっていう感じではあるんですが、それをバーンと出しちゃうのがこのひとたちのすさまじさだなあと改めて。

f:id:kitone:20170617170923p:plainhttp://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/pdf/20170608PM_Cont_02_iino.pdf#page=51

あと、ぽろっと漏らしたこれが妙に……。


研究データトラック「研究データ管理のための新サービス提供に向けて」

残念ながら資料は公開されないらしく。
http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/day2_5.html

今年4月に設立されたNIIのオープンサイエンス基盤研究センター。そこで現在開発中の研究データ管理基盤(Open Science Frameworkベース)・公開基盤(JAIRO Cloud for Data?)・検索基盤(CiNii Research?)について、参加者からフィードバックをもらいたい、という感じのイベントだった。

最初に込山先生から簡単なプレゼンがあり、あとはこんなプログラムでひたすらフロアとのディスカッション(自分もコメント役を仰せつかり……)。

  • 機関のニーズ(学術機関の情報基盤センターとの連携)
  • エンドユーザのニーズ(研究者からの要望)
  • 開発とデプロイ(情報システム関連企業との連携)
  • 自由テーマ(図書館との連携など)

この構成からも分かるように、主に情報基盤センターや研究者を対象にし、大学/研究図書館員は必ずしもメインターゲットではなかった。

ディスカッションで印象に残ってる発言は、

  • 研究者が学外へ異動した場合のアカウントの引き継ぎをどうするか。
  • 公開はリポジトリ=図書館、というのは本当に正しいんでしょうか。
  • ウェブからだけというのは使いづらいので、UIを増やしてほしい。
  • 誰がどうしたかという操作ログを残すようにしてほしい。
  • 事務や学生も使いたがるのではないか。
  • 機関とドメイン。データサイズが大きいときにどちらに置くのが適切なのか、悩んでいる。
  • 大容量ストレージが必要になった場合にJAIRO Cloudを従量課金制にするかという問題がある。

あたり。

特に機関とドメインの問題は本当に難しい。研究者のスタイルに即すのであればドメインという観点を主にするほうが良いんだろうけど、それで管理業務がうまく回っていくのかどうか……。

今後は、今年秋頃に第2回のクローズドαテストを開始する予定という。平成32年度の本格運用を目指して、開発・実証実験・試験運用を進めていくというスケジュールらしい。

自分のコメントのメモ

事前に、図書館の立場から管理基盤→公開基盤の連携などについてコメントしてほしいと依頼されていた。

困ったなぁ、何を話そうか……と

  • そもそも公開基盤側は具体的にどんな作業をすることになるのかが見えてないや。
  • システム側で研究データ公開のインセンティブをどう作るか。Web of ScienceのData Citation Indexへの収録、大学の研究者データベースとの連携(業績としての入力)、とか?
  • 図書館としては、手違いでデータが公開されてしまう、が怖い。論文はすでに公表されてるものだからダメージが少ないが、データはそうでもない。
  • 古典籍などのデジタル化画像(デジタル・ヒューマニティーズ)は研究データ管理基盤のスコープ?

というようなメモを作っていた。

込山先生のプレゼンや続くディスカッションを聞いていて、

  • DOIを登録する粒度はどうなるんだろう。OSFではプロジェクトという単位で研究データを管理するらしいが、そのうち一部のファイルをグルーピングして公開基盤(どこかの機関リポジトリ)に渡し、そのグループに対してDOIを振る、というのができるのかどうか。1プロジェクト=1 DOIというのは辛そう。
  • 複数機関の研究者が関わっているプロジェクトの場合、研究データをどの機関リポジトリで公開するのかという問題が起こる。研究データは文献と違ってデータサイズが大きくなるので、複数の機関リポジトリで重複して公開するのはストレージの無駄になるので、なんらかのポリシーを決める必要があるか(例えばOpenAIREではファンドを受けたP.I.が所属機関のリポジトリに登録するというガイドラインになっているらしい)。しかし、そうなると、公開先として選ばれなかった他の機関リポジトリと大学業績データベースの連携が難しくなるか……公開先として選ばれた機関リポジトリ→ORCID→プロジェクト関係者の大学の業績データベース、と流していくのが無難か。

というあたりが気になってきた。

で、結局こんな感じのことを発言した。


余談

東京に行くときはいろいろ組み合わさることが多いですが、今回は

  • 6/6(火):移動日
  • 6/7(水):メタデータな打ち合わせ、リポジトリトラックで登壇
  • 6/8(木):コンテンツトラック、研究データトラックを聴講
  • 6/9(金):京都へ移動、カレントアウェアネス編集企画会議@NDL関西館

という旅程だった。

昨年のオープンフォーラムは最終日に羽田空港大韓航空の事故があってわちゃわちゃしたのを思い出す。今年は3種類の用務に3者のスポンサーが組み合わさる出張なので行くまでの調整にえらく手間取った。。

木曜日は手頃なホテルが予約できず、東銀座駅上にあるTHE PRIME POD銀座に泊まってみた。最近増えてる、こじゃれたカプセルホテル。オスプレーをパンパンにした女性とか、外国人バックパッカーが多かった。しかし、このロケーションで3800円というのはすさまじい。ドライヤーがシャワールームのなかにあるので髪を乾かすときにちょっと暑い、以外にさしたる不満はなかった(そりゃ洗面台でやったらうるさいから仕方ないんだけろうけど。でもファーストキャビンはバスルームエリアがゾーニングされてたっけな)。ねぼすけの自分には、他のひとのアラームとそれまた他のひとの舌打ちとで自然と目が覚めるシステムは悪くない。

火曜日は移動日ってことで、ぐすたふ珈琲→SyuRo→蕪木と巡ってきた。SyuRoのおねーさんに薦められたままに入った蕪木はすてきな空間だった。。某お菓子会社出身のマスターが淹れてくれた、たしかにバナナのようになめらかな舌ざわりのホットチョコレートにニマニマした。

過去の記録

CNKI - Missing Issues

仕事でCNKIを見ていたら気になる機能があった。

各ジャーナルのページに "Welcome to offer the missing issue information" とあり、その下のリンク(巻号)をクリックすると、"Upload original version file"、"Input year/issue of journal"などとファイルをアップロードする画面に遷移する。一番下には"Thank you for offering the precious material"ともある。

素朴に考えると、CNKIで公開してない(欠けている)巻号を、エンドユーザがアップロードできる機能に見える。

軽く調べたんだけど情報が見当たらない(CNKIのサイトからダウンロードできるマニュアルは2011年版だった)。

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転籍

# 節目のご挨拶。

3年間のレンタル移籍が終わり、今年度からそのまま籍を移すことになりました。

係は異動せずということで、いまの部署でまだまだやりたいことがたくさんある自分にとっていちばんありがたいかたちになりました(ご配慮・ご尽力いただいた方々、ありがとうございます)。この先いつまでここにい(られ)るのかは分かりませんが、今年末の図書館システムリプレイスを完遂できるってことが何より嬉しいわけです。2月には顔がひきつるような某社事案をミラクルなタイトロープで切り抜けるはめになりましたが、やっとここまでこれた……。

同時に昇任もしました。といっても昨年度は実質的に係長が「不在」だったので係長業務の大半は経験済みで、守備範囲は今年度もあまり変わりがないといえばない、です。意識や振る舞いの切り替えという意味でもこの一年かけてずっと付き合ってきたので、このタイミングでどうこうというのはないみたいです、正直。

ので、今年度の抱負といっても、引き続き、図書館システムリプレイス、オープン化&デジタル化、識別子、ライセンス、の全方面で突っ走っていくだけ、という感じです。ひとつ、新たな課題として加わるのは、ご栄転された上司にも言い残された「後身の育成」でしょうか。「育成」ということばは偉そうであんまり好きじゃないし、そもそも能力的にはできるひとがたくさんいるんですが、強い興味と情熱を持っていっしょに(あるいは勝手に)やってくれるひとを増やしていかなければ、と。そのためにもまずは自分が思いっきり仕事を楽しんでいきたい。

図書館員として10年働き、次の10年が始まるというタイミング、ここでいったんリセットしたい、リセットせねば、という思いはあります。10年後に自分はどうなっていたい? 10年後に自分はどこにいたい? そもそもなんでこんな仕事してんだっけ? 研究者にかっこいい研究をしてもらうためだったよね? そこにきちんと貢献できてる? ぜんぜんできてないよね? まだかたちにすべきこと、終わらせるべきこと、たくさんあるよね? そんなことを改めて問いかけながらの、1年目に。

まあ、どこにいたい?と言ったところで、10年前にいまの状況はまったく想像してなかったので(そもそも当時は福岡に来たことすらなかった)、次の10年後にもまた、よくわからんことになってそうですが。

残念ながら自分は古巣とはミスマッチだったという結果になるのかなあと、心の整理をしています。ずっと希望していたとおり自分をあのポジションに据えてくれてたら、というような悔しさが完全に消えてくれることはこの先もないんでしょうが、思い出して苦しくなるようなことはなくなってくれてる。

30代の仕事の面白さという話がありますが、たしかにこのごろになってようやく自分の動かし方ってものが分かってきて、20代のころとは違った意味で仕事を楽しめるようになってきている気がします。一方で、順調がゆえにどこかたるんでしまっているきらいもあって、ガツガツが足りてない。自分のような人間は現状に満足してしまったら終わる、もっと自分に対してイライラしよう、と危機感を持っています。

転籍についてはいろいろな方から「縁もゆかりもない土地に」「思い切ったね」「今回の人事でいちばん驚いた」などといろいろなことを言われましたがw、退職された大先輩に「自分は辞めるけど、ここに残ることを選んでくれたのがとても嬉しい」ということばをいただいたときは思わずぐっときました。この評価が、この3年で自分が手に入れた「勲章」かな。忘れないでいたい。

HUAWEI nova

スマホ(HUAWEI P8 lite)の液晶がばっきばきのばっきばきになってから数ヶ月以上ごまかし続けていたけど、いいかげん新しいのが欲しくなってきて、発売されたばかりのnovaに手を出してみた。
http://consumer.huawei.com/minisite/jp/nova/index.htm

楽天スーパーセールで、37,500円のところ600円引きのクーポンにプラス10倍ポイント還元で購入。P8 liteがmicroSIMカードだったのでnanoSIMカードへの切り替えが必要だったのも、IIJmioのキャンペーンに乗っかって手数料無料で済まることができた。実質3.3万円程度のスイッチ。タイミングは悪くない。

色はローズゴールドを選択(iPad Proをゴールドにしたので)。めちゃかわいくて気に入った。外観がiPhoneっぽくて落ち着く。指紋認証の感度が優秀で、なにより指でタッチするだけで画面ロックまで解除されるのを便利がってる。

Mate 9、P9、P9 lite、novaと、店頭でHUAWEIのラインナップを握り比べてみると、いちばん小さいnovaだけが片手で握っていてしっくりくる。液晶のサイズはP8 liteもnovaも同じ5インチなのに、143 x 71 x 7.7(P8 lite)と141.2 x 69.1 x 7.1(nova)という微妙な横幅の差と、サイドの丸みぐあいによってか、格段に持ちやすくなっててびびる。同時発売のnova liteは2万円を切るという驚きの価格設定が魅力なんだけど、novaよりもひとまわり大きく、MVNO専売で実機を触ることができなかったため冒険せずに見送ることにした。

novaは取り立てて面白い機能があるわけじゃないんだけど、この必要十分なふつーさ、てのひらサイズ、手頃な価格を評価したい。Mate 9/P9のライカダブルレンズには最後まで惹かれつづけたんだけどやっぱりでかいんだよなあ。だいたいPEN-Fの常用レンズがパナライカ15mmだからかぶるし……。

なお、初めてのUSB-Cなので変換アダプタを購入した。

シンポジウム「オープンデータとデジタルヒューマニティーズ」参加メモ

先日職場で開催されたシンポジウムのメモと個人的な感想をちょろっと。役に立つ情報は後日公開されるであろう資料をご覧いただくとして……。

挨拶・趣旨説明(冨浦)

今回のシンポジウムのテーマはデジタルヒューマニティーズと人材育成。人文社会科学系のオープンデータということでデジタルヒューマニティーズ、分野を超えたデータの流通や活用を促進するためにはそれを支える人材が必要ということで人材育成、ということだった。

米国の大学を中心としたオープンデータの現状:訪問調査から(畑埜)

2016年3月の訪問調査(Harvard University、University of Illinois at Urbana-Champaign、California Digital Library)から、各大学のシステム基盤と人的体制(データキュレータが何人いて、実際どんな仕事をしているかなど)についての紹介。

内容については、自分は一年前に学内報告会でだいたい伺っている。ただ、研究者のひとがみずからの立ち位置からオープンサイエンスについて語るのを聞くのは、やっぱりいい機会になるなあと思った。自分はどうしても借りてきたことばで話してしまいがちだし、自分のなかで咀嚼できてない(もしかしたらどうでもいいかもしれない)情報でもつい語ろうとしてしまう。それらが、自分が(本業の)研究をしていくうえで本当に喜ばしい話なのか、付き合ってもいい話なのか、そんなふうに疑ってかかる姿勢は、プロの研究者ではない自分にとってはたとえフェイクでしかありえなくても、なんとか持とうとしなくてはいけない、と思った。

なお、手元のメモに「めんどくさい、と、めんどくさそう、は異なるもので、どちらかといえば後者のほうがやっかいと言える。なにが、なぜ、めんどくさいのかということがクリアになっている状態は案外取り組みやすい。ぼやっとした印象ほどやっかいなものはない。」と残っていたけど、何を聞いてそう連想したのかがもはや記憶にない。研究者の気持ちを想像したのだろうか。。

Creating Open Data for New Scholarship: HathiTrust Research Center Case (Stephen Downie)

2人目はUIUCのStephen Downie。聞き取りやすい英語で、諭すような語り口で、まるで大学院の講義を受けてるような気分になった。

内容は、HathiTrustの概要と、それをベースにしたデジタルヒューマニティーズの実践、のはなし。 HathiTrustといえばJohn Wilkinの顔がまず頭に浮かぶけど、彼はいまUIUCの図書館長らしい。

前半は、デジタルヒューマニティーズを支えるにはどのようなデジタルイメージ/メタデータを用意すればいいのかという観点から聞いた(Co-ordinated OCR、METS形式のメタデータなど)。

後半はいわゆる非消費的研究(non-consumptive research)がテーマ。デジタル化した資料を *著作権を侵害しないように* デジタルヒューマニティーズな研究に活用していくため、技術力を駆使してカプセル化された環境を用意して、、、という感じ。PhDの学生によるもの含めて、実際の研究での具体的な利用例が次々と紹介されて、聞き応えがあった。bookwormの話が多かったかな。

また、図書館との深いつながりということで、米国の大学図書館ではscholarly commonsというのを設置するのが流行っていて、そこを使って?ユーザ調査などのアウトリーチ活動をしているはなしがあった。この記事のような感じなのかなあ。UCLAは来月行くのでちょっと見てきたいと思っている。
UCLA図書館、図書館員との協同も視野に入れた(デジタル)人文学研究者・学生等のための共同研究用ラボを開設 | カレントアウェアネス・ポータル

お話を聞いて、せっせとデジタル化しよう、きちんとライセンスつけよう、と自分の役割を確認した。

ひさしぶりにnon-comsumptive researchという単語を聞いて、この記事を書いたときの苦労を思い出した。ニュースソースを読んでもことばの指す内容に自信が持てなくて、図書館以外の情報源もあちこち調べまわって解説を書いた記憶がある。。
米インディアナ大学、HathiTrustのコンテンツを利用した非消費的研究のためのプロジェクトを開始 | カレントアウェアネス・ポータル

データキュレーションへの期待と課題:自然科学から人文科学まで(北本)

3人目はNIIの、デジタル台風の北本先生。お話を直接伺うのは初めてで、とても面白かった。

イントロダクションで話された、「オープンサイエンスとは?」(単一の定義は困難だが、よりオープンにという方向性は共有)、「オープンの3つの側面」(再利用、透明性、参加)、「3種類の研究データ」(研究資源データ、論文付属データ、研究過程データ)という整理はとても分かりやすくてぐっときた。こんなふうに話せばいいんだなあ。

ひとつのベストプラクティスでということだろう、有名な「江戸料理レシピデータセット」というか「クックパッド江戸ご飯」の話は、けっこう時間を使って丁寧にされていた。このデータセットには、

  1. 江戸の料理本をデジタル化
  2. くずし字を翻刻
  3. 翻刻を現代語訳
  4. 現代語訳をレシピ化・公開
  5. クックパッドでもレシピ公開
  6. つくれぽで個人の経験を共有

というプロセスが含まれている、という。古典籍というものが秘めている価値を、(自分も含めた)現代の一般人のふところにマークはずす飛びこみでさっともぐりこませるためには、これだけのプロセスが欠かせなかったんだろうなあ。「データに適したプラットフォームに載せることが大事」とおっしゃっていたけど、もちろん「ポータルにデータを流せ」程度のことはこの業界でもさんざん言われてきている。この事例では、単にデータをそのまま流すのではなく、このコンテンツの本質が「レシピ」であると認識し(なかなかできないことではないか)、コンテンツを解体し、解釈しなおし、という「ひと手間」(いや、ちっとも「ひと」じゃないけど)を加えているのが成功のポイントだと理解している。ここは、後半でデータライブラリアンとデータキュレーターの違いを考察し、後者のポイントは「価値」にあるのではないかとおっしゃっていたところと通じるところ。データキュレーション、というときにここまでできるのか、我々(?)。

南山さん@極地研の実践例も例に挙げつつ、データライブラリアンやデータキュレーターの役割についても語られた。「研究者インタビューを行なってメタデータスキーマを決めるところからやってくれると非常に助かる」とおっしゃっていたが、期待するレベルは研究者によって大きく差があるだろうからやっかい……。でもこの研究者のところへ踏み込んでいく、というのが今後の(といってもずいぶん前から言われてる気もするけど)ポイントだろう。

まとめで話された「書籍(雑誌)とデータの違い」というスライドも自分にとって示唆的で、でもメッセージとしては同じ地点に収斂していく。

  • 書籍や雑誌:整理・編集済みの最終生産物だけを扱っていればよかった。
  • データ:ライフサイクルの全過程を扱わなければならない。
  • 関係者(ステークホルダー)やプロセスが多いため、メタデータも複雑化する。
  • その分、未開拓の部分も大きく、これから発展するテーマです!!

紙の本や雑誌と比べて対象物の質的な複雑さはあるけれど、そのことよりも、(出口で)ものがやってくるのをただ受け身で待っていればいいわけではない、というところがクリティカルだと思っている。生産過程のすべてに関わる必要があるとまでは思わないけど、少なくともどこかには入り込んでいく必要がある。

ライフサイクルは分野によっても異なりうる、とおっしゃっていた。この手の研究データの扱いづらさって、伝統的なL(ibrary)の資料よりも、A(rchives)の世界に近いと思っていて、知り合いのAのひとたちにはお話したりしている。Alfrescoを研究データ管理に使おうとした事例(南アかどこかの)を知ったときにもそう思ったんだっけ。

Training Information Professionals for the Emerging Data Ecosystem (Melissa Cragin)

4人目、MelissaさんからはUIUCのiSchoolのカリキュラムの話。

座学でどんなことを教えているかについてはあまり興味が持てず(ごめんなさい!)、あちこちのデータセンターにインターンでいけというのがいいなあと思った(羨ましさも込みで)。インターン先を列挙したスライドが配布資料になかった(OCLCが入ってたのだけは覚えている)。もう一度見たい。

パネルディスカッション

以下の3つのお題を設定して、パネリストが順番に答えていくというスタイルだった。

  1. オープンデータを推進するために研究者に対してどのような支援が必要か?
  2. そのような支援を行う人材にはどのようなスキル、知識が必要か?
  3. そのような人材養成するにはどのようなプログラムが必要か(対象の領域知識はないという前提で)

噛み合ってるのかそうでないのか分からないところもあってメモを取るのを途中で諦めたんだけど、以下の発言は印象強く残っている(発言ママではありません)。

  • 北本:研究者が欲しいのはフィードバック。いちばんいいのは業績として評価されることだが図書館でできることではない。データを公開したことによって利用されていることがわかる、あるいは使われるためにプロモートしてくれるとか。公開してよかったという経験が増えるといい。
  • Stephen:研究者は自分のリサーチクエスチョンに注力すべきであり、それ以外のことについてはサポートしたほうがいい。
  • 北本:データをpublishするコストをなるべく下げることが大切。将来、商業出版社がお金で解決するという可能性がある。図書館を使わないこともありうるという前提でサービスを考えたほうがいい。

まとめ

現在の自分の姿勢は、

  • 研究データ管理についてはまだまだ積極的になれていない(研究者の具体的かつ強いニーズが感じられていない)。
  • デジタルヒューマニティーズ(というかその前提としての資料デジタル化)については大学図書館としてやれることがいろいろあるし楽しそう。資料知識はないけど。
  • 人材育成の議論は一般にあまり興味が持てない(「日本だと育ててもどうせすぐ異動でしょ」と思ってしまう)。

という認識。

HathiTrust Research Centerやクックパッド江戸ご飯(のキュレーション)のはなしも面白かったけど、今回のシンポジウムで収穫があったのはこの3点目についてかな。

最後のパネルディスカッションで、北本先生が

本でいえば作家のところに行って、どう管理したらいいかどうかを聞く必要がある、という意味でおおきく変わると思う。producerとuserをつなぐ。日本でできるかどうかは分からないが。

というようなことをおっしゃっていた。

研究データとちゃんと向き合うということは、図書館の外に出て、データの生産者(研究者)のところへ行き、データの現場を知り、という(従来の図書館員にはあまりなかった)姿勢が求められる、ということだと受け止めた。こういった姿勢の変化の必要性自体は、研究データの文脈で(部分的にはそれ以前から機関リポジトリの文脈でも!)しばしば言われていることだけど、今回あらためて聞いて、今後、大学図書館員が、あるいは自分が、研究データというものを真正面から扱わないことになったとしても、こういったライブラリアンとしての姿勢やマインドセットの変化は身につけたいな、そのほうがこれから楽しそうだし、と感じた。こんな図書館員を養成することにつながりうるのなら、オープンデータな人材育成について考えておくことも意味があるのかもしれない、というか、今後はその観点から考えてみることにしよう、とちょっと前向きになれた。この点が自分にとって大きかったと思う。

# いや、もちろん、データライブラリアンをきっちり育成して、(ジョブローテーションに乗せずに)きっちり活用していくほうが断然いいと思うけど。

とはいえ、こんな感慨も、むかしエンベデッドライブラリアンやURAや地域資料について勉強したときに胸に湧き上がったはずなんだよね……。マインドセットが変化するきざしを、きちんと業務実践に乗せていくのはほんとに難しい。