大図研大阪支部例会「JUSTICEでの実務研修の経験と感じたこと」(6/16・梅田)

2011年10月17日から2012年3月16日までの5か月間,国立情報学研究所(NII)の実務研修生として大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の業務に携わってきた大阪大学附属図書館の藤江さんのお話を聞いてきました.

藤江さんは僕より年次が2つ下で,就職された当初から面識があったのですが,それほどお会いした回数があるわけではないせいかどちらかと言うとおとなしい感じ(=ガツガツしてない)という印象を持っていました.なので,2011年の秋くらいだったか,彼が実務研修でNIIに行っているという噂を耳にしたときはちょっと意外に感じました(ごめんなさい).同時に,そうやって送り込んだ阪大に対して「やるなあ!」とも思ったのも覚えてます.

NII実務研修とは

実務研修の概要や過去の研修生の報告書などはNIIのウェブサイトに掲載されています.要は,大学図書館等の職員が数ヶ月間(1年以下)NIIに派遣されてそこでOJTを行うという制度です.2005年にスタートし,これまでに計12名が参加しています.私立大学職員も対象に含まれていて(実績はまだ2011年度の1名=明治大学のみ),図書館ではなく情報基盤センターのような組織でもOKのようです.

2011年度の実務研修生の皆さんは6月8日のNIIオープンハウス(2日目)でも発表されてますね.

感想

レポート部分は長いので先に感想を.「NIIで何ヶ月間も実務研修」なんていうとちょっとハードルが高い感じがしますが,正直,直接お話を伺ったかぎりでは,(自分の知っている)大学図書館員の多くにとって「自分には無理!」というほどではないなと思いました.2012年度はまだ応募(決定済の方が,の聞き違いかも)が1名しかいないということなのでけっこうチャンスのようです.とはいえ長期間不在になるため職場の理解が得られるかどうかがネックですね.藤江さんの場合は「管理職の理解があった(というより部長に薦められた)」「不在の穴を埋める職員が配置された(新人)」という背景でした.それを聞いて「阪大の石井部長(当時)えらいなぁ」としみじみ思いました.そのへん他の研修生の皆さんはどうだったのでしょうか.

NIIはあてがわれるディスプレイがでかいそうで(推測:24インチ)羨ましくて仕方ありません.


* * *


本日の発表内容

プレゼン資料はそのうち公開されるかもということなので(特に前半の前置きは)詳細なメモにはしません.上述の藤江さんの研修報告書などもあわせてどうぞ.

  1. NII実務研修とは?
  2. JUSTICEとは?
  3. 実際に何をしていたのか?
  4. 考えたこと,今後に生かしていきたいこと

自己紹介

現在4年目.勘違いしていましたがいまはILL担当なんですね.そして雑誌時代も電子が主担当じゃなかったらしいです(→それでもJUSTICE行けるんだ,と自信を持つべき?).

  • 2009.4 大阪大学附属図書館採用
  • 2009.4-2011.3 雑誌・電子資料担当
  • 2011.4- 医学系図書館のILL受付担当(うち,2011.10.17-2012.3.16 NII実務研修生)

1. NII実務研修とは?

先ほど説明したのでほぼ省きます.

  • 国立情報学研究所における実務を経験することにより,高度の学術情報システムの環境に対応しうる知識と技術を修得し,学術情報流通基盤の中心的役割を担う.」という目的文はけっこう硬いが,非常に自由度の高い研修で,どういうテーマでどういったスケジュールで行うかはNII・派遣元機関・本人の協議の上で決める
  • 研修先:学術基盤推進部図書館連携・協力室=JUSTICEの事務局(2011年4月誕生).学術コンテンツ課のすぐ隣にオフィスがある

2. JUSTICEとは?

誕生直後の1年前とは違いあちこちで情報が出てますしご存じの方も多いでしょう.参加館は中小規模機関が多いという特徴は認識していませんでした(考えてみればそりゃそうなんですが).

  • JUSTICEはどんな組織(簡単に)→略
  • なぜJUSTICEができたのか
    • 電子資料の浸透による学術情報流通の変化(ALPSP, 2008.SCREAL, 2011)
    • 資料購入費頭打ち⇔学術雑誌価格のコンスタントな上昇という問題
    • 電子資料へのニーズは高まってきているが,拡大どころか維持するのも難しいという現状
    • これまで国立大学(JANUL)と公私立大学(PULC)がコンソーシアムを組んで出版社交渉してきたが,活動がボランティアベースであることや,コンソーシアム間や他国との連携が弱いといった問題があった
  • JUSTICEの現在の組織図
    • NII内に専任職員3名(東大から2名,早稲田から1名)からなる事務局を用意
    • 運営委員会や協力員には関西の図書館員も多い
  • JUSTICEは今どんな活動をしている?
    • 主要業務=出版社交渉:価格算出方法,値上がり上限の設定,ILLやリモートアクセスの可否
    • 交渉成立したものから参加館が選んで契約する→契約数が事前に見込めない
    • 参加館520館のうち400館以上が「大学院生+教員数 < 1000人」という中小規模機関→多様な参加館の多様なニーズに応える必要がある

3. 実際に何をしていたのか?[*1]

研修といっても実務寄りの内容ということで,事務局業務を通じてのOJT,研修課題への取組が2本柱だったそうです.

事務局業務を通じたOJT

  1. 打ち合わせ・交渉への参加
    • 海外出版社の日本担当者とのものが大半で,基本的にすべてに参加
    • 出版社ごとの学術情報流通に対するスタンスや,海外の本社と日本支社の関係性などを知ることができる
    • 交渉に向けての事前調査のお手伝い
  2. さまざまな情報交換の機会
    • 他国の状況についての最新情報の入手.さらにそれを端緒として,より詳細な調査の実施.
    • 世界における日本のマーケットの現状という視点での現状俯瞰につながる[*2]
  3. 事務局専任職員と肩を並べて
    • これまでに何年も電子資料契約やコンソーシアム業務に関わってきた事務局専任職員の方と席を並べての研修
    • 事務局に入ってくる様々な情報の共有
  4. 国公私横断の組織で働く
    • 公立や私立の方たちと一緒に働く面白さ
    • 「学術情報の整備」という観点を中心に,国立・公立・私立のお互いの状況を知ることができる
    • そしてニーズがさまざまな中で方向性を定めていくことの難しさ

研修課題への取組

  • 研修課題の検討
    • 今回の実務研修は自分で行きたいといったわけではない
    • 雑誌担当のときは主に紙の担当で電子資料についてきちんと理解していたわけではなく,大きな契約にそれほど関わっていたわけではなかった
    • 2011年6月のサンメディアセミナー(参考:E1189 - 大学図書館コンソーシアム連合JUSTICEの誕生:現状とその将来 | カレントアウェアネス・ポータル)でJUSTICEのことを知った.同行した部長から帰りに「JUSTICEに行くのも面白いのでは」と薦められて「いいですね」と答えたらいつのまにか
    • 電子資料の世界はややこしい.専門用語が多いし,出版社によって用語や契約が違うなどばらばら……という問題意識
  • 研修課題の決定と取組
    • 電子資料契約に関する「初任者向けのマニュアル」作成を課題に
    • スケジュール
      • 11〜12月上旬:骨子作成,執筆分担
      • 12月12日〜2012年1月20日:執筆(JUSTICE運営委員・協力員有志+事務局員)
      • 2〜3月上旬:編集作業・校正作業
      • 3月21日:電子版公開
      • 4月下旬:JUSTICE参加館向けに冊子版を送付
  • 電子資料契約実務必携』の完成
    • 130ページ
    • 電子リソースの特徴
    • 契約業務フロー,契約書の読み方
    • 契約情報の管理や利用統計の活用
    • 利用者提供や最近の動向も収録
    • 充実した用語集(これだけは誰でも読めるようウェブで公開されている)
  • 必携作成の反省点と感想
    • 不慣れな編集作業:分担執筆なので最初に明確な執筆要項を作っておくべきだった
    • 短い執筆期間
    • 分かりやすく書くことの難しさ.自分が本当に理解しているか試される.
  • 現状の共有の1つの土台に
    • 参加館数が500館以上というだけでは弱い.実際に契約するのはこれだけだろうと出版社には思われる.電子資料をめぐる日本の大学図書館の現状を共有して,参加館が一丸となって解決に向けて取り組んでいく必要がある
    • 「必携」を現状認識のための土台として使ってもらえれば
  • 研修同期の皆さんの取り組んだ課題→略
    • 西脇さんはJISC CollectionsとSHEDLの現地調査にも行かれたとか

番外:日々の暮らしは?土日は?

  • NIIから徒歩5分の神保町に住居を用意してもらった
  • 勤務時間は9:00〜17:45(フレックスではなかったらしい),お昼はNIIの学食で
  • 土日は張り切っていろいろ探索(DIC川村記念美術館泉岳寺+東京タワー,鎌倉大仏出雲大社東京分祠)

4. 考えたこと,今後に生かしていきたいこと

情報共有の大切さ,そしてナショナルセンターで働くことから見えてくるグローバルかつ長期的な視点という内容でした.

改めて:電子資料について組織内での情報共有の必要性

  • 組織内での情報共有の必要性
    • サービス担当者と契約担当者のもっている情報がリンクしているか
    • なぜこの電子資料が使えるのか?お金はどこから?―紙の時代との違い
  • さらに取り組んでいかないといけないこと
    • 利用者への広報は足りているのか(阪大に戻ってから図書館バイトに聞いてみると「論文はScienceDirectで探している」→「それだとElsevierのものしかヒットしない.Web of ScienceやScopusがあるよ」)
    • 実際にどのように研究者・学生は電子資料を使っているのか
    • 図書館員は購入DBやEJの使い方を知っているのか

ローカルの視点と全体の視点

  • 自分の大学のサービス向上に努める=ローカルな視点,NIIやJUSTICEで日本全体のことを考えるという=全体的視点
  • 全体的視点をもった多くの方に出会えたこと
  • 全体的視点をもつことで,自分の大学図書館の進むべき方向も見えてくるのでは

外に目を向けていくということ

  • 一緒に研修していた方(民間企業経験者)の言葉から改めて気付く
    • 図書館という面白い業界:取組を積極的に外に配信し,いいなと思った他の事例はどんどん取り入れる(NDLのカレントアウェアネス,JSTの情報管理Web STI Updates)
  • 同じような問題に直面している他の図書館がどう対処しているか知ること
    • 大学内では全然思いつかなかったことをよそはやっていることも多々ある
    • 国内のみならず,海外にも目を向ける

働くうえで大切なこと

  • 情報共有の重要さ
    • JUSTICE事務局での徹底した情報共有:その場で共有,必要があれば話し合う
    • その前提として,なんでもざっくばらんに話せるような関係の構築
    • 座席とかの物理的な位置関係も意外に大事かも(室長=課長級も同じシマにいる)
  • 長期的展望を持って働く
    • 現場にいると短期的な問題解決に追われ,何も考えずに一日が終わってしまいがち
    • 意識的に長期的展望を持つ必要性

以上,1時間ちょっとのお話でした.スライドはありませんでしたが,途中で韓国へも出張されてますね.

質疑応答(フリートーク)

  • Q:なぜ実務研修に行こうと思った?
  • A:部長から「いくー?」と聞かれて「いくー」と答えた(笑
  • Q:研修への申請は大変だった?
  • A:申請書類作成はそれほど大変じゃなかった
  • Q:不在の間の担当業務は?
  • A:年度途中で採用された新人が配置された
  • Q:もっと長くいたかった?
  • A:研修期間は上のほうで決まってた感じ.JUSTICEであることはNIIへ行ってから分かった(ぇ
  • Q:実務は忙しい?
  • A:忙しいときもある.交渉に向けてのデータ準備や打ち合わせメモの作成とか.10月に行ったときはすでに交渉のヤマは超えていた.
  • Q:NIIでの1日のタイムスケジュールは?
  • A:ルーティンワークはない.マネジメントが主で打ち合わせが多かった.(学術コンテンツ課はフレックス試行してたとか.)
  • Q:職場環境は?
  • A:ディスプレイが大きい(いいなあああああああ).情報共有はメールまたは対面で,イントラサイトとかではない.
  • Q:研修同期はどんなひと?
  • A:自分がもっとも経歴が若い.5〜8年目くらいのひと.
  • Q:交渉のなかで印象に残ったことは?
  • A:安くしろ,だけではなく,こうしたらもっと売れますよ,と提案するところ
  • Q:海外の気になるコンソーシアムは?
  • A:米国は日本とは事情が違いすぎるのであまり参考にならない.欧州,特にフランスとか.ブラジルも気になる.
  • Q:いちばん大変だったことは?
  • A:校正!
  • Q:JUSTICE協力員は何をしているのか?
  • A:チームを作っている.交渉に参加したり,調査の取りまとめをしたり,非公開の広報誌(じゃすみん?)を作ったり
  • Q:残業はどれくらい?
  • A:「必携」の追い込み作業のとき以外はそんなにない.研修なので残業しないといけないほどの仕事量は降りかかってこない.2010年度の研修生は残業ゼロだったとか.

他には,ビッグディールの行方やPPV,ナショナルサイトライセンスの話なども(このへんはオフレコが多そうなので触れない).最後に「藤江さんはこれからどうするのですか?」と伺ったところ,「阪大の電子資料の現状も把握できてないのでまずはそこを」,そして「ILL担当とはいえ電子ジャーナルは毎日利用するのでサービス側からこの問題について考えたい」ということでした.

という最近NII方面から聞こえてくる《NIIは「普通のひと」》宣言の話題も出て,それに対しては「NIIのひとたちは尋常じゃなく仕事が好きですよね」という感想が聞こえたり.「NIIで会ったひとのなかで誰が一番すげーと思いました?」「研修中でいちばんむかついたことは?」などの質問もしてみたのですがその回答は内緒ということで.

# ちなみに阪大ではERMSは導入してないのですが,ILL担当者が電子ジャーナルのアグリーメントを読んでILLに使っていいかどうかをExcelで管理・共有しているそうです.僕がILL担当だったときは,ウェブで利用条件が公開されてなかったらEJ担当に押し付けてたよ……すんません.


*1:この節の表紙は,カナダのコンソーシアムBCELNのゴードン・コールマンさん(静岡大学附属図書館客員研究員)との情報交換の様子の写真でした.

*2:出版社としては「●●大学からいくら取ろう」というのではなく「日本からいくら」という発想であるなど.