早稲田大学図書館がILL無料化を始めて1年目の結果

先日の「ILL:大学図書館のカウンターで現金を扱わないようにするための7つの方法」というエントリでもちらっと触れましたが,早稲田大学図書館は2011年4月1日から学外ILL料金を一部無料化[*1](1件あたり3,000円以下に限る)しています.海外からの取り寄せも対象です.

図書館サービス向上のため、学外からの資料取り寄せ(ILLサービス)の費用を、以下のようにいたします。


◆対象サービス
早稲田大学に所蔵がない資料を、他大学図書館等(国内・海外)から借用、もしくは複写物の取り寄せをした場合


◆変更点
取り寄せの費用が3,000円以内:支払いの必要はありません
取り寄せの費用が3,000円を超えた場合:料金(全額)の支払いの必要があります(変更前:費用がいくらであっても全額利用者負担)


http://www.wul.waseda.ac.jp/news/news_detail.html?news_no=210


その結果どうだったのか? とても気になっていたのですが,初年度の実施結果が,2012年7月5日に公開された『早稲田大学図書館年報2011』のp.5で軽く紹介されていました.

○変更の理由・目的
図書館では、学内に所蔵のない資料について、利用者の求めに応じ複写の提供や図書の貸借を他大学へ依頼し、日々、多数の資料の提供を行っている(Interlibrary Loan、以下 ILL)。しかし、電子ジャーナルの積極的導入により、学内で入手可能な文献数が飛躍的に増加し、他大学へのILL依頼件数は近年減少傾向にあった。学内の利用者が必要とする資料は、本来早稲田大学図書館に備え提供を行うべきであるというポリシーも手伝い、3,000円という実現可能な境界を設けたうえで、利用者の金銭的負担を減らすことを目的としたのが、今回の支払いルールの変更である。


○反響と実績
利用者の負担を軽減したことにより、サービスの利用申し込み件数が飛躍的に増加した。2010年度に複写物の取り寄せと資料の貸借を合わせて約7,500件であったILLの申し込み件数は、2011年度は約9,200件と1.2倍の増加が見られた。2011年3月に発生した東日本大震災の影響で大学の授業開始がおよそ1ヶ月遅れたためか、当初、件数の伸びは鈍いものであったが、前期試験を控えた夏休み前には前年度同月と比べ2倍近くの申し込みがあった。全体の件数が伸びただけでなく、新たなILLサービス利用者の獲得にもつながり、より多くの図書館利用者により利便性の高いサービスを提供することができた。2011年度の1年間で費用が3,000円を超えたのは、実際の依頼件数全体の約0.3%にとどまり、99.7%は利用者の金銭的負担なく資料の提供を行うことができた。今回の支払いルールの変更を「ILL無料化」と呼んでも差し支えのない実績を上げることができた。


http://www.wul.waseda.ac.jp/Libraries/nenpo/2011/nenpo2011_all.pdf

f:id:kitone:20120707125252p:plain


依頼・貸借あわせた申込件数(≠依頼件数)が1.2倍程度だったということですね.実際の依頼件数でも7,979 / 6,568 = 1.2倍とほぼ同等のようです.お茶大の事例[*2][*3]より伸びが若干下回っています.

夏休み前の6〜7月の申込ラッシュも想定内.

また,料金3,000円を超えることが非常に少なかった(7,979 * 0.3% = 24件かな)という点については,自分の経験でも1件で3,000円超えるのは古典籍の全ページ複写やちょっと重めの本を海外ILLで借りるときくらいという感じなので理解できます.なお,早稲田は海外ILLが非常に活発です.[*4][*5]


他にここで報告されてないデータで知りたいのは

  • 月別の申込数・依頼数
  • 申込者属性(部局)
  • 申込者身分(学部生,院生,教員)
  • トータルコスト[*6]

とか.

ILLというのは一部のヘビーユーザが非常によく利用するという感のあるサービスですが,無料化によって,ヘビーユーザがさらなるヘビーユーザとなったのか,あるいはこれまで利用したことのなかった潜在的なユーザを多数呼びこむことができたのか.そのあたり気になります.年報で紹介された以上の詳しい報告がそのうちどこかに投稿されることを願います.


*1:ILL無料化事例はちまちまクリップしてます→http://b.hatena.ne.jp/kitone/ILL%E7%84%A1%E6%96%99%E5%8C%96/

*2:http://www.jaspul.org/event/panelist_2011_1.pdf

*3:http://ci.nii.ac.jp/naid/110007572276

*4:例えば,学術情報基盤実態調査のILL統計で私立Aクラス(含・早稲田大学)の数字と比べてみると.

*5:http://ci.nii.ac.jp/naid/80015802703

*6:そういえばILLの平均単価っていくらくらいなんだろう…….