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2012年国際図書館セミナー@京都:WorldShare & WorldCat Local

イベント 図書館システム

ちょっと時間が経ってしまいましたが……,2012年10月26日にキャンパスプラザ京都で開催された,2012年国際図書館セミナー「ディスカバリーサービスと未来の図書館システム―OCLC WorldCat LocalとWorldShare―」に参加してきました.


このセミナーは,紀伊國屋書店が1986年からOCLCの国内代理店を務めているという関係から,両者の共催によって行われているものです.今年で6回目になるんだとか.昨年までは東京会場のみ[*1]で,どこかからか送られてくる感想や写真を眺めてただ羨ましく思っていただけなのですが,今年は京都でもやってくれる!しかもテーマがWorldShare!WorldCat Localの日本展開も!?ということで,開催を知った直後に即で申し込みをしました.来年も是非関西で開催していただけるといいなと思います.

以下では,セミナーの内容を軽く紹介するとともに,個人的に興味深かった点について[*2]メモを残したいと思います.なお,紀伊国屋さんによると,講演資料はセミナーの案内ページに掲載するかもということでした.期待.(【追記】2012年11月14日にPDFを掲載したとご連絡いただきました.)


前置き

今セミナーのテーマのひとつであるWorldShare Management Services(WMS)は,OCLCが開発・提供しているクラウド型の図書館業務システムです.SaaS(Software as a Service)型のサービスとして提供されるので,名前も“Services”となっているのだと理解しています.とはいえ「図書館業務サービス」という表現には馴染めない……ので,ひとまずシステムと呼び表すことにします.

同様のクラウド型図書館業務システムは,OCLC WMSのほかに,Ex LibrisのAlma(あるま),Innovative InterfacesのSierra(しえら),Serials SolutionsのIntota(いんとーた)などが存在しています.

このうち,Ex LibrisおよびInnovative Interfacesは従来からいわゆる図書館システム(ILS)を開発してきたベンダで,国内でも少ないですが導入例があります[*3].それらが時代に合わせてクラウドに対応してきている.一方で,OCLCはこれまで目録やILLクライアントなどは提供していたものの,貸出システムや受入システムまで手を出すということはしていませんでした.そんなOCLCが,図書館業務全体をカバーしようとしてきていることにちょっと恐ろしさを感じたりします[*4].また,Serials Solutionsは元々リンクリゾルバを始めとする電子リソースに特化したベンダだったわけで,それがILSに進出し,紙の管理までをも統合的に扱おうとしてきているということです.いずれも今のところはまだ海の向こうの話なわけですが,これからどうなっていくのかなぁとワクワクしてしまいます.

詳しくは「E1250 - OCLCが新しいブランド“WorldShare”を発表」「E1307 - 次世代型図書館業務システム主要5製品の特徴とその現状」あたりもご参照を.


もうひとつのテーマのWorldCat Localは,OCLCの総合目録WorldCat.orgをベースにしたウェブスケールディスカバリサービスです(それだけ?).


プログラム

セミナーは以下の3部構成でした.

  • 基調講演「デラウェア大学図書館とWorldShare Management Services導入への道のり」(米国デラウェア大学図書館システム部門アシスタントディレクターのGregg Silvisさん)(講演資料
  • 講演「WorldCat Localにおける情報の発見―たった1度の検索で図書館資料へのアクセスを可能に」(OCLC事業開発部門担当副社長のChip Nilgesさん)(講演資料
  • 報告「WorldCat Local:日本での導入における課題と取組み」(紀伊國屋書店OCLCセンター長の新元公寛さん)

まずは基調講演として,現在WorldShare Management Servicesの導入準備をしているデラウェア大学の事例報告.続いて,OCLCからWorldCat Localの紹介.最後に紀伊國屋さんからWorldCat Localの日本展開に関したお話.最後に質疑応答.

紀伊國屋さん絡みのイベントでお世話になる通訳の方はいつも素晴らしいなあと感じるのですが,今回は“serials”を「ちくかん(逐刊)」と訳したのにいたく感じ入りましたw

なお,構成について,これはなんとなくのことですし余計なお世話かもですが……当日の参加者はWorldShareやWorldCat Localについてどれくらい事前知識があったのかな,もしかしたらGreggさんとChipさんの講演は順番を逆にしたほうが分かりやすかったんじゃないかな,と感じました.Greggさんの話はシステム屋ということでテクニカルで細かい内容にまで踏み込む一方で,Chipさんは多くの参加者が知っているであろうWorldCatをベースにしてデモも交えて具体的に展開していきました.僕のようなものにはGreggさんの話は興味深かったですが,多くの方にはWorldCat Local→WorldShareという流れのほうがとっつきやすかったのでは,と.



個人的ハイライト

  • WorldShare Management Servicesは現在40館で稼働中.+今後半年で60館が導入.
  • WorldCat Localは1700館で稼働中.
  • 米デラウェア大学(そこそこでかい)がWorldShare Management Servicesの導入準備中.2013年6月稼働開始予定.
  • WorldShare Management Servicesについてはトラブルは多々あるが稼働率は99%あるらしい(質疑で聞いたこと).
  • WorldShare Management Servicesというクラウドサービスで図書館の持つ個人情報などを管理するという問題について,デラウェア大学では大学として厳しい管理を定めているPersonal Non Public Informationについてはアップロードしないことにしたんだとか.
  • 早稲田大学がWorldCat Localを導入準備中.2013年1月リリース予定.日本初.

早稲田の件は初耳だったのでマジで驚きました.いやもちろん,日本でWorldCat Localを導入するとしたら早稲田が日本で最初になるというのは明らかなんですが[*5],なかなか動きがないのでてっきり興味がないのだとばかり思っていました…….リリースが楽しみです.



新元さんのお話から

噂ではちらっと聞いてましたが,紀伊國屋さんはWorldCat Localの日本展開を進めています.パンフレットも作られており,当日配布されました(PDFで公開されてないのかな?).

課題はこの3つということでした:

  1. 所蔵レコードのWorldCatへのロード(初期,経常)
  2. WorldCat Local→図書館システムという連携
  3. 日本語メタデータのWorldCatへの投入

最優先事項は1点目.というのも,そもそもWorldCat上に所蔵レコードがないとWorldCat Localが動かないからということです.NDL(雑誌記事索引など図書以外のレコード),JST(J-STAGEなど),NII(CiNiiなど)あたりの大規模機関から攻めているところだそうです.

2点目は,WorldCat Localの所蔵表示のところに利用状況(「貸出中」など)をリアルタイムに表示するためのものです.これは,図書館システムの独自のAPIやNCIPといった共通規格を使って,ふつーはAjaxで実現されます.これについては日本の図書館システムベンダ(富士通,CMSなど)と話をしているところだとか.この問題はWorldCat Localに限らず,ディスカバリサービス一般で言えること.

価格についてはFTEベースの年間契約で,価格は個別相談とのこと.



雑駁な感想

日本の大学図書館では,国内ベンダの図書館システムを導入して,電子ジャーナルリストやリンクリゾルバは海外ベンダのものを契約,ディスカバリサービスを入れるならそのベンダと揃えるかあるいは別の,というのが現状でしょう.それが今のところの最適解だと思いますし,そうやって様々なシステムやサービスを組み合わせてトータルとしてのITシステムを組み上げることが,大学図書館のシステム担当者の仕事だと考えていたころもありました.

ただ……,今後はどうなんだろ.上記のような様々なシステムが,単一のベンダから,クラウドベースでまとめて提供される時代がすぐそこに近づいてきている.国内ベンダはそれに対抗できるのか.海外ベンダが(ディスカバリサービスを突破口として?)攻めて来て,日本はそれを迎え入れるのか.後者の選択肢における最大のハードルのひとつは,日本の特殊な書誌フォーマット(NACSIS-CATP).WorldCat Localの日本展開はこの課題に対するチャレンジだと思います.そんな意識から今後の動きに注目したいと思います.


そういえば,質疑で稼働率について質問したところセミナー終了後にChipさんが名刺交換のためにわざわざ来てくださって,恐縮でした.こちらの仕事内容について紹介していたら,名刺に刷ってある“Current Awareness Portal”というフレーズにいたく反応され,びっくりして“Do you know!?”,→“No. But good name :-)”というようなひとコマがあったりもしました.


*1:http://www.kinokuniya.co.jp/03f/oclc/2011kino_international_seminar.pdf

*2:オフレコっぽいのは省きつつ.

*3:Ex Librisは国立国会図書館と慶應,Innovativeは早稲田.

*4:もう慣れましたが.それにこの路線はOCLC初代会長のキルゴアのときから一貫して変わらない思想なんだと理解しています.極端なことを言うと,OCLCの究極の理想は世界中の図書館をOCLCの“branch”にすることなんじゃないかとイメージすることがあります.

*5:海外製図書館システム,MARC21フォーマット,OCLCのILLへの参加,と揃っていますので.詳しくは江上敏哲『本棚の中のニッポン』を.