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で,高山樗牛と姉崎正治は“誌友交際”していたんでしょうか?(長尾宗典:「誌友交際」論序説)

文献紹介 図書館史

近代史料研究』第12号(2012年)に掲載された,長尾宗典「『誌友交際』論序説―高山樗牛・姉崎嘲風の高等中学校時代をめぐって―」という論文を読みました[*1].

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きっかけは単に著者の長尾さんに抜刷をいただいたからというだけなんですが.……ふだん歴史学の論文を読むことは皆無に近いですし,正直このタイトルから読んでみようと思えるほどの素養は僕にはありません.ただ,身近なひとが強く興味を持っているテーマならなんとか読み通すことができるみたいです.また,歴史学のひとたちがどうやって史資料を活用するのかというのは知っておかないといけないと思い,こうやって機会があればなるべく精読するようにしています.この史料を見つけたときは興奮したんだろうなぁ,などと顔を想像しながら読むのが面白いんですよ.



さて,この論文のキーワードは誌友交際(という初めて聞くフレーズ),そして高山樗牛姉崎嘲風というふたりの人物です.

誌友交際についてはあとで触れるとして…….高山樗牛(本名・林次郎)は少なくとも名前くらいはご存知ですよね[*2].彼は長尾さんが学生時代からずっとテーマにしている対象です(よね?).一方の姉崎嘲風は,本名は姉崎正治といって[*3][*4][*5],関東大震災の直後に東京帝国大学附属図書館の館長[*6]に就任したという人物で,図書館史的にも重要な存在です.というあたりは一昨年に抜刷をいただいた論文「一九二〇〜三〇年代における「文化主義」と図書館 : 姉崎正治による東京帝国大学附属図書館再建をめぐって」を読んで知ったわけですが.ともあれ,1871年山形生まれの高山と1873年京都生まれの姉崎は,別々の高等中学校・高等学校で成長するものの,同じ1893年に東京帝国大学に入学し,在学中には彼らは『帝国文学』という雑誌を創刊したという関係にあるそうです.仲良しだったんですかね.



こんな高山・姉崎というふたりの“思想”がどのように形成されていったのかを,彼らが高等中学校時代を過ごした明治20年代に発表したものにもとづいて検討してみようというのがこの論文のテーマ.論文冒頭の以下のくだりが理論的なフレームワーク(ちょっとおおげさか),ってことですかね.

思想史研究にとって,史料研究がどのような貢献をなしうるのかと考えたとき,思想形成過程の把握は一つの試金石となるだろう.公刊されなかった日記や書簡から窺われるのは,テクストの構造的な解釈からだけでは計ることのできない読書環境や交友関係であり,同時に,それらは多くの場合,思想の母胎となる知的基盤そのものである.

こんなふうに,特定の個人の思想がどうできあがっていったのかについて強い興味を持てるというのはなんかすごいな,と思います.僕はそんなに人間に興味はないなぁ…….



長尾論文では,この時代を考えるために“誌友交際”という視点を導入しています[*7].誤読してなければ,この明治20年代という時代は,政治/演説を特徴とする「書生社会」から,文学/雑誌を特徴とする「読書社会」へと移り変わっていく端境だったということでしょうか.その背景には,文芸雑誌の創刊が活発になされていったこと,なかでも東京府以外の地方での発行が伸びていたこと,があり,そこには各高等中学校で生徒・教員らが発行した校友会雑誌なるものも含まれていた.このようにして全国あちこちで発行された文芸雑誌の寄贈交換や,誌上における論説批判の応酬などによる「非対面的なコミュニケーション」が活発になっていく.そんな時代だったというんですね.このコミュニケーションは「中央ー地方だけでなく地方ー地方という独自のネットワークを築」いていた点が従来と質的に異なるものだったとも指摘されています.なんかソーシャルメディアとか想起させる感じです.このような状況のもと,高山は『早稲田文学』に投稿したり,第二高等中学校で文学会を結成して『文学会雑誌』を創刊するなどしていた.また姉崎は姉崎で,第三高等中学校の『壬辰会雑誌』の編集委員に就任し,筆を振るってもいた.……以降,両者の思想的なあれこれについてはうまくまとめられないので詳細は原文を読んでみてください.



まとめ.彼らの思想変遷について格別な興味のない人間としては,なによりもこの“誌友交際”というコミュニケーション圏の存在が大変興味深かったです.明治末期には萎んでいったと考えられると考察されていますが,きっとこのうえでいろいろなドラマがあったんだろうなぁと感じました.論文のタイトルからしててっきり,高山と姉崎が高等中学校時代に(面識はないものの)“誌友交際”していて帝大の入学式に「おお!お前があの!(ガシッ」みたいな出会いがあったのかなーと想像したんですが,そういう話は出てこなかったです.いや,実際はあったのかもしれないですけどね.

そんなことを考えていたら,高校のころ愛読していた月刊誌『大学への数学』を思い出しました.この雑誌には「学力コンテスト(学コン)」という,掲示された問題に対して読者の答案を募り,優秀な回答を提出したものは紙面上で表彰される,というコーナーがあります.当時,志望校・学部が自分と同じ男の子の名前がしょっちゅう載っていてずっと気になっていました.……で,入学してみたら,最初のオリエンテーションの時間にとなりに座ったのがその子だったという印象的なオチが待っていたわけなんですが.//たいそう驚いたもののガシッとかはしなかったですよ.


*1:そのうちNDL雑誌記事索引に採録されて,CiNii Articlesでも引けるようになるでしょう.

*2:僕は名前と死んだ歳くらいです.樗という漢字は読めても書けません.

*3:このことが論文中に書いてないような気がするんですが><

*4:姉崎については『近代日本における知識人と宗教―姉崎正治の軌跡』という書籍が基本文献と書いてありました.定価で12,600円…….http://www.amazon.co.jp/dp/4490204639

*5:自伝『わが生涯』もあり.http://www.amazon.co.jp/dp/B000JBFRIK

*6:東大の歴代図書館長一覧.姉崎の前は和田萬吉.http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/koho/gaiyo/history.html

*7:このアイディア自体は彼のオリジナルでもなんでもないと思うのですが,これを高山樗牛姉崎正治の思想形成に適用したところにこの論文のオリジナリティがある,ということで良いです?→【2013.1.16追記】ご本人からコメントをいただきました.誌友交際という視点は彼オリジナルのアイディアだそうです.読みが足りなくて済みません.なお,書生社会のほうは長尾さんのお師匠さんの造語なんだとか.なんかいいですね,こういうつながり.