高齢者のための図書館サービスから高齢社会の図書館サービスへ―溝上智恵子「高齢社会と図書館」(NHK『視点・論点』)より

かれこれ6年ほどテレビを持たない生活をしていますが,先月「NHKオンデマンド」[*1]を申し込んでみたらこれがなかなか楽しくて,仕事帰りにiPhoneで,お風呂に浸かりつつiPadで,などと毎日のように見てしまっています.特に『美の壺』『グレーテルのかまど』『恋する雑貨』が好きですねぇ.多重ログインが禁止されていてデバイスごとにログインしなおさないといけないのはやや面倒ですが…….



それはともかく,1月30日には『視点・論点』[*2]という番組に筑波大学大学院図書館情報メディア研究科の溝上智恵子教授が出演されました.お題は「高齢社会と図書館」.関心の薄いテーマで,しかも図書館情報学の先生がテレビに出ることってあんまりなさそうということでオンエアを楽しみにしていました.

おはなしは「いま情報技術の進展にともない公共図書館は地域の情報センターとしての役割を担いつつあります.一方日本は高齢社会を迎えています.そこで今日は高齢社会における図書館の役割について考えてみたいと思います.」と始まります.全体の構成は大きく3つに分かれており,日本の高齢社会の現状,日本の図書館における高齢者向けサービスの現状,今後の高齢者向けサービスの展開,といった感じでした.といっても全部で10分ですからそれぞれ3分ずつくらいでテンポよく進んでいきます.

高齢社会対策基本法の第11条第1項には「生涯学習」という四文字が含まれているんだとか(知りませんでした).日本の公共図書館では,大活字本の整備やスロープの設置,自宅への配達サービスの実施などを行なっているところもあるが,高齢者を特別なターゲットとするということは少ないそうです.一方で,子ども向けのサービスは活発.それを否定するわけではないけれど,地域によっては子どもより高齢者のほうが多く暮らしていることがあるのに,という指摘にはなるほどと感じました.まずは地域の高齢者の状況を調査し,希望するサービスを伺ってみてはということでした.

続いて高齢者向けサービスの実施例として,

  • 高齢者向けの読み聞かせ(活動事例は少ない)
  • 高齢者向けの講座の開催(地域の歴史,自分史の制作など)
  • 出雲市立ひかわ図書館の「思いで語りの会」の活動(「暖炉のへや」,回想法という心理療法)

を紹介していました.米国やカナダでは図書館の高齢者サービスのガイドラインが作成されているという話,知らなかったです(CA1732参照).

さらに“地域の担い手としての高齢者”というような話をして……そんな彼らに対するサービスとして,

  • 図書館内に自由に討論したり講演会を開催したり作業したりできるスペースを提供(地域の問題を解決する情報センターとしての図書館)
  • 他機関と協力して高齢者向けの健康情報やビジネス情報をオンラインで提供

というものを例示.

最後は「今後は高齢者のための図書館サービスから高齢社会の図書館サービスへと脱皮することが求められていますいちはやく超高齢社会に突入した日本だからこそモデルとなる図書館サービスの発信が求められていると言えるのではないでしょうか.」ということばで締め.

番組は105円でPPVできますので興味のある方はどうぞ.



高齢社会は英語で“aged society”.ふだん英語圏の図書館について情報収集をしていても見かけていないフレーズだと思います.念のため語形を変化させつつあれこれとGoogle Reader内を検索してみましたが,ヒットしたのはこのJLISの論文のみでした.シンガポールか.

このへんちょっと情報収集してみようかな.



溝上先生は昨年こういった本を上梓されていましたね.読んでみないと.

高齢社会につなぐ図書館の役割―高齢者の知的欲求と余暇を受け入れる試み

高齢社会につなぐ図書館の役割―高齢者の知的欲求と余暇を受け入れる試み


*1:「見逃し見放題パック」と「特選見放題パック」という2種類のプランがあります.図書館屋さんにはカレントとアーカイブみたいなものだと言えば分かりよいでしょうか.料金はいずれも月額945円です.僕は見逃しのほうだけ契約しました.

*2:有識者が10分間画面に向ってひとりでひたすらトークする番組.