マイニング探検会#34(京都)―ユーザに不安を与えるサービス

2010年4月に岡本真さんと清田陽司さんによって立ち上げられたマイニング探検会(マイタン)[*1][*2]が,4年目の今年度から京都・東京の隔月開催になったということで参加してきました.個人的にはマイタンと言えば「俺CiNii」ですね[*3].

以下,ゆるゆるとしたメモを.


概要

4月13日(土)16時〜18時,京都の某町家での開催でした.参加者は14人でしたっけ.同僚はいませんでした.大学図書館員は自分を含めて5名かな.長尾真先生がいらっしゃるのは聞いていたのですが,京大の1回生の男の子が参加していたのにはびっくりしました.思いっきり自館のお客さんだー,と.あと噂の羊さんにもようやくお会いできました.


趣旨説明

まずは岡本さんから趣旨説明.マイタンは通常の勉強会のようにいつでも誰でもふらっと来れるというものではなく,メンバーを固定したゼミのような雰囲気に特徴があります.都合もありますし毎回出席が必須というわけではないものの,出欠表明を3回しなかったら除名されるといったルールがあるようです.ときどき雰囲気をつかむためのオープンマイタン(誰でも参加できる)が開催されていて,今回はそれに当たります.


情報探しにまつわる『不安』

続いて清田さんからこんなタイトルでのプレゼンが.

清田さんは国立国会図書館のリサーチ・ナビの開発などをされてきた方ですが,現在は不動産・住宅情報サイト「ホームズ」を運営する株式会社ネクストで研究開発に携わっておられます.マイタンではだいたいこういう“枕”としてのプレゼンが行われ,それに対するディスカッションが進められるそうです.

知らない土地に引っ越すことになって部屋を探すとき.あるいはあんまり詳しくないたぐいの製品を買うことにしたとき.そんなふうにイメージすると分かりやすいですが,未知の情報を探す際には不安がつきものです.そもそもどうやって探したらいいのか.探してみたものの,自分は十分に探しきれているのか,他にもっといいものがあるんじゃないか.自分の見つけたものは良いものなのだろうかという情報評価における不安もあります.……損をしたくない,うまくやりたいと思うほど,不安になりますよね.

そんな不安がユーザの検索ログから見て取れる[*4]というお話からスタートしました.その不安の解消のために,サービス提供側はどんなことができるんだろうか?

不安を生み出すのは「理解していること」と「理解しないといけないと思い込んでいること」のギャップである,という[*5].つまりは“現状”と“期待”の差ということでしょうか(ちょっと違うか).ある意味でこれは網羅性にまつわる問題だと感じました.観測範囲が非常に不確定な状況や,網羅性が重視されるコンテキストではその不安は増大化されるんだろうな,と.

そんな「情報不安症(information anxiety)」を解消するための方法はいろいろあるということですが[*6],不安を安易に埋めてしまう方法もまたさまざま存在する,と.例えば,たくさんの情報を集めたことで安心するとか,権威的な意見を盲目的に受け入れるとか,何かを選択したあとは不都合な情報は見ないようにするとか[*7].

じゃあ,ユーザに対して真の「安心」を提供するにはどうしたらいいのだろうか? 清田さんからは,ユーザに対して“答え”ではなく“プロセス”(目次,組織化,会話,質問など)の持つ価値を伝えることが大切ではないか,と述べていました.岡本さんからは後で,真の「安心」はどう定義できるか,それを提供するためにはどうしたらいいのか,を考えていくことで新しいサービスの可能性が生まれる,と補足がありました.

……だいたいこういった内容だと理解しました(資料が手元にないので誤解があるかもしれません).プレゼンの後はディスカッション&自己紹介.

この2冊はプレゼンで紹介されていた「Information Anxiety」「Information Anxiety 2」の邦訳です.

情報選択の時代

情報選択の時代

それは「情報」ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン

それは「情報」ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン


感想

以下,大学図書館というフィールドに限定して考えてしまっていると思いますが…….

“不安”はけして悪いもんじゃないと思います.それは未知なる研究の種につながる可能性が高い.何かが分からない.何かが足りない.イライラする.その状態を我慢して考え続けることができるようになるというのは,研究者だけじゃなく多くのひとにとって必要な,大学で身につけるべきスキルのうちのひとつだと思っています.

ユーザの不安を安直に埋めてしまうことは,実はそんなに難しいことじゃないのかもしれない.それによって図書館員も安心し,満足することができる.でもそれでいいのか? 教育機関に設置された図書館であることを考えれば,ユーザが自分で不安を乗り越えることのできるような力を身につけてもらうことこそが重要のはず.というのはみんな分かってることなんでしょうけど,それに加えて,ユーザの不安を“ほどよい不安”のままにしておくこと,さらには積極的に不安を提供していくことさえも求められるのかもしれないなぁ,などと.

でも“ユーザに不安を与えるサービス”って書いてみるとちょっと嫌な感じかなw

# 終了後は飲み会に行って,帰りは @yuki_o に3回くらい蹴られました.


*1:最近は公式サイトよりFacebookページのほうがメインなのかな? http://www.mi-tan.jp/

*2:会場で抜刷いただきました→清田陽司ほか. アカデミックとリアルの谷を埋める道 : 「マイニング探検会」成果報告. 薬学図書館. 2012, 57(2), p. 101-115. http://ci.nii.ac.jp/naid/40019238886

*3:この開発メンバーに笠間書院の岡田さんが入っていたことに今更気づいたのでした.

*4:こういう技術を身につけたい.清田さんに伺ったら,ウェブサーバやシステムのログをクラスタリングして……ということでした.

*5:これはワーマンの著作からの引用だったっけ?

*6:処方箋の一部として,目次,LATCH(場所,文字順,時間,分野,階層),会話と質問,の3つが紹介されました.

*7:買い物をしたあとはそれを底値だと信じて他のサイトやお店は見ない,というような.