大学図書館員が学生といっしょに授業に出ること

京大の時計台記念館のなかには「京大サロン」と呼ばれる部屋があって(ここは誰でも入れるはず),そこで毎月「京大サロントーク」と題して,京大の先生方が最先端の学術成果を分かりやすく紹介してくださるというイベントが(学内限定で)行われています.2006年4月に開始され,早いもので80回目.今回は,高等教育研究開発推進センターの溝上慎一先生から「大学の授業が変わるー求められるアクティブラーニングー」というお話でした.

資料が配布されたのであんまり細かくメモは取らず,あれこれ考えつつぼんやりと聞いていました(←あんまりアクティブな態度じゃない).以下は,このテーマについてうっすらとした興味はあるものの,特段なにも勉強したりしていない人間による,感想です.

耳たこでしょうけど“中教審”もあって,アクティブラーニング(とその舞台のひとつとなるラーニングコモンズ)は大学図書館員にかぎらず広く大学職員全体でホットなキーワードになっています.溝上先生は「自分がいちばん興味があるのは学生の学びと成長」とおっしゃっていて(確かに大学生に関する本をよく書かれている印象があった),そのなかでアクティブラーニングが必要だと思うようになり,研究と実践に取り組むようになったということでした.

アクティブラーニングの定義は「一方向的な知識伝達型授業における学習者の受動的学習に対する能動的学習の総称」とされていました.従来のような授業を受動的なものとして捉え,それ以外のものを,というくらいのざっくりした定め方でした.先生もよく突っ込まれたそうなんですが,「そもそも学習というのは能動的なものである」という声も分からなくもないし,定義するのが難しいなぁ.○○学習と△△学習の違いは……のような瑣末な議論に陥らないためにも敢えて広い定義を選ばれたのかな,と感じました.

ラーニングコモンズの紹介もありました.「こんな教室じゃなくてもいいんだけど,こういう教室がないとできないわけではないんだけど」とエクスキューズしつつ,それでもラーニングコモンズのような環境を整備して,大学としてアクティブラーニングに力を入れているんだというメッセージを社会に伝える意義はあるだろうとおっしゃっていました.また,「京大ではラーニングコモンズということばは使っていないけれど附属図書館と人環・総人図書館にある」と紹介してくださってました.「もうちょっとあって欲しいと思う」とも.アクティブラーニングのような授業をしたいと考える先生方が増えたら,こういう空間が図書館にあるというだけではぜんぜん足りないよなぁ.

ハーバードでクリッカーを使った物理の授業が行われているというお話から,自分の専門が専門なので,数学の授業でアクティブラーニングをやるとしたらどうなるんだろう,そんなの可能なのかなあと考えてしまいました.数学においては本や紙(やコーヒー)に向かってぶつぶつ言いながらひとりでひたすら考え続けるという静的な時間が多かったので,アクティブという表現とはうまく結びつきません.もちろん,ホワイトボードや黒板の前であれこれみんなで議論するのも日常の風景でしたけどね(院生のころは).

アクティブラーニングの質を上げようと思えば思うほど教材(文字化されたテクスト)の質が大切で,きちんと教科書を使うようにしているというのもなるほどと.紹介していいのか分かりませんが,「去年の全学共通科目はぼこぼこだった.学生の参加度は上がったのかもしれないがレポートの質が落ちた」というお話は大変興味深かったです.なんというか,先生方が,あれこれ悩みながら,うまくいかなかったなぁなどと反省されながら授業をデザインしているんだっていうのが伝わってくるのがとても良かった.それに対して,質疑応答で他の先生から,自分は授業でこういうことで悩んでいるという声があがったりするのも,また良かった.こういうやり取りがなされる場にいて,何かを提案できないといけないんだろうなあ.

embedded librarians とまではいかなくても,大学図書館員はやはり学生といっしょに授業に出ないといけないのではないか.4月に @yonezaado 課長とこんなやり取りをしたのを思い出しました.