カレントアウェアネス-E No.239感想

前号は感想に対して著者の方からコメントをいただいてしまいました.それにエンカレッジされてまだまだ続けていきます.



E1440 - 東日本大震災後の図書館等をめぐる状況(2013/6/19現在)

こういう記事なのでなんとも感想を述べづらいのですが,ひと通り読んでみて3割くらい知らない/忘れてるニュースがありました.東日本大震災の翌月に担当になってからの2年間,毎日毎日震災のことを意識しつづけてきたけれど,少しずつ距離が生まれてきてるんだろうなぁとぼんやり思いました.仕方ないのかもしれないけどね.ここでも紹介されている,兼松さんの「東日本大震災と図書館― 3年目の始まり―」はおすすめの記事です.(この記事,署名は係名になってますが菊池さんがメインで書かれたんでしょうね.)



E1441 - 図書館が私の人生を変えた:みんなで綴る図書館のストーリー

安原さん.タイトルに「図書館」「図書館」と2回も登場するのは珍しいのではないかな.「図書館の価値に疑問を持つ人々にその素晴らしい影響力を伝える」というプロジェクト“Libraries Changed My Life”の紹介.「緑色の幼虫の画像と共に投稿されたのは,庭で見つけたアメリカオオミズアオの幼虫を図書館員に見せに来た4歳の少年のストーリー」で,レファレンス協同データベースの伝説の事例を思い出しましたよ.なお,第2段落と第3段落から第4段落にかけての流れが依田さんっぽいと感じ,署名欄を二度見しました./自分は図書館によって人生が変わったと思える経験は持ちあわせてないなあ.大学に入るまでの図書館に関する思い出と言えば,小学生のときに友人と相対性理論の本を読んだこと,中学のとき好きだった女の子と図書委員をやったこと,高3の春休みに県立図書館から埴谷雄嵩の『死霊』を取り寄せてもらって読んだこと,くらいかしら.



E1442 - “将来の図書館を想像する”ACEの研究プロジェクト

依田さん.英国のアーツカウンシルイングランド(ACE)の委託調査プロジェクト“Envisioning the library of the future”と,それに対するACEのレスポンス“The Library of the Future”のポイントを解説.自分とこで毎年やっている調査研究プロジェクトを意識して書いたんだろうなぁ,と裏読み.第2段落で「調査者は800人以上の人々と対話し」とさらっと書いてあるけど,この規模の調査研究って日本の図書館業界でやられてるのかしら…….こういうネタって,エッセンスだけまとめてしまうとかえって平板な感じになってしまいがちで難しいと思う.ただ,背景には英国における公共図書館の閉鎖問題(E1269とか)があるはずで,そのあたりに触れても良かったんじゃないでしょうか.「高齢化社会のニーズ」はあちらも同じなんだなと[*1].



E1443 - 司書課程でまち歩き 電子書籍「お散歩e本」制作プロジェクト

なんと,皇學館大学の岡野さん @hiroyukiokano が登場.“地域”という古くからあるテーマと,“電子書籍”という新しいしくみをくっつけて,司書課程の学生に「図書館が情報発信を行う機関であることを確認」してもらうプロジェクト.さらには,司書課程における教育のひとつのモデルとして提案するという意欲的な取り組み.これは,愛知大学の時実先生とのコラボなんだけど,大学間の協力で授業を行うっていいですね.学生にとっても刺激になったんじゃないかと思います.調整やらなんやら大変だろうけど……(こんだけ熱心に教育にコミットしてくれる先生のもとで学べる学生さんたちは幸せやと思いますよ.ほんと).なお,三重県にある皇學館大学はもちろん,愛知大学も,舞台となった愛知県田原市という土地は接点が薄いのではと思うんですが,うまく学生さんたちの「地域社会や地域資料への興味関心を高める」ことができたんだろうかという点が気になります./僕はまち歩きというとつい「まいまい京都」を思い浮かべてしまいますねえ.



E1444 - 10周年を迎えたWebJunction

図書館協力課で研修を担当されてる高橋さんによる,OCLCのオンライン学習コミュニティWebJunctionの紹介.たぶん日本ではあまり知られてないですよね……とはいえE557,E644,E699と過去に結構取り上げられてるんだ.「2004年に始まった州立図書館向けのパートナープログラムもある。このプログラムは,州立図書館がWebJunctionのホームページ上で,それぞれの地域の図書館が必要とするトレーニングや学習資源を提供できるようにするものである。」が興味深かったです.プラットフォーム貸し.ところで,日本ではWebJunctionと似たような活動ってあるかなぁ…….そもそもオンラインセミナーがそれほど活発ではなく,継続的なものいうとNDLの遠隔研修やNIIのセルフラーニング教材くらいでしょうか.どちらもコミュニティというものではないですが.日本でもイベントや研修の資料がウェブで公開され,USTREAM中継がアーカイブされることも珍しくなくなってきましたけど,その蓄積がまとめられてないというのが本当に課題だなぁと.



E1445 - 高等教育における図書館サービスの個人化<文献紹介>

この春で名古屋大学から筑波大学に異動された加藤さん(副館長)による,英語書籍紹介シリーズ.今回はこの記事がいちばん面白かったです.個人化→パーソナライゼーション→ウェブサービスの話かなぁ……と思いながら開いたら,「最近の英国の大学図書館における経済状況の悪化を反映した組織の統合・再編成やサブジェクト・ライブラリアン削減に対するサブジェクト・ライブラリアンからの異議申し立てと捉えることができる」というのにドキドキしました.本書自体は国際シンポジウムのプロシーで,ケーススタディがたくさん収録されているようですね.

編者の提唱する“ブティック・アプローチ(The Boutique Approach)”は,1990年代にホテル業界に出現した,サービスの統一性や一貫性よりもサービスのユニークさや個性を重視するブティック・ホテルから着想を得たものである。本書の目的は大学図書館サービスにおいてこのブティック・アプローチが実行可能かどうかを検証することにある。

も興味をそそります.図書館でお客さんにサービスをしていると「もっと踏み込んだサービスをしたい」という気持ちと「職場としてのサービスレベルの統一」という事情とのあいだに悩まされることがしばしばあります.その葛藤をどう乗り越えるのか.ここで紹介されているブティック・アプローチはそのひとつの解になるんでしょうか.というようなことを期待してしまいました.

最後の「特に本書の事例で多く取り上げられている人文社会系の図書館・室等に勤務する大学図書館関係者に一読をお勧めしたい。」というメッセージも嬉しいですね.加藤さんクラスの方が,自分の経験を踏まえて若いひとに「こういうことを勉強したらいい」と言ってくださるのってありがたいことだなあと思います.




さて,次は7月11日ですね.

*1:http://cheb.hatenablog.com/entry/2013/02/02/030146