カレントアウェアネス-E No.243感想

今回は外部原稿1本を含む6本.先週金・土に開催されたイベントのレポートがさっそく入っているというのがなんともおつかれさまです(でもおもしろいイベントのレポートは書いてて楽しいですよね).



E1466 - 東日本大震災後の図書館等をめぐる状況(2013/8/28現在)

6月からの3か月ぶんのまとめ.

ちょっと前に,Googleアラートに2年以上登録していた「東日本大震災」というキーワードを思い切って削除し,この方面のニュースについては完全にひとに頼ることにしました(その他にも全体的に情報の摂取量を絞っていってます).今後はニュースを追っかけるのではなく,個人的に関心の強いテーマ―震災(デジタル)アーカイブの活用や,コストをかけて記録を残すことの意義―についてちまちま考えていくんだろうなあと思っています.

東日本大震災Fukushima」がSPARQLエンドポイントを公開したのと,先のIFLA年次大会で長崎さんが報告されたというのに反応.



E1467 - 「本の力」展 ― 大震災を「忘れない」ために

2本目も震災関係の記事.一般財団法人日本出版クラブ専務理事の武田一美さんから,全国で巡回予定の「本の力」展の紹介.スルーしていたので初めて知りました.

全6段落のうち半分の3段落が他者の発言の引用で,CA-Eとしてはちょっと珍しいスタイルだなあと思いました(全段落がそうなっている記事も面白いかもしれない).Refに挙げられていたのがPDF 1本だけだったのがちょっとさびしい.それだけこの展示に関するウェブでの情報発信が少ないということでしょうか.それは「出版」のひとたちの事業としてどうなんだろう……と.

冒頭の「大勢の人たちによって支援されていると実感することが,挫けそうになる心を支える大きな力になるはず」ということばが個人的にタイミングよく刺さりました.自分は被災者でもなんでもないけれど,誰かが(それがひとりであっても)支えてくれるのは心強い,そう思っていたところだったので.



E1468 - 第1回マイクロ・ライブラリーサミット,大阪で開催

依田さんの参加報告.土曜日開催のイベント,仕事扱いにしたのかプライベートなのか分かりませんがw

マイクロライブラリー(microlibrary)というテーマはカレント編集部でずっと興味を持っていて,CA-Rでもしばしば取り上げられてますが,CA-EやCAで網羅的にまとめるのはむずかしいなあよく話していました.何を,そしてどこまでをマイクロライブラリーと呼ぶのか,ボーダーの見極めがむずかしい.また,この手の取り組みは言ってしまえばむかしからあるものなのでいま(カレントとして)注目する意義や現代性はどこにあるのか.そんな理由でしたっけ.うまく論じてくださるひとがいらっしゃると面白いのですが.

そういう萌芽的なテーマには,今回のサミットのようなイベントがぴったりなのかもしれない.17もの活動紹介が行われたということ,その求心力にとても驚きます(自分にはきっと集められない).

リブライズは東京外国語大学附属図書館でなんかやってるという話を耳にしたりもしますが,久しぶりにサイトを覗いてみたら「大学・研究室」っていうカテゴリにも事例がちらほらあるんですね. また,めっちゃ近所のくせに「「GACCOH」は京都の出町柳駅近くにある個人の蔵書を核にした図書館である。“街の学校”として読書会等を開催している」は初耳でした.某有名こんぺいとう屋さんを西に行ったところか…….

「思い出が未来へと引き継がれる,そんなすてきな活動報告もあった」のあたりとか(すてきってw CAポータルを「すてき」で検索したらこの記事しかヒットしなかったぞw),「日本各地で,小さな図書館が,街角を元気にし,地域をあたため」のくだりとか,よっぽど楽しいイベントだったんだろうなあと伝わってきました.

マイクロライブラリー.自分のまわりでやるならどんな感じになるだろう.そういや(あんまり関係ないけど)大学の学食って飲食店のわりに雑誌とかまんがとか置いてないですよねえ.



E1469 - SPARC Japanセミナー2013「人社系オープンアクセスの現在」

こちらは菊池さんにぴったりのイベントの参加報告.コンパクトにエッセンスがまとめられていて雰囲気がわかりました.でもところどころ書き足りないところもあったんだろうし,SPARC Japan Newsletterや人文情報学月報にもあわせて書くのかしらなどと思いながら読みました.

経済学のひとから「研究者全体としてOAを維持することは理にかなっていること,OA誌を含め学術誌の費用負担は情報の発信側でも受信側のどちらでも成り立つものであることなど,経済学の視点からOAが論じられた」というので,その部分はあとで資料を見てみたい.「「人社系OA」を論ずるうえでは人文系研究者にとって論文と本が持つ意味の違いに敏感になる必要がある」もよく言われるんだけど,わたしは“あのひとたち“がどうしてそこまで本にこだわるのかよく分かってないんだよなあ…….400ページの論文とかじゃだめなんだろうか.

締めの

だが,「人社系OA」というテーマ設定が,OAの議論において“特異なもの”になってしまっては,OAをめぐる議論それ自体の偏向性を示すものとなろう。その解消のためにも,「人社系OA」は継続的に論じられるべきテーマと考えられる。今後のSPARC Japanの取組みに期待したい。

という箇所のニュアンスはちゃんと読み取れてないかも.OAも,学術情報流通も,結局domain-specificなものでしかなかったりするんじゃないだろうか.

なお,SPARC Japanセミナーでは「初めて人文・社会科学分野をテーマに」とあって,いや,なんかむかし人文系テーマでやってたような……と調べたら,第7回 SPARC Japan セミナー2009「人文系学術誌の現状-機関リポジトリ、著作権、電子ジャ-ナル」というのがありました.こっちは人文系だから,人文・社会科学とより広い枠組みとしては初という意味なのかな.

SPARC Japanセミナーについてはどなたがどのような体制で企画・運営されているのかおぼろげにしか知らないのですが,国内の(大学図書館系)イベントではいちばん先頭を走っていると思っていて,企画のしがいがあるだろうなあと思っています(いつか絡んだりすることができたらいいなあ).



E1470 - リポジトリデータを未来へ:デジタル保存ネットワークの取組

もいっちょ依田さん(こっちを先に書いておいて,マイクロライブラリーのは面白かったら記事にしようとしていたんだろうなあ).

2012年設立のデジタル保存ネットワーク(DPN)のはなし.電子情報保存(digital preservation)というテーマはとてもNDLらしくて好きです(他にこのテーマに真剣に取り組んでくれる機関ってどこがあるだろう).HathiTrust,CLOCKSS,Porticoなどさまざまな取組があるけど,DPNはそれらを「協調させる仕組」だと.「既存の大規模な保存リポジトリを“ノード”(結節点)として,これらをネットワーク化したもの」ということで,ほんまにネットワークやねんな.また,「DPNのメンバーがデジタルコンテンツを1つのノードに登録すると,それが複製され他のノードにも共有され,保存される形が想定されている」ので分散保存か.

そういえば日本の機関リポジトリ全体のバックアップ的な存在はなかった,ような.



E1471 - 深夜の図書館は誰がどのように利用しているのか<文献紹介>

安原さん.CA-Rで紹介されたときにCA-Eにしてほしいなあと思った(そしてはてブでコメントした)ものなのでこうして読めて嬉しいです.

原論文のタイトル「Wide Awake at 4 AM: A Study of Late Night User Behavior, Perceptions and Performance at an Academic Library」がかっこいい.自分なら記事タイトルは某まんがを意識しつつ「夜更けの図書館:誰がどう利用しているのか<文献紹介>」としたかもしれないw

舞台はオハイオ州のケント州立大学(CA-Rではケンタッキー州立大学と書いてあったけど?).

「誰が」については「深夜利用者の属性については,大学全体の人数構成に比して,学部生,留学生の人数がわずかに多いものの,大きな偏りはなかった」ということなので,まんべんなくという感じなのかな.でも日中開館中の利用者との比較が必要だと思うなあ(例えば日中は理系が少ないが深夜には多いという可能性もあるわけで).また,安全というキーワードを考えると男女比が気になりますね.「どのように」については「深夜開館の利用目的については利用者の87%が静かに勉強するため,72%が研究プロジェクトやレポート作成,42%がグループ研究のためと回答」とある.これらが日中開館時の利用目的とどのくらい違うのかが知りたい.

また,調査のスコープに「学生の成績データ」が入っているのに注目.学内他部署の協力を得て「調査期間中にBMDに記録された利用者のID番号は,所属学部や専攻,成績平均値(GPA),国籍等に関するデータと関連付け」,その結果,「深夜開館を利用する学生のGPAと大学全体のGPAを比較すると,学部生,院生ともにGPAに大きな差は見られなかった」という.



次は9月12日発行(某編集会議の前の週か).そういえばこのペースだと11月に記事本数が1,500本に達しますね(各号の記事数が5本でも6本でも7本でも11月になる計算).