カレントアウェアネス-E No.248感想

ときどき「最近はささくれの『解説』を読んでからカレント-Eを読んでいます」と言われることがあって,こちらとしては個人的な感想に利用価値を感じていただいてありがたいなあと思う一方で,果たしてそれでいいのだろうか……まだまだカレント-Eは「わかりやすく」できるんだろうなと考えてしまいます.



さて,今回は7本中,外部原稿が3本(E1502は内外混合ですが).E1500というキリ番で10月からカレント-E編集担当になった篠田さんが“デビュー”してます.といっても篠田さんはこれまでもE1419,CA1670,CA1678,CA1704と執筆経験が豊富な方なのでデビューという表現は適切じゃないんですが(そして,10月にも名前が出てないだけで記事を書いているはず).ちなみに,前回の「E1000 - CA-Eのこれまでとこれから― 999記事の軌跡とアンケートから」は4年前ですので,E2000を刻むのは2017年――創刊15周年を迎えるころになりますね.





E1496 - NDLとJLAの連携による新しい『日本目録規則』の策定について

収集・書誌調整課の高野さん.

9月末に発表されたこの連携,提案を持ちかけたのはNDL側なんですね.RDAに対応した新NCR(と言っていいのか分かりませんが.AACR2→RDAよろしく名前も大幅に変わるんだろうか)の策定だけじゃなくて,普及(研修とか)やメンテナンスも連携して行うという.記事からはこの連携に大学図書館コミュニティが具体的にどう関わる/関われるのかっていうところがうまく読み取れませんでした.「関係機関」とあるのでそこにNIIなり大規模(?)大学図書館なりが含まれるんでしょうけど…….

新NCRの公開は2017年度予定ということで,まだちょっと先だけど視界に入ってきたんだなあ,司書講習でFRBR日本語版を読んでいたことからもう10年近くになるんだなあ……と感慨深いです.個人的には,規則そのものよりも,そのころ書誌フォーマットがどうなっているかが一番の関心事なんですが.

ところで後半のタイムテーブルの記述の仕方がカレント-Eでは珍しく表形式っぽくしてあったのが面白かったです.





E1497 - 第61回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム開催報告

九大・石田先生.10月に東大で開催された研究大会のうち「これからの図書館情報学教育を考える」というシンポジウムの報告(参加者が120名ってことなのでCAフォーラムも負けてない).パンダ姉さんの報告「シンポジウム「日本の専門職養成の構造からみた図書館専門職養成の検討」参加の記 - Sabarya's blog」で読んだイベントの延長線上にあるんでしょうね.

実はむかしから「専門性」のはなしはあんまり好きじゃなくて,シンポジウムの内容自体にはあまり感想が持てないでいます.すみません.関心がないのは,「専門性」を確立させることでいったい誰がどう得をするんだろうというのがはっきりと見えていないのが原因なんでしょうか.少なくとも自分が大学で働くうえで(≠大学図書館で働くうえで)大きなメリットがあるとは思えていないんでしょう.だから興味も持てないし,前向きに考えることもしていない.

正直(?)で毒舌な図書館情報学者が「司書資格/司書講習が存在することで一番得をしているのはそれで職を得ることのできる図書館情報学者だ」というようなことを言っているのを耳にしたこともあります(資格ビジネスって往々にしてそういうものかもしれないですが).僕は就職する前に夏季集中の司書講習に参加して資格を取りましたが,正直,そこで学んだ内容や身につけた技術が,10万円+2か月という投資に見合ったものだとは思っていません(なので授業は聞かずにひとりでFRBRとか読んでたわけです).ただ,図書館という世界の雰囲気をリアルに感じられたのはとても良かったと感じていますし,採用試験に臨むにあたってめっちゃ役に立った(自信というか,肯定感を持てた)と思っています.筑波や慶應というような環境とは違って,図書館に就職したいというひとなんてまわりにひとりもいなかったですからね……(最初はNACSIS-CATという単語も知らずに試験を受けた人).いまならTwitterFacebook(+そこから派生したリアルなつながり)で事足りるのかもしれませんが.





E1498 - フランスの高等教育デジタル化政策と国営MOOCsポータル

音楽映像資料課・大沼さん.存じ上げない方ですが,フランス語がご堪能なんだと思います(NDLは語学に長けた人が多くてほんま……).

2013年2月に「デジタル技術に関する政府ロードマップ」を発表するなどデジタル技術に力を入れている現政権.7月公布の「高等教育及び学術研究に関する法律」では,高等教育のデジタル化アジェンダの策定,教育の革新のための基金の設立,国営MOOCsプラットフォーム,の3つが重点領域になっている.アジェンダに関してはポータルサイト“France Universite Numerique”(略称はFUNかな.訳すならフランスデジタル大学?)が開設された.MOOCの各講義は2014年1月提供開始で,このサイトからアクセスするのかな.政府主体のプロジェクトであること,(Europeanaとは違い)コンテンツそのものをホストすることが特徴.

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日本でも10月にJMOOCが発表されていますね.米国発のCourseraやedXが国外にも手を伸ばしたところで,各国でも独自のMOOCを準備し始めたという感じだと思うのですが,となると次はグローバルなポータルサイトができるんだろうな…….

ところでOCWはもうオワコンなんでしょうか(素朴な疑問).





E1499 - 退任から200年を経て,米国初代大統領の図書館が開館

安原さん.

“The Fred W. Smith National Library for the Study of George Washington”って,大統領図書館の名前にしては変だなあと思ったら,NARAの管理・運営する大統領図書館とは違って「私設団体等により管理,運営され」,最多額の寄付をした財団の会長さんの名前がついているんですね.「ワシントンや植民地時代の米国等を研究対象としている研究者への奨学金プログラムも提供」というあたりが"for the Study”らしい.

なお,図書館のあるマウントバーノンという場所は,ポトマック川のほとりで,ワシントンD.C.の15kmくらい真南に位置しているんですね.ジョージ・ワシントン・メモリアル・パークウェイと名付けられた道に沿って走って行けば着くらしい.(米国は一度も行ったことがありません.)





E1500 - 米国政府機関の閉鎖による図書館界等への影響

篠田さん.米政府系ネタが続く.

10月1日から16日まで続いたシャットダウン(「1996年以来の異常事態」)による影響まとめ.ストライキで図書館が閉まるというのはよく耳にしますが,10月1日にLibrary of Congressのサイトにアクセスできなかったときはビビリました.すげーなー.潔い,とかそういう精神的な話ではないんだろうけど.不謹慎ですが,「政府の各機関は緊急時の対応計画に基づき,粛々と業務を停止した」の「粛々」にちょっとウケましたw

なお,首都ワシントンD.C.の図書館サービスについては継続された。ワシントンD.C.は地方政府の予算で運営されているが,予算成立に連邦議会の承認が必要であるため,本来であれば,図書館サービス等の国民生活に不可欠ではないとされるサービスは停止されるところであった。しかし,グレイ市長はOMBの緊急時の対応計画の作成指示に対して,図書館サービスを含むワシントンD.C.政府のすべての業務は必要不可欠である旨を回答し,サービス停止を免れた。

をメモ.

この件についてはいくつかのベンダから停止したサービスの代替案が発表されていたにも関わらず,それを利用者に対して案内(ウェブサイトで広報とか)することに思いが至らなかった自分の感度の悪さに心底うんざりしています.なお,徳島大学附属図書館などいくつかの大学図書館で見かけました.





E1501 - 特別コレクションを研究図書館の中核に<文献紹介>

依田さん.あちこちで良い評判を耳にした記事なので読むのを楽しみにしていました.

特別コレクションを特集した,ARLのResearch Library Issuesの283号の紹介.ARL加盟館に対して提案を呼びかけてそれを掲載する(call for papersって感じ?)が面白いなあ.例えば『大学図書館研究』で似たようなことをやったことはあるんだろうか.

何よりもまず総論記事のタイトルとメッセージが良い.

今号は,特別コレクションを研究図書館の中核に据えるような動きを取り上げ,これまで文字通り“特別な”扱いであった位置づけの再考を促すようなものとなっている。すなわち,特別コレクションの位置づけに関し,大学の長所や図書館のミッションの中に組み込み“合致”させる(aligning)ような動き,これまで独立的であった特別コレクションの業務や職員配置を他の組織と統合し(integrating),メインストリーム化(mainstreaming)していくような動きが取り上げられている。

ヨーク大学では特別コレクションの構築にPDAを使ったというのをメモ.

ARLというとカレント-Eでもよく紹介しているSPEC Kitという報告書シリーズも広く知られてほしいところ.各号でテーマを決めて加盟館に対してアンケートを取り,その結果をまとめてレビューするという刊行物で,米国の研究図書館の状況を調べるのにとても役に立ちます.あいにく冊子体の国内所蔵があんまりないんですが……(筑波が網羅的に買ってるのかな).

ところで,こういう洋雑誌を一号まるまる紹介するというのは結構しんどいです.何本もの収録記事を隅から隅まで抑える必要はないにせよ,ある程度読まないと記事全体のイメージが作りづらいのでそれなりに時間もかかるし,得た内容をコンパクトにまとめるのも難しい.自分も「E1394 - 米国情報標準化機構ISQ誌の「未来の図書館システム」特集」という記事で同じことをやったことがありますが総花的な内容になってしまっています.今回の依田さんの記事はメッセージ性をしっかり持たせていてすごいなあと思いました(総論記事の持つ魅力が大きかったとはいえ).





E1502 - 図書館総合展フォーラム「情報を未来につなげるCAポータル」

依田さん・佐藤さん・兼松さんと連名で #CAフォーラム の報告を書きました.字数の関係上,クロージングのメッセージを盛り込めなかったのはちょっと心残りですが…….しかし,こうして報告を文字にしてみると「あれ,こんなイベントだったっけw」感がハンパないですね(それでいいのかよ).





次は11月21日(って,NF初日だ).