カレントアウェアネス-E No.250感想

祝!250号! カレント-Eは年間で計22号発行しているので2年3か月ごとに50号という区切りを迎えることになります.200号は2011年9月でした(そのときは自分が担当だった).

今回は外部原稿4本と内部原稿が2本.前半3本はやわらかく,後半3本はかっちりとというラインナップですね.そういえば今回は(から?)署名欄が「肩書き・氏名」のように丸括弧なしになっているんですが,なぜだろう.





E1509 - 「点字図書館オープンオフィス」に込めた思い

点字図書館の天野館長.

点字図書館には,2010年9月に早稲田大学で開催されたOCLCのイベントに出張で行った折,高田馬場駅へ向かう途中で立ち寄ったことがあります.時間が遅かったからか既に閉館していたのですが,外壁に鎖が垂れ下がったさまはインパクトがあってよく覚えています.

わたしはそれほど障害者サービスというものに興味が強いわけではなく,また図書館でサービスをしていてもこれまでに接したことがないのです.ただ,関西館にいたときは隣の係が「障害者図書館協力係」だったのでいくらかの知識を持つことができました.また,「すちゃらかコーダー」の id:kzakza さんがアクセシビリティ方面に強いこともあって,今でも関心(のかけらくらい)は持ち続けているという感じです.

で,点字図書館って「一民間施設」だったんだと驚きました(ちゃんと意識してなくて済みません).そんな同館が初めて行ったオープンオフィスというイベント.「ライブラリー」ではなく「オフィス」という名前を使ったのにはなにか思い入れがあるのでしょうか.2日間でなんと20以上の企画を用意されたということで,それほどマンパワーがあるわけではないと想像するのですが,素直にすごいなあと.記事ではなぜか触れられてませんでしたがスタバのカフェコーナーや,パンの販売,マッサージ体験という企画もあったんですね.詳しくは(これもなぜか記事で挙げられてませんでしたが)「「点字図書館オープンオフィス」のご報告」というページでたくさんの写真とともに報告されています.

http://www.nittento.or.jp/images/contents/report/OpenOffice/OpenOffice0775.jpg





E1510 - 図書館探索型行事「ミステリークエスト」活動報告

東京都江戸川区立東部図書館の中高生向けイベントの報告.執筆者はVIAXの中嶋さん(指定管理者なのかな).

イベント名が「ミステリークエスト〜東部図書館からの脱出〜」とキャッチーなもので,何か思い出すなあと思ったらSCRAPを参考にされてるんですね.京都でも去年だったか,街を舞台にした脱出ゲームをやっていたような.

図書館(あるいは図書館/情報リテラシー教育)におけるゲーミフィケーションの一事例として位置づけられるでしょうか.目的は中高生の利用促進.60分で3つの謎を段階的に用意.「図書館内をくまなく歩き回」ってもらえることを意識してデザイン.記事の書きぶりでは実際にどういう問題が出たのか具体的には分かりづらかったのですが,最後の「これまでの謎をふまえ図書館から脱出せよ」という謎は,これかなり難しいという印象.意図された難度のようですが,テクニカルに難しいというよりはなんか禅問答のような感じじゃないですか.

こういうのって子どもっぽいと受け止めるひともいるかもしれないけど,大学図書館でも有効だと思ってます.新入生向けにスタンプラリーを実施して,ある図書館のなかをくまなく,あるいは複数の図書館をあちこちまわってもらうイベントをやっているところは多いと思います.実際にまわっている学生さんの顔を見ているとけっこう楽しそうなんですよね.シャイな感じの男の子がスタンプ押してあげると顔をほころばせたり,女の子が二人組で楽しそうにきゃっきゃとまわってたり,そんな姿が記憶に残っています.短期留学で台湾に行ってた学生さんから国立台湾大学図書館のパンフレット類を見せてもらいましたが,そのなかにもスタンプラリーっぽい(リーフレットのデザインがめっちゃ凝ってた)イベントのものがありました.

京大でもミステリ研とコラボしたらとんでもないのができそうな気もする.





E1511 - 幼稚園に入る前の子どもと1,000冊の本を:米国図書館の取組

依田さん.依田さんはお子さんと本を読む時間を取れていますかと思いながら読みました(何

米国中西部の公共図書館を発端に各地に広まりつつある「1,000 Books Before Kindergarten」という読書マラソン的な取組みの紹介.これも一種のゲーミフィケーションと言えるかもしれませんね.なぜ「1000」というめげそうな数字が設定されたのか分かりませんが,「肝要な点は,どのようにして参加者のモチベーションを維持し,1,000冊というこの長いプロセスを,楽しく完走してもらえるようにするか」でしょう.そのための方法として,記録帳を10種類用意して最初は100冊分だけ渡すというようにマイルストーンを細かく設定して達成感を持ちやすくしたり,定番ですがグッズ(トートバッグやステッカー,さらには絵本まで!)をプレゼントしたり.しかし,1000冊達成したらパーティに招待というのは楽しそうでいいですね.米国っぽい(イメージ).「同じ本を繰り返し読んでもカウントしてよい」というレギュレーションが現実的だし,学習効果という意味では良さそう.

ところでふつーの公共図書館には1,000冊も絵本があるんでしょうか.





E1512 - フィンランドの大学図書館:情報リテラシー教育をめぐる挑戦

北大の千葉さん.情報リテラシー教育は研究支援にもっと踏み込むべきではというおはなし.

天野さんのE1479,村上さんのE1480に続く,国立大学図書館協会海外派遣報告シリーズ第3段.筑波の中山さんはスルーしたと思われるので今年度分はこれで打ち止めですね.

テーマとしては,池内さんの以下の記事に連なると(個人的にはですが)思います.

フィンランドの大学図書館における情報リテラシー教育は,欧州レベル(ボローニャ宣言,1999年)→国レベル(教育研究開発計画2004-2008)→大学図書館界レベル(提言,2004年,2013年改訂)という流れになっているんですね.情報リテラシー教育の体系的なことはまったく勉強したことがないのですが,日本ではどうなっているんだろう.この「提言」で「新入生レベル」「学士レベル」「修士レベル」というレベル分けがなされているのが興味深いです.2013年改訂では「博士レベル」が追加された.こういうレベル分けは,日本でも個々の大学図書館では意識され,スキームが設計されていると思うのですが,国レベルでとなるとどうなんでしょうか.新規追加の「博士レベル」について,ヘルシンキ大学ではデータマネジメントやオープンアクセス,オウル大学では研究費の獲得なども射程に入っているという.

データマネジメントについてはここでは触れませんが,オープンアクセスについては,長崎大学の「Nature Publishing Group 編集者による オープンアクセスセミナー開催」というイベントを先日見かけていいなあと思っていました.オープンアクセス誌への投稿にまつわるノウハウは現代の研究者にとって必須知識になるのかも.講習会ネタとして記憶しておきたい.研究費の獲得に関しては,もうURAしか浮かびません.





E1513 - OAが人文系学術書に与える影響 オランダからの報告

菊池さん.

若手研究者問題と並んで彼のテーマになっているであろう(想像)人文書OAのはなし.得意のテーマゆえ,ぐいぐい踏み込みつつ,さらさらとまとめている印象を持ちました.冒頭段落の最後で「学術書の売上に与える影響は認められない」とばしっと結論を書くというのはあんまり見たことがないような.

記事ではOAPEN-NLの調査レポートを紹介し,最後に日本でも同じような調査をやれよ(そのときは俺を混ぜろよ←完全想像)というメッセージを発しています.ないものねだりに近いんですが,調査方法にはちょっと不満があります.OAで出版された50タイトルを対象にしているそうですが,理想を言えば既存の学術書をサンプリング的にOA化してOA/非OAで比較する(あるいはOA人文書のグループを対象にして,一部を非OA化したうえでOA/非OAで比較する)という調査をしてほしい.PEERプロジェクトみたいに.日本での実施についてはかつて「京都大学附属図書館と京都大学学術出版会、リポジトリでの研究書公開に合意」というプロジェクトがありましたが,利用はどうだったのだろう.





E1514 - PIRUS実務指針第1版が公開:論文単位の利用統計

篠田さん.

大量の情報がコンパクトに詰め込まれまくってる,CA-Eの典型のような記事でした.一読しても理解しきれず,ひさびさにRefに挙げられたソースをあれこれ確認してしまいました.勉強になりました.それでいいのだと思います.すべての記事がそうあるべきとは言いませんが,CA-Eの特色は「海外情報に対する良質なアブスト」なわけで,記事を参考にしつつ原文を読み込んでもらう,そしていつかは原文を直接読んで日本語で紹介できるようになってもらうというのが(著者から)読者に期待されていることのひとつだと思っています.

さて,PIRUSは,パッケージ/タイトルレベルの電子リソース統計として定着しているCOUNTERの,アーティクルレベル版として設計されたものです.記事にもあるようにその「実務指針の構成は,COUNTER実務指針とほぼ同一」なんでしょう.だったらなんでこうも名前が違うのか.COUNTER-AL(Article Level)とかではだめだったのかな.PIRUSは,じつは2008年とけっこう前にスタートしたプロジェクトで,フェーズ1の報告書は当時のCA-Rでも取り上げられてますね.ユサコニュースではその報告書の紹介もされています.また,記事の最終段落で紹介されているように,千葉大の報告書(p.11〜)でも詳しく解説されていました.見逃していたのでありがたいです.

COUNTERの概要を知っているひとは,

  • PIRUSのレポートには「論文レポート1」「論文レポート2」「論文レポート3」があること
  • 論文レポート1はだらっとしたログ(私的表現)
  • 論文レポート2は著者/論文単位にまとめたもので,DOIを用いる(著者が含まれてるのは共著論文のためですよね?)
  • 論文レポート3は著者単位でまとめたもので,ORCIDを用いる

くらいを押さえておけば十分じゃないかなと思いました.こういうのは言葉で伝えるよりも表を見たほうが早いので,実務指針から引用しておきます(国際的な標準化プロジェクトのレポートに掲載されるスクリーンショットが,こんなメニューバー付きのものだというのは残念ですが).

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また,統計としてカウントする「論文」の範囲が,「受理済み版,校正過程の版,確定版,確定後に誤りなどの訂正を行った版,確定後に補足や更新を行った版」の5つであることも重要ですね.このあたりはパッケージ/タイトルレベルの統計にはないテクニカルな難しさだと思います.

ただ,PIRUS(というかグローバルなarticle level usage statistics)でもっともクリティカルな問題は「誰がセンターに立つのか,あるいは立たないのか」だと理解しました.パッケージ/タイトルレベルの統計なら出版者などが集中的に管理できたのでしょうが,論文は(様々なバージョンのものが)世界中に分散しうるので,アーティクルレベルの統計の管理体制の設計はCOUNTERにはない課題になるんだろうと思います,これについて,記事の最後では「中央処理機構(Central Clearing House)」が紹介されています.

PIRUSの中央処理機構(Central Clearing House)にも特徴がある。出版者,アグリゲータ,リポジトリやその他の情報源から利用データを収集,処理し,統合的な論文単位の利用統計を作成し,提供する役割を担っている。具体的には,ウェブサイトで,出版者やリポジトリ等から収集した論文本体へのリクエスト成功数の総計などを提供する。また,DOIやタイトル,著者名で論文を検索でき,「論文レポート2」なども作成できる機能をもつ。中央処理機構のほか,統計の集約・統合を行う,国や地域別の統計処理機関も選択肢として想定している。この統計処理機関はリポジトリから利用データを集約し,PIRUSの中央処理機構にPIRUS準拠の論文単位の利用統計を提供する役割を担う。具体的には英国の国家的な機関リポジトリ統計の処理機構であるIRUS-UKが想定されている。(引用者コメント:「選択肢として」って,何の選択肢?)

しかしその重要性は記事中できちんと主張されていない.前述のユサコニュースでは「実現するためにはデータの集約と処理を集中する中立的な第三機関が必要であり」とあります.CCHをどこがどう担うんだろうというのがわたしの最大の疑問です.この点が課題になっているのかどうかも含めて,しっかり書いていただきたかったなあというのが今回の記事に対する唯一の注文.誤読していたらごめんなさい.

ところでPIRUSってなんて読むんですか?(ぴるす?ぴーらす?)





年内ラストの次号は12月26日.その日はCA編集企画会議で関西館に伺う予定です……もう2013年も終りですねぇ.