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カレントアウェアネス-E No.252感想

2014年一発目.6本中,外部原稿が4本でわたしもひとつ文献紹介を書いています.

カレント-Eでは各号で記事の順番を決める際に,1本目はキャッチーで読みやすいものや重要なもの(震災まとめとか),2本目以降は内容のつながりを意識して並べていって,文献紹介やイベント報告ものは最後にするという方針があります.今回はそれが意図的にか崩されていて面白いです.形式よりも内容を取ったのかな.





■E1521■ 1840年代のロンドン図書館とフランス小説の受容<文献紹介>

トリニティ・カレッジ・ダブリンの八谷さんの2本目.前回もすごい面白かったですが,今回もいいなぁ.

紹介されているのはInformation & Culture: A Journal of Historyという初耳な雑誌に掲載された論文.ヴィクトリア朝の英国において当時「非倫理的」とされていたフランス文学がどのように読まれていたのかを,ロンドン図書館(The London Library)の貸出記録に加え,公的・私的史料を補完的に用いながら探っていくというもの.こうして歴史ものがカレントアウェアネス-Eの巻頭を飾っているというのが新鮮です.そうかあ,こうやって図書館史ネタを取り上げることができるのかと(自分にはできなかったので)反省しました.1841年設立のロンドン図書館というのは英国図書館(British Library)の源流かなにかなのかと思ったらまだその名のまま現存しているんですね.

続く自分の書いた記事との兼ね合いで,以下の点に反応してしまいました.

貸出記録が(1)貸し出された本が実際に読まれたかどうか,(2)借主以外の人物によっても読まれたかどうか,(3)読者がどのように反応したか,などまでは明らかにできないという史料的制約を持つことを踏まえ,それを補完し分析の可能性を広げる日記や書簡などの私的な史料を併せて用いている。

ここでは貸出という一面的なデータの限界を,史料が補っている.

良し悪しはともかく,図書館で貸出記録を削除してしまうということはこういう歴史的研究の可能性を閉ざしてしまうということなんだなと思いました.

しかし,ヴィクトリア朝の英国ということでまさに『エマ』の世界(ちょっと時代が下るけど).1巻に貸本屋ミューディーズでウィリアムとハキムがやらしい本を立ち読みしているシーンがしますね.今回の記事も森薫さんが読んでくれたりしたら面白い.





■E1522■ 多面的なデータにもとづく除籍を支援するツール<文献紹介>

続いて拙稿.八谷さんと並ぶなんて恐縮すぎるのですが,貸出記録ネタということでこの順番になったのかな.

こんな記事を書いておきながらなんですが,わたしは除籍作業は一度も担当したことがありません.ただ,閲覧業務のなかで開架図書を地下書庫に移動させることがしばしばあり,そういった作業を,勘や経験に頼るのではなく,システマティックにやりたいなぁとあれこれ考えていました.今回は除籍にフォーカスしていますが,こういったシステムによる意思決定支援(decision making support)は就職したころからのテーマだったりします.

ここでは,字数の関係上カットせざるを得なかったことをいくつか.まず,前半の文献レビューのなかでは,除籍候補の選定に使うことのできるデータとして,shelf-time period(定訳が見つかりませんでしたが「在架時間」とでも訳すのかな),オブソレッセンス,被引用回数も紹介されています.また,以下の部分もエッセンスだけ残して文章を圧縮してしまいましたが,SCS社はこんな背景を持った会社です.

SCS社は2011年設立のまだ若い会社である。その前身は,ラッグ(Rick Lugg)氏とフィッシャー(Ruth Fischer)氏によって2000年に創立されたコンサルティング会社R2 Consultingである。学術図書館向け書店のYBP Library Services社でルールにもとづく選書システムを構築した経験を持つ彼らは,2008年ごろから除籍支援の必要性に気づき,サービスを開始した。この領域に注力するために彼らが立ち上げたのがSCS社である。

SCS社のウェブサービスGreenGlassについては,ウェブサイトに紹介動画が3本アップされてます.英語が分からなくても画面を眺めているだけで十分そのすごさが分かりますので,関心のある方はぜひ.こんな感じでインタラクティブにぐりぐり動かせる.

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編集担当の篠田さんとは短い時間にかれこれ6回ほど校正のやりとりをしました.E1450以来,半年ぶりに書いたこともあっていろいろと甘さの残る初稿でしたが,クリティカルな指摘を数箇所いただいてブラッシュアップでき,かなり助かりました.こうやって丁寧に原文を読み込んで,原稿をチェックしてくれる媒体は本当にありがたいと改めて感じました.





■E1523■ 農業関連の文献データベースAGRISとそのリニューアルについて

農水の林さん(カレント-Eは初).昨年12月にリニューアルした国際連合食糧農業機関(FAO)の文献データベースAGRISの紹介.なんですかね,林→林としたかったんでしょうか…….

AGRISは1975年スタート.65か国150以上の機関(農水含む)が参加し,760万件のデータを搭載している.「特に発展途上国における農業研究への貢献を目指している」.各機関はAgriOcean DSpaceというソフトウェアにデータを登録し,AGRISはそれらをOAI-PMHでハーベストする.シソーラスAGROVOCと,メタデータAGRIS AP=DC+AgMESはRDFベース.

リニューアルでLODの活用により「検索結果に関連する情報を表示するなどの機能強化が図られた」という.例が挙げられていますが「世界銀行のデータを出典とする国別の穀物収量」や「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータを出典とするイネ科品種の分布図」あたりが気になる.(AGROVOCの紹介がリニューアルの話の後に書いてあるからちょっと混乱したけど,リニューアル前から使われているということでいいんだよね…….)

最後は林さんらしく,

AGRIS2.0はこれまでの文献検索サービスの枠を大きく超え,ディスカバリサービス(CA1727,CA1772参照)のようにリンクをたどり関連する情報を発見できるツールとしてのニーズと可能性を秘めているといえよう。

ディスカバリーサービスへの言及が.

世界レベルのサブジェクトリポジトリ構築のひとつのモデルになっていると思うのですが,農業以外の分野ではどうなっているだろう.





■E1524■ 情報都市における公共図書館の中核的サービス像<文献紹介>

篠田さん.ドイツの研究者グループによるLibri掲載論文の紹介.

まずは文献調査によって31都市を選定する,さらに文献調査でこれらの都市における「図書館の役割を概観し,それらに寄与するサービス」(デジタルサービス10項目,物理的なサービス7項目)をリストアップ,そしてその実施状況をウェブサイト+インタビューで調査,という手法.明記されてないけど「東京,ニューヨーク,パリ,ロンドン…。」というイントロだから東京も入っているんですよね.ということは東京都立図書館が調査対象になったのかな(31都市の公共図書館のなかでどのくらいのランクに位置づけられたのだろう).

調査対象のサービス項目のうち,デジタル系はまあそんなものかなという感じ.物理系では「建築的なランドマークとしての図書館」(9割以上),「図書館内での飲食」(45%),「RFID」(58%)あたりがポイントに入ったんだなあ.

紹介されている結果は全体傾向だけなのでなんとも言いづらいのですが,こうやって“ライバル”となるグループ(この場合は「都市」)を選定して,そこにおける図書館のサービス比較を行うという手法が面白いなと思いました.大学図書館でも似たようなことができる(その場合はもちろんグループ=大学).手法のうち「役割」を抽出する段階がいちばん気になりますかね.





■E1525■ 新入生は大学レベルの情報探索能力をどうやって身につけるか

安原さん.ちょっと心配していましたが(何),この記事はとても評判が良いようで良かったですね!

過去にも何度か登場しているプロジェクト・インフォメーションリテラシー(PIL)の調査レポートの紹介.特に,高校図書館が調査のスコープに入っているところが非常に良いです.大学図書館で(特に1年生に)サービスを行ううえで,学生さんたちがどのような高校図書館で過ごしてきたのかは意識しないといけないと思っています(思っているだけで何もできてないんですが).

レポートは3部構成+提言.第1部は図書館サービスの量的調査,第2部は新入生へのインタビュー調査,第3部は大学1年生・高校生・大学上級生へのオンライン調査(新入生の一年間での変化を探るために年度末に実施).

第1部では「30校の高校,6校の大学の図書館が学生に提供している情報リソースとサービスに関するデータを収集し」とあるけれど,各大学新入生の出身高校を考慮して選別したわけじゃなく,高校と大学のあいだには特に関係はないのかな.第2部で紹介されている課題の「4つの類型」は参考になる.一方,これら5つの「適応戦略」を大学1年生の段階で身につけていたらすごいよなと思う(特に「査読」の部分).第3部の「これら上位5つの情報リソースに対する学生の選択が時間が経過しても変化しない理由は,専門的なリソースに関する体系立てられた先進的教育の欠如のためだと報告書は述べている」の前後のくだりはうまく理解できず.大学に入ってもその手の教育がなされないから高校のときとあんま変わらないということなのかな.でも,結論としては「情報探索行動は大学1年で目覚ましく発達する」ということなんですよね.

最後の提言のうち,1つ目の

高校図書館と大学図書館の橋渡しをする


大学1年生はスタートから調査に関して不利に感じている。彼らは調査能力が低いわけではなく,大学図書館での調査に慣れていないのである。大学図書館員や教員は,高校図書館の状況を認識することが不可欠である。

をメモ.2つ目の「検索スキルに焦点を当てた短いセッションではなく,柔軟性のある情報探索能力を教えることが必要」も強く同意する.レファレンスカウンターで一緒に試行錯誤しながら時間をかけて何かを探す時間で得られるようなものを指しているんだろうと理解しました.そういった時間のなかで,ケースバイケースですごく具体的なんだけど普遍性をもはらんでるような検索を一度でも体験すれば,殻を破ったようにぐんっとスキルが向上するもんだと思ってます.本気で何かを探してもらって,思いつくかぎりのことはやったけど行き詰まって,もう諦めてしまいたいっていうときに教員や図書館員がサポートする.そんなシチュエーションを多くの学生さんに提供していくしかないのかな.

ここで述べられている内容は学部1年生だけじゃなく,修士1年生に対しても通用するような……と思いました.しかし「大学レベルの情報探索能力」とは具体的になにを指すんでしょうねえ.そういえばE1512を読んだときにも同じことを思ったんだったか.





■E1526■ 第3回日中韓電子図書館イニシアチブ(CJKDLI)会議<報告>

小澤さん・福山さん・安藤さんという“電”なお三方の韓国出張報告(安藤さんにはお土産にチューブのコチュジャンかなにかをもらいました).CJKDLIは3回目だけどカレント-Eになるのは初めてですよね.各国3名ずつの出席ということなので,この3人で日本代表だったんだなぁ,かっこいいなぁと思いました.

NLCは,デジタル資源に対する識別子を付与・登録するための国家電子図書館識別子システムの公開や中国全土を覆う電子図書館バーチャルネットワークの構築を目的とする電子図書館拡大推進プロジェクトの現況などについて報告を行った。

識別子のはなしはJaLCみたいなものでしょうか.中国のやってることは日本語で書くと妙に壮大に響くんだよなあ……(国土が広大だからということもあり).

将来的には3か国でポータルを開発すると聞いてましたが,まずは各国のポータルの相互運用を図っている段階という.

ポータルサイトの名称は,それぞれ,国立国会図書館サーチ(NDL),文津検索システム(NLC),Dibrary(NLK)である。各館の所蔵資料,総合目録,デジタル化資料などを統合的に検索することができ,検索対象となるメタデータの件数はそれぞれ約7,300万件,約2億件,約3,600万件にのぼる。

で,NDLサーチ⇔Dibraryの連携が完了して,中国がぼっちなんですね.ちょっと意外.いちばん手が早そうなのに.





次号は2月6日(某原稿の締切前日……).