カレントアウェアネス-E No.255感想

今年度も残すところあと2号.今回は5本中,外部原稿が4本.




■E1538■ 『変えたい』気持ちを形にする:総長賞と講習会“MBC”

東大の小林さん.いいタイトル!

記事の主役は総長賞を受賞した石田さんと,MBC=Maeda Boot Campの由来にもなっている前田さんですが,小林さんはMBCの主要メンバということでご執筆されてるのでしょうか(かな?).

MBCの成果として石田さんが開発したExcel VBAアプリケーション「図書館ひっこしらくらくキット」は,「連番くん」と「書架棚見出し出力器」の2つから成っている.後者は分かりやすい.前者はシンプルな名前のわりにいろいろできそうで,そのわりに汎用性も持たせているところが特徴なんだろう.自分はVBの文法がきらいなのでほとんど書いたことがなくて,こういうGUIアプリを作って残していけるのは業務上大きなメリットだよなぁ……と分かっていながら,PerlPythonJavaScriptしか書かないわけですが.

MBCについては4年前に大図研京都のワンディセミナーでおはなしを伺ったことがありました.このように講習会という形式を取り,総長賞という装置もあわさってその成果が外でも目立っていると思います.でもたぶんほかの多くの図書館でも職員が自作したアプリなりスクリプトで業務の効率化が行われてますよね.自分もこういうの作ったし,むかし某大学に出張に行ったときにウェブベースの図書館システムの細かい使い勝手をいろんなGreasemonkeyで向上させているのを見て感心したりしました(真似したいけど自分とこのシステムはJavaベースなのでそういう工夫ができない).

職員有志の勉強会は業務につなげていくのが目的のひとつとして意識されていると思いますが,東大のMBCはそれがいちばんうまく行ってる例じゃないかなあとうらやましく感じました.





■E1539■ Europeana Cloud:Europeanaのクラウド化計画

篠田さん.前号のE1535につづいてEuropeanaネタ.

2013-2015年の予定で実施中のプロジェクト「Europeana Cloud: Unlocking Europe's Research via The Cloud」(このTheのニュアンスがうまくつかめない)をテーマに,7つの作業計画(Work Plan)と,各計画の成果物(Deliverables)について大枠を紹介.2月にブログで成果物が紹介されていたことが記事のトリガーなのかな.

タイトルにもある「Europeanaのクラウド化」について,Europeanaはもともとクラウドサービスじゃないのかなあという疑問が浮かぶ.記事の書きぶりからは「Europeana Cloud」という名前の新しい(Europeanaの後継となる?)サービスが出てくるというように思えてくるし,となると,現在のEuropeanaは「クラウド」ではないという位置付けなのかなあ.作業計画のうち「クラウド環境における研究者のニーズの評価と,研究者コミュニティへの関与の担保」や「研究者向けサービスとツールの開発」を見ていると,デジタル人文学(DH)的な側面も強く感じられました.





■E1540■ 図書館向けデジタル化資料送信サービス開始から1か月

利サ企(りさき)の小坂さん.

サービス案内的な記事ですが,

サービス開始から1か月間の利用統計を見ると,全参加館合わせて1日平均約150点の閲覧,約60点の複写が行われている。利用が多い図書館では1日平均30点以上の資料が閲覧されている一方で,数日に1回程度の利用にとどまっている図書館もあり,差異が大きい。図書館の規模や立地の違いに加えて,各図書館が利用者や報道機関への広報をどのように行ったかも影響していると思われる。特に,地域のテレビ局や新聞を通じた広報は効果が大きいようである。


利用された資料の主題を調べると,図書は歴史・地理に関する資料や文学作品,雑誌は経済や産業に関する資料が多い傾向が見られる。ただし,現時点では大学図書館の参加が少なく,今後大学図書館における学術研究のための利用が増加すると利用傾向が変化する可能性が考えられる。

という部分が面白かったです.閲覧はちょっと試しに見てみたというのがたぶんにありそう.でも複写のほうも全体で平均約60点とあります.2月21日時点での参加館数がもはや分かりませんがてきとーに40〜50館程度だったと考えても,各館平均で1日1点以上の複写が行われたことになります.公共図書館のILL事情は詳しく知りませんが,大学図書館の感覚(というか自分の経験)ではこれは「ちょい多い」くらいじゃないかな.サービス開始直後であることを考えると,まずますのスタートという印象を持ちました.ざっくりとですけど.

しかし「各参加館におけるNDL図書館送信サービスの利用者向け案内のまとめ」というエントリを立ててから2か月近くが経とうとしていますが,あんまり大学図書館の参加が増えてないんですね……,3月4日現在で5館.大学図書館についてはどこのセクションの所掌になったのかも気になっています(ふつーはILLだと思うのですが).





■E1541■ 第10回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>

レファ協事務局からの報告記事.

上司が参加されてたので資料をちらっと見せてもらいました.今回は「教育と図書館の未来」というテーマで「教育」にフォーカス.これは2013年7月に学校図書館の参加が可能になったことからインスパイアされた企画なのかな.そして,ゆきちゃん(岡部晋典氏)がカレント初登場.こうして文章で読むと彼の濃いキャラが身を潜めてしまいますが,「レファ協はもはやインフラ」の部分は「うわー言いそー」とドヤ顔込みでイメージしてニヤニヤしたりしました.まあでもゆきちゃんのようなポジションのひとがレファ協高等教育業界に引っ張り出してくれると面白い展開が見られるのかな.豊中市立図書館の石田さんの

豊中市立図書館登録事例へのアクセス数が多いのは,豊中市民の「問いを立てる力」が評価されているということなのでは,という分析が提示された。

という部分も興味深かった.そのまま真に受けるつもりはないけど,なるほどなぁと.

昨年の第9回はそっか,調査研究報告会と共催だったんだっけ(E1421).もうなんかいろいろ遠くなって忘れつつある…….





■E1542■ WIPOで,図書館等に関する著作権の権利制限が議論される

調査局の鳥澤さん(文化庁にも出向されておられたことのある著作権の専門家).

WIPO著作権等常設委員会(SCCR)で2日間にわたって議論された「図書館及び文書館の利用を促進するための著作権の権利制限」のはなし.マラケシュ条約に続く動き,かな.背景については「国際図書館連盟(IFLA)はデジタル時代を迎えて情報が国境を越えることが急増し,各国の著作権法ごとに図書館等に関する著作権制限規定が異なり,重大な不均衡が生じている」という一文が分かりやすい(デジタル情報以外のはなしもあるけど).しかし,タイトルが「議論される」っていうだけあって,議論されたことがみっしりと詰められた情報量の多い記事でした.これ編集(裏取り)大変だっただろうなあ…….

前半では議論の内容が紹介されていて,特に以下の11が(あらかじめ)論点とされていたことを押さえておきたい(ここに含まれていないのはなんだろう?).

資料保存,資料複写・バックアップ等の複製による利用,法定納本制度の促進,電子書籍を含む資料の貸出しや図書館間貸出(ILL)などの図書館等が行う貸出しの促進,並行輸入,国内法で合法的に利用可能な著作物の国外での利用,孤児著作物(CA1771参照)・著作権放棄された著作物・非商用著作物の利用,図書館等の著作権責任の制限,技術的保護手段の回避による利用,著作権の権利制限規定で可能になる利用を制約する著作権契約の無効化,翻訳による利用

権利消尽についても触れられていて,久しぶりにKirtsaeng v. John Wiley & Sons裁判(「米最高裁が「国外で合法に印刷された図書にもファーストセールドクトリンが適用される」と判決」)のことを思い出しました.

後半は立ち場の異なるプレイヤーの駆け引きを読むことができる(だいたい想像のとおり).「各加盟国間では,アフリカ諸国,南米諸国,インドなどからは各論点について著作権の権利制限を拡大する提案がされたのに対して,米国,EUなどからは,論点によっては著作権制限の拡大に反対する主張が見られた」とか面白かったんですが,中国はどうだったのだろう.





次は3月27日(感想書いてる余裕なんてあるのかどうか).