第16回 #図書館総合展 の個人的なふりかえり

ORCID Outreach Meetingのあとは、横浜に移動して図書館総合展に2日間だけ(いまや会期は7日間にもなっている)参加。去年に続き。


純粋なお客さんとして参加するのは久々だったけど、楽しかったなあ。相変わらず。

図書館総合展という場所はやっぱり「情報」よりも「元気」を得るところだと、あらためて感じた。日常の仕事のなかでだんだん下がりそうになる目線を、くっ、と上に向けることのできる場。たくさんの人と会ってわーわー騒いだり、きらきらと輝いてる人を目の当たりにしてあんなふうに仕事がしたいと強く願ったりする。一方で、自分や職場の現在地と比べてしまってその「届かなさ」に悲しく、悔しくなったりもする[*1]。上がったり下がったりではあるんだけど、ちゃんとその両方(あるいは↑のみ)が得られる場所だと思う(単なる経験談)。そこが「総合」の良いところ。正直、わざわざ現地まで足を運ばないと得られない「情報」はそう多くない。だから、成果を職場に還元しろなんてけちなこと言わないで、どんどん若いひとを行かせてあげたらいい、自分もいつか部下ができたらそうしよう、帰ってきてちょっといい顔になってたらそれだけでいいじゃん、と思ったりした。



といいつつ、そういうわけにもいかないので、以下、印象に残ったものを中心にざっくりメモ。

フォーラム

電子図書館サービス世界No.1 OverDriveとMediaDoの展開(11/5 10:00-11:30)

このコマは「日本版ヨーロピアナに向けての大学・図書館の役割」や「デジタル文化資源を作り出せ!」など魅力的なものが多かった。けど、ここ数年ずっと追っかけていたOverDriveの日本展開に期待を込めてこれを選択。

図書館総合展リポート:OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が示した「7つの教訓」 - ITmedia eBook USER」にありがたくも詳細なレポートが出ているので、内容的にはあまり繰り返すことがない。

OverDriveの最大のポイントは、米国でビッグ5(or 6)と呼ばれる大手出版社が現在はすべてコンテンツを提供している、いちどは(販売への影響を懸念して)コンテンツを引っ込めた会社もあったのにもかかわらず!、という事実だと思う。この実績を日本での展開に活かせなかったら、もうどうしようもないような気がする。

Marketplaceという図書館職員向けシステムにLocal Contentsという機能があり、デジタル化した郷土資料をホストできるらしい。知らなかった。簡易なデジタルアーカイブシステムとして使えるような気がした。

日本向けのサービスは2015年4月の開始を予定しているが、肝心の日本語有料コンテンツの調達状況については未知数という印象を受けた。最後に慶應義塾大学との実証実験が発表されて、また慶應かーと思ったりした(実験における日本語タイトル数を聞いてきたけど、書いていいか分からないので伏せる)。

フォーラムのあとでブースにおじゃまして、「同時発売が必須。図書館で紙の本を選書する時点で、電子が出ているか、あるいは出ることが決まってなかったら厳しいです」というようなお願いをしてきたりした。

翌日もフォーラムが行われていて、そちらの動画は公開されている(内容は同じ?)。


学術情報流通の動向2014(11/6 10:00-11:30)

毎年恒例の土屋先生による定点観測。冒頭で「去年とあんまり変わってないw」とおっしゃるから、「うー、選択まずったかなー」と思ったけれど、結局あれこれしゃべりきれない感じでネタは盛りだくさんだった。

既知のものも含めて印象に残っているフレーズを(原発言ママではない):

  • 「オープンアクセスジャーナルの問題はもはやビジネスモデルではなく質管理の問題という認識が強まったのがこの一年」
  • 「Swets社の倒産はついに、という感じ。取次のビジネスモデルの限界」
  • ジョージア州立大学のe-Reserve訴訟は我々にとっても重要だと思う」
  • 「機関リポジトリはあんまりうまくいってなかったが、博士論文で息を吹き返した」
  • 「BlackboardのようなCMS/LMSを単体で売っていた時代は終わり(MOOCsとセットで提供される)」
  • 「大学という大雑把な存在が消えた時、それに付随する大学図書館という存在はなにか。大学からお金は来ない」
  • 「国際的な大学ランキングはまだ10年の歴史しかない」
  • 「Web of ScienceやScopusのようなビブリオメトリクス系ツールは大学が買うものであって、図書館が買うものではなくなるかもしれない」
  • 学術情報産業はグローバルに見れば成長産業である、珍しく」「研究開発需要や、高等教育需要は高い」「資金源は国」「国は経済状態が悪いほど金は出てくる、という奇妙さ」

資料と動画が公開されている。


裏番組の「識別子ワークショップ:JaLC、CrossRef、DOI、ORCID、そして…」も。


機関リポジトリ推進委員会:SPARC3 Update(11:30-12:00)

と、呼ばれていたらしいので会場に行ってみたけど、当然もう用無し……。

すでに最後のSPARC3の最新報告の時間だった。「1110 euro: average projected 2014 APC」という情報を出し、他のOAジャーナルと比べてどうかというはなしでしめくくられた。APCの業界平均は900ドルという数字をしばしば見かけるので、それよりはちょっとだけ高い、という感じ。


機関リポジトリ推進委員会:研究データ(13:00-15:00)

池内さん@筑波大学(前座的動向レビュー)→スチュワート・ルイスさん(エディンバラ大学の事例報告)→南山さん@極地研(機関リポジトリ推進委員会コンテンツWGのデータ班で行っている調査の中間報告)、の3本立て。

池内さんのプレゼンは流れるように爆速で進んでいったので細かいところは覚えてない。前座として、聴衆の気分を整えていくのが上手だなあと思いながら聞いていた。研究データ管理が求められる背景には、研究不正への対策や、助成機関による義務化の流れがあることだけ抑えておく。

ルイスさんの話をざっくりまとめると……、

エディンバラ大学の研究データ管理(RDM)は1983年のData Libraryまで遡る。2009年にDataShareというデータリポジトリ(DSpaceベース。機関リポジトリとは別に立ち上げたが、それはなりゆきで、もう一度やり直すなら一緒にするだろうとのこと)ができ、2011年には英国初となるRDMポリシーの策定に至る。2012年にはRDMロードマップというプログラムを開始し、現在はその途中(130万ポンドの予算のほとんどはストレージに消え……)。


研究者に対するRDMサービスは図書館だけで行うわけではない。IT担当部署なども入る。


サービスは大きく、(1)Data Management Planning(研究前)→(2)Active Data Infrastructure(研究中)→(3)Data Stewardship(研究後)と分かれる。(1)PlanningについてはDMPOnlineという有名ツールがある。(2)Active Data InfrastructureについてはownCloudを使ってるのが面白い。各ユーザに500GBが無料提供され、350ポンド/TB・年でストレージの追加もできる。(3)Data Stewardshipは、データが固まったあとの公開・アーカイブというフェーズかな。目録用のData Asset Register、長期アーカイブ用のData Valutというシステムは現在構築中。公開用のデータリポジトリDataShareでは、これまでに162件・75GBのデータが保管されている。p.59のファイルサイズの分布は自分が知りたかったことだったのでありがたい(1GB以上のデータがそんなにないのは、DataShareがHTTPベースのシステムだからではないかという感じはする)。ファイルフォーマットはtext/plainが一番多いけど、TSVか何かかなあ。メタデータは特に凝った感じがしない。DataCiteでDOI付与し、ThomsonのData Citation Indexにも収録される、と行き届いている。


ほかにはアドボカシーや、トレーニング(研究者向け、URAなどのサポートスタッフ向け、図書館員向け)のはなし。トレーニングについては、MANTRAというこちらも有名なツールがある。

……という感じで、フルコースすぎてとても真似できる気がしない。特に上の(2)はよくここまで手を出すなあ、と思う。自分はまだ「ほんとにやるのこれ?」という状態のまま。

アドボカシーの際に「Confusion between RDM and other initiatives such a Open Access」という誤解[*2]が生じたと言っていたけど、確かに似ている話なのだし、それならばいっそ、OAポリシーが未整備に近い日本ではまとめて進めていくという戦術もあるのかなとあるのかなと思った(でも両方ポシャってしまう可能性のほうが高いかなあ)。なお、ORCIDの話も構造に似ている点があるので、別々に進めると「なんかまた似たようなのが」と嫌がられる可能性があると思う。

最後、南山さんからは機関リポジトリ推進委員会コンテンツWGのデータ班による調査の中間報告が。「遅かれ早かれ図書館に仕事がきます」として、海外動向の調査や、JAIRO Cloudで研究データ管理をするための技術的要件の検討などを行っているらしい。来年3月には報告書が出る予定とのこと。

JAMSTECの友人によると「大学はともかく研究所ではすでに組織的な研究データ管理をやっているところが多いのでは」ということだった。「地球情報研究センターにおける海洋地球観測データの管理・公開」という文献も紹介してくれた。自分が知らないだけで、日本国内にも学べる事例があるんだろうなあ。JaLCが始めた研究データDOI登録実験プロジェクトの展開に期待。


機関リポジトリ推進委員会:博士論文(15:30-)

松本さん@広島大学の「博士論文インターネット公表の現状と課題:DRF博士論文勉強会開催報告」だけ拝聴。

9月〜10月に23名で勉強会をし、課題の抽出と対応策の検討を行ったというはなし。

紹介された課題には、学生や教員の理解不足(大学側の案内不足)、卒業後の学生と連絡が取れないことがある件(特に留学生)、他部署との業務連携・分担、全文の要約と内容の要旨が同一でいいのか問題、全文の要約を作成させるタイミング(やむを得ない事由の承認後だと、卒業後で連絡が取れなかったり)、特許の出願が絡むときの対応、、、などなど。そもそもの提出率の悪さとかは挙げられなかったのかな……。他にはインターネット非公表の博士論文の閲覧方法ってのもあるでしょうか。

12月にDRF wikiで成果物が公開されるらしいので楽しみに待とう。


大学図書館と研究支援―研究を知る3つのキーワードから―(11/7 13:00-17:00)

帰福後なので、動画で。超注目フォーラム。ディスカッション部分は見れないし、現地で聞きたかったなあ。

APC、査読、URA、というのが3つのキーワード。前半はこのそれぞれについて三根先生、エルゼビアの高橋さん、京大URAの天野さんが講演し、後半でパネルディスカッション。

図書館員からURAに転職した天野さん。講演のメッセージは、研究支援において図書館とURAはお互いにないものを持っている、連携できるよ、したいね、というものだった。京大のURAについてはずっと注目してきたので特に新鮮な情報はないんだけど、「京大では常勤の図書館員は100人くらいだが、任期付きとはいえ常勤のURAはもう50人もいる」という事実はまったく意識していなかったので衝撃を受けた。常勤の図書館員が50人以上いる大学図書館なんて、日本では数えるくらいなので。

これは単なる愚痴なんだけど、とエクスキューズをしつつ。最近、URAのひとたちってほんとすごいなあと刺激を受ける(正直に言えば、劣等感を覚える)ことが少なくない。これまで大学図書館における人材政策系の文書で必要性が訴えられていたシステムライブラリアン[*3]やサブジェクトライブラリアンといった役割を、URAのひとたちはやすやすと担ってしまえるんじゃないか、実現不可能だと諦めていたのにこんな手があったのか、と。もちろんURAという制度は始まったばかりで、任期付きのポジションでもあるし、組織としての継続性に課題があることは否定できない。それでも自分(≠図書館員、=私自身)の存在価値について冷たい視線を向けてしまうには、十分な存在だったりするわけで。あのひとたちが辞めなくてはいけなくなったときに、自分に居残るだけの価値があるのかどうか。その問いかけを忘れないようにしたいと思った。余計なお世話だと言われるかもだけど。


Linked Dataの活用について(11/7 15:30-17:00)

あの神崎さんがご登壇ということで、こちらも見たかった……。

動画はないけど、ご自身のサイトで資料を公開してくださっている。
http://www.kanzaki.com/works/2014/pub/1107lbf.html


ポスターセッション

兵庫教育大学附属図書館は広報誌のセンスも抜群だけど、この「ボクブックプロジェクト」のポスターもシンプルなのに単調になってなくてかっこいい。もちろんデザインだけじゃなく、「ボクブックデリバリー」がすんごい良かった。図書館で本をセレクトして授業が行われている教室に出張展示し、現地貸出もするという取組。スタッフの方は見かけなかったので話は聞けなかったけど、まだ大規模に展開しているわけではないんだろうなあ。

f:id:kitone:20141105161126j:plain

f:id:kitone:20141105161344j:plain


愛知教育大学附属図書館の「種」プロジェクトも、「seed lending library」としてずっと追っかけてきた動きが日本でも展開されたというもので、感慨深かったです。担当者の方といろいろお話しできました。どんなひとが種を借りていくのか聞いてみたら、部屋で育てたいという女子学生が多いほか、教育実習で利用するためという教育系大学らしいはなしもありました。

f:id:kitone:20141106122331j:plain


なお、今年のkumoriは小劇場付きだった。


ブース展示

今年は会場で某社さんと打ち合わせという、図書館総合展の本来の目的に沿ったことをしたりした。

ひさしぶりに時間をかけてブースをまわってみたので、熱心に語ってくださるところ、いまいちやる気の見えないところ、まちまちなんだなあと感じた。こちらの興味もまちまちなのでなんとも申し訳ない感じはあるけど。「いまのうちのイチオシはこれ」という説明をしてくださるところでは話が盛り上がった。

全体的にはキハラのブース(歴史的図書館用品の展示とグッズ販売)が人気だったようだけど、個人的には、最近リリースラッシュのカーリルのブースで細部や裏側を教えてもらえたのがありがたかった。例のタブレットも見せてもらって、なるほどこうなってるのかー、などと。そういえば自動貸出機と検索用端末って別である必要ないなあと思ったりした。うちの中央館は自動貸出機がなくて、地味に課題に感じていたりする。

雄松堂の方が推していた「都道府県統計書データベース」(J-DAC)は、デジタル化した資料に収録されている図表のそれぞれにメタデータを振っているという労作だった。パンフレットの「90万画像 150万レコード」に一瞬戸惑ったけど、1枚の画像に複数の表が含まれているからか……。全年代のデータがリリースされるのは2017年11月になるらしい。



# 今回はいちどもargさんを見かけなかったという、衝撃の総合展になった。


*1:落ち込んでるときに元気なひとの話を聞くと、逆効果なときもある。本当に体調が悪くなってきて途中で帰るしかなかった研修が過去にあって。

*2:先日のオープンアクセス・サミットで、JAIRO Cloudの有料化の話を学内で説明したら「JUSTICEと比べて料金が高い」と言われた、という話があった。JAIRO CloudとJUSTICEなんてまったく別物なのにそんな誤解がなされてしまうんだなあ。それに比べたらRDMとOAなんてほとんど同じに見えても仕方ない。

*3:になろうと思って図書館員になった人間です、私は。