カレントアウェアネス-E No.272感想

今回は4本。うち外部原稿が2本。


■E1634■ オンライン資料の納本制度の現在(1)フランス

期待の新シリーズ。日本スタートでもいいのではと思ったけどE1464があるからということなのかな。

第一弾はフランス。音楽映像資料課の大沼さん。E1498も書かれていたのでフランス語のエキスパートなんだろう……と思ってちょっと調べてみたらとんでもなくすごい方だった。。こういう人材を擁しているのがNDLのすごいところ。ほんとに。

フランスではインターネット資料の納本はBnFとINAの2機関で担当している、という。ざっくりいうとインターネット配信のテレビやラジオについてはINA、それ以外はBnFという役割分担か。INAはほんとにユニークな機関なのでぜひぜひこの本を(珍しく書籍紹介)。

世界最大デジタル映像アーカイブ INA (文庫クセジュ)

世界最大デジタル映像アーカイブ INA (文庫クセジュ)

さて。BnFでは2006年から制度収集を開始。「.fr」だけじゃなく「.re」や「.nc」などのドメインも対象になっているのが面白い。年に一度の大規模収集と、選択的収集。収集したものはBnFの閲覧室で見られる(2008年〜)。これまでに収集したURLの件数は紹介されてなかったけど、2013年度で17億件ということだから100億件には達してないという感じなのかなあ。Internet Archiveは現在4350億ページのもよう(トップページに書いてある)。

NDLのeデポでは無償・有償の別とDRMなし・ありの別が大きなポイントだったけど、記事には

商用のウェブサイトにせよ,個人のブログにせよ,また有償・無償を問わず,広く「フランスのウェブサイト」全てが収集対象となっていると言うことができる。なお,この収集対象にはオンラインで配信される電子書籍も含まれる……

とあるので、そういう細かいことは考えなくていい制度らしい。けど、その電子書籍の部分がうまくいってないらしく、現在納本システムを開発中という。



■E1635■ 図書館でティーンの学びを育む「ラーニングラボ」(米国)

篠田さん。

米国の図書館や博物館のラーニングラボの動向を、“Learning Labs in Libraries and Museums: Transformative Spaces for Teens”というレポートにもとづいて紹介。

どこかで聞いたことがある気がして調べてみると、シカゴ公共図書館YOUMediaか。ここからIMLSの助成プログラムにつながったんだっけ。

名称も空間的特徴も(大学図書館の)ラーニングコモンズにそっくりだけど、

American Libraries誌によれば,ラーニングラボとは,「図書館で得られる活動や興味と,学校や将来のキャリア形成において役立つスキルとの接続を支援する場」とされている。

ラーニングラボは,“Connected Learning”という概念に従って設計されている。これは,興味に導かれ(interest-driven),社会とつながり,教育機会や経済的な機会を拡大するような学びの概念である。その成功に不可欠な要素として,「(ラーニングラボの計画や設計への)ティーンの参画」「メンター」「物理的な空間」の三つが挙げられている。

という説明を読むと、力点がちょっと異なるようにも思える。記事の他の箇所を読んでいても、同じかなあ、いややっぱりちょっと違うかなあ、の間をふらふらしてしまって考えがまとまらない。3Dプリンタなどの設備は「ラボ」という語感にフィットするけれど、そこは本質じゃないはずだし。ラーニングコモンズの一類型としてのラーニングラボ、という捉え方がいいのかなあ。



■E1636■ 第62回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>

安原さん。こちらもラーコモ的な。

先日の学会のシンポジウム「学びの空間デザインとファシリテーション~図書館を活用した学習支援を考える~」の参加レポート。

シンポジウムの冒頭では,Pharrell Williamsの楽曲“Happy”にあわせて,同志社大学のラーニング・コモンズ(LC)での学生によるダンス映像が流れ,パネリストである同志社女子大学上田信行氏,玉川大学の河西由美子氏,三重大学の長澤多代氏,及びコーディネータである日本大学の小山憲司氏がリズムにのりながら登場した。

がとてもすてき。自分も勉強会の開始前にPerfumeのライブDVDをえんえん流していたことがあった……(一緒にするな)。

パネリスト3名によるスピーチ、パネルディスカッション、グループディスカッション、パネルディスカッションという全体構成が面白い。こういう流れだと内容もまとまることは期待できないし、

という感じだったのもうなづける。

ラーニングコモンズのはなしは大学図書館に閉じがちだけど、学校図書館サイドから河西先生が登壇されてるのが良いですよね。当然のことだけど、学生に深くコミットした学習支援というはなしなら大学図書館員より学校図書館員のほうがエキスパートだろうと思うので。とはいえ、アクティブラーニングやラーニングコモンズの一般論にはあんまり興味が持てないのですが……(大学によって異なる学生気質を無視して議論が進むと思えないので)。

河西さんの

子ども達は,書架をキャレルデスクの代わりに使用したり,飾られているオブジェを積み上げたり,デザインの意図を超えた使い方をしている。このように意図した以上のことが誘発されることも含めて「学び」と考えると,今考えられている図書館での「学び」とはとても小さいものなのではないかと河西氏は述べた。

と、上田さんの

図書館はLCのようなスタジオ型になってきているが,もう一歩進むと,ステージ型になる。学生が自分の言葉で作りあげ,人に伝え,人と協力しながら可能性を広げられるようになることは,大学の目標の一つである。そのために図書館をステージにしたいと上田氏は述べた。

は(ちょっとおおげさかもしれないけど)同じことを言っているように思える。その先にあるのは、学生さんたちが、ラーニングコモンズ(図書館)は自分が輝くための舞台だと思ってくれること、だろうか。良い意味での「図書館の私物化」、というのはちょっと言い過ぎかな。でも、そんな方向性。

その意味で、うちの図書館(場所はラーコモだけじゃないけど)で学生サークルが定期的にイベントを行っているのはいいなあと思ったりする。
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/Quricon201412



■E1637■ CrossRef×JaLC合同ワークショップ<報告>

まさかの2週連続じゅりー。

先の総合展のJaLC主催フォーラムの参加レポート。申し込んでおきながら裏番組に行ってしまったのでありがたい。登壇者は、武田先生、Ed Pentz、Salvatore Meleのお三方。前号のE1633は識別子の役割と意義について、今回は利活用の事例と可能性についてという書き分けがされている。

ペンツ氏によれば,識別子が有効性を発揮するためには,識別子,標準的なメタデータそれを提供するサービスそのサービスを享受するコミュニティの4要素が全て揃う必要がある。これによって各識別子間の恒久的なリンクができ,識別子を活用することで新しいサービスが生まれ,ひいては研究の促進につながるとのことである。

これはさらっと読んでしまいそうになるけど、10年以上のCrossRefの経験にもとづいた重たいことば。

また,武田氏は,実在の人物ではなくてもORCIDの識別子を取得できてしまうが,ORCIDの参加機関であれば,ORCIDが提供しているAPIを用いて自機関に所属する研究者や教職員等の認証を行うことで,その存在を証明することができるため,機関が身元保証人となることが可能と説明した。

この部分が飲み込めなかったから動画を見た。10:13あたりが該当する。ORCIDの会員(有料)になっている大学は、所属研究者のORCIDのプロファイルに「Trusted」と表示するように(APIを使って登録)できるしくみがあるそうだ。まだあんまり多くの大学で使っているわけではないらしい。ORCIDのサイトで該当する機能を見つけられなかったのではっきりしたことは言えないけど、「APIを用いて」認証するわけではないのでは?

2番目の質問者が「CCCのような機関といっしょに仕事をすることはあるのか」と興味深い質問をされていたけど、時間の都合上カットされてしまっていたのが残念。



次号は12月24日。翌25日は編集企画会議のため関西館日帰り出張の予定。