大規模大学図書館における「どこでも貸出・どこでも返却」サービス実施状況
動機・経緯の説明は省きますが、大学図書館における「どこでも貸出・どこでも返却」サービスに興味を持っています。
どこでも貸出・どこでも返却とは
大学内に複数の図書館・図書室(煩雑なので以下「図書館」とします)が存在するという環境において、ある図書館の資料を別の図書館に取り寄せて借りることができるサービスが「どこでも貸出」です[*1]。そして、その資料を、借りる手続きをした図書館や、もともと所蔵していた図書館以外の場所でも返却することができるサービスが「どこでも返却」です。です、というか、ここではひとまずそうします。
この手のサービス、例えば京都市図書館でも実現されていますが、自治体内に複数の分館が存在する公共図書館ではよく見られますよね。大学でも、遠隔地を含めてキャンパスが複数あるようなところでは、(実施のレベルを除けば)ちらほら見かけるという印象です。
以下では、旧七帝+早慶を中心として、大規模大学におけるサービスの実施状況をウェブサイトで公開されている情報にもとづき調べてみました。対象をこのようにしたのは、同一キャンパス内に図書館が複数存在するというケースに関心を持っているからです。とはいえ、一通り拾ってみたものの、どうまとめたもんかと悩んでいます……。
着眼点
注目しているポイントは以下の3点です。
- 「どこでも返却」が同一キャンパス内でも可能かどうか
- 「どこでも貸出」が同一キャンパス内でも可能かどうか
- 「どこでも貸出」を閲覧システムとILLシステムのどちらで実現しているか
1, 2点目は業務量と関係します。利用者からすれば本当にどこからでも取り寄せることができて、どこにでも返せるのが理想。とはいえそれはスタッフ側の業務負担を激しく増大させます。同じキャンパス内なら利用者に「歩いて行ってください」と言うのもそんなに悪くないでしょう(少なくとも借りるときは、そのほうがおそらく早く手に入りますし)。でもいろいろ制約をつけると利用者にとってもスタッフにとっても複雑なサービスになってしまいがち。……そのあたり、サービスをどうデザインしているか。ただ、キャンパス構成や図書館配置をよく知らない他大学の事情はすんなり見えてこない。
3点目はウェブサイトで公開されている情報だけでは分かりづらいですが、貸出更新がオンラインから可能な場合は、おそらく閲覧システムを使用していると考えて良いのかなと思っています。ILLシステムを併用している場合もありえますが(例えば2008年ごろ伺ったときには阪大はそうだと聞きました)。まぁ、でもこの点はやっぱりよく分かりませんでした。少なくとも国内システムの場合は閲覧システムで(予約や在架予約と同じように)処理するのがスタンダードだと理解しています。
あと、細かいことですが、どこでも返却の場合には「受付館(返却館)」と「所蔵館」のどちらで返却処理をしているかという因子もあったりします。たいていは前者だと思いますが……。なお、そのためには受付館が所蔵館の規則(≠受付館の規則。一般に)で返却処理できるようなシステムになっているか、あるいは全学で規則が統一されている必要があります。
ついでなので(対利用者)e-DDSの実施状況や、延滞時の罰則[*2]についてもメモしています[*3]。
1)早稲田大学(Innovative)
貸出
http://www.wul.waseda.ac.jp/Services/ill_waseda.html
http://www.wul.waseda.ac.jp/Services/borrowing.html
- 名称:学内図書館間の資料取り寄せ(学内者対象)
- 範囲:基本的には遠隔キャンパス間が対象のようで、中央図書館⇔戸山図書館のようなパターンは×。
- 罰則:反則点制度。「返却期限日をオーバーすると1日1冊1点の反則点が課せられ、反則点が50点に達すると14日間の貸出停止になります。どこか1館でも貸出停止となっている場合には、他館でも貸出はできません。反則点が何点になっているかは、図書館カウンターでお尋ねください。」
返却
http://www.wul.waseda.ac.jp/Services/dokodemo.html
http://www.wul.waseda.ac.jp/Libraries/nenpo/2000/02.html
- 名称:どこでも返却(2000年開始)
- 範囲:対象外はある(演劇博物館など。教員のみが対象のところも)が、早稲田キャンパス内でもOKのような。
- 更新が「どこでも再貸出」という名前なのがおもしろ。
2)慶應義塾大学(Ex Libris)
貸出
http://www.mita.lib.keio.ac.jp/guide/ill/bk_intermural.html
http://www.mita.lib.keio.ac.jp/guide/ill/j7aliq0000000pnl-att/a1352970707541.pdf
http://www.mita.lib.keio.ac.jp/guide/circulation.html
- 名称:図書取寄せ(学内)
- 範囲:他キャンパスの図書館から(日吉キャンパス内にある日吉メディアセンター⇔協生館図書室のようなパターンはダメなんかな)
- オンラインで更新が可能
- 罰則:「返却期限日を過ぎると、1冊につき1日10円の延滞料[*4]が課されます。休館日も加算されます。」
返却
http://www.mita.lib.keio.ac.jp/guide/circulation.html
- 名称:どこでも返却
- 範囲:「学内のメディアセンターの資料は、どのキャンパスのメディアセンターでも返却することができます。」
3)北海道大学(NEC)
貸出
http://www.lib.hokudai.ac.jp/services/ill/#domestic
http://www.lib.hokudai.ac.jp/services/service-guides/books/#henkyaku
- 名称:学内ILL
- 範囲:「函館キャンパス←→札幌キャンパス間で図書の取寄せが可能です(無料)。※札幌キャンパス内の所蔵資料は直接各図書館・室でご利用ください。」
- 更新はよくわからない。
- 罰則:「4日以上遅れると、遅れた日数分の貸出停止のペナルティ(最大30日間)が科されます。」
返却
http://www.lib.hokudai.ac.jp/services/service-guides/books/#henkyaku
- 範囲:「本館・北図書館で借りた本は、本館・北図書館のどちらにでも返却できます。」→それ以外はなし?
e-DDS
http://www.lib.hokudai.ac.jp/services/ill/#domestic
http://www.lib.hokudai.ac.jp/services/ill/e-dds/
- 学内ILL複写は(学内ILL)貸借よりも制限がゆるく、公費の場合は札幌キャンパス内でもOK。
- e-DDSもやってる(公費・私費)。
4)東北大学(NEC)
貸出
http://www.library.tohoku.ac.jp/guide/delivery/index.html
http://www.library.tohoku.ac.jp/guide/delivery/link.html
http://www.library.tohoku.ac.jp/guide/delivery/usersguide.pdf
http://tul.library.tohoku.ac.jp/guide/guide_gakunai.html#t06
- 名称:キャンパス間資料搬送サービス
- 参加図書館一覧を見ると同一キャンパス内もやってる。
- マニュアルによると「予約」ボタンで申し込む。
- ILLの案内ページには学内ILL貸借に関する記述はなし。
返却
- 名称:キャンパス間資料搬送サービス。
e-DDS
- やってなさそう。
5)筑波大学(RICOH)
貸出
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/portal/guide-gakusei-yoyaku.php
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/portal/guide-gakusei-kashidashi-henkyaku.php
- 範囲:「筑波地区(中央、体芸、医学、図情)と東京地区(大塚)の間で」「筑波地区内にある図書館の間(中央、体芸、医学、図情)では、学内図書の取り寄せサービスは行なっておりません。」
- 「予約・取り寄せ」ボタン
- 罰則:「全ての延滞図書が返却された日の翌日から、最も長い延滞日数分、貸出が停止されます。」
返却
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/portal/guide-gakusei-kashidashi-henkyaku.php
- 「貸出を受けた図書館でなくても返却することができます」
6)東京大学(NEC)
貸出
http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/koho/guide/gakunai.html#camp_loan
https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/webreq/ill/ill_help.html
- 名称:キャンパス間の図書取り寄せサービス(キャンパスローン)。
- 受取館は所属部局の図書館(室)[*5]
- 「予約/取寄」というボタン?
返却
http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/koho/guide/gakunai.html#campusreturn
- キャンパス間返却サービス。
- 所属部局の図書館(室)あるいはキャンパス図書館(総合図書館、駒場図書館、柏図書館)
- 「資料を借りた図書館(室)と同じキャンパスにある図書館(室)には返却できません」
7)名古屋大学(富士通)
貸出
http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/guide/webrequest/web_request.html
- ILL。「図書や雑誌が学内にない場合、あるいは他のキャンパスにある場合、図書の借用や論文のコピー取り寄せができます。文献は所属の図書館(室)(「申込館」)に届きます。」
返却
- 特になし。
e-DDS
- やってなさそう。
8)京都大学(富士通)
返却
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/service/index.php?content_id=5#return
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=425
- 名称:キャンパス間(片道)返送サービス
- 情報がちと古いですが、吉田キャンパス内でも北のほうと南のほうはOKといった感じ。
e-DDS
- やってない。
9)大阪大学(NEC)
貸出
http://www.library.osaka-u.ac.jp/toriyose.php
http://www.library.osaka-u.ac.jp/borrow.php
- 名称:図書を取り寄せる
- 罰則:「遅れた日数分だけ、新たに資料を借りることができなくなります。」
返却
http://www.library.osaka-u.ac.jp/borrow.php
- 名称:どこでも返却
- 「4つの図書館、5つの図書室で借りた資料は、どの図書館・図書室でも返すことができます。(ただし、卒業生・学外一般の方は、4つの図書館への返却のみ可能です)」(※この5つの図書室は全部吹田キャンパスにある。)
10)神戸大学(NEC)
貸出
http://lib.kobe-u.ac.jp/www/modules/main/index.php?content_id=36#reservation
- 名称:資料の取寄せ(デリバリー)
- 条件は特に書いてない……。
返却
http://lib.kobe-u.ac.jp/www/modules/news/index.php?page=article&storyid=460
- 名称:どこでも返却(2013年4月~)
- 「学内の図書館から借りた資料は、経済経営研究所図書館を除く8館室のどこに返却してもよい、こととします。(4月から、図書館間の資料配送便が、経済経営研究所図書館を除く8館室すべてに週5日運行されることとなったため)」
11)九州大学(NTTデータ)
貸出
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/services/members/intercampus-delivery
- 名称:図書の取り寄せ
- 「学内の他キャンパスの資料を、最寄りの図書館に取り寄せることができます。」[*6]
e-DDS
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/services/members/intercampus-delivery
- やってる(公費のみ)。「学内の他キャンパスの図書館にある資料から、最寄りの図書館に論文(コピー or PDF)を取り寄せることができます。(有料)」「文系合同図書室所蔵の資料は、PDF取り寄せ対象外です。」
*1:いわゆる「学内ILL現物貸借」との差は何なのかというツッコミはひとまずスルー。後述の通り、閲覧システムとILLシステムのどちらで処理するかによって決まるのか。
*2:しぶろぐ id:shibure さんは早くブログ書いてください。
*3:貸出、返却、ILLなどをまとめて「デリバリーサービス」だと、個人的には位置付けています。
*4:https://twitter.com/tecopen/status/321973711886495744, https://twitter.com/kabe_dtk/status/321985431262613504, https://twitter.com/Iskwmk22/status/321991878222434304, https://twitter.com/wak_h/status/322019888166207488
*5:東大はホームライブラリー制度というのがあります。
*6:中の人からの情報によると、「予約・申込」ボタンをクリックしてログイン後、受取館として所蔵館と異なるキャンパスの図書館がリストアップされる。