カレントアウェアネス-E No.241感想

出張( #NIIウェブ研修 )+旅行( #しぶ旅 )中だったので遅くなりましたが,今号も感想を.帰りの新幹線で書きました.



E1453 - アンニョリさんの眼に日本はどう映ったか:インタビュー前編

翻訳の必要な外国人インタビューをCA-Eでやるとは……もしかして初めて? 既にCA1783で関係のできているアンニョリさんだから比較的スムーズにできたとは思いますが,それでも驚きました.渡邉さんの翻訳も読みやすくて.内容については前編の段階ではどうこう言いづらいです.「ですが,人々が図書館に行った時に自分の家にいるような気持ちになってもらうには,このような方法で市民を最初から図書館づくりに参加させるしかないと確信しています。図書館は,街や村のアイデンティティを創りだす役割を持っています。」がいちばん印象的でした.(第3段落で三点リーダーを繰り返さず使っていたのがちょい気になりましたがー.)



E1454 - 非常時に図書館には何ができるのか?米国の3事例の紹介

依田さん1本目.米国の都市図書館協議会(ULC)の発表した“2013 Top Innovators”のうち,非常時における図書館の取り組みを3つ紹介.ここで「非常時」とされているのは,小学校銃乱射事件,落雷からの山火事,大雨(サンディ)です.最後のサンディによる被害は自分も当時情報収集をしていたのが記憶に新しいです.情報を拾って,依田さんにCA-Rでまとめてもらったような覚えが.このうち2つ目と3つ目の事例は災害時に図書館が地域の生活インフラとして機能するというもので,個人的には馴染みのあるものです.一方,1つ目は若干性質が違いますね.図書館が社会的大事件に対して「中立的な役割の機関として」いわばディベートの場を提供した.かつ,参加者に「ひまわりの花をあしらった“I Will”カード」を配り,それぞれのアクションを促したという点もポイントでしょう.日本の事例ではどういうものがあるのかな.



E1455 - 障害者のアクセス権と著作権の調和をはかるマラケシュ条約

WIPO外交会議で成立したマラケシュ条約は今回必ず刻んでおくべきネタでしょう.執筆者の河村さんはこれ以上にない人選で,「よく頼んだ!」という感じ.マラケシュ条約は,プリントディスアビリティ(視覚障害者含む)がDAISY図書などを国境を超えて利用できることを目指したものなんですね.ただ,そのためには各国で著作権法において権利制限を定める必要があります.実際,条約の日本語訳を眺めてみると,

  • 第4条:国内法令におけるアクセシブルなフォーマットによる複製物に関する制限と例外
  • 第5条:アクセシブルなフォーマットによる複製物の国境を超えた交換

が二本柱で,第4条1(a)の「締約国は、受益者の、アクセシブルなフォーマットの複製物による著作物の利用可能性を促進するため、WIPO著作権条約(WCT)で規定されているように、複製権、頒布権および利用可能化権に対する制限または例外を、自国の著作権法において定めるものとする。」が肝だと思いました.

ただ,記事は「一見して「著作権の制限」に関する条約であるマラケシュ条約が,障害者の知識アクセス問題の根本的な解決である出版物そのもののアクセス可能化を目指していることを正しく理解することが重要である。」と締めくくられており,権利制限のはなしだけではないと(最終段落は書き足らないという印象.図書館の担う意義がどういうものかなどもうちょい詳しく知りたい).また,成立はしたものの発効となるとまた別の問題で,20か国の批准が必要であるそうです.日本は著作権法改正の必要はなさそう?だけど,米国の動向に注目だと指摘されています.



E1456 - 図書館と博物館における早期学習への取り組み

安原さん.IMLSの資料の紹介で,早期学習に関する10の取り組みのうち7つを取り上げています.まとめるのに苦労したんだろうなあという印象.冒頭で,米国における早期学習の現状について一段落くらいで説明があると良かったかなあ.ひとつひとつの事例の紹介が物足りなくて,うーん,だからなんだろうと思ってしまいます(自分が過去に書いたものにもそういうものがちらほらある……).安原さんはどうしてこの資料に興味を持ったんだろう.ちょっとくらい色が出ていても良かったかなあ.紹介されていない事例ですが「家族の健康と栄養状態を向上させる活動」がいちばん気になりました.lifelong learningは通常「生涯学習」と訳すと思うんですが,「早期学習」というのは内容に合わせた意訳なのかなぁ(あんまり詳しくない).



E1457 - 図書館員,自転車で快走:Cycling for Libraries

依田さん2本目.6月に開催された“Cycling for Libraries”というイベントの紹介.依田さん自転車好きですもんねえ.「単純に自転車と図書館を愛してやまない人たちのイベントといえばそうかもしれない。しかし少なくとも名目は,図書館員の国際的アンカンファレンスを謳っている。そしてその目的には,図書館の壁の外で図書館に対する認知を高めることを掲げている。」.C4Lという略称はCode4Libと同じだなぁ.記事中では触れられていませんが,ツール・ド・フランスの前月にぶつけてきたのかな? 全行程で400km〜600kmというとツールの2〜3日分くらいの距離に相当.自転車の好きな図書館員ってどれくらい日本にいるんだろう(僕はBianchi IMOLA乗りです).日本で開催されたら参加してもいいなあ,こういうの.そういえば精華町を自転車で走ったことは一度もないままだった.しかし,スポーツ×図書館というテーマは広がりがありそう(@nagasou くんネタかしら.ちょっと違う?).



E1458 - 歴史学者の画像利用傾向とそこから得られる教訓<文献紹介>

菊池さん.C&RL誌掲載論文の紹介.強いメッセージが光ってますね.画像のデジタル化が進んでもそれらが歴史学論文で使われる頻度はさほど増えてないよ,というのが論文の主張.「しかし重要なのは,本稿が前段の分析結果をもって論を閉じなかったことにある」.続いて,デジタルアーカイブを作成する側の図書館などに対して教訓をまとめています.デジタル化画像の二次利用に対するハードルという課題は,震災アーカイブでもさんざん登場したものですが,広く使われるためにデジタル化したものの利用に対して権利がうんぬんというのはほんとに悩ましい.図書館ではテレビ局から(デジタル化されたものに限らず)所蔵資料の番組での利用について問い合わせの来ることが多いですが,めんどくさい業界だなあと思っているだろうなあと想像します.お金を積めば解決できるわけでもなく,金額は微妙なうえ,許可が下りるまでに時間がかかる.実務を担当したことないので解決策についてはなんとも言えませんが…….教訓のひとつ,「図書館や文書館は,資料デジタル化事業に,ユーザである歴史研究者のニーズや研究活動の実態を反映した方がよい。」については,そのニーズとはどういうものなのか,歴史学者としての菊池さんのコメントを聞いてみたいところです.



次は8月8日(びわ湖大花火大会の日だ).