カレントアウェアネス-E No.247感想
6本中,係名義が1本で残り5本は外部原稿(佐藤くんを外部と言っていいのかどうか).今回もバラエティに富んだ号ですが,そろそろ骨太な報告書紹介のオンパレードみたいなのも読みたくなってきます.
E1490 - 東日本大震災後の図書館等をめぐる状況(2013/10/21現在)
8月下旬から10月中旬までの約1か月半のまとめ.
このまとめシリーズは,2011年3月17日付けの「東北地方太平洋沖地震発生後の図書館等の状況(速報版)」以来,これで18本目になります.今回はスタイルが若干変わり,「記事本文+参考URL」というカレント-Eの通常の形式から,以下のように「段落+参考URL」の繰り返しという形式になりましたね.いや,このほうが読みやすいですよね……(反省).
8月29日,気仙沼図書館唐桑分館(宮城県)が,気仙沼市立唐桑幼稚園の敷地内に新たに建築され,開館式が行われた。
http://www.library.pref.miyagi.jp/kotobanoumi/pdf/4500.pdf
http://www.lib-kesennuma.jp/karakuwacommunitylibrary20130822.pdf
『図書館雑誌』(Vol.107 No.9, 2013年9月号)掲載の川原宏「大熊町図書館の調査報告: 原発4キロ圏の図書館」は読んでおこう.
E1491 - 『図書館ロケット』の作詞・作曲者,畑亜貴さんインタビュー
NHKみんなのうた.うちにはテレビがないんですが先日旅行中にホテルで偶然映像を見ました(NHKオンデマンドにはなかった).「世界を変え」るため,「二度とつらい過ちなんて 起こさずに前向いて 進みたいと願うひとへ 宇宙の記録を届ける」という使命のために,「行くぞ」という,能動的・積極的な図書館観が印象的でした.
さて,図書館ロケットはどこを目指しているんだろう?という疑問が湧きます.曲中では「銀河の果て」とあり,それはつまり「過去」でもあり「最前線」でもあるのではないだろうかとかなんとか(←いや「宇宙の果て」ではないのよ).
E1492 - 新しいサービスを生み出し続けるピッツバーグの公共図書館
この4月からピッツバーグ大学の客員研究員をされている小泉公乃先生.現地での聞き取りも含めて,ピッツバーグ・カーネギー図書館の新サービスをふたつ紹介している.
ひとつは2012年開始の10代向けサービス「The LABS」.協同作業や(デジタルを含めた)創作活動といったキーワードからは,メイカースペースやラーニングコモンズに類するような取組だと位置づけてよいのでしょう.名前は出ていませんがシカゴ公共図書館のティーン向けラーニングラボ「YOUMedia」を連想しました.その背景にある「HOMAGO(Hanging Out, Messing Around, and Geeking Out)」という概念は記憶しておきたい.場所と設備を用意するだけじゃなく,「ピッツバーグ市内の非営利団体と連携することで,芸術やデジタル技術に精通した担当者も2名」配置しているという.メンターたちの写真がいいなぁw
- 作者: Mizuko Ito
- 出版社/メーカー: The MIT Press
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もうひとつは今春スタートの受刑者向けサービス.受刑者だけじゃなくその家族をも対象にしているという点に注目.この領域では日本でも「矯正と図書館サービス連絡会」という活動があります.
これらのサービスを生み出す原動力は「限られた予算と人的つながりで何とかしようとしている現場の図書館員の努力」とまとめられています.その前に出てくる「現場の図書館員に多くの権限が移譲され」という箇所が一番気になる.図書館経営がご専門の小泉先生の興味関心もそのあたりにあるのでは……と推測したり.
E1493 - 東海北陸地区県立図書館間の定期宅配便,開始から10年
富山県立図書館の竹内洋介さんによる,愛知・岐阜・三重・石川・福井・富山の6県立図書館における協定(始まりは愛知-富山間)のおはなし.ILLネタで大変興味深く読みました.
この協定は県立間だけじゃなく,
県立図書館による週10函ほどの送料負担だけで,東海北陸地区の市町村立図書館のほぼ全ての相互貸借が,市町村立図書館の負担なく実施される制度となっている。(引用者注:2005年からとのこと)
と,市町村も範囲に含まれている.けど,
例えば,越県の市町村間においての貸借では,県立図書館を2館中継することによる大幅な時間のロスがあり,この点については運行間隔や頻度などにさらなる検討の余地があるだろう。また,幅広いニーズに応えていくため,館種を超えた連携も重要である。当県内では既に2大学・1専門機関が参加しているが,館種・参加館数をより拡張し,さらなる官学連携の推進をはかりたい。
という課題もある.特に後者については,ILLシステムが公共系と大学系(=NACSIS-ILL)で分かれてしまっている“問題”について考えてしまいます.もっとスマートなしくみがあるはず.
しかし「通函」って単語は初めて聞いた(説明なしで伝わるのかしら).
2012年3月発行の「公立図書館における協力貸出・相互貸借と他機関との連携に関する報告書」って初耳だった……(CA-Rにもしてないですね).今回刻めて良かったです.
E1494 - Crowd4Uとヤフーがクラウドソーシングで共同研究
筑波大学の森嶋厚行先生.この共同研究ではマイクロタスクを主な対象とし,「高度な分業による問題解決」を目標とする.
様々な問題が生じた時に,迅速にその問題解決を行うための適切なマイクロタスクの集まりを設計することができれば,より速く適切に問題解決を行える可能性がある。様々な問題が生じた時に,迅速にその問題解決を行うための適切なマイクロタスクの集まりを設計することができれば,より速く適切に問題解決を行える可能性がある。
になるほど.問題を適切なサイズの問題に分割する,ですね.その分割はどれくらい自動化できるんだろうか.
森嶋先生にはお会いしたことがないのですが,卒論指導のページを見て,親身になって指導してくださりそうだなあと感じました(「求められている」「力がつく」「刺激がある」「居場所がある」「自信がつく」).「意欲さえあれば,必ず大幅に伸びることを保証します」なんて言ってくださる先生かっこいい.
E1495 - ゴールドOAに偏重した英国のOA方針に対する批判と提言
さとしょー先輩.Finchレポート以後,英国のOA事情が熱いですが(というのも言い古されてきた感あり).「総じてゴールドOAに偏重しすぎたRCUK方針を,グリーンOAに引き戻す」ことを意図した英BIS committeeレポートの紹介.ありがたい.レポート本文はさほど長くないんだけど,添付されたエビデンス(written evidence)の量が半端ないなあ.
肝はここ.
報告書では,全面的なOAの達成に向けた政府の姿勢を評価し,またゴールドOAが望ましい究極の目標であることも認めている。しかしそれはあくまで究極の目標であり,英国が単独で,ゴールドOAに偏重しつつOAを実現しようとすることは誤りであると指摘する。BIS Committeeが収集した量的・質的な証拠に基づいて見直すと,Finchレポートの結論と提案には問題があり,とりわけ英国におけるグリーンOAの有効性を見誤っているという。現在,英国の研究成果の40%はOAになっており,これは世界平均の20%よりもはるかに高い割合である。内訳を見ると,35%がグリーンOAで,ゴールドOAはわずか5%に過ぎない。さらに英国のグリーンOAは国内にある200以上の機関リポジトリや分野リポジトリによって実現しているが,それらのリポジトリに対し,英国政府は過去数年で2億2,500万ポンド以上の投資も行っている。このような実情を踏まえないFinchレポートとRCUK方針は問題であり,政府は方針を改め,機関リポジトリや分野リポジトリに注力すべきである,とBISCommitteeは提案している。
グリーンOAに多額の投資をしており成功もしているからゴールドOA偏重はおかしい,と.ロジックがちょっと弱い,という印象を受けたけどどうなんだろう.ゴールドで進めた場合のトータルコストとの比較なんかはレポート中ではされているのかな.
そもそもなんでBIS CommitteeがRCUKに文句つけられるんだろうという疑問を持ったんですが,「RCUKは産業・技術革新・職業技能省の支出に基づき助成を行う機関であるため,そのOA方針はBIS committeeが扱う対象となる」ということなんですね.
次回は11月7日(午後から出張なうえ翌日はお座敷なので更新はまた日曜かな……).