大学の研究者データベースとしてのresearchmap(メモ)

NIIとJSTによって開発・運営されている研究者データベース「researchmap」についてのメモ。ただし、研究者個人としてではなく、研究機関として、つまり一機関の研究者データベースとして利用するという観点から。


歴史

年月 出来事
1991年1月[*1] 研究者ディレクトリ(NACSIS-IR)開始
http://www.nii.ac.jp/userdata/CNEWS/PDF/No14.pdf (p.24)
1998年8月 JSTがReaDを公開
2000年1月[*2] NACSIS-IRのWeb化
http://www.nii.ac.jp/userdata/CNEWS/PDF/No49.pdf (p.18)
http://www.nii.ac.jp/CNEWS/N50/31.html
2003年3月[*3] 研究者ディレクトリがサービス終了、ReaDに吸収
http://www.nii.ac.jp/userdata/publications/nii-news/niinew8.pdf (p.15)
2009年4月 Researchmap公開
http://www.unisys.co.jp/tec_info/tr103/10303.pdf
2011年11月 Read & Researchmapへ統合
http://www.nii.ac.jp/news/2011/1020
2014年4月 researchmapに名称変更
http://current.ndl.go.jp/node/25667

改めて調べてみて、そうか、NACSIS-IRまで戻るのかと感慨にふけったりした。


利点

各大学ローカルの研究者データベースとの比較を念頭におきつつまとめてみる。

  • 無料
  • Gakuninによるログインが可能
  • 外部DBからの業績インポート[*4]
    • KAKEN(経歴)
    • DBLP(論文)
    • PubMed(〃)
    • ORCID(〃)
    • CiNii Articles(論文・Misc)
    • arXiv(〃)
    • J-GLOBAL(〃、特許も)(Web of Scienceの論文を一部含む)
    • Amazon.com / Amazon.co.jp(書籍)
    • CiNii Books(〃)
    • JSTファンド(2014年度中予定[*5])
    • 海外データベース(検討中[*6])
  • 研究者の機関間異動に対応しやすい
  • 日本の研究者の情報がここに統合される
  • プロフィール項目の標準化が事実上進む

という感じで、個人的には(機関として)利用しない手はないと思う。特に、研究者データベースと機関リポジトリとの連携においては、いかにして業績データの手入力を削減するかが重要なので、多様なソースからのインポート機能がすでに揃っているのはありがたい。あとはWeb of ScienceかScopusのどちらかに対応できれば言うことなし。



新井-坂内2011には

第三に,2011年4月に学校教育法施行規則等の一部省令の改正(22文科高第236号)が行われ,大学等の公的な教育機関は,社会に対する説明責任を果たすとともに,その教育の質を向上させる観点から,各教員の業績について,研究業績等にとどまらず,多様な業績を積極的に明らかにすることが求められるようになったことがある。これにより,大学等の教育機関は機関ごとに,研究者総覧を公開することになるだろう。


ReaD&ResearchmapはそのデータをATOM形式で大学等の機関に対して公開することを決め,大学の業績管理システムを開発している各社に対して仕様説明会を実施している。大学が22文科高第236号第3項の要請を満たすコスト最小の方法は,所属している教員全員がReaD&Researchmapにデータを登録し,そのデータをAPI経由で取得しホームページにそのまま転載する「マッシュアップ」を選択することである)。

とある。言い切ったw

で、具体的にどうすればいいのかっていう話が、富士通の畑林さん(お元気かしら……)と新井先生の共著記事「研究機関におけるReaD&Researchmapを利用した研究者総覧の構築について」に書いてある。


欠点

入力項目の不足

researchmapでは足りない項目はやはりあるらしく、京大の小村先生は「RRではカバーしきれない多数の項目」があるから京大ローカルのデータベースを残すと言ってはる[*8]。

一方、researchmapの側も、

  • 社会貢献業績(2013年度対応予定)→対応済
  • 教育業績(2014年度対応予定)

の入力に対応していくとしている[*9]。

入力方法

既存の研究者データベースでは、自分のデータをExcelファイル(1研究者=1ファイル)で管理できるものもある。ちまちまとWebインタフェースで入力するよりは楽かも。researchmapではExcelには対応してなさそうだけど、多彩なインポート機能があるのでそんなもの必要ないという可能性は高いか。


活用事例

といっても、単に先日のRead & Researchmapシンポジウムでの事例報告なんだけど。このうち、北大と吉備国際大学パンフレットでも紹介されている。

北大方式は現時点での理想的なモデルじゃないかと思う。researchmapをメインにして、ローカルのシステムではそれをAPIでリアルタイムに取得・表示するという軽量なしくみになっている。ローカルで付け加えたい項目だけは独自で管理。

また、京大が「2014年8月からはResearchmapと連携した新しい全学情報環境機構の「教育研究活動データベース」(以下、全学DB)が運用開始され」と案内を出している。文面からは、researchmapからのデータ取り込みが可能になるという印象を受ける。


おわりに

各大学ローカルの研究者データベースは可能なかぎりresearchmapに移行してほしい、と以前から願っていましたし、今回あらためて調査してみてその方向性に確信が持てました。もちろん、大学の顔として独自のインタフェースを構築するのはアリだし、ローカルでどうしても必要な機能がresearchmapに実装されてない場合は用意すればいいと思いますが(でもその場合、作りようによっては入力インタフェースがresearchmap/ローカルに分かれちゃうのかな……)。

で、そうなっていったときに課題になるのは、これまでに実践が積み重ねられてきた研究者データベースと機関リポジトリとの連携(両システム間の相互リンクの実現や、研究者データベースからのセルフアーカイブなど)。researchmapと機関リポジトリをいかにして、どのように連携させるのか。さらに、筑波大学が先陣を切ったように各大学がローカルで構築してきた機関リポジトリが次々とJAIRO Cloudへと移行していきそうな流れを踏まえると、researchmapとJAIRO Cloudをどう連携させるのかという話になる。今のうちに真剣に考えておきたいテーマです。ひとつ、すでに“山地構想”なるものがあるらしいですが。


*1:[新井-坂内2011]には1990年4月とあるが、実際の提供開始時期は延期されたもよう。

*2:[新井-坂内2011]には1998年とあるが……?

*3:[新井-坂内2011]には「2002年,NIIが運用していた研究者ディレクトリおよび研究活動資源ディレクトリと科学技術振興事業団のReaDは統合し,JSTの所管(現ReaD)となった。」とあるが、2002年度の間違いか。

*4:「外部からのデータのフィード機能により、研究業績入力の約8割が自動化されます。」 http://researchmap.jp/public/about/?action=common_download_main&upload_id=61785

*5:http://researchmap.jp/outline/sympo2013/rrsympo2013_announcement06.pdf, p.3

*6:http://researchmap.jp/outline/sympo2013/rrsympo2013_announcement06.pdf, p.3

*7:researchmapに登録した情報からJREC-INで履歴書・研究経歴書を作成できるようになるらしい。http://researchmap.jp/outline/sympo2013/rrsympo2013_announcement06.pdf, p.6

*8:http://researchmap.jp/outline/sympo2013/rrsympo2013_announcement02.pdf, p.3

*9:http://researchmap.jp/outline/sympo2013/rrsympo2013_announcement06.pdf, p.5