大学図書館による学外者向け文献複写サービス
何らかの研究をしているひとが大学に属すことのメリットのひとつとして,その大学図書館の資料やサービスをフルに利用できるということがあります.
例えば学外からの資料の取り寄せ(Interlibrary Loan:ILL)サービス.研究において,必要な資料がひとつの図書館だけでまかなえるとは限りません.そのような場合には,そのひとの代わりに図書館が全国各地から資料を取り寄せてくれるILLサービスを利用できると,資料収集の手間やコストがかなり減らせるでしょう.
一方で,大学図書館のILLサービスが利用できない立場にあるひとは,自分で直接現地まで行って資料を入手するか,あるいは最寄りの公共図書館を通じて資料の所蔵館に対してILLを申し込むという方法を取ることになります.あるいは国立国会図書館の遠隔複写サービスなどを利用するという手段もあるのですが,洋書を中心として,大学図書館にしかない資料というのも世の中には山ほどあるわけです.
ただ,調べてみると,その中間の方法というか,一部の学外者(卒業生や,何らかのお金を払ったひとなど)に対して,直接,郵送文献複写サービスやILLサービスを提供している大学図書館があるようです.以下ではそのような事例について軽くまとめてみます.
ポイント
各事例を調べるときに着目したポイントはこんなふう.
- 申込資格
- 申込方法
- 支払方法
- 資料の複写を郵送してくれるかどうか
- 申込先が所蔵してない資料を学外から取り寄せてくれるかどうか(ILL)
事例1:大分大学「医学文献デリバリーサービス」(2008.1〜)
- 県内医療関係者(個人)
- ウェブで申込
- 郵便為替・現金書留(前納・後納)
- 郵送OK
- 学外OK・英国図書館(British Library)もOK
Ref:
http://www.lib.oita-u.ac.jp/lib_s/delivery/index.html
http://hdl.handle.net/10559/13390
事例2:信州大学(2008.6〜)
- 県内医療機関(JDream IIコンソーシアム加入病院)
- ウェブで申込
- 四半期ごとに請求書を発行(後納)
- 郵送OK
- 学外もOK
Ref:
http://hdl.handle.net/10091/3317
http://hdl.handle.net/10091/3205
http://hdl.handle.net/10091/10297
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I023572469-00
事例3:長崎大学(2008.3?〜)
- 地域医療従事者である卒業生,旧在籍者の教員
- 申込書をメール・FAX・郵送
- 学内資料は現金書留・銀行振込(前納)/学外資料は受取時に現金
- 学内資料は郵送OK/学外資料は来館受取のみ
- 学外もOK
旧七帝大+早慶の状況
全国の大学図書館を網羅的に調べることは厳しいため,一部の大規模大学―北海道大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,大阪大学,九州大学,早稲田大学,慶應義塾大学―の中央館クラスのサービス状況を調べてみました.結果,やっていたのは次の2館.
名古屋大学中央図書館は「友の会」に入った方を対象にしてILLサービスを提供しているようです.これは来館型サービス.九州大学附属図書館は(他大学等学術機関に所属していない)個人向けに,同館所蔵資料の郵送複写サービスを行なっているようです.複写料金が1枚50円ということなので通常のILLにおける複写料金よりもちと割高のもよう.
その他
「卒業生への文献複写サービス」などでぐぐると色々ヒットします.例えば,名古屋市立大学,大分県立看護科学大学,自治医科大学,東邦大学,岐阜聖徳学園大学など.
感想
明示されているのはBLのみのようですが,大分大学は海外ILLに対応しているところが高評価です.海外ILLは大学に属していないと利用できない可能性が高いので.
九州大学のように自館資料の郵送複写サービスを提供する大学が全国あちこちに……というのはあまり望めない気がするので,こういった文献ニーズの強い卒業生が多くいるような大学が,卒業生に対してもILLサービスを(できれば非来館型で)提供するのが良いのではないかなぁと思います.(しばらくはILLというサービスの必要性が失われないという前提で.)
というわけで,自分がサービスを設計するなら,まずは以下のような利用条件の実現を目指すと思いました.
- 卒業生
- ウェブ申込
- 銀行振込(後納)
- 郵送OK
- 学外・国外もOK
しかし,医学系の事例が多く目につくのはなにか事情があるんでしょうかね.