カレントアウェアネス-E No.253感想

この2週間ほど某原稿に(気持ちが)かかりっきりだったので前号からあっという間という感じです.

今回は珍しく5本で,うち外部原稿は1本のみ.ReadersFirstのとRDAのが勉強になりました.





■E1527■ 数字を武器に図書館を変えた米国の図書館アナリスト<報告>

日比谷図書文化館の川崎さんから,同館で12月に開催された講演会「アメリカの公共図書館におけるトレンド分析とマーケティング」の報告.

冒頭の「講師は,米国の大学や公共図書館で,トレンド分析,ビジネス・キャリア支援などの専門家として30年近くの勤務経験があるアルカ・バトゥナガー米国大使館情報資料担当官である。」だけでいろいろと思うことが.図書館から大使館かぁ…….このページに経歴が詳しく書いてある.あ,女性だったんだ(愚かにも,データ分析→男性というイメージに引きずられてしまいましたね).インド出身.

日本では分析の前にそもそも基礎データが少なすぎるんだろうな,と以下の部分を見て思いました.

米国国内のトレンド分析機関としては,全米レベルの機関として博物館・図書館サービス機構(IMLS),米国図書館協会(ALA),都市図書館協議会(ULC),OCLC,Pew Research Centerなどがある。また各州の図書館協会やデータセンター,中小企業局,商工会議所,経済産業局などからも,様々な統計情報やリソースを得ることができる。例えばPew Research Centerは2013年1月の調査報告「デジタル化時代の図書館サービス」において,16歳以上の米国人の91%は「地域のコミュニティに図書館は必要」と回答し,一方78%は「図書館には行くが実際に図書館で何ができるのか把握しきれていない」などのトレンドを示している。

これらの機関のなかで,Pew Research Centerについて講演でどれくらい強調されたのかが気になるところ.

記事ではいろいろな取り組みが紹介してあって面白かったんですが(個人的には「マーケティング・ベストプラクティス賞」に関心を持った),データ分析とこれらの企画立案のあいだの関連がよく分からなくてちょっと消化不良ぎみかな.引用されているPewの調査結果が直接関係しているわけでもないし…….ひとつひとつの企画の経緯をくわしく知りたいところ.





■E1528■ 図書館とウィキペディアのこれからの関係は?

依田さん.The Wikipedia Libraryの概要紹介.

Wikipediaと図書館については,編集者に対するデータベースへのアクセスの提供とかWikipedian in Residenceとか(Wikipedia Visiting Scholarsというのもあるんだ)ちらほら見知っているけれど,それらはひとつの大きなプロジェクトだったんだ,というのを初めて知りました.

図書館がWikipediaの使用を避けるように推奨していた状況は変わり,今や図書館は,学生たちが調査の糸口としてインターネットやウィキペディアを頻繁に利用しているという事実を踏まえ,ウィキペディアと協同するようになっていると指摘する。そして,ウィキペディアに示された書誌からフルテキストの参考文献をたどる学生に,図書館は始点でないとしても終点ではあると気付いてもらえるよう取組んでいると指摘する。

「図書館は始点でないとしても終点ではある」はよいことば.幸いにしてお客さんに「Wikipediaを鵜呑みにしてはいけないですよ」と言ったことはないのですが(だいたい最近の学生さんはすでにどこかで教わっているようで「信ぴょう性のある情報じゃないですよね」などと口にする).

冒頭を読んで,あ,Wikipediaには「独自研究は載せ」ちゃだめなんだと改めて認識したんですが,ってことは,市井のひとたちが自分たちの研究結果を公開できるようなオープンかつ「信頼できる出典」となりうるプラットフォームはないのかな,などと(ありましたっけ? ).







■E1529■ 読者を第一に考えて:図書館電子書籍ベンダーガイド,公開

依田さん2本目.ReadersFirstの作成した電子書籍ベンダー評価(システム評価じゃない? ちょっと細かいか)資料の紹介.

「その結果自体もさることながら,“読者のことを第一に考える”ことをコンセプトに,ベンダーの理解を仰ぎながら評価指標を作成している点は興味深い」.たしかに,資料の結果よりもその作成プロセスをひとつのベストプラクティスとして押さえておきたい.いつか自分もこれくらいの仕事ができるといいなあという意味で.いつか自分もこれくらいの仕事ができるといいなあという意味で(大切なry).

2012年6月に共同声明(4原則),続いて“Content Access Requirements”の作成,2013年1月のALA Midwinterでラウンドテーブルを開催,4月に“Vendor Product Evaluation Form”を作成して,5月にベンダに送付,2014年1月に今回の資料を公開,という流れか.

評価は,

評価記録票は,7分野37項目からなる。内訳は,A.諸条件(7項目),B.メタデータ(8項目),C.貸出管理機能(7項目),D.利用者アカウント情報取得機能(4項目),E.利用者へのお知らせ機能(2項目),F.電子コンテンツのフォーマット(2項目),G.サービス支援機能(7項目)である。各項目について重要度の高いものはスコア3,他のものはスコア2.5とし,項目ごとに要件を満たすか否かによりスコアを与える。

という100点満点で,結果は,

OverDrive(85点),3M Cloud Library(84点),Baker & Taylor Axis 360(80点),Ingram MyiLibrary(49点),Gale Virtual Reference Library(39点),EBSCO eBooks(38点),ProQuest ebrary(30点)。

まあ上位3つは予想通り(Axis 360はそんなにスコア高いんだーと驚いたけど,アクセシビリティまわりで稼いだのかしら).下位については,なんかチェックアウト型の電子書籍サービスが前提になった調査になってないか……?と原文も読まずに突っ込んでみる.





■E1530■ 学校図書館における電子書籍の利用動向(米国)

篠田さん.Library JournalとSchool Library Journalという二大業界誌が出している毎年恒例の調査のうち,学校図書館のパートを紹介.

あれ……この調査レポートって有料じゃなかったっけ.2013年版から無料でダウンロードできるようになったんだろうか…….大学図書館編,公共図書館編,学校図書館編と3つに分かれているんですが,カレントでは学校図書館電子書籍ネタは少ないから今回はこの部分だけにフォーカスしてみたんだと想像しています.

こういう結果のは単独で見ていても「ふーん,そうなんだー」としか思えないものだと思うんですが(自分で書いていてもそう思うことが多い),今回は

電子書籍の契約形態
学校図書館電子書籍の契約形態については,60%が永続的なアクセス権を購入している。ローカルでサーバを準備して永続的なアクセス権を購入しているのは26%である。21%が購読契約(subscription)と回答している。

の部分に引っかかりました.ローカルのサーバを用意しているところが26%もあるのか,多いなあと.調査の回答館は1,271館なので,これらすべてがこの問に回答していたとして330館が該当したことになる.これはどういう形態なんだろう.ダグラス郡モデル……?

なお,「現実的な小説」という訳に引っかかりました.「リアルフィクション」かなにかでしょうか…….





■E1531■ 研究データの共有と活用のために:研究データ同盟の分科会

篠田さん2本目.個人的にはRDAといえばこっち……な,2013年設立の研究データ連盟(RDA)の紹介.

分科会の設置状況を通じて,RDA全体の活動のいまを伝えるというアイディアがいいですね.このフレームは使える.こういうの,いろんな国際団体を対象にして書いてほしい(そりゃなにか元ネタがないとほんと大変なんだけど……).元ネタになっているD-Lib Magazineの特集号もそういう感じなのかな.2本のエディトリアルと5本の記事が掲載されていて,今回の記事ではそのうち1+2本が参照されている.

分科会はワーキンググループ(WG)とインタレストグループ(IG)に分かれている.IGで作成された提案書を受けて,WGでは「具体的な成果を出すことを目指して12~18か月と短期間で活動を行う」という二段構えになるほど.現在は27の分科会が設置されており,

カテゴリー WG数 IG数
サイエンス・ドメイン 1 6
データの保存と公開 0 5
研究と教育におけるデータ共有と再利用 1 2
データの参照 2 1
インフラストラクチャー 5 4

という内訳になっているという.なんとなく保存の話がメインで進んでいるのかと思っていたけど,いちばん活発なのはまだインフラストラクチャーの部分だと理解していいのかな.

数をかぞえていてちょっと疑問が.プラーレさんの記事にはたしかにWGが9つ,IGが18つ挙げられている(Figure 1).しかし,パーソンズさんの記事のほうを見ると,WGが6つ,IGが21つと書いてあるんだよねえ(“Six WGs have been formally recognized and are hard at work”,“Currently, 21 IGs are formally recognized and active.”).しかも分科会の名称がビミョーに違う.このズレはなんなんだろ.





次号は2月20日.