カレントアウェアネス-E No.261感想

昨日(6月20日)はカレントアウェアネス・ポータルの8歳のお誕生日でした(笠間さんのブログとは7日違いらしい)。

年表にある通り、カレントアウェアネス・ポータル(ウェブサイト)は2006年3月に試験公開開始、2006年6月20日に正式公開開始です。ポータル誕生と同時にスタートしたカレントアウェアネス-R(ブログ)も同様。また、カレントアウェアネス-E(メールマガジン)は関西館開館の2002年10月創刊なので今年で12周年、カレントアウェアネス(季刊誌)は1979年8月創刊なので今年で35周年になります。カレントアウェアネスの30周年の際には特集号が出ていますが、今回は特に何もなしかな……。

さて、おかげさまで今年度もぶじに編集企画員を継続できることになり、先週は今年度第1回の編集企画会議@関西館に出席してきました。いろいろ自分の企画が通ったので、執筆者決定までスムーズに進むといいんですが……。今回の企画が世にでるのは12月末になります。

そういえば、いまさら知ってびっくりしたんですが、倉田先生の書かれたCA1820のライセンスはCC BY-SAになっているんですね(通常はNDLに著作権を譲渡)。ご本人のご要望だと思うのですが、大きな一歩。なんかあんまり宣伝してないらしいので、ここでご紹介。





……と、前段が長くなりましたが、今号は6本。うち前半3本が外部執筆者。





■E1572■ 「忘れられる権利」と消去権をめぐるEU司法裁判所の裁定

局の今岡さん。こういう各国の法/司法制度を踏まえた解説を書けるひとがいるのはやはりNDLの凄さだなあと思う。

欧州司法裁判所が5月に下した裁定の背景について。

個人が忘れられることを望む過去の情報に関して,検索エンジンの運営者は,EUデータ保護指令第12条(b),第14条第1項(a)の規定に従い,一定の削除義務を負うと裁定した。

記事のポイントのひとつは、「忘れられる権利(Right to be forgotten)」と消去権(Right to erasure)の区別だと思った。今回の裁定は「忘れられる権利」そのものの権利性を認めたものではなく、あくまで消去権にもとづいたものである、と。前者はまだ権利として認められているわけではないということだよね(なのでカッコ書きになっている)。現在、今年中の成立に向けてEUデータ保護指令の規則化が進められており、その動向に注目しておく必要がある。

もうひとつ気になるのは、消去対象が検索エンジン(のインデックス?)だけでいいのかどうかという点。前半、スペインの情報保護局への申し立てについて触れられているけど、新聞社に対する元記事の削除への請求は退けられている。また、前述の保護規則案では、

欧州議会の修正により,「忘れられる権利」の文言が削られ ,「消去権」として規定されるにとどまったが,実質的な権利の内容や対象は拡大された。消去権の内容としては,(1)管理者に個人データを消去させる権利,(2)管理者に個人データの頒布を停止させる権利に加え,(3)第三者に個人データのリンク,コピー又は複製を消去させる権利が入った。そして,EU域内の裁判所又は規制機関が,消去されるべきであると判断した個人データについても,消去権の対象となった。

となっているらしく、このまま(1)と(2)が認められれば元記事の削除も可能になるということなんだろうか。Googleなどの検索エンジンだけじゃなく、新聞記事データベースなどでの削除が行われると、学術研究上も影響が出るのではないだろうか。以前、新聞記事データベースで個人(とある有名人の家族)の没年を調べるレファレンスをやったときのことを思い出したりした。

ぜいたくを言えば、記事の中で「忘れられる権利」そのものについての解説があれば良かったかなあ。





■E1573■ 2014年IIPC総会及びワーキンググループ<報告>

恒例のIIPC(国際インターネット保存コンソーシアム)レポート。今回はBnF開催で、前田さんが参加。

毎年この一連のレポートを読んでいると、ウェブアーカイブは徐々に単なる収集から、その研究利用へと力点を移していっていることが感じられます。ド素人ながら、ウェブアーカイブに基づいた歴史学というのが成立しうるのかという点や、あるいは研究成果として作られたウェブサイトやデータベースの活用のされかたが研究評価の基礎データとして使用できるくらい指標化できるのかとか、めっちゃ関心があります。ウェブアーカイブが広く商用利用されるようになったら一人前なのかなあ、とか。

INAが共催に入っているのが面白いと思ったんですが、少なくとも報告からはその色はあまり感じられず(「オランダ音響・映像研究所による公共放送局サイトの収集」くらい)。

紹介されているプロジェクトのなかで気になったのはHiberlinkOpen Waybackのふたつ。前者は「学術論文内のURIリンク保障を目指すHiberlinkプロジェクト(エディンバラ大学ロスアラモス国立研究所の共同プロジェクト)」ってことで、ウェブアーカイブの文脈なのかよく分かってないけど、サイトを見てみたらやっぱりSompelが絡んでた。ほんともう「Sompelの動向」だけでカレントの記事が1本書けちゃうよな……。

ウェブアーカイブは実務との距離が遠いうえ、ふだんあんまり意識してない領域なので、読んでいてもよく分からないところが多いのがつらいところ。2013年1月にリニューアルして以後、NDLのWARPではなにが課題になっているんだろう。これから先もウェブアーカイブに直接関わることはないのかなあと思ったけど、学内サイトの収集とインデクシングとか、可能性としてはなくはないのか(意義はさておき)。

去年は志村さんが参加されて、来年はシリコンバレーか。兼松さんが行かれるのかしら。





■E1574■ つくばリポジトリのJAIRO Cloudへの移行

筑波の真中さん。

つくばリポジトリは2007年3月構築、2014年5月に移行(第一号)。そのむかしNIIでは機関リポジトリクラウドサービスはしませんと聞いたような気がするんだけど、いつのまにかJAIRO Cloudが始まり、めでたく参加機関が200を突破し、こうして大規模機関が移行するようになり、隔世の感。あのDSpace祭りはなんだったんだろうとか、ちょっと思わなくもないですが。先日、「JAIRO Cloudが無料なのは民業圧迫だー」というような声をお聞きしてなるほどと思ったり。

そうか、図書館システムのリプレイスに合わせての移行だったのかといまさら気づく。「更新後の電子図書館システムには機関リポジトリの機能を持たせていない。」とある。一方、九大では今回のリプレイスでDSpaceを捨て、図書館システム(E-Cats Library)のなかでリポジトリメタデータとコンテンツを管理するようになっています(提供インタフェースは九大コレクション=eXtensible Catalog)。きっかけは同じなのに、外へ出した筑波と、より内へ入れた九大と、違いが面白いなあ。流れとしてはJAIRO Cloudへの移行に傾いていくと思うけど。

移行に伴う作業で一番大変だったのが何だったのか明記はされてませんが、やっぱりデータ移行なのかな。マッピング自体はそんなに難しくないと想像するんだけど、データの抽出と一括登録のくだりが丁寧に紹介してあった。運用上は「なお,6月中には移行前にTulips-RのURLに直接リンクを張っている他のシステムへの対応のため旧つくばリポジトリに対しURLのリダイレクト設定を行うこととしている。」も気を使ったんだろう(TwitterFacebookでいろいろクレームを見かけたような)。handleの普及してなさ。はよDOI振ろう。

そのDOIについて、最後に「JAIRO Cloudによる紀要論文へのDOI登録への対応をNIIと協力して進める予定」とあった。紀要DOIの話は3月に流れていたけど、まずはJAIRO Cloud上で始めていくということなのかな。初耳。






■E1575■ CELA,プリントディスアビリティのある人へのサービスを開始

依田さん。

4月にカナダで誕生したCELA(Centre for Equitable Library Access)という団体の話。公共図書館を支援する、公共図書館によって運営されるNPO。カナダ国立図書館・文書館の関与がよく分からないけど、「カナダ最大の視覚障害者向けの図書館を運営する」CNIBの代表が理事会に入っている。(そして、ファーストネーションって言葉があるんだ。へええ。)

CELAの主な役割は、代替フォーマットの資料の用意か。利用者はそれを直接(インターネットや郵送)、あるいは公共図書館を通じて利用するというかたちかな。そうと明記はされてないけど、べつに公共図書館を介さなくてもいいという理解で良いだろうか。「CELAに登録している利用者は」という記述もあるし、そうだよね。

ところで、

カナダでは,300万人を超える人たちが,プリントディスアビリティを抱えており,学習障害,身体障害,視覚障害により,従来の形態の資料の利用ができないとされている。そして,そのうち10%の人たちにとっては,代替フォーマット,すなわち録音資料,点字資料,ナレーション付きビデオなどのようなメディアへのアクセスが,依然として課題となっているという。

10%というのは少ないという印象で、90%は課題を感じてない(含む・ニーズがない?)ってことなのか。





■E1576■ インターネット・フィルタリングの現在:CIPAから10年(米国)

篠田さん。

2000年成立のChildren's Internet Protection Act(CIPA)の影響に関するALAレポートの紹介。Googleの支援を受けて作成されたということから、背景が透けて見える。

過剰なフィルタリング。フィルタリングを外して欲しいというリクエストとプライバシー。フィルタリングというアーキテクチャで縛るのか、情報リテラシーを身につけさせることで対応するのか(少なくともエロサイトについてはリテラシーの問題ではないと思うけど)。そもそもの、インターネットアクセスの提供で割引(E-Rate)を受けるためにはフィルタリングを導入しなければいけないという点を認識してなかった。そのE-Rateってのはどんなくらい割り引かれるものなのか。そんなもの要らん、うちはフィルタリングなどしない、という矜持をもった図書館や学校はどれくらいあるのか。あたりが気になるところ。

インターネットフィルタリングは大学(図書館)にいるとあんまり意識することのない話題で、自分にとっては、教育上の問題よりも、それによって仕事上の効率が落ちることのほうが心配だったりするのですが。某独法で働く友人のはなしとか聞いてると特に……。

でも例えば、

国学校図書館協会(AASL)の2012年の全国調査によれば,Facebookなどのソーシャル・ネットワーキングのためのウェブサイトがブロックされている割合は88%にものぼり,インスタントメッセージやチャットは74%でブロックされているという。WikipediaGoogle Docsなどのインタラクティブなサイトもブロックされる傾向があるという。

というように、Facebookはダメというたって、最近だとFacebookが公式サイトになっているような組織や活動も少なくないわけで。そういうのが見られないのはもったいないなあと思う。一方、学内ネットワークからWikipediaにアクセスできないようにすればそこからのコピペが減るのではないかとならないところが、大学という環境の良さかなと。






■E1577■ 図書館ウェブサイトのデザイン及びユーザビリティ調査(米国)

ラストは安原さん。RUSQ誌から“The Website Design and Usability of US Academic and Public Libraries”という文献を紹介。

意外にも、

ウェブサイト評価とオンライン調査に先立ち包括的な文献調査を行ったところ,現在の大学・公共図書館のウェブサイトのデザイン及びユーザビリティについての大規模調査は見当たらず,また,“デザインのガイドラインに従っているのか”,“誰がデザインし,管理しているのか”といった問いは既存文献では答えが見当たらなかったとしている。

ということで、画期的な調査らしい。紹介ありがたい。SPEC KitsでARL参加館に限定した調査してないかなと思ったんですが、見当たらない。

今調査の対象は米国の大学図書館および公共図書館1,469館。うち203館はランダムサンプリングによる評価で、残りの1,266館はオンライン調査による評価(対象は9,000だけど有効回答数がそれだけだった)と手法が異なる。「5つのセクションにわけられた67項目を10段階で評価するLibrary Website Usability Checklistが用いられ,オンライン調査の質問は,この項目を改正した44項目により構成されたもの」ということなので、あくまで「1469」ではなく「203+1266」だと思っておいたほうがいいのかも、と思った(原文未確認)。

調査結果としては、

この論文で評価対象とされた図書館のホームページのレイアウトは,文献調査で取り上げられた複数の文献で提案されているデザインガイドラインを順守するものであった。ホームページから9つの質問に答えられるかによりユーザビリティを評価する調査では,圧倒的に多くのホームページが適切なものとなっていることが確認されている。しかし,ウェブサイトのユーザビリティに関するテストを行っていると回答した図書館は3割にすぎなかった。論文は,このことがウェブサイトのユーザビリティに利用者の視点が考慮されていないことを示していると述べている。

のあたりを読むと、ほんとかぁ? なんか甘々な評価なんじゃないだろうか……という心配になってくる。

個人的には、研究図書館というカテゴリでくくるならまだしも、大学図書館公共図書館とではやはりウェブサイトのつくりも違ってくると思うので、大学図書館にかぎった調査が読みたいところ。





次は7月10日。