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ILL:大学図書館のカウンターで現金を扱わないようにするための7つの方法

ILL まとめ

はじめに

1年ほど前までは大学図書館でILLを担当していました.

当時の目標のひとつは学内のILLサービス体制を(図書館全体のグランドデザインに沿って)「適正化」することでした.そのためにはILLで取り寄せた資料(以下,ILL資料)の対価として利用者から現金を受け取る際の処理を簡素化し,現在私費によるILL申込を受付けていない図書館がサービスを開始するためのハードルを下げる必要がある,ということをずっと考えていました.

このような問題意識から,国内他大学を中心に現金取扱方法のバリエーションを色々と調べていました.以下では,簡素化のための手段として,特にそもそも図書館員がカウンターで現金を扱わずに済むようになるための方法をまとめてみます.僕は調べたっきりで終わっちゃいましたが,実現したかったですね.同じようなことを考えている方の参考になれば幸いです.

7つの方法

(a) 無料化

もっともざっくりした方法と言えます.

国立大学ではお茶の水女子大学が2007年10月から無料化した事例が有名ですね(参考:餌取・茂出木).この方法では無料化によって増加すること間違いなしの申込量を事前に見積もれるかどうかが課題になりますが,お茶大の場合は複写依頼は1.5倍程度で落ち着いたようです(参考:羽入,NACSIS-ILL依頼・受付件数).貸借依頼がほぼ横ばいなのは,お茶大の場合,貸借図書の返送料は学生負担(切手支払)であることの影響もあるのでしょうか.現金取扱が一切なくなるのなら,この程度の業務量増は増員なしでもさばききれるというのが元担当者としての感触です.(ただし,依頼数≠申込数である点には注意.)

名古屋大学附属図書館は2012年度に無料化を試行すると発表しています.お茶大と同様,学外ILLで取り寄せた図書の返送料は利用者負担のようです.学内ILL複写依頼も無料化の対象に入っているのがいいなぁと思いました(学内ILL貸借は当然もともと無料でしょう).事例報告に大いに期待です.

その他にも,金額や対象を制限した無料化事例がちらほら見られます.早稲田大学図書館は2011年4月から3000円以下という条件つきで無料化していますし,東京外国語大学(院生・貸借往路のみ),一橋大学(院生・貸借年間5件まで),鹿屋体育大学(複写は1000円以下・貸借は全額)の事例もあります.琉球大学ハワイ大学マノア校図書館(GIF参加館)とのILLを無料化しました.

また,国際日本文化研究センターなどの研究所においてはそもそもILLは公費負担が当然というところも多いのだろうと思います.僕の出身大学院の図書室もそうでした.

(b) 電子マネーEdy,学生証など)

2010年11月に先陣を切った琉球大学に続いて,広島大学香川大学も導入しているようです.学生証に電子マネー機能がついている大学はたくさんありますし,聞こえてこないだけで他にも事例はありそうです.導入から1年以上経ちましたので,そろそろ琉球大学には『大学図書館研究』あたりで事例報告していただきたいところです.

(c) 館内券売機

利用者は,館内に設置された券売機で必要な料金分のチケットを購入し,それと引換にカウンターでILL資料を受け取るという方式です.新潟大学(参考:西脇)や茨城大学で導入されています.類似の方法として立命館大学のように所定の証紙で支払わせてるところもあるようです.

筑波大学附属図書館の大塚図書館で行われている複写物ロッカー渡しという方法も似た感覚でしょうか.これ,「100円硬貨と1000円札しか受け付けない」「お釣を出す機能がない」「一旦お金の投入を始めたら、途中で取消・返金ができない」というなかなか厳しいものなんですが…….→【2015/5/28訂正】お釣りが出せないため、キリのいい数字を払ってもらうことにして、ロッカーの中にお釣りを予め入れておくという運用にしているそうです(参考)。

(d) 外注

北海道大学は2007年4月から現金取扱作業を大学生協に外注しているそうです.利用者は,カウンターでILL資料といっしょに受け取った請求書を生協に持って行って料金を支払うそうです.外注へ至る経緯については間接的にお聞きしましたがここでは割愛.後払いである点がポイントです.

(e) 銀行振込

東京大学の一部の図書館・図書室で行われています(中央館である総合図書館や,駒場図書館は違います).利用者は,大学の銀行口座にILL料金を振り込み,そのレシートをカウンターに持っていくことでILL資料を受け取ることができるようです.学内には大学の口座と同じ三井住友銀行のATMが設置されており,そこからの振込だと手数料がかからないと案内されています.

また,東大では学内資料のe-DDSサービスも提供していますが,その場合は(資料がPDFで届くので)自動的に後払いになるのでしょう.

2014/4/26追記:東洋大学では証明書自動発行機(どこの大学にもたぶんありますよね、あの妙に場所を取るずんぐりした機械)で料金振込みをするそうです。このパターンの亜種と言えるでしょうか。先払い。「支払当日にカウンターで資料を受け取る必要があります」の理由は分かるような分からないような。

(f) 事務職員に投げる

図書館では現金を扱わず,図書館が属する部局の会計担当事務職員などに処理していただくというもの.図書館としては楽になるものの,大学としてのコストはあんまり下がってないように思えます.また,事務職員が対応可能な時間帯に限られてしまう点にも注意が必要.

(g) PayPal・クレジットカード

海外の事例ですが,ちらほら.

まとめ

少額といえども日々現金をきちんと取り扱うという仕事はそれなりに負担です.〆の作業を行なっていたら収入が10円足りなくてあたふたするという経験をしたことのある担当者も多いのではないでしょうか.

ここで紹介した各手段はそういったスタッフ側の負担を減らすことができるかもしれません.ただ,利用者からしたらカウンターで現金で支払うのがもっとも楽な方法であるという可能性は高いです.

利用者にとってメリットがないわけではありません。しばしば挙げられるのは,ILL資料を受け取ることができる時間帯が拡大することでしょうか.資料の受渡は現金取扱が認められた職員が図書館にいる時間帯に限定し,「平日の17時まで.土日はだめ」などとしている大学図書館は多いと思いますが,現金以外で支払いを受け付けることにすれば,学生バイトしかいないような土日や夜間でも対応できるようになる可能性があります.平日昼間には来館が難しいという社会人大学院生や非常勤講師の方の顔が頭に浮かびます.(もっとも,コンビニやスーパーでバイトしてる大学生なんていくらでもいるんだから,同じように,環境を整えてまっとうに現金を扱わせればいいと言われるとちょっと苦しいですが.)

一方で,スタッフ側の負担に注目したときには,上記のいずれの方法を選択する場合でも,現金の取扱を一切(あるいは可能な限り)なくしてしまうことが肝心であると見ています.「現金でも◯◯でもいいですよ」という運用は,利用者にとっては親切ではあるものの,スタッフとしては処理パターンが増えてしんどくなるだけで改善効果が薄い.

……と考えると,電子マネーのようなまだまだマイナーな方法よりは,銀行振込や生協への外注などの枯れた手段を採用するほうがバランスが良いのではと当時は考えていました(という結論を某報告書にまとめました).このあたりは各大学の環境や導入の目的しだいでしょうか.

こういった手段を導入したことによって,スタッフの負担がどのくらい減ったのかや,サービスが向上しているのかという評価が気になるところなんですが,あんまり事例報告は聞かないんですよねー.