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大学図書館員が図書館から出ること―国立大学図書館協会「図書館職員の人事政策課題について(提言)」を読んで

人事 文献紹介

国立大学図書館協会が2012年7月9日に公表した「図書館職員の人事政策課題について(提言)」を読みました.国立大学図書館協会人材委員会[*1]が2012年3月付けで作成したものです.

人事というテーマが苦手なうえにこの手の文書というとまた図書館職員の専門性専門性専門性……という話なんだろうなぁとスルーしようかとも思ったのですが,ちょっと読んでみたら一部共感する部分があったので最後まで読んでみました.面白く感じたところを重点的に紹介します.

文書の構造

文書全体では95ページもある! 目次は以下のとおり[*2].

  • 本提言書について(p.1)
  • 求められる専門性と図書館専門職員の確保・養成の枠組み(p.2-)
  • 図書館職員の人事政策課題についての提言(p.3-)
  • 図書館職員の人事政策課題について(提言)【概要】(p.13)
  • 国立大学図書館協会人材委員会による関連調査(p.15-)
    • 図書館組織及び人事政策に関するアンケート調査(2010.1)(p.17-)
    • 図書館職員の人事政策課題(検討資料)(2011.3.25)(p.45-)
    • 図書館職員の人事政策課題について(会員館意見の概要)(2011.6.10)(p.49-)
    • 図書館職員の人事政策課題についてのご意見一覧
      1. 「図書館職員の人事政策課題(検討資料)」に対するご意見(p.53-)
      2. 「大学図書館の整備について(審議のまとめ)」で提言されている大学図書館職員のあり方に対するご意見(p.72-)
      3. その他、図書館職員の人事政策課題に関する提言など(p.85-)

メインの提言部分は10ページ程度です.手っ取り早く知りたい方は,13ページに一枚ものの絵として提言がまとめられていますのでまずはそこを見るのが良いでしょうか.冒頭の「本提言書について」では「会員館で進められる取り組みの一助となれば幸いである」とされているので,第一義的にはこの提言は(世間や国立大学や国立大学協会ではなく)それぞれの国立大学図書館に向けて書かれたものなのでしょう.

後半(p.15〜)は,各国立大学図書館に対するアンケートとその結果(表,グラフ,自由回答)から始まります.続いて,「図書館職員の人事政策課題(検討資料)」や「大学図書館の整備について(審議のまとめ)」に対する各館からの意見がだらだらと紹介されています(前者については概要=まとめ有り).

この文書を最初から最後まで通読するひとはあんまりいないとは思うのですが,後半は各館の管理職(たぶん)による生々しいコメントが掲載されていてなかなか興味深かったです.一部「そこまで言うか!」というものも.コメントは匿名ですが,各地区[*3]ごとに分けられているので注意深く読めばどこの館か分かるものもあります.国立大学図書館への就職を希望している方が読むと,面接官が採用を含めた人事一般についてどう考えてるかの一端をつかむことができるんじゃないかなと思いました.

提言の概要と面白かったところ

今回の提言は,

といった文書を引っ張ってきつつ[*4],国立大学図書館の職員の養成や人事のあり方について大きく4つの提言を示しています(p.13).

  • 提言1:図書館専任職員の確保
    • (1)図書館活動成果のアピールと戦略的な取り組み:専任職員の確保には、図書館活動の成果をアピールし、評価を高めることが肝要。そのためには、大学の目標と方向性に沿った戦略的・重点的な取り組みが重要。
    • (2)業務の見直しや組織・業務体制の再編:業務合理化の観点に加えて、新規業務への注力や人材の活用・育成の観点が必要。多くの試みがなされている学生パワーの活用は、重要
    • (3)外部委託:外部委託の導入には、現状のコスト縮減の観点のみならず、委託結果の評価や将来的な専門技能や経験の継承などの総合的・長期的な観点からの検討が必須。
  • 提言2:職員の採用
    • (1)国立大学法人図書系専門試験の維持・改善:地区間格差の改善策(平成24年度〜)の効果を検証、当面は現行枠組み内での改善に努めつつ、現行試験制度の改善の方向性について意見を集約しておく必要。
    • (2)多様な選考採用を模索すべき:新卒者中心の現行試験に対して、各図書館のニーズに即応した多様な選考方式の活性化も重要。
  • 提言3:能力開発と評価
    • (1)専門研修の活性化のため、さらに促進すべきこと:各図書館では、ニーズの把握、派遣のための条件整備、事後の評価、成果の還元。主催者側では、遠隔研修など受講形式の多様化、事後評価の反映。図書館コミュニティによる開催情報・研修教材等の共有。
    • (2)図書系専門能力の評価のあり方、専門職員としての処遇の検討:大学職員の専門化動向を注視しつつ、図書館専門職員のプレゼンスを高める努力が肝要。
  • 提言4:流動性の確保
    • (1)人事交流の活性化:大学図書館間の人事交流の活性化とそのための条件整備が肝要。 人材供給と図書館職員のキャリア形成に地区協会と地区理事館の果たすべき役割は重要。
    • (2)共同事業への積極的な参画、実務研修の活性化:「連携・協力の推進に関する協定書」の趣旨に基づく共同事業、戦略的な要員の育成。


正直,国立大学図書館の職員にとって,全体的にはさほど目新しい内容ではないと思います.

ただ,提言1(2)で最近さかんに見られる学生協働について触れている点と,提言4(1)で事務職員との人事交流について触れている点は非常に興味深いです.

(2)学生パワーの活用
 業務を見直す中で、学生アルバイトをより効果的に図書館業務に組み込み、大学院学生の主題知識をサービス向上に活かすような試みが拡大している。学生雇用拡大の契機は、時間外・土日休日開館の拡大、経済支援の観点からの学生アルバイト先の確保、TA(テーチィングアシスタント)制度の見直しなど大学によって様々であるが、いずれも学内の動きに上手く呼応することで実現し、評価を得ている。
 従来から時間外開館などで学生雇用は行われてきたが、現在各図書館が取り組んでいる学生雇用の拡大は、ラーニングコモンズにおけるチューター、ライティング指導、主題に基づくナビゲーションなど、今まで図書館で十分に対応できていなかったものを拡充する点に特色がある。また、大学の学生協働等の方針に基づいて図書館カウンター業務の一部に活用する事例、学生から図書館ボランティアを募るなどの試みも出てきた。
 これらの学生パワーの活用においては、安易な労働力確保の観点からではなく、学生に対する教育的観点からの指導と配慮、学生の能力を図書館サービスの向上と図書館運営の改善に上手く活かす観点が重要である。業務としての責任や安全管理意識などを学生に指導する一方、図書館長との懇談会などを開催し学生の柔軟な発想を汲みあげる機会を持つなどの事例も増えている。

(3)学内人事交流
 アンケート調査では、学内での人事交流の必要性、有用性についても多くの意見が出された。図書系若手職員を学内異動し他職種を経験させる試みも数大学で実施されている。大学の他職種の仕事の進め方を体験するほか、図書館と図書館業務を外から見直す良い機会となることが期待される。
 特に小規模大学等においては、図書系職員を独自に採用せず、学内人事異動で一般職員を図書館に配置することが多い。業務の継続性、専門性の観点から課題もあるが、新鮮な視点から業務改善に大きく貢献する事例も報告されている。各大学の事情と図書館の状況・課題などに応じた、短期的、柔軟な人事配置と将来の図書館を担う人材確保を想定した長期的な視点の双方を組み合せる必要もあろう。


特に後者は,「審議のまとめ」のなかの

大学図書館における状況の変化に対応し、大学図書館が重要な学術情報基盤としての機能を効果的に発揮していくためには、図書館職員のうち、中核となる者については、今後、伝統的な業務の充実を図るだけでなく、学術情報を駆使して学習、教育、研究により積極的に関与する専門家としてその必要性を学内にアピールし、従来の事務職員とは異なる職種と位置付け、大学内の様々な情報管理業務に関与していくべきである。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/attach/1301610.htm

という,国立大学職員のなかで図書館員としての専門性を主張して差別化をおこなっていく従来の路線の緩和と考えることができると思います(個人的には歓迎したい流れ).

この点ついては文書の後半の「ご意見」部分でもさかんに触れられており,「図書館職員の人事政策課題(検討資料)」では

組織の人員減、固定化は、一般的に停滞の大きな要因となる。本委員会の加盟館アンケート調査、図書館管理職・大学人事当局者とのインタビュー調査では、共に図書館職員の学内での孤立、固定化が問題視される結果となった。(p.47)

とされ,また,検討資料に対する意見のまとめでは,

 「より高度な専門性」を持つ図書館職員の確保・育成は、個々の大学独自では困難であり、 地区・全国規模で確保し、育成する必要があるという趣旨の意見が多く出されたが、「事務職員のキャリアパスと何ら変わるものではない」とする意見も出された。
 審議のまとめの「事務職員とは別の枠組みが必要」とする提言に対しては、賛否が分かれた。否定論には、図書館職員の特殊性を認めない立場のほか、現状との乖離の大きさ、大学当局の理解を得ることの困難さを慮る意見、図書館職員の職階・職務構造化を危惧する意見など、様々な観点からのものが出された。(p.49-50)

とされていました.興味のある方はまとめられる前の生コメントもお読みください.

細々としたネタ

知らなかったこともちらほらと.

  • 2012年10月から第1次試験合格者名簿のブロック外への提供が可能になり,ある地区の2次試験=専門+面接で不合格だった受験者が別の地区で採用されるチャンスが出てくる(p.6).
  • 人材委員会では全国的な研修情報を集約する「人材育成情報発信ウェブサイト(仮称)」の構築を検討している(p.8).→期待.
  • 中国・四国地区では2006年度から「図書・学術情報系専門員資格認定制度」を実施している(p.9)[*5].
  • 「部局図書館の統合や図書業務の一元化の進行が、図書館職員が多様な環境で経験を蓄積することを阻害してきた一面もある。」(p.10)→うーん,そうなのかなぁ…….某WGのときはそこまで考えてなかったかも.
  • 「地元の公共図書館との人事交流を試みられる例が出てきた。」(p.10)→2010年度に始まった和歌山市と和歌山大学の事例みたいですね[*6].
  • 「図書系職員採用専門試験への評価としては、「合格者名簿から適任者の選考が困難な場合がある」(23)」(p.19)→そんなにか…….
  • 「図書系職員採用面接考査の面接者について」(p.29)→学長が出てくるところもあるんですね.
  • 「図書系職員の学内他職種との人事交流について」(p.34)→自由回答が興味深い.

全体的な感想

今回の提言に限ったはなしじゃないかもですが,こういったスキルを持った人材を採用したいと言っていてそれはもっともなんですが,果たしてそのスキルを持ったひとに対して職場・業界としてどんなリターン(例えば報酬とかキャリアパスとか)が提供できるのかという点は書かれてないんですよね.そのへんが一面的なのではという印象です.

人事交流による多様な経験が無条件に肯定されているように見えるのは,仕方ないんでしょうね.

「国立大学というクラスにどれだけの意味があるんだろう?」という点も疑問に思えてきました.後半は地方の中小規模と思しき図書館から地方格差(若手の大都市志向で応募状況が低調とか地方で採用されてもすぐに都市圏へ異動希望を出すとか)に対するコメントが多く見られました.国立大学とひとくちにいっても,旧帝大のような総合大学から単科大学まで規模や特色もそれぞれ違います.そんなクラスで統一的なシステムを志向することにどれくらい意味があるんだろう,と.いや,地方格差が激しくなっていくからまとまることが大切なんだというのもあるでしょうし,このへんはもうちょい考えます.

また,各大学でのOJTが成立しづらくなっており,単独での研修も厳しいという声もちらほら.私はいまのところそれほど研修事業には興味を持ってないのですが,これから全国規模の研修を手がける機関(NIIとかNDLとか)にはさらに重い期待が寄せられるようになるんだろうなぁ…….



最後に.これから議論したいなと思ったのは,図書館員と事務職員の人事交流を主体的・積極的に行なっていくとして,

  • 事務職員といってもどういう仕事が図書館員に向いている/経験する意義があるのだろう?
  • 逆に,事務職員を図書館で勤務させることによってどんな経験を提供できるのだろう?

ということです.北海道のある館からの回答にこんなのがありました.

図書館職員の固定化という現実は、大学と図書館の間に目にはみえない壁になっており、図書館活動や図書館職員に対する理解を妨げているように感じる。また、職員は図書館職員である前にそれぞれの大学の職員であるという意識を持ち、大学の理念や教育目標に沿った図書館活動とそのための能力を身につける必要があると思う。そのためには、図書館の専門的な知識の習得だけではなく、図書館以外の大学の部局での業務経験や、大学全体に係るよう事業などへも積極的に参加し、幅広い情報収集をするような姿勢が求められると思う。そして、最終的には大学内のどこからでも、図書館を活用したサービス提供、学生支援が行える体制を作ることが、縮小化される組織の中でも大きな成果を上げることに繋がるのではないかと考える。(p.74)


はい,図書館から出たいですね.


*1:国立大学図書館協会人材委員会の主に人事政策デザイン・グループ.もうひとつ人材育成事業グループという研修に関わるグループがあるらしい.

*2:冒頭に掲載されていた目次では「関連調査」の下位構造が書かれてなくて読むときに分かりづらかった…….

*3:北海道,東北,関東・甲信越,東京,東海・北陸,近畿,中国・四国,九州の8つ.どうして東京は別なんだろう.

*4:国立大学図書館協会が2007年に公表した「大学図書館が求める人材像について ―大学図書館職員のコンピテンシー―」はスルーなのかなぁ……と思ったらp.47にちょっと出てきました.

*5:片山俊治. 大学図書館における専門職員認定制度の可能性--国立大学図書館協会中国四国地区協会「図書・学術情報系専門員資格認定制度」をモデルとして. 図書館雑誌. 2009, 103(11), p.750-752. http://ci.nii.ac.jp/naid/40016801282

*6:“和歌山市と和大が人事交流軸に連携協定”. 2010-02-19. http://www.wakayamashimpo.co.jp/news/10/02/100219_6187.html