カレントアウェアネス-E No.264感想

ソフトバレー大会からはや2週間、ってことですか。その間、機関リポジトリ推進委員会のキックオフミーティングでNIIに出張したり(技術WGのメンバー)、今年のLibrary Lovers'キャンペーンの企画会議をしたりしていました。

今号は6本中、内部原稿が2本。とはいえ残りの執筆者も(元)カレントアウェアネス編集企画員の面々で占められてますね。。



■E1590■ 東日本大震災後の図書館等をめぐる状況(2014/8/4現在)

4月以来の震災まとめ。およそ4か月の情報がまとめられていて、そろそろ年3回ペースになっていくのかなと。

正直なところ、福岡にいるせいか、震災のことを忘れたわけではないけれど、一日一回は意識の俎上にのぼるんだけど、強く意識することはやはり少なくなってきたように思う。いつだったか、福岡県出身の20代同僚から、2005年の福岡県西方沖地震までほとんど地震を体感したことがなくて、最初はこれが地震だということが分からなかったというはなしを聞いて、そういう土地なのかと驚いたりした。たしかにこちらに移住してきてから揺れを感じたことはいちどもない気がする。

そんなわけでいろいろと見逃しているのだけど、特に、

国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)では,新規コンテンツとして,(中略)国立国会図書館の東京本館における震災時の画像・動画等の記録が追加された。
http://kn.ndl.go.jp/information/292

に反応。たしかに、短いものだけど、3本の動画が公開されている。不気味な映像。

あとはCA-Rにもなっていたこのニュース。

8月4日,灰色文献に関する国際的なネットワークGreyNet(GreyLiterature Network Service)の2014年のGreyNet Awardに,日本原子力研究開発機構の池田貴儀氏が選出されたことが発表された。

おめでとうございます。CA-Rのタイトルに人名が入っているのは初めて見た、かも。



■E1591■ 大震災と小松左京が遺したもの

この4月から宮城県図書館に出向中の眞籠さん。

同館で6月に開催されたトークイベント『小松左京が遺したもの-震災の記憶・未来へのことば-』のレポ。瀬名秀明さんが出演していたり、東北大の教授で作家の方がいるんだと驚いたり、ということでこのイベントは記憶に残っていた。記事では、『日本沈没』(1973年)の執筆に「当時最先端の機器」だった電卓が駆使されていたとか、「関東大震災での情報の混乱がきっかけとなってラジオ放送が始ま」ったとか、本筋と関係ないところが面白かったりした。

個人的には、小松左京のことばよりも、瀬名さんの、

ほんのすこしの想像力があれば防げる災害も,一度“体験”しないと我々は上手く想像できないことを指摘した。故に,個々の事象に関する専門的な解説だけでなく,災害の全体像と人間の心の動きを交えた物語を描くことが,人々に災害を伝えるためには重要であると述べた。

ということばが響いた。記録を残すことはもちろん大切だけど、記録が記録として残るだけで役に立つわけではない。記録の利活用というときに学術利用のことばかり考えていたけど、瀬名さんのような作家にしかできないこともあるんだろう、と改めて。いつか震災アーカイブにもとづいて紡ぎだされた物語が登場するのだろうか。



■E1592■ 少年院法改正の経緯と条文における「読書」への言及について

大阪府立の日置さん。矯正と図書館サービス連絡会でも活躍されており、ARGカフェで「矯正施設に対する図書館サービス」という発表をされたことも。

6月に抜本的改正が行われた(施行日は未定)少年院法について、読書という観点からの解説。とても勉強になり、今号でいちばん時間をかけて読んだ。現行少年院法の条文にも初めて目を通した。。

まず、刑務所の根拠法には規定があるのに、少年院法にはこれまでなかったというのに驚く。今回の改正により全17条→全147条と条文数が格段に増えていて、少年鑑別所法(こちらも全132条と多い)が独立するなど、本当に抜本的改正という感じ。改正の経緯は2009年の広島少年院職員による暴行事件ということだけど、直接読書とは結びつかないと思うし、大幅改正を行うのにあわせてこれまで規定されていなかった読書についても盛り込んだということなのかな。

関連する条文は、少年院法の法案では、

  • 78条(少年院の書籍等)
  • 79条(自弁の書籍等の閲覧)
  • 80条(時事の報道に接する機会の付与)

で、少年鑑別所法の法案では、

  • 65条(少年鑑別所の書籍等)
  • 66条(在院中在所者以外の在所者の自弁の書籍等及び新聞紙の閲覧)
  • 67条(在院中在所者の自弁の書籍等及び新聞紙の閲覧)
  • 68条(新聞紙に関する制限)
  • 69条(時事の報道に接する機会の付与)

となっている。記事では少年鑑別所法は「少年院法より条文数が多い」とだけあったけど、少年院と少年鑑別所という組織の性格の違いからくる差異を除けば、実質的な違いはないように思えた。実際、少年院法の78条は少年鑑別所法の65条に、79条は66条〜68条、80条は69条に対応している。少年鑑別所法で66条と67条に分かれているのは、少年院在院者が一時的に少年鑑別所に在所することがあり、通常の在所者よりも制限が強くなっているからのようだ。68条は66条で参照されているだけかな。ただし、66条は「allow, deny」で、67条(および少年院法79条)は「deny, allow」な構造になっていて、根本的に考え方が違うとは言えるかも。

これらの施設におけるインターネットアクセスはどうなっているのだろう、というのも気になった。

自分は少年院にも少年鑑別所にもお世話になったことがないんだけど、数年前に刑務所図書館について調べていたとき、それが日本にどれだけ存在しているのかが分からなくて興味をもったことがある。



■E1593■ Altmetricsに関するNISOプロジェクト第1期のまとめ

さとしょーさん。カレント-E初のクリエイティブ・コモンズライセンス適用記事(CC BY)。

6月に公表された、NISO Alternative Assessment Metrics Projectの第一期の成果をまとめた文書の紹介。文書の内容は、いわゆるaltmetricsに関する論点整理で、「定義」「研究成果」「用途」「研究評価」「データの品質と不正対策」「グルーピングと集約」「分野や国等による事情の考慮」「ステークホルダーの観点」「今後の推進のための方策」という9点がまとめられている。論点整理にもとづき今後も活動を進め、Timelineによると2015年秋冬にはRPが公表される予定らしい。

論点を眺めていて、まあそうだよねえ、COUNTERのときも似たような話が出たんだろうねえ、というなかで、いまさらなるほどと思ったのは、

●用途
Altmetricsは研究成果を「発見」するためのものなのか,つまり出版直後でまだ論文からは引用されていない優れた成果を見つけるためのものなのか,それとも研究成果を「評価」(evaluation)するためのものかという,用途の違いの重要性を指摘する意見が会合等では多く挙げられていた。

という部分。そうか、別に評価に使うだけじゃないのか、と。指標がalternativeになれば、用途もalternativeになるなんて言うと、若干うそっぽいけど。

altmetricsもいつかalternativeじゃなくなるのだろうか、とか、alternativeをはっきり定義しちゃうととそれに対するalternativeもまた登場するだろうな、などと想像しているだけなら楽しい。ただ、個人的には(少なくとも研究評価指標としての)altmetricsは海の物とも山の物ともという印象。かの世界機関リポジトリランキングでは採用されてしまっているけど。

そういえば、NISOのプロジェクトで「大学経営層」がステークホルダーとして登場するのは結構珍しいのでは。Ithaka S+Rではよく見かけるけど。そうでもない?



■E1594■ 電子書籍を長期保存するために:論点整理

篠田さん。

Digital Preservation Coalitionのレポートの紹介で、こちらも論点整理。「電子書籍の所有」「電子書籍の販売モデル」「電子書籍の定義の広がり」「デジタル著作権管理(DRM)」「コンテンツの恒常性」「長期保存を支援するビジネスモデル」「法定納本」の7点が紹介されている。

記事中に、ボーンデジタルという単語が出てこない点は気になった。もっと気になるのは、現在は論点整理をしているようなフェーズだったんだろうかということなんだけど(とはいえ、こういう論点の共有すらできてないというコメントも見かけたし、まだまだそんな段階なのかなあ。電子書店が潰れて騒がれたりもするわけだし)。

論点の内容じたいには特に目新しいものがあるわけではないだろうと思い、学術的な電子ジャーナルの長期保存の場合との本質的な違いは何かという視点で読んでいた。一般ユーザ市場の規模の差、DRMの有無、あたりだろうか。でも一般ユーザのアクセス権の長期保証についてはまとめて議論するのは筋が悪い気がする……。

読んでいてなんかもやもやするのは、長期保存が重要な課題だというのは賛同できても、いち大学図書館員として具体的にどういうアクションが取れるのか思いつかないからだろうか。契約電子コンテンツの長期保存はPorticoやCLOCKSSに任せておきたいし、国内についてはNDLに期待したい。それよりも長期的なアクセス権の保証(必ずしも長期保存を意味しない)や、自館でデジタル化したコンテンツの保存のほうが課題であり。それは自分が目先のことしか考えられてないということを意味するんだろうか、ともやもや。

そういえば最近Porticoのtriggered contentsのニュースを見かけない(カレント-Rにもなってない)なと思ったら、自分が見逃していただけでいろいろあったらしい。2013年8月にK-theory(Springer)が対象になっていてびびる。

法定納本については、昨年7月にeデポが始まって、はや一年。そろそろ報告が読みたい。



■E1595■ 国立世宗図書館開館と韓国の政策情報サービス

アジア情報課の緒方さん。

韓国国立中央図書館の分館として昨年12月に開館した国立世宗(セジョン)図書館の話。先日のカレントアウェアネス企画会議でもちらっと話題になり、そのときは「せじょんってなんだろう」と聞いていたんだけど、韓国では国の行政機関がソウルから世宗特別自治市に移転していっているということだったらしい。自身は移転せず、また、なんとなく韓国は遠隔サービスでいきそうなイメージがあるけれど、近場にサービス拠点を新設したんだね。

世宗図書館の政策情報サービスとして、政策情報総合目録の構築(2014年下半期にサービス開始)、公務員を対象とする学術雑誌目次メーリングサービス、政策分野別オンライン主題ガイドの提供、公務員を対象とする政策メンターリングサービスの提供、の4つが紹介されている。内容はそれほど目新しいものではないけど、「公務員を対象とする」というセグメンテーションが面白いなと感じた(けど、NDLでも支部図書館で同じようなサービスをしているわけか)。大学図書館でいえば職員をターゲットにしたサービスに相当する。はじめ、韓国内の全公務員を対象にしているのかと思ったけど、(セジョンの?)国家公務員ということ?

韓国には政府認証基盤(GPKI)というのがあるらしい。メモ。

そういえば、NDLではこうして中韓国立図書館から来客があった際に、職員が中国語や韓国語の通訳を担当していてとても驚いたのだった(篠田さんも中国からの来客に対応されていた)。



次号は8月28日(自分の原稿の締切じゃないか……)。