H28年度大学図書館職員短期研修(京都会場)

# 単なる反省文です。

http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/librarian/h28/index.html

若手の大学図書館職員を対象とした研修の、「学術コミュニケーションの動向」というコマ(75分)で講師を依頼され、おはなししてきました。風邪っぴきなこともあり、なんかもうぐだぐだでしたが。。ランチタイム前の講義だったので、時間内に収まったのにはほっとしました。

5月中旬に講師依頼をいただいて(そのころは精神的に余裕があったので自分が研修苦手なのを忘れて気軽に引き受けてしまった)、9/9に講義資料提出〆でした。開催一月前に提出というのはかなり早くて戸惑うのですが、受講生に資料PDFを事前配布していたそうです(さっきまで知りませんでした)。

講義資料はこんな感じです。

資料作成に向き合い始めたのは海外出張報告書が完成した後なので、7月中旬頃でした。悩みが尽きず、8月の土日はほぼすべてこれに費やした……というくらい時間がかかりました。初期構想ではマニアックにメタデータの話だけしようかと考えていたくらいだったのに、最終的にはその話はいっさい出てこなくなった、というくらいの迷走っぷり。二転三転したあげく、結局はオープンアクセスのはなしに絞ることにして(研究データの話はせず)、いまオープンアクセスのことを勉強するならこれくらいが基本かなあという意味で「A Primer」というタイトルでまとめました。

準備をしていて悩ましかったのは、

  • 対象テーマの絞り込み。学術コミュニケーションといっても広いし、薄っぺらい話にしないためにどこまで絞るか。かといって絞りすぎるとマニアックになる。
  • トピックがとっちらかりがちな総論的講義において、受講生に対してどのようなメッセージを作れるのか。
  • 受講生は図書館経験2〜10年目と幅があり、興味や基礎知識もまちまち。レベルをどのくらいに設定したらいいのか。広い層に関心を持ってもらうためにはどういう構成にしたらいいのか。→構成についてはQ&Aという形式にしてみたけども。
  • 昨年度までの講師とは異なり自分のような若手の実務者に依頼されたこと、に自分なりの答えを見つける。
  • 他の講義との内容の棲み分け。→特に、尾城さんの講義に喰われてしまわないように差別化できるか。

という点。

正直、どの悩みもうまく処理できたという気がしてないです。そもそも研修って何のためにやるんだっけ、という暗い穴に落ちていた時期もありました。

反省点としては、

  • 勢いがない。やっぱり自信がないんだなあ。オープンアクセスについては全体的に「こうすればうまくいく!」と自信を持てているわけではないから、どうしても話し方が不安定になってしまう。
  • 75分という途中で休憩が入るわけではないけどそこそこ長いという尺は未体験だった。やっぱり途中で(自分が)飽きてくるようなので、適当なところで気分転換をしたほうが良さそう。
  • 余計な参考情報は喋らないようにしようと決めていたのに、結局喋ってしまっている。和田万吉の話をしなかったのはえらいぞ自分。
  • 単語や語尾の選び方がてきとーすぎた。頭が動いてない証拠。
  • 前のコマの森嶋さん@慶應のスライドと比べるとちっとも遊びがない。心に余裕がない証拠。

など。

なお、質疑応答では

  • 図書館/リポジトリで出版を行うことによる可能性は?
  • そもそもジャーナルって必要なのか?
  • CHORUSで出版社が著者最終稿を公開することのビジネス上のメリットは?

などの質問を受けました。どれも答えづらい、難しいところをついてきますね……。どれもクリアに返すことができず。

終了後は講師2人とプロ受講生3人とで進々堂でカレー(パンセット)を食べました。

総じて、自分がこのくらいの広さの話を、自信を持って、かつ、心から楽しんで、話せるようなレベルに達していない、ということを思い知って、打ちひしがれる、という経験になりました。自分はまだまだ(?)テクニカルな細部をちまちまと攻めているほうが楽しい人間なんだなあ。この点は自分でも認識していて、2016年の課題のひとつに挙げていたところだったので、それに挑むという経験ができたのは、まあ、良かったのかもしれませんが。

また同じ講義を12月に東京会場でしてこなくてはなりません。ひとまずは、京都会場関係者の皆さまに御礼を。ありがとうございました。

# しかし、森嶋さんが、ふわっとしたオーラをまといつつも、随所で小ネタを挟んで笑いを取りにくるという芸風で、大変感銘を受けました。スライドが公開されないのがかえすがえすも残念ではあります。

【追記】初日に講義をされた井上昌彦さん@関学は「全員に10届けるつもりはない。分かる人に100与えたい」というようなことを言われたらしく。私はつい欲張って「みんなに、みんなに」となってしまいがちなんですが、このくらい割り切ってターゲットを狭めるほうが、その周辺のひとにもじわっと広がっていき、結果的に多くのひとに良いものを残せるのかもしれないなあと考えさせられました。結局、ターゲット x メッセージなんですよね。そのどちらか一方でもfixできないとだめなものになる……。それがうまくできたプレゼン/文章はそれなりに手応えが残るし、今回は最後まで自信が持てずに終わった、という。

【追記その2】これが egamiday 流らしい。

プリンストン大学図書館の新オンラインカタログのレビュー

米国のプリンストン大学図書館がオンラインカタログのシステムをリニューアルした。
http://dailyprincetonian.com/news/2016/09/u-library-introduces-new-catalog/

20年使っていた旧システムからの乗り換えで、オープンソースのBlacklightを採用している。18か月の開発期間を経てこの春にベータリリースしていたものを、新学期の始まるちょっと前というタイミングで正式にリリース。

以下、気になった点をいくつかメモしていく。

1. 検索画面

ウェブサイトの検索窓はこうなっている。プレースホルダには「Search for books, journals, videos, and more」とあり、articleのようなものは対象外にしたほんとに“catalog”であることが感じられる。
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詳細検索画面。一部の項目で検索値+ヒット件数が表示されるのに関心した。
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2. 検索結果一覧画面

https://pulsearch.princeton.edu/catalog?utf8=%E2%9C%93&search_field=title&q=topology

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ファセット

ファセットの項目自体はそう目新しいものではないけど、次のふたつにはおっ!と思った。

新着日をさまざまな期間で絞り込める。

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ファセットのなかで階層を実現している。

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配架場所地図

Stackmapというクラウドサービスを利用しているようだ。library, location, callnoという3つのレベルの情報を渡して、地図上の細かい場所までマークしている。これはいいね。

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http://princeton.stackmap.com/view/?callno=QA611.E53&location=sci&library=Lewis%20Library

3. 詳細画面

図書

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Subjectのbrowseを押すとよくあるブラウジング画面。
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staff viewを押すとMARCフォーマットで表示される。これもよくある機能だけど、リプレイスしても残すくらい職員からのニーズがあるってことなんだなあと。
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Send toはこんな感じ。Mendeleyはないんだな。
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雑誌

Other versionsとして電子版へのリンクあり。
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4. ツアー

トップページの「Take a tour of the New Catalog interface!」を押すとツアーが始まる。一般のウェブサービスではよくあるけど、図書館界隈で見かけるのは初めてかも。
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検索画面(3ステップ)→検索結果一覧画面(7ステップ)→詳細画面(7ステップ)と続いていく。
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Blacklightのデフォルト機能なんだろうか? 使ってるライブラリはたぶんIntro.js

Pure→researchmap連携

Elsevierのニュースレターからの引用だけど、他にニュースリリースが見当たらなかったのでメモしておく。

Pure 5.6 releaseにて、researchmap-Pureの連携機能がリリースされました。researchmap IDをエルゼビアが提供する研究者プロファイリングツールPureに登録すると、Pureに自動蓄積している自機関の名寄せ済み研究業績データをresearchmapへ送信することが可能になります。PureはORCIDへの連携も可能です。
http://jp.elsevier.com/newsletters/ag_eri/2016vol4

Pureの国内導入機関は以下のリストによると5大学。でも他にもあるはず。
https://www.elsevier.com/solutions/pure/who-uses-pure/clients

海外出張報告書2本+報告記事2本

今年はいつになく文章(量)を書いていて、最近になって立て続けにリリースされた(以下執筆順)。

1. OpenAIREのメタデータマネジメント調査出張報告書

http://id.nii.ac.jp/1280/00000204/

2月に北大(当時)の三隅さんと行ったドイツ(一瞬スイス)出張のレポート。初めての欧州出張。昨年暮れにばたばたと出張が決まり、後述する改修作業(3)をやりつつ、アポ取り・リサーチ・旅行事務・出張・レポート執筆を進めるという、なかなか大変な出張だった。歳の近い男子とふたり旅ということで、旅自体はとても楽しかった。ここで得られたものは(今後の自分にとっても)大きかったと感じている。

そういえば、帰国後は1週間空けて、また8泊9日の東京出張だった。そのブランクの1週間も東京でシンポジウム+国際会議参加という話すらあったんだっけ……(遠い目)。

写真はこちら。ゲッティンゲン大学図書館新館のファンキーな玄関がいちばん気に入っている。
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157665628546944

IMG_4795

2. 九州大学学術情報リポジトリ(QIR)におけるDOI登録

九州大学附属図書館研究開発室年報, 2015/2016, p.12-20
http://hdl.handle.net/2324/1669726

昨年度力を入れていた仕事、のほぼ全容を記したもの。大部分は5月連休に書いた(4月は業務体制が変わって本務でまったく余裕がなかった)。この事例が参考になるのかならないのかは心もとないけれど、リポジトリのDOI登録は事例報告が少ないので書いておきたかった。

3. 九州大学附属図書館の2015年度Webサービス改修プロジェクト

九州大学附属図書館研究開発室年報, 2015/2016, p.21-24
http://hdl.handle.net/2324/1669727

昨年度力を入れていた仕事その2、の概要を記したもの。大部分は5月連休に書いた。利用者向けニュースとして公開済みの情報がほとんどではあるけど、改修のポイントや裏話を加えている。

4. CRIS2016&OR2016参加報告

http://id.nii.ac.jp/1280/00000205/

6月に英国(セントアンドリュース)→アイルランド(ダブリン)と国際会議をふたつはしごした、ののレポート。OR2016のほうではポスター発表をした(5月連休明けからちまちま作成)。2週間近くというのも海外単独出張というのも初めてだったけど、たいしたトラブルもなく(途中でポスターケースをなくすこともなく!)無事に過ごすことができた。2月にドイツで会った方々、会いたかったけど会えなかった方々とも会うことができた。梅雨の時期にからっと涼しい国に逃避できたのもありがたかったし(ウールのカーディガン+ストールで過ごした)、22時過ぎまで日が暮れないので会議後はひたすら街を散歩しまくっていた。

昨年7月のオーストラリア英語プレゼンも含めると、ちょうど1年間(2015年7月~2016年6月)で3回海外出張に行かせていただいたことになる。なんというか、成長できたよなあ、としみじみありがたく思う。準備期間はプレッシャーやらなんやらでひどくナーバスになって消耗するけど……。

空き時間に南へ延びる郊外電車(DART)で出かけてきたDalkeyという小さな街が、帰国後に観た映画「シング・ストリート 未来へのうた」に登場して、そのかわいらしさをたっぷり懐かしんだ。

P6161520

写真はこちら。
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157668142964973
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670999769055
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670999911595
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157671000147185
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670907102236

“Open by default”:2017年にはHorizon2020助成研究はオープンデータが全分野でデフォルトに

OpenAIREのニュースレターを読んで、びっくりした!

The scope of the Open Research Data pilot has been growing. In the initial 2014-15 work programme, 7 areas were selected to take part. This grew in the 2015-16 work programe, and from 2017 the pilot will be extended to cover all the thematic areas of Horizon 2020, making Open Access to Research Data the default.

https://www.openaire.eu/new-h2020-guidelines-for-data-management-plans


先月の時点でSTI Updatesで取り上げられていたけど、

オープンリサーチデータパイロット(ORD)(小欄記事)の範囲をHorizon 2020の全分野に拡大する。2014~2015年プログラムでは7分野であった。
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=8896

とあっさりめだった。


Horizon 2020では助成研究の成果論文のオープンアクセス化が完全義務化されたものの、研究データのオープン化については7分野に限定した試行に留まっていた。

てっきりHorizon 2020の期間中(2020年まで)はパイロットのまま行くものだとばかり思っていた。関係者からもそういう話を聞いたことがあったような……(うろ覚え)。論文のオープンアクセス化は前身であるFP7で試行してからHorizon 2020で完全義務化という流れだったので、研究データについてもHorizon 2020の次のプログラムのなかで全面展開するんだろうと見ていたのだった。

ここでmandateやobiligationではなく、“Open by default”という慎重な表現が使われているのは、研究データの場合は論文とは異なり扱いが難しいところがあるため、オプトアウトが前提になっているからなんだろう(“AS OPEN AS POSSIBLE, AS CLOSED AS NECESSARY”、“Grantees have the right to opt-out, but need to say why”)。

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http://liber2016.org/wp-content/uploads/2015/10/LEARN_Dechamp_Open_by_Default.pdf

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http://ec.europa.eu/research/press/2016/pdf/opendata-infographic_072016.pdf