「大学図書館のこれから」特集の『三田評論』2012年6月号をいただきまして

オープンアクセスジャパンで,慶應義塾大学出版会によって刊行されている『三田評論』の2012年6月号が「大学図書館のこれから」という特集を組んでることを知り,Twitterで読みたい読みたいとつぶやいていたら(中略)@kanako_ebi さんが寄贈してくださることになりました.ありがとうございます.

慶應が2012年で図書館開館100周年を迎えたことによる企画でしょうか.40ページちょっとという分量で座談会と記事3本が掲載されています.

座談会「メディアの変化のなかで大学図書館はどこへ向かうか」

座談会では,東大の吉見俊哉先生,NIIの安達淳先生,千葉大の竹内比呂也先生,慶應日吉メディアセンター所長の羽田功先生,そして,慶應図書館長の田村俊作先生の5人が出席しています.田村先生が司会.

話題は初代館長の田中一貞(羽田先生が調べてはるらしい)から始まり, 戦後慶應に図書館学科ができ,全国の大学図書館に先駆けてレファレンスサービスを開始した話(ICUもほぼ同時期とか),続いて日本の大学図書館の総合目録,デジタル化,インターネットの登場,オープンアクセス,大学教育といったようにとんとんとテンポよく進んでいきます.ときおり竹内先生がアカデミック・リンク・センターの取組を紹介し,吉見先生がメディア論的な話でフレームを広げ,といった感じ.そうそう,東大も現在新図書館構想を進めているのでしたね.

あちこちで言われてることではありますが,ここでも「出版」というキーワードが目に留まります.文脈をぶった切っていくつか引用しますが……

竹内:ところが教育用のコンテンツについては,大学の外で作られているものも多い.それが作られるメカニズム自体がなくなってしまうのは非常に恐ろしいことだと思います.それを今後,出版社が大学の外で担い続けるのか,それとも大学の中にその機能を持ち込むのかは非常に大きなポイントです.(p.21)

竹内:知識を伝えるという点でも,先ほど田村さんがおっしゃった既存のパッケージがやはりもはや崩壊していると考えざるをえないわけで,それを再編集する場という機能が,図書館には当然必要だろうと思います.(p.23)

吉見:何千という科目があり,それぞれが構造化されていないなかで教科書を成立させるのは難しいと思うのです.教育改革として,創造的な形で科目の数を減らして構造化していく作業と,教科書が共有のスタンダードとして成立する仕組みを作っていく作業は表裏の関係にあり,どちらも図書館と出版に深く関わる話だと思います.(p.25)

吉見:三十年くらい前であれば,経済学,政治学,物理学などのディシプリンの構造が比較的はっきりしていましたから,その分野の個展と,未来の課題が自明だった部分もあったと思うのです,でもここ二,三十年ぐらいで学問世界全体の流動化,ボーダーレス化など様々な動きが起こったので,そこがはっきりしなくなっている.つまり新しい体系性,構造性が必要になってきているなかで,それを見せる,あるいは伝える仕組みをまだ大学が整えてないわけです.新しい知識の体系性は,それまでのものよりももう少し複眼的なものだろうと思います.(p.26)

これらの発言に通底する問題は同一のものという感じを受けました.

倉田敬子「大学図書館の役割と将来」

ご存知倉田先生.大学図書館の機能やサービスを振り返り,今後の方向性として2点示しています.ひとつはここでも「ある種の出版機能」と,そして……! 来ました.研究データのための「インフラストラクチャの構築の一端を担うこと」.ここでこのフレーズを聞けるとは思わなかった.研究データ管理についてはそのうちエントリ立てる予定なのでさらっと流します.

澁川雅俊「百年を書物抱きて」

@livingwithbooks さんですね.1958年に慶応義塾大学に入学,1962年(=開館50周年)にそのまま図書館員として奉職,1996年に環境情報学部教授にという経歴の方.利用者時代から職員時代にかけて慶應の図書館の思い出が語られています.1962年以前は学生は図書館の正面玄関から入ることができず「地下一階入口からおずおずと入っていた」んですって.

石黒敦子「慶應義塾図書館開館一〇〇年を迎えて」

最後は現在の三田メディアセンター所長の石黒さんから,100周年記念事業として,2012年4月刊行の『慶應義塾図書館史稿1970-2012』,記念式典グーテンベルク聖書展の3つが紹介されています.なお,「史稿」は1970年の『慶應義塾図書館史』の続編にあたるものですが,三田以外の図書館に十分に触れられてないので「稿」(Draft)としているそうです.聖書展は4月5日〜28日の間に6,055名が来場したとのこと.

# 以上,ざっくり紹介をば.