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大学職員に対する大学図書館サービスの可能性

図書館 イベント

大学図書館が大学職員に対してサービスを行うという可能性について,ずっと関心を持っていました.


問題意識

当然ではありますが,大学図書館の主なサービス対象は通常その大学の教員と学生(卒業生含む)とされます.そこに地域住民などの学外者が加わることもありますが,同じ大学に勤める「大学職員」[*1]が明確なサービス対象として意識されているケースは―少なくとも僕はこれまで―見かけたことがありません[*2].もちろん大学職員だからといってサービス対象外になっていないということはない.ふつうに本を借りたり,データベースを使ったりできるはずです.ただし,ターゲットのひとつとして意識的に考えられていることはないのではないのではないでしょうか.

そんな状況についてずっと疑問を持っていました.企業図書館が社員の,公共図書館が地方自治体職員[*3]や議員の,国立国会図書館が国会議員を支援するのと同じように,大学図書館が大学職員の業務を積極的にサポートすることはできないのだろうか,と.すべての業務に当てはまるとは思ってませんが,大学職員の仕事のベースには“学術情報”があると思います.大学の役割のひとつは研究,すなわち“学問”に[*4]貢献することであり,そのような組織を支える業務において学術情報への理解が不要なはずはない.そして学術情報に関するサービスを行うのが大学図書館の責務.だとしたら大学図書館は大学職員をターゲットとして何かできることがあるのではないか……という素朴な発想です.

そこでは,しばしば指摘されるような,大学と大学図書館,あるいは大学職員と大学図書館員の微妙な関係性を改善することにもつながるのではないかという狙いもあります.このへんの話は以前も触れましたが…….多くの大学職員には,大学図書館は「本を借りるところ」というイメージしか持たれてないという話はよく耳にします[*5].大学職員の“ふだん”の業務に役に立つサービスを提供することによって,彼らとのあいだに良好な関係を構築することができないかということです.


JUAMワークショップへの参加

上記のような問題意識について考えを深めるためのヒントが貰えるのではないかという思いから,2012年10月6日に大阪梅田で開催された,大学行政管理学会(JUAM)研究・研修委員会&大学改革研究会(近畿地区)合同の研究・実践支援ワークショップに参加してきました.

JUAMの存在については知ってはいたものの関連イベントに参加するのはこれが初めてです.そもそも大学職員向けのイベントも,学内勉強会などを除けば2009年のコクダイパン@金沢大学以来だったかも.

思い返せばきっかけは id:riddim_m さんのこのエントリです.

2012年6月に開催された日本高等教育学会で,中央大学の梅澤貴典さんが「大学図書館による社会人を対象とした情報リテラシー教育とその発展可能性」というタイトルで発表されたのをレポートしてくれてます.ここでは社会人がターゲットになっていますが,最後に「大学職員のスタッフ・ディベロップメントへの応用」として「社会人に対する情報リテラシー教育を発展させ、職員に対する情報リテラシー教育の実施を最終目標と考えている」という展望についても触れられています.

梅澤さんのことは前々から知っていました.イリノイ大学のモーテンソンセンターでの研修に参加されたこと,東大の大学院で学ばれていたこと.たぶん何かの折に偶然見つけて,面白そうなひとだと記憶していました.id:riddim_m さんとは大学と大学図書館の関係についてTwitterなどで意見を交わすことがあって,考え方が似てるなぁと思っていたんですが,今回のレポートを読んでその想いを強くするとともに,いいかげん梅澤さんにも会ってみたくなってきました.そんなわけで会いたい会いたいとあちこちで願望を漏らしていたら,共通の知人である京都国立近代美術館の中元さんから「今度こんなワークショップ企画するかも」とメールが届いて……という感じで参加に至るわけです.ほんと,なんでも言ってみるもんですね[*6].


ワークショップの内容

さて,ワークショップの中身を簡単に紹介しないと.

一般参加者は関西を中心とした大学からの13名でした.加えて運営スタッフが8名とオブザーバが6名.一般参加者+スタッフが4つのグループに分けられていました.このなかで図書館員は……4人かな.各グループに図書館員が1人は振り分けられていたのは意図的なものだと思います.

ワークショップのテーマは「大学職員による調査・研究」.このテーマのもとで以下のおふたりからそれぞれ1時間程度の発表があり,それについて各グループで軽くディスカッションをするというプログラムでした.

  • 新野豊さん(立命館大学国際関係学部事務室)「大学職員の研究・論文に求められるもの~日米の経験から~」
  • 梅澤貴典さん(中央大学ビジネススクール事務室)「大学職員のための情報収集法・大学図書館最大活用法

いずれの発表も,その語り口を除けば,大学図書館員であればだいたい知っていることというかむしろ人前で話せないといけないような内容だったと思います.これは,初歩的だと馬鹿にしたりしているわけではなく,この事実こそが重要だと感じています.つまり,大学図書館員なら常識的に知っていることを知らない大学職員は少なくないのではないかということです.


新野さんの発表から

ひとつめの新野さんの発表のテーマは why と how,つまり研究者でもないのにどうして調査や研究をして論文を書いたりするのか,そしてそれらをどうやって行うのかというものです.彼は仕事でアメリカのサンタクララ大学の大学院に留学する機会があったそうで,留学経験を含めたこれまでの業務経歴を踏まえてのお話でした.howの部分は大学図書館員であればほぼ既知であろうということにしてすっ飛ばしw[*7],ここでは why のほうに焦点を当てて感想を述べたいと思います.

大学職員として研究を行なっているといろいろと冷たい視線を感じるんだそうです.何かいいことあるんですかとか,それより目の前の仕事やれよとか.……プライベートの時間を割いて何してようと正直勝手だろという感じですが,それでも大学職員による研究活動を活発にしていきたいと考えるのであれば,この「なぜ研究するのか」という点をクリアに説明できないと始まらない.発表の最初の話題がこういったものだったのは道理です.その理由というか研究活動をされての気づきとしてまず最初に挙げられていたのは「呼びかければ誰かが応答してくれる」ということでした.他者からのフィードバックということでしょうか.

研究活動が直接業務に役に立つかっていうと,まぁ正直,ケースバイケースかなと思います.ただ,研究を行ったことがあるという経験は必ず仕事に生きるんじゃないでしょうか.過去の蓄積に基いて自分の知見などをロジカルに積み上げ,それを分かりやすくまとめあげ,他人に伝える.この点について新野さんは「調査や研究でなくとも,外部に報告しなくても,担当している業務についてや,専門職としてのアセスメントやリフレクションは,日常的に実施可能(必要)」としていました.

ああこのひと正直だなあと感じたのは,論文を書いたりしてする自分について「ちょっと得意になってやっていました」「イケてるんじゃないかと思っていました」と告白されたくだりです.けれどもそんなのは働く環境や私生活の状況が良かったからなんじゃないかと振りかえってらっしゃいました.業務上の義務として論文を書かないといけない時期があったり,最近は私生活が忙しくなり研究上の進展がなかったり,と状況に応じてパフォーマンスは変わりうる.

最後,書くことや発信することの意義について,加藤哲夫さんという方の『市民のネットワーキング:市民の仕事術』という本から「書くことは無意識の扉をたたき,ネットワークの窓を開ける」「書いて他者の前にさらされた自分は,さまざまな人たちに読むという主体的行為を呼び覚ます」ということばを引用して,「主体性を呼び覚ます」ことだと考えていると話していました.自分のことばでいうと「居場所を作るため」なのかなと受け止めました.「書く」ことは,世界のなかで自分がひとつのノードになって,他のノードとつながるために必要なこと.別に「書く」でも「話す」でも方法はなんでもいいとは思うのですが.書いたほうが後に残るし遠くまで届くよね(だから難しいんですけど).


梅澤さんの発表から

こちらの内容はオーソドックスな情報リテラシー教育の講習会をイメージしていただければ近いと思います.

学術情報が生産・流通される過程や情報を評価するための基準についてイントロダクション的に話されたあとで,OPAC,Webcat Plus,NDC,DDC,CiNii,GeNii,東大GaCoS,D1-Law.com,e-Stat,リサーチ・ナビ,Google Scholar,Web of Scienceといった各種データベースの紹介を一部デモを交えつつ行う.Webcat PlusのところではILLサービスの紹介も.参加者からはWebcat Plusの連想検索の受けが良かったようで「おぉ」という声が漏れていました.締めは引用の作法についてで,おまけとして最近訪問したカナダのクイーンズ大学のラーニングコモンズの紹介もされていました.

もちろんほとんどの内容は既知なので,梅澤さんがどういう説明をされるのかという手さばきと,それに対する参加者の反応に注意して聞いていました.特に,大学が高額なお金を払って契約しているからこそ電子ジャーナルをやデータベースが使えるんだ,けして無料じゃないんだ,という点を強調されていました.

梅澤さんの発表のあとのグループディスカッションでは「科研費報告書ってどうしてウェブで公開されてないの」とか「英語文献をうまく探す方法が知りたい」なんていう質問を受けました.分からない部分については「職場の図書館のひとに聞いてあげてください!」と逃げつつ…….一方,僕からは「大学職員のひとが普段どうやって情報収集をしているかが知りたい」と言っていくつか教えてもらったり.


飲み会

自分には珍しく一次会だけじゃなく二次会まで参加しました[*8].

一次会では梅澤さんの隣でお話を聞いて,その“したたかさ”に感心したり.

全体的に,ここは本当に大学職員の集まりなのかというくらいずっと図書館の話をしていました.もちろん,皆さんこういった場に参加するくらいですから自ら調査・研究をしようという意欲があってすでに実績のある人も多い.そのような方は大学図書館を活用していて,その存在についても理解があるのでしょうし,そんなに不思議な話ではないのかもしれません.

梅澤さんの発表は好評で,同じようなワークショップを全国展開しようというアイディアも出ていました.というかたぶん本気っぽい……招集される…….でもそんな手応えが肌で感じられたのが今回ワークショップに参加したことのいちばんの意義だったと思っています.

二次会で,同じグループだった方が「図書館から異動してきたひとと仕事をしたことがあったんだけど,情報を探すスキルの違いに驚いた」と言ってました.それを聞いて,大学図書館のサービスと大学図書館員のスキルは大学の業務を支援することができるよ,きっと,と思ったのでした.


*1:大学図書館員も大学の職員ですが,ややこしいのでここでは簡単に「大学職員」=図書館系以外の職員とします.

*2:【追記】東北大学附属図書館の米澤さんが,2011年8月に東北学院大学の研修会「大学職員の情報リテラシー能力と職員基礎力の向上-図書館機能の効果的活用-」で講師を務められたという事例があると教えていただきました.http://blogs.yahoo.co.jp/bpxdx655/45489044.html

*3:行政支援サービス.先日,飲み会の場ではありましたが,職場の大先輩が「行政支援サービスという同じ自治体の職員に対する業務をサービスと言っていいのか.それをサービスと呼んでしまう感覚が恥ずかしい」と熱弁されていました.おおっ,それは意識してなかったと,ちょっと胸に突き刺さっています.うーん,どうなんだろ.少なくとも知名度の低い段階で「サービス」という言葉を借りるのはそんなに悪い手ではないようにも思えますが.

*4:あるいは学問を通じて社会に.

*5:いや,大学職員ってたいていは大学を卒業しているわけで,学生時代に大学図書館ちゃんと使わなかったのかよと思わなくもないのですけどね.

*6:これは id:keitabando さんから教わったこと.

*7:Ref:『調査研究法ガイドブック―教育における調査のデザインと実施・報告』.http://www.amazon.co.jp/dp/4623057992

*8:本当に珍しい.