大図研第43回全国大会(京都)2日目参加メモ #dtk43

2012年8月4日~6日に大学図書館問題研究会第43回全国大会(京都)が京都市のコミュニティ嵯峨(JR嵯峨嵐山駅すぐ)において開催されました.


どうもこの全国大会は,例年,

  • 1日目:全体会・研究発表・基調講演・懇親会
  • 2日目:分科会
  • 3日目:オープンシンポジウム

という形式になっており,加えて,自主企画と称した開催地の図書館見学や「地酒の会」(いつも見る気がする)などが催されているようです.

出張でへろへろになっていましたが,第2日目だけ参加してきました.全国大会への参加は2009年の大阪大会に続いて2度目になります.今回は12の分科会のうち,

  • 午前:第6分科会「大学図書館史」
  • 午後:第10分科会「研究支援・文献管理ツール」

を選択(前回参加時の反省を生かして外さないよう慎重に).以下に簡単にメモを残しておきたいと思います.


第6分科会「大学図書館史」(9:00~11:30) #dtk43_06

国立国会図書館関西館の長尾宗典さんから「和田万吉の事績と大学図書館」というタイトルで発表がありました.彼は「関西文脈の会」(@k_context)という図書館史をテーマとした勉強会の発起人のひとりであり,今回はその第14回勉強会としても位置付けられています.

途中休憩を2度挟み,最後に30分くらいの質疑.和室で座布団とリラックスした雰囲気でした.長尾さんは着物来てきたら良い.参加者は15人くらい?

和田万吉という,東京帝国大学図書館の初代館長だった男のはなしです.初代というのは館長というポストができてからの初代であって,それ以前にも館長的な役割をするひと(「管理」)はいたようなのですが.和田は岐阜県大垣藩の生まれで僕は同郷になります(同郷のライブラリアンって他に知らない).あのへんで生まれ育って鰻が好きっていうことはあのお店のを食べてたのかなとか.子どもは8人,外孫があの佐々淳行

発表では大学図書館長としての仕事,図書館学における功績,田中稲城との関係,日本文庫協会発足のころなどについて紹介されました.ときおり笑いを挟みつつ楽しそうにしゃべるから,聞いてるひとも自然と笑顔になる.そんな発表.イケメンはずるいですねー.国文学専攻の和田は働きながらも翻訳やら論文やらを多数発表しており,長尾さんによると「もー,書きすぎだよ和田w」ということなんですが,なぜか大学図書館について論じたものは1本もないと言われているそうです.でも「図書館運動の第二期」という論文はちゃんと読むと大学図書館のことを言っていると言えるのでは,というのが長尾さんによる評価でした.

なお,長尾さん自らの発表記録が,関西文脈の会のブログに掲載されていますので併せてご覧ください.

資料は8ページのレジュメ+6ページの年表というがっつり気合の入ったものでした.発表前日の夜遅くまでかかって作成したものということです.ただ,お話はとても面白かったものの,その反面,しっかりしすぎていて隙を見つけられずツッコミづらかったなぁ……というのが自分の勉強不足や力量不足を棚に上げた正直な感想です.もうちょっと図書館史(というか歴史?)の話を聞きなれて,ツボを押さえられるようにならないとと思いました.


第10分科会「研究支援・文献管理ツール」(13:00~15:30) #dtk43_10

午後は坂東慶太さん(@keitabando)目当てでこちらに.

坂東さんとは2008年に初めてお会いして,2009年にDRF-Tech Kyoto→My Open Archive開発合宿で再開し,……これが実は3度目なんですね.驚くことに.最近はどちらかというとMy Open ArchiveよりもMendeleyやAltmetricsのひとというイメージができあがりつつある気がしますが,どんなことをやっていても変わらない,その「やりたいことは口に出してみれば叶う」という生き方をとても尊敬しています.本職もこなして,ふたりの男の子の父親も務めつつ,ボランティアと言いつつもとてもボランティアとは思えない活動をしている.そのどれひとつすらままならない自分はまだまだキャパが足りないなあと感じます.

なお,坂東さんはこの発表の前に京大のほうでも発表をされています.


この分科会では,座長の山下ユミさん(京都府立医科大学附属図書館)が「文献管理ツールはなんぞや?」というイントロダクションを話したあとで,

  • 天野絵里子さん(九州大学附属図書館)
  • 三角太郎さん(山形大学工学部プロジェクト支援室)
  • 坂東慶太さん(My Open Archive)(資料
  • 林賢紀さん(農林水産研究情報総合センター)(資料

の 4人による事例報告が行われました.当初この分科会がどういう構成を意図していたのかは分からないのですが,結果としてはイントロ+事例報告各30分+休憩5分+質問大会10分というものになりました.このメンツならパネルディスカッションが見てみたかったと後から思ったり.


山下さんのイントロは「いま文献管理ツールについて語るならこうなるだろうな」というスタンダートな内容でした.文献管理ツールの基本機能としてデータ登録,データ管理,参考文献リスト出力を述べたあとで,EndNote,RefWorks,Mendeleyという3つのツールの概要を紹介.

天野さんからは九州大学で導入しているRefWorksの話を中心に.天野さんが実際にRefWorksをどのように使っているかという話を交えたデモが良かったです.論文の本文ファイルはRefWorks上ではなくDropboxに保存して,各PDFファイルには著者名と出版年を入れることで RefWorks上のレコードと結びつけている,とかね.最後にこれからの研究支援として,information professionalの役割は「ウェブ技術とあらゆるリソースを組み合わせて研究・教育・学習を支援する情報環境をデザインする」ことだという話.いつもの「Have fun!」で締め.

大学図書館から研究支援部署に異動した三角さんからはディープな話が.残念ながらオフレコ話が多いということで中継は不可でした(とはいえそんなにマズイ話があったとも思えない).差しさわりがなさそうなレベルで紹介すると…….研究支援には直接支援と間接支援があり,大学図書館は直接支援だが大学事務職員の仕事の多くは間接支援であること.科研費や寄付金などの研究費の違いについて.大学図書館員のスキルは研究支援業務に生かせるかどうか.など.単体としては面白くて勉強になるお話だったのですが,今回の分科会のなかにはうまくハマってなかったのではないかというのが正直な印象です.ぜひ取り出して別の企画のなかに埋め込んでみたい.リサーチアドミニストレータとか.

続いて坂東さん.昔はKeynoteでしたが最近は Preziが多いですね.いずれにしても美しく,派手なプレゼンです.「Visualization of Research」と題し,文献管理ツールに止まらないMendeleyの側面について,坂東さんのタイムラインに沿って紹介していくという内容です.Mendeleyには,セルフアーカイビングプラットフォーム,そして新しい研究評価指標の場という側面があるというのがコアメッセージです.前者が My Open Archiveに,後者が最近話題のAltmetricsにつながるものですね.坂東ファンとしては基本的に知っているストーリーですが,これまでの活動の足どりとともに見せられると筋が通ってるなぁと思わされます(御本人いわく「筋が通っているように見せているだけ」ということですがw).(まだあまりよく理解していないSymplecticとも関係するらしい)機関リポジトリへのデポジットクライアントとしてのMendeleyというアイディアも面白かったです.

発表を聞きながら考えていたのは…….Mendeleyには数億件のメタデータを収録した大規模論文データベースとしての側面もあるのですが,ディスカバリプラットフォーム,あるいはオープンなWoSとしてのMendeleyについて妄想するのもちょっと楽しいです.また,改めて感じたのは,Mendeleyが文献管理ツールの枠をマジで超えようとするならばまだ何かが足りないぞということでした.研究者総覧,機関リポジトリ,文献管理ツール,…….大学で導入されている様々なシステムをがさっと置き換えることができそうでいて,でも今のままでは無理な気がする.不足しているのは何だろう?

最後に林さん.2006年当時に構想していたアイディアがMendeley機関版ならできるのでは,ということでした.農林水産研究情報総合センターは2012年8月1日に日本初となる Mendeley機関版の導入を発表しました.林さんは2011年2月のCode4Lib Conferenceで機関版のプロトタイプを見せてもらい,2011年12月のSPARC Japanセミナーの直後から導入に向けて動き始めたそうです.予算の確保,Twitterでの研究者ヒアリング,トライアルを経て導入.このスピード感はさすが林さんだなあと.


最近の文献管理ツールを見ているとソフトウェア開発における統合開発環境(Integrated Development Environment:IDE)を連想します.IDEと同じように,研究においてもIntegrated Research Environmentとでもいうような統合的な環境を構築できるんじゃないか,文献管理ツールの延長線上にはそれがあるんじゃないか.なんて思っています.天野さんが示した「ウェブ技術とあらゆるリソースを組み合わせて研究・教育・学習を支援する情報環境をデザインする」という方向性とも絡めて考えたいところ.


行かなかった第5分科会「類縁機関との連携」

結局行かなかったわけですが,かなり迷った分科会です.テーマとなっているMALUI連携の話よりも,大学における大学図書館,大学事務職員と大学図書館員の関係,大学経営に資する大学図書館サービス,といった問題のほうに興味があります.もし大学に戻ることがあったら真剣に考えたい問題のひとつです.

この1年くらい考えているのは,

ということに尽きます.

大学職員の仕事のベースには学術情報というものがあり,学術情報に関するサービスを行うのが大学図書館であろうと思います.国立国会図書館による国会議員へのサービスや公共図書館による行政・立法支援サービスと同様の構図で,大学経営(という言い方が大げさなら大学職員のふだんの仕事)をサポートするサービスを大学図書館で行えないものだろうか.自信はないですが,そんな方向性であれこれ考えています.