薬学図書館の57(4)が図書館システム特集―Ex Libris社のAlmaについての記事も

『薬学図書館』57巻4号が図書館システム特集を組んでおり,以下の9本の記事を掲載しています.

  • 個別サーバー型図書館システムの現状とクラウド型図書館システムの登場
  • 図書館システムCARIN-iの取組み-OPACからディスカバリーインターフェイスへ-
  • クラウド型図書館システム「BABEL」
  • 図書館システムE-Cats Library製品紹介
  • 大学図書館システム「iLiswave-J V3」
  • 中小規模図書館に最適な図書館システムパッケージソフト「情報館v7」のご紹介
  • 「大学図書館システム ネオシリウス/ネオシリウス・クラウド」のご紹介
  • 図書館システム「BLABO」for WEBについて
  • 次世代型図書館業務管理システム「Alma」


冒頭の黒澤さんのが総論で,それ以外は各ベンダから自社の図書館システムの現状を紹介する記事になっています.メジャーどころだと……RICOH(LIMEDIO)が入ってないですね.このうちクラウドベースのシステムは,BABELWindows Azure採用),ネオシリウス・クラウド,そして唯一海外ベンダから入っているEx Libris社のAlma,の3種でしょうか.特に,Almaに関する日本語情報は珍しい(少なくともまとまった文献としては初めて見たような)ため非常にテンションがあがりました.特集に加えてくださった編集部と著者に感謝です.

取り急ぎ,Almaと黒澤さんの記事を読みましたので軽くご紹介.




黒澤公人「個別サーバー型図書館システムの現状とクラウド型図書館システムの登場」

9ページ.ICUの黒澤さん.図書館の電算化の歴史を書誌フォーマットの話を中心に振り返り,現在登場しつつあるクラウド型図書館システムの特徴や利点・欠点を整理し,今後の展開についても予測を述べる,という感じの内容です.主に大学図書館が念頭に置かれています.

歴史の部分では,NACSIS-CATとNACSIS-CATPフォーマットが登場する以前に,JP/MARCとLC/MARCを併用する大学図書館システムが存在していたという話が興味深かったです.なお,そのようなシステムは「一時期普及したが,現在はほとんどみられなくなった。」ということです.

第5節「海外の図書館システムが日本で普及しない理由」では,「大学図書館システムの書誌フォーマットがNACSIS-CATPで,海外で採用されているMARC21形式を採用していない」からであると指摘.そして,海外から影響を受けることはあるものの「日本の図書館システムは,日本独自に発展していくしかない」としています.ふむ.個人的には,日本の大学図書館がMARC21ベースになる可能性はゼロではないと思いますが.

本題となる第9節「クラウド型図書館システムの登場」では,クラウド型図書館システムを導入するとどういうことになるのかを解説しています.具体的な記述がとても読みやすく,図書館システムの経験が豊富な黒澤さんならではだなぁと思いました.また,クラウド型図書館システムはその特徴から中小規模図書館を中心に普及していくものの,大規模館での導入は難しい場合があり,しばらくは従来のような図書館システム(ウェブ版というかクライアントサーバ版というか)もなくならないだろうと予測しています.この節で述べられているクラウド型図書館システムの―図書館にとっての,ベンダにとっての―長所と短所を簡単にまとめてみます.

図書館にとっての長所

  • サーバを管理する必要がなくなる→コスト,人員,スペースのカット
  • 一定期間(ex. 5年)サイクルでのリプレイスが不要になる
  • システム負荷について考慮する必要性が薄くなる

図書館にとっての短所

  • 個別カスタマイズが難しい→大規模図書館では導入が難しいかも
  • クラウド側でトラブルが発生すると全導入館で利用できなくなる
  • ネットワーク帯域の影響→ネットワークの多重化が必要に?
  • 外部サーバに利用者の個人情報などを保管することのセキュリティ
  • システムがどんどんアップデートされていくことによる影響

ベンダにとっての長所

  • 新規館追加に必要なマンパワーが比較的少なくなり,導入館の増加が可能になる
  • 多様な価格モデルを提案できる(1年契約,5年契約,10年契約,……)
  • 導入館が増加すればクラウドに全国の図書館の持つ様々な情報が集まってくる→それを利用した新サービス?

ベンダにとっての短所

  • 図書館側の経費負担が減り,ベンダの収入も減る
  • クラウド環境を用意するための初期投資が大きい→小中規模ベンダが淘汰?

この節では,特に,

図書館側は,定期的なシステム更新をしなくなるので,自館の図書館システムという概念が希薄になり,図書館システムに対する関心が低くなっていくと思われる。

という一節が大変興味深かったです.それは図書館にとって良いことなのかそうではないのか…….




伊藤裕之「次世代型図書館業務管理システム「Alma」」

6ページ.Ex Libris社の国内代理店であるユサコの伊藤さん.Almaは,従来Ex Librisが提供してきたSFX,Verde,DigiToolなどのさまざまなシステムを統合して単一のプラットフォームで提供するもので,紙・電子・電子化資料など資料の種類を問わずに一括して扱えるというシステムということです.

こちらは気になったポイントを箇条書きで記します.

  • Almaの機能の中心となるのは「業務フローエンジン」と「ルール」(各図書館での設定を記述)
  • 業務フローエンジンはルールに基づき可能なかぎり業務を自動化し,図書館員が意思決定に時間を費やせるようにする
  • Almaはタスクベースの業務フローを構築する
  • Almaの基本機能として,閲覧管理,延滞料処理,オフライン貸出返却機能,相互貸借,利用者サービス,利用者情報の管理,資料収集モジュール,メタデータ管理サービス,外部システムとの連携,について紹介されている
  • 発注業務フローのイメージ図が掲載されている
  • メタデータ管理サービスの画面が掲載されている(画面右上に「Tasks」という文字列があって,クリックすると処理しないといけないタスクがずらーっと出てきそうな感じ)
  • オフライン貸出返却機能では3Gないし4Gのモバイルネットワークを利用できる
  • ILLでは依頼館の決定を自動的に行う(これは北米ではふつーなので驚かない)
  • OPACは提供せず,ディスカバリサービスのPrimo(別途契約が必要)が利用者向けインタフェースとなる
  • リンクリゾルバはAlmaの一部として提供される(別途契約は不要)
  • WorldCat Localに所蔵データを常時自動出力することが可能(リアルタイムってこと?)
  • 統計機能(Alma Analytics)については別に節を立てて紹介している.サマリーデータをダッシュボード的に表示することが可能ってのがいいなあ! APIによる出力も可能
  • セキュリティについても別立て.AlmaはEx Librisのプライベートクラウド上に構築され,「クラウドセキュリティおよび機密保持は,クラウド・コンピューティング環境における最大の懸念事項である」.それに対してISO/IEC 27001:2005やISO/IEC 27002に準拠した「多層防御型セキュリティモデル」を開発している
  • 「サービスレベルアグリーメント(SLA)は,99.5%以上を保証」→稼働率のこと?
  • 世界で70以上の機関がAlmaを選択.
  • 2012年7月11日にBoston Collegeが正式運用を開始
  • 2013年にPDAに対応する予定

各システム共通のシートのなかで「NII-CAT自動登録」に「対応」としているのに一番反応しました.どういうことだろう……?

数年前にEx Libris社のひとにAlephのデモをしてもらったときに,AlephがNACSIS-CATPに対応する可能性はあるのかどうかという話が出て,@egamiday が「やると言っててても実際にできるまでは信じたらいかん」と言ってたのを思い出しました.