読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

第6回SPARC Japanセミナー2012



というわけで,2012年12月4日にNIIで開催された,第6回SPARC Japanセミナー2012「オープンアクセスによって図書館業務はどう変わるのか~図書館のためのオープンアクセス講座~」の司会進行を担当してきました.こういう機会は初めてのため,オファーをいただいたときはちょっとビビリましたが,仕事は断るなという誰かの言葉を胸にお受けすることにしました.

セミナーのレポートについてはいつものように id:min2-fly くんがブログにまとめてくれています(参加者が出張報告を書くための参考にできるよう当日中にって,なんていうサービス精神).早くもTogetterもできてるようです……(@toarusakurajima 氏の手により余計なツイートが多数含まれているような気がしますが).



今日のキーワードはひとえにAPC(Article Processing Charge)だったと思います.APCはオープンアクセス誌に論文を投稿する際に著者が支払う費用のことで,出版社はこれをもって購読料の代わりにするというわけです.オープンアクセス誌(ゴールドOA)が広がっていく時代に,大学図書館はAPCに絡むのか絡まないのか,関川さんの言葉を借りれば「絡んでいく覚悟があるのかどうか」,そこが分かれ目だろうと.ディスカッションの前半では主にこの点について議論が交わされました.マーティン・リチャードソンさんから出た“APC Big Deal”という表現は初めて耳にしましたが興味深いものでした.このあたりは後で id:min2-fly くんの記録を見直してしっかり復習したいです.

APCという単語を今日初めて知ったという方も多かったと思いますし,そういった意味ではやはりちょっと難しいという感想を持たれたかも…….ただ,図書館員が集まってこれだけAPCについて話題にするという場はこれまでになかったのではないか.@tnanako64 さんの以下の所感には私も同意です.



APCに話題が集中するのは予想できていたことでした.個人的に最も興味を持ったのは「紙→電子→OA」という移行をめぐる議論でした.これに関して守屋さんは,紙から電子への移行に比べれば,電子からOAへの移行によるインパクトは少ないとおっしゃっていました.それくらい電子に移行したときの図書館業務への影響が大きかったということなのでしょう.対して関川さんは(立場の違いによるのかもしれないとしつつ)どちらかというと電子からOAへの移行のほうがインパクトが大きいのではないかと発言されました.OAでは(APCに絡まなければ)大学図書館をすっ飛ばして著者と出版社だけでモデルが成立しうる,と.

……これを聞いて私はこんなことを考えました.紙から電子への移行は,媒体は変化しつつもパッケージ(タイトル)レベルという点では変わってないのではないか.流通の仕方は異なれど,その単位は同じままというか.一方,電子からOAへの移行は,媒体は同じ電子のままだけど,パッケージレベルからアーティクルレベルへという変化が起きるのではないか.そんなことを考えつつ,APCとPPVだけで回る世界というのを連想しました.その環境でジャーナルという単位にどんな意味があるのだろう.研究者にとって一番大切なものが“査読の質”なのであれば,それをジャーナルという単位に求めるのではなく,査読委員会という組織に委ねることも可能なのではないか.どこのジャーナルに載ったかではなく,どこで査読されたかという情報が重要視される世界.そんなことを妄想しました.妄想ですよ.



セミナー終了後の情報交換会では,SPARC Japanセミナーでこんなに図書館員が参加してくれたのは初めてじゃないかと聞きました.図書館員をメインターゲットに開催したセミナーでそういった成果が得られたのは本当に嬉しいです.



なお,私の仕事のひとつは冒頭にセミナーの趣旨説明を行うことでした.10分間.この短い時間で自分を呼んだ価値があったかどうかが判断されるというのはプレッシャーでした.事前にNII高橋さんとお会いできるチャンスがあったので打ち合わせをしていただき,方向性や“肌感覚”(地方にいる人間にとってはこういうのが大事やと思う)を掴みつつ.読み原稿も用意していつになく練習も重ねましたが……今はなんかうまく喋れなかったなあという思いでいっぱいです.悔しい.気分を切り替えて残りの時間は実況ツイートとタイムキープに集中しました.時間については及第点だったかな,と思います.

そんな読み原稿を以下に晒しておきます.3000字くらいです.

皆さんこんにちは.本日はたくさんの方にお集まりいただき本当にありがとうございます.これより,第6回SPARC Japanセミナー2012を開催いたします.


最初に10分ほどお時間をいただいて,私のほうから,今回のセミナーの位置付けや主旨,プログラムについて説明いたします.


その前に自己紹介を少しだけさせてください.私は本日の司会進行を務める国立国会図書館関西館の林と申します.京都の隅っこから参りました.京都大学から関西館に出向して,現在は「カレントアウェアネス・ポータル」という,図書館に関する情報サイトを担当しています.そこで,オープンアクセスが進むことで大学図書館の役割はどう変わっていくのか?という記事を書いたことがきっかけで,今回お声がけいただきました.


さて,2012年度にはこれまで5回,SPARC Japanセミナーを開催してきました.テーマは,学術評価,電子ジャーナルプラットフォーム,科研費の改革,そしてeLifeという新しいオープンアクセスジャーナル.そして,10月の第5回は,オープンアクセスのこれまでの10年とこれからの10年について振り返るという場になりました.生命科学や物理学といった分野の研究者の方から,オープンアクセスに対する,率直で,なかなかシビアなお話をいただきました.とても刺激的な内容で,今後の図書館の仕事を考えるうえでのヒントがたくさん含まれていたと思います.発表資料は公開されていますのでぜひご覧いただきたいです.


そして,6回目の今日は「オープンアクセスによって図書館業務はどう変わるのか~図書館のためのオープンアクセス講座~」と題しています.つまり,今回のメインターゲットは図書館員の皆さんです.SPARC Japanセミナーは2003年から10年近くやっていますが,意外にもタイトルに「図書館」という文字が入るのは結構珍しいようで,1年に1度あるかないかというくらいです.このタイトルには,図書館員の皆さんにオープンアクセスのことを「自分たちの問題」として考えていただきたい,主催者側からのそんな願いを込めています.


オープンアクセスって,正直どうですか? オープンアクセスという単語を知らない大学図書館員はいないと思うのですが,なんだか難しいと感じているひとは結構多いんじゃないでしょうか.エンバーゴとかマンデートとかやたらとカタカナが多かったり,海外でどうこうとかいう話題が多かったりしますよね.オープンアクセスがただ単に,いろんな資料がウェブで無料で見られるようになってみんなハッピー!というだけだったら話は簡単なのですが,残念ながらそうではない,ようです.


図書館の仕事の基本は,資料を集めて,利用者に提供し,それを保存していくことだと思います.……そこで,例えばこんなふうに考えてみてください.もし,世の中の学術情報がすべてオープンアクセスになったら.図書館に行かなくてもウェブで読めるようになったら,と.図書館に行かなくてもいいだけだったら有料の電子ジャーナルでも同じことですが,この場合には図書館はそれらを契約するという仕事を行っていました.しかし,オープンアクセスの場合には,こういった契約業務すら要らなくなってしまう可能性があります.


そのほかの図書館業務でも,ILLや機関リポジトリのようにオープンアクセスから直接的に影響を受けるもの,ちょっと間接的になりますが情報リテラシー教育やディスカバリサービスといったものまで様々です.また,多くの資料がオープンアクセスで利用できるようになったということで,図書館の資料費が減らされる可能性もあるでしょう.あるいは,仕事が減ったぶん,これまでにできなかった新しい仕事に挑戦できるようになる,そんなポジティブな効果もあるかもしれない.また,どこの図書館でも同じ資料が利用できるようになっていったら大学図書館ごとの違いっていうのはどこで決まるんだろう,これまでにはないような差別化や協力関係が生まれたりするのではないか.そのあたりも興味深い話題だと思います.


私は京大時代にILLを担当していました.直接利用者の役に立つことができて楽しい仕事なのですが,資料をコピーして郵送したり,本を小包にしたり,と結構面倒くさいもので,オープンアクセスによって仕事がなくなったらいいなぁなんて思っていました.実際にはなぜか忙しくなっていく一方でしたが…….とはいえ,そうやって本当に仕事がなくなってしまったらどうなるのか.それに,ちょっと青臭いですが,仕事がなくならなければ良いというものでもないと思います.仕事はかろうじてあるけど,じり貧状態で,やっていても毎日あんまり楽しくないというのはやだなぁと思います.この先もずっと前向きに仕事をしていくためにも,受け身でいるのではなく,オープンアクセスの問題を「自分ごと」として考えないといけない,そう思っています.


もしオープンアクセスが利用者にとって良いものであるのだったら,自分たちにどのような影響があろうとそれを推し進めていくのが図書館員というひとたちのメンタリティだろうと私は思っています.そのような状況で,図書館と図書館員の役割をどう位置づけていくのか.研究者から求められるものはどう変わっていくのか.経験の浅い私には見えていないことが多いですが,少なくとも「何も変わらない」という道だけはないというのははっきりと言えます.フロアの図書館員の皆さんには,ご自分がこれまで経験されてきた仕事や現在担当されている仕事が,オープンアクセスが進むことでどのような影響を受けるのか,仕事が減るのか増えるのか,あるいはがらっと変わってしまうのか,そんなことを思い浮かべながら聞いていただければと思います.そうして心に浮かんだ素朴な疑問を,ぜひ質疑応答で発言してみてください.また,帰ってから職場で話題にしてみたり,ブログやTwitterに書いてみたりとしていただければと嬉しいです.


さて,趣旨説明は以上にして,残りの時間で本日のプログラムを簡単に紹介いたします.


今日は13時から17時までの4時間のセミナーとなっております.前半の1時間半で基調講演を2本,10分間の休憩を挟んで,後半は2時間のパネルディスカッションを行います.


前半.基調講演1本目は,元オックスフォード大学出版局のマーティン・リチャードソンさんの「オープンアクセスの将来像」というお話です.海外を中心にこれまでのオープンアクセスの動向を振り返っていただきます.2本目は,筑波大学附属図書館副館長の関川雅彦(せきかわ・まさひこ)さんの「日本の電子ジャーナルとオープンアクセスをめぐる現在と将来予測」というお話です.日本の状況や日本の大学図書館への影響についてお話いただきます.それぞれ若干ですが質疑応答の時間も予定しております.前半でオープンアクセスについて勉強あるいは復習していただければと思います.


続いて後半のパネルディスカッションは「オープンアクセスは図書館の仕事をどう変えるか?」というテーマです.パネリストは次の5人の方々.基調講演をいただいたマーティンさんと関川さん,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の守屋文葉(もりや・ふみよ)さん,旭川医科大学図書館情報課長の鈴木雅子(すずき・まさこ)さん,一橋大学附属図書館の小野亘(おの・わたる)さん.そして,モデレータは慶應義塾大学日吉メディアセンター事務長の市古みどり(いちこ・みどり)さんにお願いしております.主に,守屋さんからは電子ジャーナルなどの契約業務,鈴木さんからは機関リポジトリ,小野さんからは目録・レファレンス・ILLなど様々な業務という観点から語っていただければと思います.このように多様なバックグラウンドをお持ちの5人の方々に,オープンアクセスが図書館の仕事をどう変えていくのかについて熱い議論を行っていただきたいと思います.どうぞご期待ください.


以上で林からの概要説明を終わります.


それではマーティンさん,基調講演をお願いいたします.(以上)