#sharedprint

http://www.lib.keio.ac.jp/jp/sharedprint/

2014年2月28日に慶應義塾大学三田キャンパスで開催された、KEIO大学図書館国際フォーラム「大学図書館における冊子体コレクションの将来~日本版Shared Printの可能性~」に参加してきました。





フォーラムのテーマは「シェアードプリント(shared print)」。主に、図書の。

シェアードプリントについては、『大学図書館研究』Vol.95(2012)に翻訳記事が3本掲載され、「学修環境充実のための学術情報基盤について(審議まとめ)」(2013)でもちらっと登場していますが、日本ではまだまだ耳馴染みの薄い単語かな。シェアードプリントがテーマのまとまったイベントが開催されるのは今回が初めて(のはず)。

そんなチャンスは逃したくないということで行ってきました。当日はテクニカルな細部をきっちり理解するというよりは、空気というかノリというかそういうものをざっくり感じようという意識でややぼんやりと話に耳をかたむけていました。

久しぶりに実況ツイートもしてみましたが(特に基調講演は途中で止めたくなるくらい)難しかった……あとで同じくツイートをしていた @swimlibrarian さんと反省会をしました。@tzhaya さんが以下のようにまとめてくださってます。

なお、フォーラムの資料は今週中にウェブサイトで(一定期間だけ?)公開される予定らしいです。

また、今月末刊行の『カレントアウェアネス』No.319にシェアードプリントの動向レビュー記事(by 名古屋大学の村西さん)が載る予定ですのでそちらも期待していただければ。




シェアードプリントとは?

基調講演より

参加者がどれくらいシェアードプリントに対してイメージを持っていたのかは分かりませんが、フォーラムの基調講演の序盤でマルパスさんが出した次のスライドはかなり意味が分からんかったんじゃないかなあ……。

Shared Print

a strategic reconfiguration of stewardship arrangements to:

  • Maximize collective capacity to preserve, provide access to the past and future cultural/scholarly record
  • Rationalize and redistribute stewardship roles across library system
  • Reduce costs of managing low-use print inventory
  • Improve alignment between library service profile and institutional mission

part of broader shift from institution-scale to group-scale solutions

後でじっくり読みなおすと込められた細かいニュアンスを読み取ることもできるのですが、いきなりこの抽象的な定義を数分間で披露するというのはどうなんだろうか(そういう意味では、スタンボーさんか加藤さんの報告をファーストに持ってきたほうが参加者の理解のためには良かったはず)。

ただ、定義がこのように抽象的なもの(だいたいstewardshipのreconfigurationって突然言われてもさ)になるのは、シェアードプリントというものが本質的に抽象的なものだからなんだろうということに気づくことができました。端的に言うと、コレクションの「仮想化」じゃないかと理解しています。それは「共同書庫(shared storage)」の単純さと対照的です。


審議まとめより

一方、「学修環境充実のための学術情報基盤について(審議まとめ)」ではもうちょっと分かりやすく述べられています。

図書館が所蔵する冊子体(紙媒体)の図書や雑誌を、複数の図書館が共同で保存・管理すること。方法としては、各図書館がそれぞれ担当する資料を決め、それを各図書館で責任をもって保存する「分散型」と、各図書館が共同で使える書庫を用意し、対象となる資料をその書庫へ移送して保存する「集中型」がある。(p.11)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/08/21/1338889_1.pdf

ここにある「分散型」と「集中型」という分類は重要です。

また、p.6では以下のように述べられています。

○ 大学の状況に応じて、以下に示す方法などを参考に、学術資料のより効果的・効率的な保存方法の導入を検討し、図書館における空間の有効活用を推進することが考えられる。
① 紙媒体資料について、電子的保存・流通への対応と合わせて、各資料を紙媒体で維持・提供する必要性についての検討を行う。
② 蔵書を集約化する自動書庫の導入や大学単独もしくは共同で遠隔地に保存書庫の設置について検討する。
③ 大学内においては中央図書館と部局図書館、大学外に関しては国立国会図書館を含めた複数の大学図書館の間で、紙媒体の重複保存を抑制するシェアード・プリントの導入について検討する。

シェアードプリント→空いた空間の有効活用→学修支援、という文脈になっています。(後述する国立大学図書館協議会の報告書では「資料保存」というカラーも濃いような。)




フォーラムの内容と感想

プログラムは第一部=講演と第二部=パネルディスカッションという構成でした。



第一部は

  • 基調講演:Constance Malpas (OCLC Research), "Many paths, one moon: The future of academic print management in Japan"
  • 米国事例報告:Emily Stambaugh (California Digital Library), "Shared print in action, frameworks and futures"
  • 日本事例報告:加藤信哉(筑波大学附属図書館副館長)「日本:状況報告―共同保存図書館構想からシェアードプリントへ」

です。



マルパスさんの基調講演はタイトルがすてき(日本と米国で歩む道は違っても、目指すところは一緒だよ)。シェアードプリントに関する概念のうち「rightscaling stewardship」がかなりプッシュされていたという印象です[*1]。シェアードプリントをどのくらいの規模(参加機関数)で行うのか、適切なサイズを見極めることが大切だという感じでしょうか。そのためにはどのような資料がどのように分散しているかを把握することが重要ってことで、以降、WorldCatのデータを使って日本資料の状況が分析されていたのかなあ(rel: スライド7枚目「Implications」)。いまいち基調講演のストーリーラインが把握できてないわたしです。

配布資料として、OCLC Researchが2013年12月に出版したごついレポート「Understanding the Collective Collection: Towards a System-wide Perspective on Library Print Collections」が参加者全員に渡されました。出たときにPDFはざーっと見ていたけど、冊子体版なんてあったんだ……重い……。OCLCがシェアードプリントに熱心なのは知っていたんですが、基調講演を聞いてその理由がやっとつかめたような気がします。シェアードプリントっていうのが実にOCLC的なテーマ("World's libraries. Connected.")なんだなあと腑に落ちました。



米国事例報告では、カリフォルニア大学のスタンボーさんが10年にわたる経験を披露してくださいました。あの大学は10校に分かれていて、学内でシェアードプリント(共同書庫を南北に2つ設置)を行っている。2004年から雑誌(JSTORとかIEEEとか)に着手し、WESTプロジェクトを経て、現在は図書のシェアードプリントに取り組んでいるという感じ。彼女のスライドでは「Shared Print and Shared Storage contrasted」と「What is different about monographs?」が必見。後者は、図書と雑誌の違い―メディアとしての違い、利用のされ方の違い、電子化状況の違い、などなど―についてまとめられています。雑誌でうまくいった手法が図書でも同じように通用するわけではない。北米でも試行錯誤の段階にあることが伝わってきました。



日本事例報告では、加藤さんから、国立大学図書館協議会による「保存図書館に関する調査研究報告書」(1994.3)および「学術情報資源への安定した共同アクセスを実現するために―分担収集と資料保存施設」(2001.6)というふたつの報告書が紹介されました。どちらもノーチェックだったので大変勉強になりました。20年前にそんな構想があったとは……と、幻の「国立図書館研究所」構想を思い出しつつ聞いていました。加藤さんは、この構想がうまくいかなかった理由はよく分からないとおっしゃってましたが、そこをきちんと分析することは重要な気もする。



休憩挟んで、第二部のパネルディスカッションでは寄せられた質問票に対する回答を中心に進められ、後半ではフロアにいらっしゃる識者数名からのコメントもありました。村西さんのコメントは非常にクリアで情報量も多く、本当にすばらしかった。千葉大・横浜国大・お茶大の3大学で分散型シェアードプリントが(3月には文書を取り交わす予定とか)、東海北陸地区の国公私立大学では集中型シェアードプリントがそれぞれ計画中ということで、展開に期待です。




おわりに

シェアードプリントについてはずっと追っかけてきたのでそんなに驚くような情報が得られたわけじゃないのですが、いろいろと気づきがあったので(「仮想化」「OCLC的」)はるばる参加して良かったです。

改めて、まずは共同書庫(storageをシェアする)とシェアードプリント(collectionをシェアする)の違いを理解することが基本だと思いました。その上で、発想を抽象化させていくと楽しそう。シェアードプリントでは実際の保存場所はどうでもよくて、資料の所有権がポイントになります。その際には、「自分たちのコレクション」という意識を捨てられるのかどうか、利用者(特に資料に対する出資者である教員?)の理解をどう得るのか、あたりが問題になるでしょう。テクニカルな課題に目を向けると、資料をシェアードプリントにしたらそのぶん統計や資産価値が「目減り」してしまうという問題がある。それに対して、意識の転換で対応するのか、制度を合わせていくのか。雑誌と図書の違いを踏まえて、どのように図書のシェアードプリントを実現するのか(あるいはしないのか)。



以前から地味に気にしているfloating collectionsもそうなんですが、

こういう、コレクションが「溶けて」いくイメージは実に好みです。(与太話ではなく、シェアードプリントとfloating collectionは自分の中で同じ領域に位置づけています。)

*1:最後のスライドに「I am glad to credit Lorcan DEMPSEY for developing "collective collection" and "right-scaling stewardship" concepts ...」とあります。