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図書館研究所あるいは「図書館の頭脳を持ちたいという夢」について

図書館史

まずはカレントアウェアネスの話から

NDLこと国立国会図書館の刊行物に『カレントアウェアネス』というものがあります.図書館や図書館情報学などに関する記事を掲載する季刊誌で,1979年に創刊,少し前に30周年を迎えました.カレントアウェアネスの各記事には「CA****」という通番が振られており,それによると,これまでに1767本の記事が掲載されたことが分かります.

このカレントアウェアネス,現在はNDL関西館の図書館協力課にある調査情報係が編集・発行をおこなっていますが,1979年の創刊当初は総務部企画教養課(内の図書館情報室)→1984年からは参考書誌部一般参考課(内の図書館学資料室)→1986年からは図書館協力部図書館研究所と,その担当部署は移り変わってきています.

刊行頻度も当初月刊だったものが,2002年に関西館に移ってからは季刊になっています.

また,当初カレントアウェアネスはNDLの内部資料(執務参考資料)として発行されていたものでしたが,館外からの要望が強かったらしく,1989年には日本図書館協会(JLA)を通じて館外にも頒布されるようになりました.この1989年以降(CA598〜)のバックナンバーはカレントアウェアネス・ポータルでも公開されています.(参考:『カレントアウェアネス』関連年表

……さて,ここで注目したいのは,この「図書館研究所」という存在です.

図書館研究所?

僕がこの存在を知ったのは,慶応義塾大学の田村俊作先生が書かれた「図書館研究所の夢:図書館研究所(NDL)のいまをめぐって」という文章がきっかけです.初出は1996年の『びぶろす』47巻10号.図書館研究所が1986年に(新館建設の際に)誕生してから10年という折に書かれたものです.田村先生は非常勤としてこの図書館研究所に関わってたんですね.

その冒頭を引用します.

図書館研究所が設置されて,この6月でもう10年になったという。規模の点でも,活動の点でも,もうすぐ50年になろうとする国立国会図書館の歴史全体の中で見れば,研究所の10年というのはそのごくささやかな一こまにすぎないのかもしれない。しかし,それは恐らく図書館関係者のある種のを実現しようとする努力の歴史だったのであり,これからも,人々に図書館の未来への希望を与える灯として,たとえ現実の成果がいかばかりのものであったとしても,決して消してはならない貴重なものなのだと思う。

続けて,

では,その夢とは何か。それは,図書館が,その時々の社会の要請に応えて,自己の存在基盤と運営の方向とを見定め,前進することができるように,関連情報を収集し,その情報に基づいて自ら研究し,さらにまた,そうして研究した成果を活かすべく構成員や関係者を研修する場を持つ,という夢,図書館の頭脳を持ちたいという夢である.

と語っています.なんか,すげえなと,正直.僕はふだんほとんどと言っていいほど歴史というものに関心がないのですが,この「図書館の頭脳を持ちたいという夢」という聞いたことのないフレーズになんだこれはと興味が湧きました.

読み進めてみると,図書館研究所は以下の業務を行うことになっています.

  1. 図書館及び図書館情報学に関する情報の収集並びに調査及び研究に関すること。
  2. 職員及び図書館関係者に対する図書館及び図書館情報学に係る研修の企画及び立案に関すること。
  3. 図書館の管理運営の技術的援助に関すること。

つまり,調査研究・研修・コンサルティングの3つです.おお,コンサル.と驚いたのですが,この段階では「組織的なコンサルティング活動は行われていない」とされています.その後はこういった調査研究を図書館で行うことの意義などについて説かれています(省略).

『図書館研究シリーズ』第36巻

こうして興味を持った図書館研究所について調べていました.

すると,この文章が,その後2000年に刊行された『図書館研究シリーズ』36巻に再録されていることが分かりました.この巻では国立国会図書館における研究・研修機能の充実に向けて―国立図書館としての役割」という特集が組まれており,他にも図書館研究所に関する文章が収録されています.以下目次.

  1. 特集にあたって
  2. 図書館情報学における研究開発・研修交流のあり方に関する予備的調査報告
  3. 図書館情報学における研究開発・研修のあり方について: 図書館情報学シンポジウム(第5回)の記録
  4. 図書館をめぐる動向と国立国会図書館: 平成10年度図書館情報学公開講座記録
  5. 日本の図書館政策と国立国会図書館(塩見昇)
  6. 米国の大学図書館における組織改革の動向(三浦逸雄)
  7. 公立図書館職員の現状と研修の必要性(松岡要)
  8. 図書館研究所設立のプロジェ(1961年,柿沼介
  9. 国立図書館研究所設立案(1962年,武居権内
  10. 図書館・情報サービスにおける研究開発の必要性 : 図書館研究所の発足に際して(1986年,丸山昭二郎=初代所長)
  11. 図書館研究所 その成立・現状・将来(1988年,丸山昭二郎
  12. 図書館に関する研究開発と職員研修 : 図書館の基盤強化のために(1991年,中森強=3代目所長)
  13. 図書館研究所の夢 図書館研究所 (NDL)のいまをめぐって(1996年,田村俊作)
  14. 図書館研究所構想とその実現(『国立国会図書館五十年史』より)
  15. 図書館・情報学の研究開発助成機関について : 米国の事例を中心に(柳与志夫)
  16. 図書館情報学の発展における全国的研究開発助成機関の役割 : BLRDDとCLRに見る(柳与志夫)
  17. イギリスにおける図書館情報政策の動向 : 図書館情報学調査研究プロジェクトセミナー(第10回)(金容媛)
  18. 付録1:図書館研究所関係年表
  19. 付録2:関西館研究・研修業務系実施計画案

ときは関西館誕生前,開館に向けた準備が進められていたころです.その関西館に設置が想定されていた「研究開発・研修交流センター」の計画に関連した資料がまとめられているのがこの『図書館研究シリーズ』36巻です.合計270ページほど.一連の検討の成果として作成された実施計画案が付録2として収録されています.

このレポートの中身は大きく3パートに分かれています.まず,(2)から(7)は1998年度から2000年度にかけて行われた調査プロジェクトの報告になります.例えば(2)では,そのころの学術情報センター(現NII)や国際日本文化研究センター,アジア経済研究所などの機関を調査していて,組織構成・予算・人員・施設設備・刊行物などが細かにレポートされていました.

次の(8)から(14)までが図書館研究所関係の記事です.最初に登場するのは,1961年という,図書館研究所が設立された1986年から遡ること25年という時期に,柿沼介という人物によって書かれた「図書館研究所設立のプロジェ」です(最初プロジェクトの誤植かと勘違いしたのですが,プロジェというのは「企画」を意味するフランス語のでした;).この3ページの文章にずいぶんエッセンスが詰まっているということが,レポート全体を通読したいまでは分かります.

図書館研究所そのものに関する文章ではないのですが,名古屋大学付属図書館の武居権内による(9)「国立図書館研究所設立案」はトンガっていて面白かったです.サブタイトルは「独立機関で職員数93名 総建設費は約1億円」というもので,「国立図書館研究所」(National Institute of Library Research)という機関を創ろう!という構想です.

残りは参考資料とされています.元千代田区立図書館でもあられる柳与志夫さんの若きころの海外レポートが載っていますね.

柿沼介というルーツ

前節で触れたこの柿沼介という人物の経歴を(10)「図書館・情報サービスにおける研究開発の必要性 : 図書館研究所の発足に際して」から引用します.

明治44年 東京帝国大学哲学科卒
大正2〜8年 東京日比谷図書館勤務
大正8年から満鉄図書館勤務
大正13〜15年 図書館研究のため欧米留学
大正15〜昭和15年 大連図書館長
昭和15〜23年 満州国立図書館嘱託,大連図書館顧問,科学研究所中央図書館などを歴任
昭和23〜38年 国立国会図書館

大連図書館長!

(14)「図書館研究所構想とその実現」によると,NDLが本館開館前でまだ赤坂にあったころの1951年1月23日に図書館学資料室というものが開室しており,それに先立つ1950年12月15日には一般考査部連絡調整課に図書館学資料室係が置かれています.その初代係長となったのが柿沼介ということです.この図書館学資料室は所属課が転々としていって,1963年には参考書誌部一般参考課内に置かれるようになり,1984年からはそこで『カレントアウェアネス』の編集が行われるようになった…….

という意味でこの柿沼介が(NDLにおける調査研究の?)ルーツなのかなと理解しました.

次は……

長くなるのでひとまずここまで.まだまだ分からないことはいろいろあるのですが,次は

  • 柿沼介という人物について
  • 2000年から関西館開館までの経緯

を調べてみたいなと思っています.特に後者については,付録2の案で示されている壮大な「夢」がその後どうなったのかが気になります.

なお,どうしてこんなことに興味を持っているかというと,先日の2012年度日本図書館情報学会春季研究集会で川瀬直人さんが発表された「大学図書館における研究開発の現状と課題に関する研究」にも通じるところですが,「図書館という現場で研究開発を行う意義はなんだろうか?」「どのような研究を行えばみんながハッピーになれるのだろう?」というような問題意識からです.

# 僕の図書館業界でのキャリアは某大学附属図書館の研究開発室でのバイトから始まっているのでした.