プリンストン大学図書館の新オンラインカタログのレビュー

米国のプリンストン大学図書館がオンラインカタログのシステムをリニューアルした。
http://dailyprincetonian.com/news/2016/09/u-library-introduces-new-catalog/

20年使っていた旧システムからの乗り換えで、オープンソースのBlacklightを採用している。18か月の開発期間を経てこの春にベータリリースしていたものを、新学期の始まるちょっと前というタイミングで正式にリリース。

以下、気になった点をいくつかメモしていく。

1. 検索画面

ウェブサイトの検索窓はこうなっている。プレースホルダには「Search for books, journals, videos, and more」とあり、articleのようなものは対象外にしたほんとに“catalog”であることが感じられる。
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詳細検索画面。一部の項目で検索値+ヒット件数が表示されるのに関心した。
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2. 検索結果一覧画面

https://pulsearch.princeton.edu/catalog?utf8=%E2%9C%93&search_field=title&q=topology

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ファセット

ファセットの項目自体はそう目新しいものではないけど、次のふたつにはおっ!と思った。

新着日をさまざまな期間で絞り込める。

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ファセットのなかで階層を実現している。

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配架場所地図

Stackmapというクラウドサービスを利用しているようだ。library, location, callnoという3つのレベルの情報を渡して、地図上の細かい場所までマークしている。これはいいね。

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http://princeton.stackmap.com/view/?callno=QA611.E53&location=sci&library=Lewis%20Library

3. 詳細画面

図書

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Subjectのbrowseを押すとよくあるブラウジング画面。
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staff viewを押すとMARCフォーマットで表示される。これもよくある機能だけど、リプレイスしても残すくらい職員からのニーズがあるってことなんだなあと。
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Send toはこんな感じ。Mendeleyはないんだな。
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雑誌

Other versionsとして電子版へのリンクあり。
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4. ツアー

トップページの「Take a tour of the New Catalog interface!」を押すとツアーが始まる。一般のウェブサービスではよくあるけど、図書館界隈で見かけるのは初めてかも。
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検索画面(3ステップ)→検索結果一覧画面(7ステップ)→詳細画面(7ステップ)と続いていく。
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Blacklightのデフォルト機能なんだろうか? 使ってるライブラリはたぶんIntro.js

Pure→researchmap連携

Elsevierのニュースレターからの引用だけど、他にニュースリリースが見当たらなかったのでメモしておく。

Pure 5.6 releaseにて、researchmap-Pureの連携機能がリリースされました。researchmap IDをエルゼビアが提供する研究者プロファイリングツールPureに登録すると、Pureに自動蓄積している自機関の名寄せ済み研究業績データをresearchmapへ送信することが可能になります。PureはORCIDへの連携も可能です。
http://jp.elsevier.com/newsletters/ag_eri/2016vol4

Pureの国内導入機関は以下のリストによると5大学。でも他にもあるはず。
https://www.elsevier.com/solutions/pure/who-uses-pure/clients

海外出張報告書2本+報告記事2本

今年はいつになく文章(量)を書いていて、最近になって立て続けにリリースされた(以下執筆順)。

1. OpenAIREのメタデータマネジメント調査出張報告書

http://id.nii.ac.jp/1280/00000204/

2月に北大(当時)の三隅さんと行ったドイツ(一瞬スイス)出張のレポート。初めての欧州出張。昨年暮れにばたばたと出張が決まり、後述する改修作業(3)をやりつつ、アポ取り・リサーチ・旅行事務・出張・レポート執筆を進めるという、なかなか大変な出張だった。歳の近い男子とふたり旅ということで、旅自体はとても楽しかった。ここで得られたものは(今後の自分にとっても)大きかったと感じている。

そういえば、帰国後は1週間空けて、また8泊9日の東京出張だった。そのブランクの1週間も東京でシンポジウム+国際会議参加という話すらあったんだっけ……(遠い目)。

写真はこちら。ゲッティンゲン大学図書館新館のファンキーな玄関がいちばん気に入っている。
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157665628546944

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2. 九州大学学術情報リポジトリ(QIR)におけるDOI登録

九州大学附属図書館研究開発室年報, 2015/2016, p.12-20
http://hdl.handle.net/2324/1669726

昨年度力を入れていた仕事、のほぼ全容を記したもの。大部分は5月連休に書いた(4月は業務体制が変わって本務でまったく余裕がなかった)。この事例が参考になるのかならないのかは心もとないけれど、リポジトリのDOI登録は事例報告が少ないので書いておきたかった。

3. 九州大学附属図書館の2015年度Webサービス改修プロジェクト

九州大学附属図書館研究開発室年報, 2015/2016, p.21-24
http://hdl.handle.net/2324/1669727

昨年度力を入れていた仕事その2、の概要を記したもの。大部分は5月連休に書いた。利用者向けニュースとして公開済みの情報がほとんどではあるけど、改修のポイントや裏話を加えている。

4. CRIS2016&OR2016参加報告

http://id.nii.ac.jp/1280/00000205/

6月に英国(セントアンドリュース)→アイルランド(ダブリン)と国際会議をふたつはしごした、ののレポート。OR2016のほうではポスター発表をした(5月連休明けからちまちま作成)。2週間近くというのも海外単独出張というのも初めてだったけど、たいしたトラブルもなく(途中でポスターケースをなくすこともなく!)無事に過ごすことができた。2月にドイツで会った方々、会いたかったけど会えなかった方々とも会うことができた。梅雨の時期にからっと涼しい国に逃避できたのもありがたかったし(ウールのカーディガン+ストールで過ごした)、22時過ぎまで日が暮れないので会議後はひたすら街を散歩しまくっていた。

昨年7月のオーストラリア英語プレゼンも含めると、ちょうど1年間(2015年7月~2016年6月)で3回海外出張に行かせていただいたことになる。なんというか、成長できたよなあ、としみじみありがたく思う。準備期間はプレッシャーやらなんやらでひどくナーバスになって消耗するけど……。

空き時間に南へ延びる郊外電車(DART)で出かけてきたDalkeyという小さな街が、帰国後に観た映画「シング・ストリート 未来へのうた」に登場して、そのかわいらしさをたっぷり懐かしんだ。

P6161520

写真はこちら。
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157668142964973
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670999769055
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670999911595
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157671000147185
https://www.flickr.com/photos/-o-o-/sets/72157670907102236

“Open by default”:2017年にはHorizon2020助成研究はオープンデータが全分野でデフォルトに

OpenAIREのニュースレターを読んで、びっくりした!

The scope of the Open Research Data pilot has been growing. In the initial 2014-15 work programme, 7 areas were selected to take part. This grew in the 2015-16 work programe, and from 2017 the pilot will be extended to cover all the thematic areas of Horizon 2020, making Open Access to Research Data the default.

https://www.openaire.eu/new-h2020-guidelines-for-data-management-plans


先月の時点でSTI Updatesで取り上げられていたけど、

オープンリサーチデータパイロット(ORD)(小欄記事)の範囲をHorizon 2020の全分野に拡大する。2014~2015年プログラムでは7分野であった。
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=8896

とあっさりめだった。


Horizon 2020では助成研究の成果論文のオープンアクセス化が完全義務化されたものの、研究データのオープン化については7分野に限定した試行に留まっていた。

てっきりHorizon 2020の期間中(2020年まで)はパイロットのまま行くものだとばかり思っていた。関係者からもそういう話を聞いたことがあったような……(うろ覚え)。論文のオープンアクセス化は前身であるFP7で試行してからHorizon 2020で完全義務化という流れだったので、研究データについてもHorizon 2020の次のプログラムのなかで全面展開するんだろうと見ていたのだった。

ここでmandateやobiligationではなく、“Open by default”という慎重な表現が使われているのは、研究データの場合は論文とは異なり扱いが難しいところがあるため、オプトアウトが前提になっているからなんだろう(“AS OPEN AS POSSIBLE, AS CLOSED AS NECESSARY”、“Grantees have the right to opt-out, but need to say why”)。

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http://liber2016.org/wp-content/uploads/2015/10/LEARN_Dechamp_Open_by_Default.pdf

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http://ec.europa.eu/research/press/2016/pdf/opendata-infographic_072016.pdf

PMC

CHORUSついでに、PMC(旧PubMed Central)の概要と現状についてメモ。いろいろ分かってなかった。

以下のプレゼン資料(2016.5付け)の情報が新しく、参考にした。
https://publicaccess.nih.gov/Managing_compliance_May_regionals%202016.pptx

4種類のデポジット方法

NIH(米国国立衛生研究所)のパブリックアクセス方針では、2008年に助成研究成果論文のPMCへのデポジットが義務化された。

デポジットの対象には出版社版(version of record)と著者最終稿(author manuscript)の2種類があり、デポジットの主体には論文著者とジャーナル出版社の2種類がある。従って、デポジット方法には2 x 2 = 4通りの方法があり、次のように呼ばれている。

https://publicaccess.nih.gov/submit_process.htm
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/about/submission-methods/

著者最終稿のデポジットはPMCに直接ではなく、NIH Manuscript Submission (NIHMS) systemというシステムを使う。ファイルフォーマットはWordや画像ファイルなどさまざまなものを受けつけている。Method DはCHORUSに近い感じと言えなくもないが、PMCで公開するためには著者が確認しないといけないらしい。
https://www.nihms.nih.gov/db/sub.cgi
https://www.nihms.nih.gov/db/sub.cgi?page=faq#format

以下でその理由について触れられていた。

著者原稿のデポジットは、著者、スタッフ、もしくは出版者が行えますが、最終的にそのプロセスを完了させるのは著者でなければなりません。公開される原稿のXMLバージョンが正確であり、当該著者の著作であると確認できるのは、著者のみです。
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2009/pdf/6/doc_Dr_Neil_Thakur_jp.pdf

出版社がデポジットするときは(出版社版でも?著者最終稿でも?)JATSでフォーマットするんだろうか。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/about/faq/#q15

著者最終稿の見せ方

機関リポジトリで著者最終稿を公開するときは、Wordファイルか、それをそのまま変換しただけのPDFファイルを使うことが一般的だろう。

PMCでは、XMLを採用してるおかげで、著者最終稿でもレイアウトが整っていて読みやすい。出版社版と区別がつかないから、目立つように縦に"Author Manuscript"とある。著者最終稿っていうのはこういう見せ方をしてもいいものなのか、と驚く。出版社版との区別のために見た目をいじってはいけないものだと理解していたけど、独自のスタイルを当てるのはいいんだろうか。それともPMCが特別扱いってことなんだろうか。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/about/authorms/

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モニタリングコンプライアンス

2016年5月付けのプレゼン資料の中で、NIH助成を受けた研究成果論文のうち、6割は著者最終稿で、4割は出版者版とある。(これだけ読むとデポジット率が10割と受け止められるが、デポジットされた論文のうち、ということなんだろうか。)

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https://publicaccess.nih.gov/Managing_compliance_May_regionals%202016.pptx (p.16)

著者最終稿の月別投稿数については公式のグラフが公開されている。
https://www.nihms.nih.gov/stats/

https://www.nihms.nih.gov/stats/aggregate.png

ちょっと古い数字になるが、全体のコンプライアンス率(compliance rate)については、2012年3月付けの資料のなかで「75%」とある。

This policy, and its subsequent fine tuning, has led to a dramatic increase in the number of NIH papers posted to PMC. Since 2008, NIH has been able to collect over 260,000 papers under the Policy. Overall, the compliance rate stands at 75 percent and continues to edge upward.
https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/public_access-final.pdf
via: http://blogs.nature.com/news/2013/07/nih-sees-surge-in-open-access-manuscripts.html

義務化前の話になるが、

2006年1月に,NIHは連邦議会に対してパブリックアクセス方針の履行状況についての報告書を提出した(4)。それによると,2005年5月2日から12月31日の8か月間で,同方針の対象となる論文約43,000編(推定値)のうち,実際に登録されたのは1,636編で登録率は3.8%(推定値)であった(もともとPubMed Centralに登録されている雑誌に掲載された論文や,2005年5月以前に発表された論文は該当しない)。
(中略)
3.8%という登録率の低さは,当初の目的と照らし合わせれば任意登録が政策としても戦略としても失敗に終わったと見てよいだろう。
(中略)
将来オープンアクセスの歴史が記される場合,NIH パブリックアクセス方針は必ず言及される出来事である。このまま壮大な失敗として終わるのか,それとも偉大な失敗として華々しい成功への転身をはかるのか
http://current.ndl.go.jp/ca1600

という当時の評価を読むと、現在の成功っぷりが感慨深い。

なお、機関担当者向けのモニタリングツール「Public Access Compliance Monitor」も提供しているようだ。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/utils/pacm/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/utils/pacm/static/pacm-user-guide.pdf


検索フィルター

https://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/ja16/ja16_pmc_filters_ref_list.html
https://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/nd15/nd15_pmc_filters_commons_articles.html

https://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/ja16/graphics/pmc_fig1.png

先日、PMCに新しいフィルターが追加された。

  • Author manuscripts(以前から?)
  • Digitized back issues
  • Open access
  • Retracted(以前から?)
  • Include embargoed articles

ここで、"Open access"は通常イメージしてしまうものではなく、Creative Commonsライセンスが適用されていて、再利用(reuse)も可能なものを指している。いや、これが正しくOAだろと言われたら返す言葉はないが。パブリックアクセスときちんと区別してるんだろう。

テキストマイニング等の用途で使えるよう、「Open Access」のもの全体や、著者最終稿全体でデータセットを作成して、バルクダウンロードできるようになっている。行き届いている。

The PMC Open Access Subset some or all openaccess content is a part of the total collection of articles in PMC. The articles in the OA Subset are made available under a Creative Commons or similar license that generally allows more liberal redistribution and reuse than a traditional copyrighted work.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/tools/openftlist/

The PMC Author Manuscript Collection (“Collection”) consists of articles in author manuscript form that have been made available in PMC in compliance with the NIH Public Access Policy or similar policies of other funders.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/about/mscollection/

また、retractされた論文もデータベースから削除するのではなく、検索・表示できるようにしているのもすごい。

PMC will not remove articles from its archive. However, in the event that a publisher discovers a serious problem with an article that exceeds the need for a simple correction or erratum notice, such as in cases of scientific misconduct, plagiarism, pervasive error or unsubstantiated data, then the journal must publish a notice of retraction.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/about/guidelines/#retract

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http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3151530/