カレントアウェアネス No.317感想

こっちにも手を出すと死ぬ気がしますが3か月にいっぺんだしまぁいいか…….「講評」は3か月後に某編集会議でやることになるので,あくまで初読時の新鮮な感想として刻んでおきたいと思います.





CA1798 -本と出合える空間を目ざして―恵文社一乗寺店の棚づくり― / 堀部篤史

ついに……! 締切前に異動しちゃったけど,この企画に携われて良かった.自分はおそらく日本でもっとも恵文社に通っている図書館員じゃないかと思うのです(帰り道なので週2回は立ち寄ってる).

CAで節の区切りをつけない記事は珍しいなあ.そして店内写真が二列ぶちぬき.

恵文社一乗寺店のような中型書店のやるべきことは、検索とは正反対の予期せぬ出合いを提供することだ。お客様が必要な情報をスムースに提供するのではなく、かつて私が三月書房で経験したように、時間をかけて「知らないことすら知らなかった」世界に触れるきっかけを作ること。

というのが肝だと思うのですが,どうしてもディスカバリーサービスのことを考えてしまいましたよ.





CA1799 -岡山大学における博士学位論文のインターネット公開義務化について / 山田智美

2011年度に実施されたOA義務化についての報告.このときは学位規則改正なんて思いもよらなかったわけですが…….このネタについては,以前このブログでも「岡山大学が学位論文等の公開を義務化してから1年目の結果」という記事を書いています.

一番ありがたかったのは,

2011年度に学術雑誌のリポジトリ登録義務化を当時の館長に要望したところ、共感した館長が積極的に大学の執行部に働きかけて博士学位論文と学内プロジェクト研究成果論文のリポジトリ登録義務化について賛同が得られた。その後、2011年11月に学内の役員政策会議で決定、12月学内部局連絡会で報告、という形で学内合意の形成ができた。

という情報.館長がキーだったのか.岡山大学の学内合意形成のプロセスはよく知りませんが,教授会などで教員サイドからの反発はなかったんんでしょうか……? これだけ読んでるとトップダウンですんなり決まってしまったというような印象を持つのですが.

字数的にはまだ余裕がありそうだし,教務サイドの方の苦労も盛り込んでもらえると嬉しかったかなあ.

締めの「学位規則を遵守できるよう学内関係部署との連携により対応していきたい」という一文はちょっと違和感.遵守……いやたしかにそうなんだけど,そんなルールを守ることを前面に出さなくても…….





CA1800 - EIFL:その組織と活動 / 井上奈智

キリ番は奈智さん.EIFLについて,事典的に使える記事.こういう記事ってほんと役立ちますよね.各国の or 国際的な主要機関についてはすべてこの手の解説記事が欲しいというくらい.

読み方は「えいふる」でいいのかな.中心的な活動は発展途上国における図書館の支援だと理解していたんですが,「設立当初は主に、中欧・東欧諸国の大学図書館や学術研究図書館のために、商用の電子ジャーナルを手軽な価格でアクセスが可能となるように、運動を繰り広げていた」らしく,そのスコープはもっと広かった.認識を新たにしました.

後半で紹介されている5つのプログラムのなかでは1つめのEIFL-Licensingがいちばん気になりました.商用デジタル資源の価格交渉を行ってディスカウントを勝ち取っているようなんですが,交渉材料はなんなんだろう.これってコンソーシアム契約なの?

締めの一文,いいですね.

日本は、EIFLが活動する国ではない。しかし、日本の図書館は、地方自治体の財政悪化による図書館予算の減少や、電子ジャーナルの高騰、図書館システム費用の増大など、EIFLが立ち向かっている課題と同様の問題を抱えているとみることもできるだろう。EIFLの発するメッセージには、開発途上国にとどまらず、日本でも参考になるアイデアが詰まっている。

# メモ:p.6, l.1「ヨーロッパ」→「欧州」





CA1801 - 「博士論文のエンバーゴを最大6年間に」:米国歴史学協会の声明とその反響 / 菊池信彦

このひとはまた刺激的でかっこいい記事を…….

いろいろ端折りますが,声明のポイントは「歴史学にとっての本の重要性にある」.私もそう思う.そしてこれがまさに自分がちゃんと理解できていないことなんだよなあ.「カレントアウェアネス-E No.243感想」でも書きましたが,

「「人社系OA」を論ずるうえでは人文系研究者にとって論文と本が持つ意味の違いに敏感になる必要がある」もよく言われるんだけど,わたしは“あのひとたち“がどうしてそこまで本にこだわるのかよく分かってないんだよなあ…….400ページの論文とかじゃだめなんだろうか.

という感じで.

最終節で

もとより筆者はAHAの声明の是非を判断する立場にはない。だが、史学畑の出身者として最後に一つ補足しておくとすれば、なぜAHAが本をそこまで重視したのか、歴史学において本を書くことがなぜここまで重視されているのかという点である。歴史研究者にとって本を書く、すなわち歴史叙述という行為は、個々の論文では難しい、歴史像の構築を目指して行われる歴史研究の営みである。したがって本がダメなら論文でといったように、容易に代替されうるようなものではない。それへの理解があって初めてAHAやクロノン氏の危機感を理解することができるだろう。

と菊池さんの見解がきっちり述べられているけど,これを読んでも理解したという気分にならない.やっぱ私には理解できないのかー.もう一回聞くけど,400ページの論文ではだめなんだろうか(数学ではたまにそういう大論文がある).ここでいう「本」ってなんなんだ.クロノン氏は紙/電子の違いにこだわっているわけではないようだけども.ここで冒頭の恵文社記事の「それでは、書籍の存在意義とは何か。」のくだりが頭にちらつきました.

細かいことですが「エンバーゴする」「エンバーゴにする」という表現が気になりました.あまり見かけないような…….

最後に一言.カレントでは9月末刊行号の場合は,通常は4月頭に執筆を依頼し,7月頭に締切があり,それから2か月かけて校正を行うというスケジュールになります.そんな媒体で「7月22日」に発表された声明を取り上げたっていうことは……,いや,ほんとおつかれさまでした!





CA1802 - 動向レビュー:2050年の情報専門職とその養成 / 田窪直規

書き出しが「筆者の任務は」となっていてw

この素材(IP2050)をどう料理されるんだろうと思っていましたが,こういう記事になったんだーと軽い驚きがあります.内容紹介というよりも「筆者の主張を展開」する記事.

上であらゆる情報と述べたが、その情報源は以下の4種に分類できよう。(1)従来の図書館情報学の守備範囲である図書・雑誌、データベース、Webなど(含、知的財産の情報源)、(2)レコード・マネジメントとアーカイブズ学の守備範囲である文書類、(3)ナレッジ・マネジメントの守備範囲である人の知識、(4)博物館学の守備範囲である“モノ”。

という部分をメモ.





CA1803 - 動向レビュー:社史の世界 / 熊谷尚子

自分の企画した記事を読めるよろこび.そんなの当然おもしろいに決まっている.社史なんていう単語にほとんど関心のなかった自分がこういう企画を立てるようになったのは,ひとえに @sght さんのおかげです.

第2節では

社史には、歴代の社長・役員一覧、生産高・利益の推移、従業員数の推移、組織の変遷、グループ企業情報、定款など、企業に関する総合的、長期的な情報が収録されている。ある業界や地域のリーディングカンパニーの社史は、その業界や地域の発展史と重なる部分が多いため、一企業にとどまらず、技術史、業界史、地域の産業史の情報を提供してくれる。生活と密接に関連のある産業の社史の場合は、文化史、風俗史の資料ともなる(8)。

から始まり,具体的な例をいくつか挙げて,社史の魅力を説いていて読み応えがありました.社史はさまざまな●●史を含んでいるということですが,図書館史はどんな領域と重なっているのかなぁ,なんて.後半に登場する日清の社史は,目録担当だったころに実物がやってきて皆でおもしろがったのを覚えています.

第7節で触れられている社史の収集の難しさは,神奈川県立川崎図書館の『社楽』でも読んでいましたが,経団連レベルの団体と連携して効率よくというわけにはいかないのかなぁ……と思ったら次節で「経団連レファレンスライブラリー」というのが登場しました.こんなライブラリーがあってもまだ難しいと言われているんだからやっぱだめなんかな.

第1節の「就職活動に際してウェブでは入手できない企業情報の情報源として紹介する記事が散見される」は大学図書館的には覚えておきたい.





CA1804 - 研究文献レビュー:学びを誘発するラーニング・コモンズ / 米澤誠

永田先生が「大学図書館で展開してきたLCを公共図書館に適用した」文献を書かれているそうですが,記事中では最後まで学校図書館に関する言及はなかったなぁ.むかしTwitterで聞いたときに,学校図書館でもラーコモっぽいものを設置しているところがあると聞いた覚えがあるんですが,文献にはなってなかったのかな(あるいは含める必要がないと判断されたのかしら).

最後の「拡張的学習支援」という節をもっとも興味深く読みました.初めて聞く用語.「アクディブラーニングからさらに踏み込んで、LCで学生と教職員、地域住民などが交流して新たな学びを創り出す活動への支援を、ここでは拡張的学習支援と呼びたい」ということですが.

このあたり,メモ.

このことは、呑海(77)が適切に指摘するように「従来サービスを受ける側であった利用者(学生)が、サービスを提供する側に立って」活動を行うことで、図書館側としては「『溶ける境界』を意識した、利用者とのより深い協働」につながるものである。その意味で学生との協働事例は、これからさらに注目される取り組みとなろう(CA1795参照)。

大学組織と社会を結びつける、「ナレッジ・コモンズ」という新たなキャンパス空間を提案する前田(83)の文献も、これからのLCを考える上で非常に示唆に富んでいる。

さて.ラーニングコモンズを使って主体的で能動的な学びを積み重ねてきた大学生たちは,卒業後にどんな働き方をするんだろうか.そんな学びが活かせるような働き方を許容する企業はどれくらいあるんだろうか.もしかしたらがっかりすることになるんじゃないだろうか.そもそもラーニングコモンズやグループ学習のはなしって就活でアピールするんだろうか.……っていうのが,ラーニングコモンズ/アクティブラーニングというテーマに関していちばん関心を持っているところです.だって自分だってそんな働き方してないですからね.





次は12月末!