カレントアウェアネス-E No.267感想
夏休み最終日。id:haseharu の新居に遊びに行って、あとはひたすら模様替えやら断捨離やらをしていたら終わってしまった。
今回は5本すべてが外部原稿(うち1本はインタビューだけど)。苦労がしのばれます。おつかれさまでした。
■E1608■ 図書館のインパクト評価のための方法と手順 ISO 16439:2014
永田先生。ISO 16439(中身は見れない)のオーバービュー。
「インパクト」という単語は最近よく目にする(主に「研究インパクト」として)。記事を読むと、評価手法が具体的に書いてあって、国際規格というか実践ハンドブックみたいだなという印象を持った。
で、「インパクト」というのはなんぞやということなんだけど、
それに対してこの規格は,未着手の,図書館がもたらす「変化」を対象とする。
インパクトとは「図書館サービスとの接触によって生じた,個人又は集団における異なり・変化」と定義され,個人に現れるインパクト(例:個人の能力や態度・行動の変化等),機関やコミュニティへのインパクト(高等教育機関のランキング等),社会的インパクト(例:社会的包摂や文化的遺産の保存などへの影響),それに経済的インパクト(例:投資収益率,地域経済への影響等)があげられる。
ということで、ポイントは「(図書館サービスのもたらした)変化」らしい。
自分のなかではこういったものも含めて「アウトカム」という単語でとらえていたので、混乱してしまう。アウトカムとインパクトの本質的な違いはなんなんだろう? ためしに「アウトプット アウトカム インパクト」でぐぐってみるといろいろ出てくる出てくる。これとか斜め読みしはじめてみて、ちょっとやっかいだなと思ってやめた。このへんに踏み込むとめんどうくさくなるので、今回の記事ではスルーされたのかしら。
■E1609■ 大学図書館員の将来を示唆する図書館評価会議<報告>
慶應・酒井先生。Library Assessment Conferenceの報告で、評価ネタが続く。
ポイントは、この、“図書館の評価が図書館を評価するだけで間に合うなら”[*1]という話でしょうね。
会議では様々な図書館評価の指標や実施事例などが発表されていたが,その範囲は広く,伝統的な図書館サービスの評価から大学における教育そのものの評価にまで及んでいた。
自分がむかし書いた「E1324 - 大学図書館の生み出した価値をデータに基づいて示す試み」や、先日読んだばかりの「平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目) - Clear Consideration(大学職員の教育分析)」を思い出しました。id:high190 さんのレポートでは、図書館以外の部署がいろいろなデータを保有していて、図書館のデータとあわせて分析したいなあという欲望を刺激します。
(まったく詳しくないので不用意発言ですが)図書館評価とInstitutional Researchはまだしっかりと出会っていないという印象で、カレントアウェアネス・ポータルでもこの用語は渋田さんのCA1817という例外を除いてまだ登場していないという状態ですね。この記事でも登場しなかったので、北米でもそんな感じなのかなと思いました。
■E1610■ マイクロ・ライブラリー憲章の制定と今後への期待
マイクロ・ライブラリーサミット(ナカグロはひとつでいいのか)の主催者である、礒井さん。
今年のサミットで採択された「マイクロ・ライブラリー憲章」のはなし。「マイクロ・ライブラリーとは何か?」と「そのために次のことを応援します」という部分に分かれている。この憲章を、次の記事のネタである「図書館学の五法則」(およびその再解釈)と比べてみるととてもおもしろい。それぞれにないものはなにか?など。またにくい記事の並べ方をしたなあ、依田さん。
冒頭で「マイクロ・ライブラリー(私設図書館)」としているのはちょっと気になる。公的なマイクロライブラリーはないという認識なのかな。あとすげーどうでもいい話だけど「本のないマイクロライブラリー」はこの憲章上は存在できないw 箱のふたを開けたら何も入ってないというマイクロライブラリーも、それはそれで哲学的。
与太はともかく、定義をさだめることで、「マイクロ・ライブラリー」の存在がくっきりし、さらなる広がりを目指すことが目的とされている。定義が決まればそこから漏れてくるものも出てくるはずで、今度はそっちの動きに注目したいところ。次はなにが出てくるんだろ。
■E1611■ 時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み
日本でランガナタンといったらこのひと、の吉植さん。
6月に出たOCLC Researchのレポートを、9月27日という命日に合わせて紹介。現代の利用者の情報行動にサービスを沿わせろというはなしで、それ自体は多く方がすでに知るところなんだろうけど、それを五法則の再解釈(順番入れ替え)という見せ方で出してきたのが非常におもしろい。レポート本文はけっこうごついのでまったく読んでません。。
記事はドラフトの段階で見せてもらっていて、第五法則の「share of attention」ってのがよく分からないよねーという話を吉植さんとしていました。E1387を書いたときに勉強したのでattentionはアレじゃないかというアドバイスをしたり。一方のshareについては「共有」だと思ってましたが、
さらに,今後も図書館が成長する有機体であることの重要性を確認した上で,成長可能な一つの領域として,“share of attention”を成長させること,すなわち,情報を得る上での人々のアテンションについて,図書館サービスに振り向けられる割合を高めることを挙げている(E1387参照)。そしてその成長を様々な観点から測定することの重要性を説いている。
という部分を読むと「市場のシェア」ということだったのかな。……というのも、オリジナルの第五法則で主語が単数形(A library)になっている点がかれこれ10年近く気になっていて、特にOCLCの“The world's libraries. Connected.”というスローガンを考えると、ここにツッコミを入れないわけはないだろうと思ったわけですよ。だから、share of attentionというのは、図書館というコミュニティ全体でアテンションを共有することで、Googleなどへ立ち向かおうという話なのかなと。
■E1612■ GreyNet Award受賞の池田貴儀さんにインタビュー
JAEAの池田さんインタビュー。CA-Eに誕生日を刻んだひとはさすがに初めてではないか。
受賞の一報[*2]を目にしたときから、震災アーカイブという注目の集まる活動で池田さんという個人が表彰されるというのが不思議だったんだけど、その謎が解けた感じ。
やー、すごいなー、と思いながら読み進めて、でも、最後の「ぜひ,一度,海外の会議に参加してみください。図書館や図書館員に対する見方が,ほんの少し変わるかもしれませんよ。」というメッセージがとても響いたのでいろいろどうでもよくなったw こんなふうに国際的な仕事ができるような人間になりたいものだ、そのためには何が足んないのかなあ、いつかは、などと思いつつ。
世に多数ある専門図書館のなかでも、友人が勤めていることもあってJAEAはいちばんなじみのあるところで。人数が少ないせいもあるのかもしれないけど若手にきっちりチャンスを与えていく組織だなあという印象を持ってます。
しかし「データ・フラッギング」、気になる。
次号は10月9日。2014年度も後半戦ですね。