カレントアウェアネス-E No.270感想

ここ3か月ほど隔週ペースで飛行機に乗っていたけれど、そんな出張シーズンも終わり。同じく8月の頭ごろから運営に関わっていた某キャンペーンも、ぶじに終わり。やっと一息つけて、2014年もエンドが見えてきた感じ。残る大物は大学院の授業の準備かな。。


今回は5本中、外部原稿が3本。


■E1624■ トークセッション「本+(hontasu)空間 vol.1」

奈良県立図書情報館の乾さん。

奈良県立図書情報館のイベントで知り合ったひとたちが、同館を舞台にイベントを開く、図書館をメディアとして使う、というすばらしい流れ。本プラスαっていうことでこのネーミングなんだ。余白を、広がりを感じる。ほんたす、という響きもいい。相変わらずいろいろうますぎてぐうぐう。

まずは恵文社の堀部店長らをお招きしてトークセッションを開いたそうで。後半、本屋で雑貨(など)を売ることについて字数が割かれていたのが面白かった。

三つの書店に共通するのは,本を売るということはもちろん,現在では珍しくはないが,雑貨を売り,イベントを開催し,飲食も提供するということだろうか。(中略)出発点は書籍単体の利益率の低さと「本屋をやり続ける」ことを両立させるための苦肉の策だったという(中略)「本が売れるためには,一緒に何を売ってもいい」ではなく,来店するであろう人たちの動向を見据え,その人たちへのメッセージがこめられており

ちょっと恣意的に略したけど……。これに対する考え方はひとそれぞれで、本屋には本だけあればいいというひともいるらしい。でも、京都に住んでたころは週に何回も恵文社に寄り道して、生活館で雑貨を見るような生活をしていた人間にとっては、本屋に雑貨があるのはものすごく自然、としか言いようがない感じだったりする。

そこにある本とまったく関係のない雑貨が売っているわけでは、ない。本を見ていると雑貨が欲しくなる。雑貨を見ていると本も欲しくなる。そんな空間ができていればそれでいいじゃないか、と思う。少なくとも自分にとって恵文社というのはそういう空間だった。そういう空間になっていた。世の中には本しか置いてないような空間のほうがレアで、自分たちの暮らしている家だってそうであり、いろいろなものが置いてあるほうがその本と暮らす自分もイメージしやすいんじゃないかと思うんだけど、純粋に「本」が好きなひとはそう考えないのかもしれない……。

なお、乾さんについては2年くらい前にこんな記事を書いていた(未だにお会いしたことはありません)。



■E1625■ Linked Dataプロジェクトの実態は?:OCLCによる国際調査

橋詰さん。

OCLCがブログでまとめてたアンケート調査の紹介。ブログの執筆者はKaren Smith-Yoshimuraさん(いつかお会いしたい……!)。

記事の最後に「日本では,国立国会図書館国立情報学研究所を除き,実装レベルでLinked Dataに取り組む図書館はまだあまりないが」とあったけど、何かのMLでこの調査結果が流れていたときにまっさきに気になったのはNDLのプロジェクトが含まれてない点だった。

利用の多いデータセットで挙げられていた「米国賞牌協会のシソーラス(1~5万件/日)」が謎めいている。原文には

American Numismatic Society’s thesaurus of numismatic concepts used by archeological projects and museum databases with 10,000 – 50,000 requests/day

として、Nomisma.orgというサイトが紹介されている。ここで提供されているAPIを眺めていると、さまざまな貨幣(コイン)のデータ(重さとか)を入手できるものらしいけど……、このデータセットで何してるの??

また、「組織外の団体・機関が関与するプロジェクトも多く,外部機関の関与がないのは17プロジェクトだけである。」のところ、どういう外部機関が関与しているんだろう。Linked Dataでよく名前を見かけるZepheria社は最大手だろうけどどれくらい食い込んでいるのかな。



■E1626■ 学術書のオープンアクセスの実現に必要なものは(英国)

武田さん。

OAPEN-UKによる人文・社会科学分野の研究者を対象とした意識調査。レポートは4部構成で、書き手としての立場と読み手としての立場について分けてまとめているのが特徴的。また、最終章がオープンアクセスをテーマにしている。

しかしモノグラフに関する調査って、前もやってなかったっけ、、、と思ったらあれはOAがテーマの調査だった(E1372)。その調査は有効回答数が690件ってことを考えると、今回の2,231件はすごい。OAよりはモノグラフというテーマのほうが入り口として食いつきやすかったのだろうか。

また,学術書出版経験者の69%が博士論文をベースに出版をしているが,英国における博士論文のOAでの提出の進展にともない,出版社側が博士論文ベースの出版を拒否するのではないかとの指摘もなされている。

はいずこも同じ、という。でも、OAの博士論文をベースにしてOAのモノグラフを出版するんだったら、(著者からAPCさえ貰えれば)出版社的には別にかまへんのでは、むしろここはOAモノグラフしかない、といいかげんなことを思ったりした。

適用したCCライセンスを覚えていなかったり(10%),CCライセンスを使用したかどうかを覚えていなかったりするなど(25%),研究者が契約内容に無自覚である

は、質問意図がよく分からない。契約内容うんぬんのまえに、当のコンテンツを見たらライセンスが明記してあるんじゃないか……忘れたっていいのでは……?



■E1627■ 欧州文化遺産の電子化と公開,保存に関する勧告への対応状況

篠田さん。

ECによる、「欧州各国の文化遺産のデジタル化状況,デジタル化した資料のオンライン上での公開状況,デジタル保存の状況をまとめた報告書」というものすごいレポート。各国(「勧告が対象とする32か国のうち25か国」)が「2011年から2013年末までの勧告等への対応状況」についてまとめたレポートにもとづいて作成されたものらしい。「勧告では,加盟国に2年毎に対策の進捗状況を報告するよう定めており,今回が初めての報告」か。2015年までというスパンを念頭に置くと、中間まとめとして位置づけられるのかな。

報告書は、デジタル化の進行状況、パブリックドメイン資料のデジタル化および公開、著作権保護期間内の資料のデジタル化および公開、Europeanaの動向、デジタルプリザベーション、の5部構成。いろいろ聞いたことのあるプロジェクトが出てくる。

「2014年10月29日の孤児著作物指令の期限までに国内法で法制化されたのは,ドイツとフランスの2か国のみであったが」は知らなかった。

アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)が例に挙がっていて、むかし気合を入れて書いて評判の良かった記事「所蔵作品125,000点の高精細画像が無料でダウンロード・再利用可能、アムステルダム国立美術館がウェブサイト“Rijksstudio”を公開」を思い出す。また、先週、生貝直人さんとお会いしたときにアートアーカイブのはなしをしていて、Europeanaはほとんどアートアーカイブというようなこと(ちょっと違うっけ?)をおっしゃっていて、軽く衝撃的だった。



■E1628■ 第11回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2014)<報告>

電図課・本田さん。

あいぷれす。前記事を受けて、デジタルプリザベーションネタ。

DNBでは,電子書籍・雑誌等を受け入れる過程において,2012年末からDRMを自動的に検出するツールを用い,長期保存に対するリスクが中から高程度のものについては,出版者に対してプロテクトがないファイルの再提出を求めている。

がとにかくすげえ。手間かけてるなあ。っていうか、当然全部自動化されてるのかな?(電子納本する際にエラーチェックで弾かれる感じ)

ANDSのくだりを読んで、研究データのデポジットは、まずはサイテーションの手段を確立するためのものという意味合いのほうが強いんだな、と当たり前かもしれないことを考えたりした。他のコンテンツはそうじゃない、のではないか。



次は11月27日(バドミントン大会の直前だ)。