CA1836に寄せて

http://current.ndl.go.jp/ca1836

自分の知りたいこと、聞きたいこと、読みたいものを、自分の好きなひとや尊敬している方を指名してかたちにすることができる。というのが、刊行物やイベントの企画という(ときに逃げたくなる)仕事にたずさわることの役得だと思う。

とはいえそんなのはほんとときどきで、自分が企画を考えるときに強く意識していることは、「穴」はどこにあるのか、それを埋めることでどこにたどりつけるのか、というイメージのようだ。踏み台、でもいい。この場所にこのくらいの台を置いたらぐらぐらしないし、もうちょっと高いところに手がとどくんじゃないだろうか、という感じ。歳をとったせいか、ぴかぴかと派手なものではなく、今後何度となく参照されるような、しっかりとした礎となるものを着実に残していきたいと思うようになった。底上げということばは好きではないし、そんなことをしてるつもりはない。ただ、頑張って手を伸ばしてるひとたちがちょっとでも楽になったらいいなあというか、その程度。

こういった、埋めていくべき隙間はかんたんに見抜けるものでもなく、それなりの蓄積と日々の積み重ねがあって認識できるんだなあと痛感している。ちょっとさぼってるとすぐに企画を思いつかなくなるし(最近さぼっていた)、公共図書館とか学校図書館のように専門外な領域についてはなおさらまともなアイディアが出ない(その代わりどしろーとなりの着想というのがあったりする)。ただときどき、あれ、なんでここに穴が開いてたんだろう、とふと気づいて、思わずぼんやりしてしまうことがある。気づかれてないのか、埋め方が分からないのか、めんどくさいから埋めてないだけなのか。よく分からないが、ともかく穴が放置されたまんまになっている。

今回のCA1836「CrossRefの動向 revisited」はそんな企画だったと思う。

あれだけ重要な組織で、これだけいろいろ動きがあるのに、もしかして誰も網羅的にまとめてない??

2002年に現NIIの尾城さんがCA1481「CrossRefの動向」という記事を書かれている。当時はDOIの普及期のまだまだ最初のころで、新しく登場した識別子とそのシステムについて紹介するだけで十分に意義があったろう。それから12年。現在のCrossRefは、一見「え、これDOIとどう関係あるの?」と思えるものまで含めてさまざまなサービスを手がけるようになっている。この事実が物語っているのは、識別子を普及させるためにはそれを活用した魅力的なサービスをも提供しなくてはいけなかったということなんだろう。これらの歴史と取組を並べて全体的に見渡すことが、*いま*、JaLC DOIとORCIDの普及段階というこのタイミングで必要なはずだ。……というのがCA1836の企画意図だった。はず。

幸いにしてというか、タイトルは企画提出時のものがそのまま採用された。このrevisitedという単語は、大学院生のころに数学書でよく見かけて気に入っていたもの(この業界では id:sabarya 以外に使っているひとを見かけたことがない)。そうしてCA1481とタイトルを揃えたのは、大げさなことを言えば尾城さんという大御所の業績を若手で最新版にアップデートしてやろう!という想いがあったからだったりする。なので、執筆者も最初から、30代くらいの若手(できれば研究者ではなく図書館員)で識別子に強い関心を持っているひとという条件で考えていた。

というわけで、IDマネージャーよりもウェブサービス屋としてのCrossRefにフォーカスした記事になっております。DOIは知っていてもCrossRefってなにやってるかよく分からない、という若手の大学図書館員に読んでいただけたら嬉しいです。

おつかれさまでした。> id:haseharu