カレントアウェアネスNo.324感想(半分)

カレントアウェアネス No.324が刊行されました(今号から記事下にDOIが記載されるようになっています)。
http://current.ndl.go.jp/ca/no324

以下、自分が企画に関わった記事について、企画意図や感想など。



●CA1848 - ResearchGate-リポジトリ機能を備えた研究者向けSNS- / 坂東慶太
http://current.ndl.go.jp/ca1848

ワールドワイドに活躍する坂東さん(いつのまにか図書館員になり、リポジトリ担当になり)にやっと書いていただけました。所属はMyOpenArchiveになってますが。。

企画意図はタイトルにもあるとおりで、セルフアーカイビングプラットフォームとしてのResearchGateをもう無視することはできないと思い始めたからです。他にMendeleyやacademia.eduといったサービスがあるのにどうしてとりわけResearchGateを?というと、そのきっかけは本文の§3(2)でも紹介されている、DataCite DOIの付与開始と、世界リポジトリランキングでの華々しいデビューという2点でした。研究者の受けもよさそうなサービスなのに日本語解説が少ないし(現時点でもCiNii Articlesでノーヒット)、ここは記事化しておくべきだろうということで。その他の点も含めて企画者の意図を気持ち悪いくらいw汲んでくださった構成になっていて、坂東さんにお願いすることができて本当によかったです。

記事ではこの表現は使われてませんが、「RG score」というある種のゲーミフィケーションがうまいなあ、と改めて思います。機関リポジトリだとセルフアーカイブしていただいたコンテンツへのアクセス数をメールでお知らせしたり、アクセスランキングを公開したりといったことをしているわけですが、発想を広げるとこうしたインセンティブを提供できるのだなと、その設計に感心しました(まぁ、ウェブサービスとしてはふつうっちゃあふつうかもですが)。

こうしたResearchGateという民間?サービスに対して、大学/図書館という組織はどう関わっていったらいいか。この問いに答えを用意することはとてもむずかしいのですが……。オーストラリアのQUTなんかは、図書館ウェブサイトの研究者向け案内のなかでResearchGateについて紹介していますね。
https://www.library.qut.edu.au/research/publish_impact/authorprofiles/

レタープレス株式会社さんによる解説もおすすめです。
http://letterpress.information.jp/glossary/sns/researchgate/



●CA1851 - 世界のオープンアクセス、オープンサイエンス政策の動向と図書館の役割 / 林 和弘
http://current.ndl.go.jp/ca1851

こちらも同じく世界の林和弘さんに。

昨年度中頃からOAポリシーが気になりはじめて軽く勉強していたんですが、世界の動向を広くレビューした資料がなかなかないことに気づく。会議資料やプレゼン資料なんかでは一部存在していたりしたんですがやっぱりスライドだけじゃよく分からない。文章で読みたい。でもこのテーマで書けるとしたら国内では林さんくらいなんだろうなあ。という感じで、まずはぼんやりとした企画を出しました。

企画会議(2014年12月)でちょうど内閣府が「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」を立ち上げたという情報を小耳に挟み、その資料を見ていたらOECDが1月に各国の状況をまとめたレポートを出す予定とある。これだ! ……というはずだったんですが、レポートは結局間に合わなかったみたいで、本文でも「先方の許可を得て一部、研究成果としてのデータと論文の公開について、その政策の有無をまとめた」という感じになっています。お手数おかけしました。。

企画では、可能なかぎりマクロに、かつ、できればOA政策の実施においてポイントとなる構成要素の洗い出しもしていただきたいという無茶ぶりをした気がします。記事を拝見すると、マクロにカバーしていただきつつ、OAだけではなくオープンサイエンスという視点を入れることで土台を広げていただいたようです。「実施」の部分は今後取り上げていければいいなあ。次はOpenAIREとSHARE/CHORUSあたりかな。

内容面では、§3のOA政策の狙いの部分が興味深かったです。

  1. 学術出版事業のビジネスモデルの変革を促すオープンアクセス
  2. 学術情報流通の変革と新しい科学、オープンサイエンスの基盤としてのオープンアクセス
  3. オープンイノベーション(産業)の基盤としてのオープンアクセス
  4. 科学技術外交としてのオープンアクセス

と4つ挙げてはるんですが、§4でも強調されている経済効果や産業振興についてはEuropeanaにおけるそれと同じだなあと改めて思いました。
http://current.ndl.go.jp/ca1785
http://current.ndl.go.jp/e1620



●CA1852 - 芸術資料とアーカイブ/ドキュメンテーション / 嘉村哲郎
http://current.ndl.go.jp/ca1852

アートアーカイブは、視点設定と書き手探しに苦労して長期間引きずってしまっているテーマでした。昨年秋、東大の生貝直人さんが来福されたときにカフェでアートアーカイブの話で盛り上がって、やっぱりこれは記事化すべきだなあと気持ちを改め、嘉村さんという書き手も推薦していただいたんでした。

今後継続的に取り上げていくと考えて、嘉村さんにはまずはこのテーマの総論をという位置づけは意識していたものの、できあがった記事は、アーカイブやドキュメンテーションということばの歴史から話が始まるなどいろいろと意外で、かつ示唆的な内容になっていました。記述のあちこちから想像を広げていくのが楽しいです。

読んでいて、自分がアートアーカイブというテーマに惹かれているのは、芸術というある意味なんでもありの対象とその関連物を収集・発信・保存するという途方に暮れそうな実践のなかに、アーカイブという活動のひとつの最前線が見えるからだったのかなあと思ったりしました。本文で整理されているようにアーカイブということばとドキュメンテーションということばにはそれぞれニュアンスがあり、アートという領域においてはどちらがふさわしいのかはたぶん決めきれない。そんなぐちゃぐちゃなところが面白い。そして、際限なく無限に増殖していきそうなアーカイブの姿は、それ自体がまたアート性を持つのではないか。ってところも楽しい。

自分のフィールドに引きつけてみると、研究成果ではなく「研究活動」のアーカイブというやつはどういったものになるんだろうか?という難問になるんでしょうか。それはパない。。

そうそう、うちの大学には芸術工学部というのもあるんですよね。。



次号No.325は9月末に刊行予定で、そちらでも3本ほど企画に関わっています。乞うご期待。