大学図書館員になるまで

ときどき聞かれる「理系なのになんで大学図書館員になったんですか?」という自分でもよく分からない質問についてのメモ。自分語りに近いので、数年後に読みかえすとうんざりしそう。


中学生のころは高校に進学する気がなく、高校生のころは大学に進学する気がなかった。高1のとき進路希望の欄を(いやいや)埋めていて「図書館情報大学」という理系なのか文系なのか何をするのかよく分からない大学が気になったのは覚えている。その後忘れていた。

学部生の後半はITベンチャーで働いていたので、ほとんど大学にいなかった(授業中に電話がかかってきたりしてた)。学内の図書館・図書室をみっつよっつとはしごして数学書を借り、そのままオフィスや喫茶店に向かうというような日々だった。で、貸出期間・冊数を最大化するためにはどうしたらいいか、どの順番で巡回するのが効率的かなどと考えていて、OPACの使いづらさに不満を持っていたのを覚えている(例えばISBNのリストで検索できないこととか。今もできないけど)。もちろん、当時はAPIなんてものはなかった。この話は面接でも話したような。

学部生のころは仕事ばかりしていたので、大学院生のときは研究以外したくなかった。数学の研究スタイルは文系に近くて、図書室をよく使う(例えば自分は修論で1918年くらいのフランス語の論文を引用した記憶がある)。MathSciNet(2次データベース)、arXiv、電子ジャーナル、リモートアクセス(VPN)も日常的に使っていたけど、図書室にも(大学にいるときは)毎日のように通った。当時は電子化されていないジャーナルも多かったので製本雑誌をよくめくったし、プロシーディングの背ラベルに年が記されていて探しやすかったのも覚えている。大学院生は無料でコピー機が使えたし、コンパクトでほんとに使いやすい図書室だった。ユーザにとっては理想に近いと思う。いまは他の図書室と統合しちゃったけど。。(大学院としても、事務室横のコピー機は無料だったし、ノート・ボールペン・ドッチファイル・クリップなどの文房具類はもらい放題だったし、コーヒーも飲み放題だった。)

数学やシステム開発の経験を活かせる仕事に就きたいなあと思っていた、とは思う。できればベンダー側でではなく、ユーザ側で情報システムに関わる仕事がしたかった。

研究(者)はかっこいい!と思ったから大学に進学することにしたので、たとえ自分は研究者になれなくても、それを支える仕事をしたい、ずっとその近くにいたい、という想いはあったと思う。

M2のころ公務員試験について調べていて、国立国会図書館は2次試験の区分に数学があることを知った。つまり図書館では数学に強い人が欲しいんだと理解した。(試験問題で進路を選んだのは大学受験と同じじゃないか。NDLとは縁がなかったんだけど。なのにまさかその後出向することになるとは……。)
http://www.ndl.go.jp/jp/employ/

この本には図書館というものに対するイメージを刷新させられた。数学とかシステムとか離れて、図書館って面白いな!と思った。図書館関係でこれ以上の衝撃を受けた本はいまでも他にない。

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

まわりに図書館員になりたいなんていう人はひとりもいなかった。図書館員の知り合いもいなかった。いま思えば自分の大学の図書館員に話しかけてみたらよかっただけなんだけど、そんな発想もなく……。司書講習に通ってみて「あ、こんな感じなんだ」と初めて業界の空気が分かった。誤解を恐れずに言えば「あ、こんなもんか」と初めて思えた[*1]。それまではほんと孤独だったなあ。司書講習の資料組織論演習では中部大学の松林正己さんに教わり、「いつか絶対受かるよ」と励ましてもらったりした。

名古屋大学附属図書館の採用試験に落ちたあと、同館研究開発室のバイトに拾ってもらった。バイトの面接のほうが、面接官が多かったのでびびった……。そこでは主にウェブサイトの管理(某大手ベンダの書いた汚いHTMLをstrictに全部書きなおしたり)や刊行物の編集の仕事をしていた。ここで逸村裕先生と出会えたのは大きかった(4か月ほどで筑波に栄転されたけど)。2005年、ラーニングコモンズなんてことばをまだ誰も知らないころに「インフォメーションコモンズについて調べてみて」と課題を与えられたのをよく覚えている。一応は図書館のなかと言える場所で働くことで、将来に対するイメージも掴んでいけたと思う。整理中の古文書(高木家文書)についての話もたくさん聞いた。

採用試験の勉強をしていたころ、ジップの法則と他に似たような法則が2つ出てきて、どうみたって本質的に同じもの(微分 or 積分したら同等)に見えるのにそれを指摘している文献がなくてがっかりしたりしていた。そんななかこの本に出会ってちょっと救われたりした。

文系出身者のような資料知識や、実務経験者のようなスキルがないぶん、システム的な知識については現職にも負けないようにしようとがつがつ勉強した。雑誌記事・論文もずいぶん読んだ。当時だとリンクリゾルバとかOAI-PMHのしくみとか。図書館退屈男さんのブログにはずいぶん啓発された。

で、最終的に母校に拾われた。



……振り返ってみたけど、特に明確なポイントは分からなかった。やっぱりターニングポイントはNDLの試験問題なんじゃないだろうか。

*1:ほら、相手を見下せない恋愛なんてというようなことを川上弘美が書いてますよね。