INTACTプロジェクト(ドイツ)

ドイツで行われているAPC(Article Processing Charge)がらみのプロジェクトについてメモ。

2015年10月開始したプロジェクトで、DFGから3年間の助成を受けている。ウェブサイトができたのは2月23日で、まさにゲッティンゲン大学でINTACTの話を聞いたその日だったわけだ。

実施機関は、ビーレフェルト大学図書館ビーレフェルト大学のInstitute for Interdisciplinary Studies of Science (I²SoS)、マックスプランク電子図書館(MPDL)。OpenAPC、ESAC、OA Analyticsという3種類の取組から構成されている。

プロジェクトの目標として

  • ドイツの研究機関におけるオープンアクセス出版の拡がりを把握し、今後のコスト予測の基礎とする
  • APCのデータセットをオープンにし、研究機関から出版社へのキャッシュフローを透明化する
  • 助成機関・図書館・出版社等すべての関係者を含め、APCに関するワークフローを効率化させる

の3点が挙げられていて、それぞれOA Analytics、OpenAPC、ESACに対応している。

Open APC

ビーレフェルト大学図書館が担当(DINIのサポートも受けている)。各大学で支出しているAPCの金額をオープンなデータセットとして(GitHubで)公開するもの。データセット追加・更新の情報はブログで紹介されている。

http://www.intact-project.org/openapc/
https://github.com/OpenAPC/openapc-de

ESAC(Efficiency and Standards for Article Charges)

MPDLが担当。2014年に開始し、2015年11月にINTACTに合流したプロジェクト。活動内容は、APCのビジネスモデルやワークフローの構築、出版社との協力(投稿、著者同定、インボイス、レポーティング)、優良事例やガイドラインの共有、という感じ。ESACのウェブサイトを見ると、Jisc Monitorなど英国の動きに注目しているようだ。

http://www.intact-project.org/esac/
http://esac-initiative.org/

OA Analytics

I²SoSが担当(German Competence Centre for Bibliometricsのメンバーらしい)。フラウンホーファー研究機構(Fraunhofer Society)、ヘルムホルツ協会(Helmholtz Association)、ライプニッツ協会(Leibniz Association)、マックスプランク協会(Max Planck Society)に属する大学・研究機関を対象に、オープンアクセス出版の拡がりを把握するための指標を提供する、ということだけど、具体的にどんな指標なんだろうか。

http://www.intact-project.org/oa_analytics/

出張三昧

2月中旬から始まった出張三昧の日々がようやく落ち着いた。数えてみるとこの1か月間で7日間しか出勤してない。出勤したら出勤したで(というか土日も)レポートや議事録の作成とか……。

2月19日(土)〜2月27日(土)

ドイツ7泊8日。当初は帰国後すぐに米国出張に同行という話もあった……。概要は以下に報告したとおりで、詳細なレポートは執筆中(ほぼ完成)。


3月2日(水)〜3月9日(水)

東京7泊8日。6泊のはずが羽田の悪天候で復路便が欠航しやむなく延泊となった(そのさなかでクレジットカードを紛失した)。空き時間はだいたいミーティング資料を作ったりドイツの振り返りをしていた。花粉症が始まって頭痛と吐き気がひどかった……。ドイツは4か所のホテルを転々としていたのでトランク広げて定住できることのありがたみをしみじみと。

3月2日(水)

  • RDA 7th Plenaryに参加した友人から話を聞いた

3月3日(木)

  • 機関リポジトリ推進委員会ミーティング
  • パデュー大学のMichael Wittさんと情報交換会
    • PURRというデータリポジトリがプロジェクト管理ツールみたくなっていて、研究の始まるところ(データが生まれる前から)押さえようという意気込みを感じた。現時点で登録プロジェクト数は728か。

3月4日(金)

  • Asian Open Access Meeting
    • 残念ながら中韓からの参加はなかった。これから立ち上がるコミュニティに期待(というかちゃんとコミットしよう)。「韓国のキープレイヤーはNLK」という発言が印象強く残っている(そうしたら後日こんなニュースが出てた)。
  • L4Dなミーティング
    • お昼休みに続いてOpenAIREのひとたちと話をしていたので途中参加になってしまった。主にメタデータの話をしていたんだろうか。

3月5日(土)

  • 三田・図書館情報学会「大学図書館による研究支援とURA」
    • 東大URA・明谷さんの博士(理学)+弁護士というスペックに圧倒される。ざっくりいうと東大はURAとして雇用されたひとだけじゃなく、関係職員をURA的な存在にしていこうとしているのかな。図書館への期待もいろいろと語られた。天野さんの話はよく見知っているとはいえ、改めてこのひとほんまかっこええな、と感じた。ここで出された「越境」というキーワードが後日SPARC Japanセミナーで引用されたそうで……。

3月7日(月)

  • メタデータなミーティング
    • 言いたい放題で楽しかった。南山さんの「メタデータが好きです」という発言が良かった。

3月8日(火)

  • researchmapなミーティング
    • ドキドキの顔合わせだったけど、今後につながっていきそうで一安心。

3月14日(月)〜3月15日(火)

東京1泊2日。

3月14日(月)

  • J-STAGEセミナー「CCライセンスを学ぶ」
    • キャンセル待ちで入れていただいた。機関リポジトリでCCを導入するとしたらどんなことが課題になりそうか、という姿勢で話を聞いた。JST内の自販機の価格設定に衝撃を受けた。
    • J-STAGEとしては搭載誌がCC採用してくれると外部サービスとの連携がやりやすくなる
    • 著者に同意を取るときはCCのバージョンを明記しないほうがバージョンアップの際に楽
    • 転載図等を含んでいて論文全体にCCを適用できないときは「Except where otherwise noted, ...」というような表記をするのが一般的
    • いったんCCにしたものをAll rights reservedに戻すことはできるが、ユーザがCC時代にアクセスしたことを立証した場合には権利を主張することはできない


3月15日(火)

dissemin:ORCID→ZENODO

承前。仏CAPSHの提供しているdisseminというサービスについてもメモ。

http://dissem.in/

Dissemin helps researchers ensure that their publications are freely available to their readers. Our free service spots paywalled papers and lets you upload them in one click to Zenodo, an innovative repository backed by the EU.

ということで、研究者を対象にしたサービスで、自分の書いた論文をかんたんにリポジトリに登録できるというものらしい。どうもそのへんのウェブサイトに載っければいいやんではなく「リポジトリ」というところに力点があるらしい。そして、登録先にはZENODOを採用している。

ZENODOについては以前書いた。


使い方

1. ORCIDで自分を特定する

氏名で検索 or ボタンからORCIDにログイン。検索した場合は同定して「はい」をクリック。

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2. 自分の業績一覧が表示される

最初はORCIDに登録した業績を利用するのかと思ったんだけど、そうではなく、ORCID iDでさまざまなデータソースを検索して拾ってきてるんだろう。各業績のOA状態やセルフアーカイブ可能かどうかもカラフルに表示される。

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http://dissem.in/0000-0003-0514-5033/

3. 各業績のページ

SHERPA/RoMEOを使って、セルフアーカイブ可能かどうかがバージョンごとに示される。エンバーゴ情報も。

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http://dissem.in/paper/154335/

4. アップロード

2や3で「Upload」ボタンを押すと……ORCIDの認証を求められる。本人じゃないとアップロードできないようにしているんだろうと思ったけど、私のORCID iDでログインしてアップロード画面まで進めてしまった。。え、それでいいのか。よく分からん。最後にアップロードするところでハネてくれると信じたい。

いずれにせよ著者版しか公開できない場合にファイルを自分で用意しなくてはいけないところは通常通りか。

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プレゼン資料

プレゼン資料が公開されている。最初の2つはフランス語だけどスクリーンショットがあり、最後のは英語だけど文章ばかり。
http://association.dissem.in/files/slides-ens-2015.pdf
http://association.dissem.in/files/slides-jao-2015.pdf
http://association.dissem.in/files/slides-liber-2015.pdf

3番目のスライドの最後が商用CRISへの文句で終わっていた。
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感想

研究者データベース(CRIS)からのセルフアーカイブ、の一類型といえるだろうか。

  • 業績リストは静的なものをベースにするのではなくORCIDを使って動的に生成
  • リポジトリとして機関リポジトリではなくZENODOを採用

というのがちょっと変わったところかな。

たぶんORCID/DOIに全面的に依存してるんだろうなあ(日本語圏のことを考えて遠い目)。それで済めばそれに越したことはないよなあ。相手にするリポジトリがZENODOだけで良いならそれも楽ちん。

DOAI:DOI→オープンアクセス文献へナビゲートするサービス

先日訪問したビーレフェルト大学@ドイツでは「BASE(Bielefeld Academic Search Engine)」というオープンアクセス文献の検索エンジンについても話を聞いてきました。

BASEについては2010年にカレントアウェアネス-Rで紹介されていますし、うちのJEEPwayというサービスのなかでデータソースのひとつとして使っていることもあり、それなりの知識は持っていました。

DOAI

最近、そんなBASEをベースにしたDOAI(Digital Open Access Identifier)というおもしろげなサービスが出たそうです。

http://doai.io/

どんなサービスかというのは、

http://doai.io/10.1016/j.jalgebra.2015.09.023 vs
http://dx.doi.org/10.1016/j.jalgebra.2015.09.023

という例を見れば一目瞭然で。つまり、DOIを通常の dx.doi.org ではなく doai.io でリゾルブするだけで、そのDOIの文献の“オープンアクセス版”へとナビゲートしてもらえるというものです(例ではarXivやResearchGateにデポジットされた文献が表示される)。

マルチプルレゾリューションとの比較

複数のサイトで“同一”のコンテンツが公開されている場合に、両者に対して同じDOIを登録することでマルチプルレゾリューションを行うことがあります。

マルチプルレゾリューションというのは耳慣れないと思いますが、以下のリンクをクリックしていただくとどういうものか想像していただけるかと。

例)http://doi.org/10.11501/3185363

http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/dlib/cooperation/images/doi08.gif

この例は、国立国会図書館(NDL)でデジタル化した博士論文(NDLでDOIを採番)のPDFを、静岡大学の機関リポジトリでも公開して、NDLの付与したDOIをメタデータに登録している、という(よくある)ケースです。逆に、大学側が先に機関リポジトリで博士論文を公開し、DOIを採番し、そのメタデータがまわりまわってNDLに到着し、大学の付与したDOIをメタデータに登録する、というかたちでのマルチプルレゾリューションもあります。前者のパターンではNDL>大学の順、後者では大学>NDLの順でリンクが表示されると思います。DOIを採番したほうが上に来るということですね。

こんな「中間窓」を使ったナビゲーションを、“同一”のコンテンツに対してだけではなく、“異なる版”(ここでは、内容はほぼ同一だが形式が違うものと理解してください。いわゆる出版社版と著者最終稿の関係など)のコンテンツに対しても行うことができれば……というのを考えたことがあります。でもCrossRefに(中略)で、実現可能性は低いだろうなあと。

そんなわけで、この、なんというかDOIのリゾルバーを乗っ取ってしまうというような発想にびっくりしました。シンプルでパワフル。もちろんそれを支えているのはBASEというデータベースであり、そこに収録されたオープンアクセス文献のメタデータに(どこかのだれかが)出版社版のDOIをしっかり記述したこと、です。

現在のDOAIはストレートにオープンアクセス文献のほうへナビゲートしてくれるようですが、マルチプルレゾリューションのような中間窓を表示し、その中で、オリジナルの論文へのリンクも表示するようにしてくれたら利便性があがりますね(doi.orgでリンクするだけなので実現は簡単)。そうしたら、図書館のサービスのなかでDOIを使ったリンクを書くときは常に doai.io を使えばよくなります。

まあこういうのは本来リンクリゾルバの役割なのかもしれません。ただ、OpenURLは汚いですからね……。それはともかく(ビーレフェルト大学でBASEがEBSCO Discovery Serviceに収録されたという話を聞いたので)EBSCOさんにDOAIのことをお知らせしたところ、EBSCOのリンクリゾルバでリンクアウト先に加えてみたという反応がさくっと返ってきたりもしました。

開発元

開発元はCAPSH(Committee for the Accessibility of Publications in Sciences and Humanities)というフランスの非営利団体で、disseminというサービスも提供しているらしい。こっちはこっちでおもしろいので次のエントリで書きます。

Hybrid Bookshelf at Universitätsbibliothek Konstanz

http://www.hybridbookshelf.de/
http://www.kn.bibshelf.de/

ちょいネタですが、海外出張先からブログを更新してみるのも乙かなと思い。

ドイツ南端に位置しスイスと国境を接しているコンスタンツという湖畔の街に来ています。日本との時差は8時間。今朝は雪でした。国内有数の観光地ということもあってか先に訪れたビーレフェルトやゲッティンゲンに比べると格段に落書きが少ないのですが、ドイツ鉄道(DB)の駅のすぐ横にスポーツ用品のアウトレットがあり、その真向かいにスポーツ用品店があり、さらにその南側のショッピングセンターにもスポーツ用品店があり、となんだかノリがよく分かりません。

さて。駅前から9番線のバス(もちろんメルセデス製)で10分ほど山のほうへ登っていったところに、コンスタンツ大学というドイツのExzellenzinitiative(Excellence Initiative)にも選ばれているエリート大学があります。その図書館でちらっと見かけたシステムが面白かったので動画に撮ってみました。

ブラウジングのためのツールですね。さくさく動いています。2009年に中国出張に行ったときにも同じようなものを見たけれど、もうちょっと洗練された印象を受けました。(なお、動画中で「おお、リンクリゾルバ」と言っているのはわたしです。)

同行者にはこんなの自力で開発するわけないからなんかのクラウドサービスを利用しているんだろうと言ったのですが、それは半分当たっていて半分間違っていたようで、Hybrid Bookshelfというサービスを利用しているものの、その開発にはコンスタンツ大学自身が関わっていたらしい。フロントエンドの開発自体はpicibirdという会社が担当しているようです。

以下は館内写真。耳栓(1ユーロ)のガチャガチャが斬新でした。なお、地理的に図書館が大学の中心に位置しているというのが今回の調査結果のキーポイントだったのですがそれについてはまた別の機会に……。

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