カレントアウェアネス-E No.257感想

福岡移住で落ち着かない日々を過ごしていたので1号(No.256)スキップしてしまいましたが、やっと生活も、IT環境も、落ち着いてきたかなという感じです。ここしばらく引越のことしか考えてなかったので頭がぼけています。リハビリせねば。

新年度最初となる今号は6本で、うち外部原稿は1本。





■E1549■ 芸術を育む図書館に注目を-“Library as Incubator Project”

書き出しで、ああ、依田さんかと分かる。

毎年発表されているMovers & Shakers(日本で相当するものはないかな……?)をトリガーにした記事。Library as Incubator Projectはずっと前から注目してきたプロジェクトでしたが、やっと正面切って紹介することができたという感じかな。

第2段落の「ウィスコンシン大学マディソン校の図書館情報学修士コースで」というくだりで、以前にも似たような記事があったな……、E1378か(別の文脈で本文中でも引用されている)と。こちらはシラキュース大学情報学の大学院生の活動がきっかけとなったものでした。今回のLibrary as Incubator Projectも、大学院の授業がきっかけでスタート→図書館員(記事中にはどこで勤務してるか書いてなかったけど)となってからも継続→「2014年5月には,“The Artist’s Library: A Field Guide”と題する書籍も刊行する予定」、という流れがいいです。3人での合同プロジェクトであること、ウェブサイトでの情報発信を中心とした無理のない活動というあたりがポイントかなと思いました。





■E1550■ データが変える研究,教育,ビジネス,社会:IDCC14

池内さん(CA1818参照)。

タイトルに「<報告>」とついてないけど、2月にサンフランシスコで開催された第9回国際デジタルキュレーション会議の参加報告。主催者の英DCC+米カリフォルニア大学UC3+CNIという組み合わせが“国際”。

事例報告、人材育成、学術出版モデルという観点からレポートされています。

事例報告ではplanningの話が多かったのかな。カリフォルニア大学のデータリポジトリ(DataShare)ではデータを登録するとDOIが振られるだけじゃなく、トムソンロイターのData Citation Indexに収録される、というのが研究者に対するインセンティブになりそう。あ、Natsuko Nichollsさんだ……(公開後に取り下げられたこのレポートのことを思い出している。ダウンロードしておけばよかったと未だに後悔している)。人材育成の話は、日本ならURAという存在がフォーカスされるだろうし、学術出版モデルのくだりでは、そうか、(OA)ジャーナルのデータリポジトリの有無はAPCの金額の多少に影響を与えうるのか、という当たり前のことに気づく(いや、OAじゃなかったら契約額に転嫁されるだけなんでしょうけど)。





■E1551■ 公共図書館との関係性に基づく米国民の類型

安原さん。

Pewのレポートの紹介。ふう、また調査したのか、どんだけー、という気すらしてしまいましたが、今回は、12月のレポートと同じデータに依拠してさらに深い分析を行うというものなんですね。

「人生における公共図書館の重要性,図書館の使い方,コミュニティにおける図書館の役割をどのように見ているか等の要素に基づきクラスター分析し」、9つのグループに類型化している。結果は、図書館と深い関わりをもつ(1)Library Lovers、(2)Information Omnivores;ある程度の関わりをもつ(3)Solid Center=最大派閥、(4)Print Traditionalists;関わりの低い、(5)Not For Me、(6)Young and Restless、(7)Rooted and Roadblocked;関わりがない(8)Distant Admirers、(9)Off the grid、となったという。

おもしろいなあ。日本で(というのが広ければ東京で)同じことやったらどうなるかな。





■E1552■ 英国の読書習慣調査:読む派と見る派に二分されている?

依田さん2本目。いいタイトル。

最後に9つのクラスターに分けてるところも含めて、先ほどのPewのとめっちゃ似ていて、2つの記事を並べた理由が分かる。

英国民を読書習慣から9つに類型化し,この類型別でも結果を示している。類型はS1「本の虫」,S2「読書好き」,S3「雑誌世代」から,S7「読む時間がない」,S8「読書嫌い」,S9「読まない」などとなっており

でもこちらは「貧困に関する指数である“デプリベーション指数”」(IMD、IDACI)を導入したり、社会経済グループ別の分析を行ったりと、さらに踏み込んだ印象を持つ(英国らしいなあと感じる)。結果は、「この報告書に示された結果は,英国における読書推進にあたっては,生活資源の欠如した不利な環境にある地域へのアプローチが重要となることを示すものと思われる」と、そうなるだろうなあというもの。

# 「英国が本を読む人たちと,テレビやDVDを見る人たちの“ニつの国”に分断されている傾向が示されている」のくだり、「ニ」が「二」じゃなくてカタカナになってますよ。





■E1553■ 学校図書館担当職員に求められる役割と能力向上のための方策

篠田さん。

文科省の会議報告書の紹介。先の記事の「読書」に連なるテーマ。

学校図書館の機能として「読書センター」「学習センター」「情報センター」を挙げ、それぞれにおいて学校図書館担当職員に求められる役割を整理、と。学校図書館のことはよく知らないのでどうしてもそれ単体ではなく大学図書館にひきつけて考えてしまいますが、(大学図書館の)学習支援との関係で気になるのは2つ目の学習センターという機能。学校図書館が抱えてる課題は、たぶん大学図書館でも共通するところが多いんだろうなとぼんやりと思っています。機能の分類を踏まえて、職務が「間接的支援」「直接的支援」「教育指導への支援」の3つに分けられています。そのうち、間接的支援はテクニカルサービス、直接的支援はパブリックサービス、と読める。最後の教育指導への支援というのは、大学図書館で言えば学習支援に相当するのかなあと。

なお,これらの職務は学校図書館担当職員が単独で担うものではなく,司書教諭等の教職員と協同し,分担してあたることが求められるとしている。

大学で「司書教諭」に相当するポジションはあるのかなあ、と。研究支援の文脈においてはURAになるわけですが。@yuki_o や @milkya くんのようなひとたちの仕事になるのでしょうか。

# 冒頭の「2013年3月付」は「2014年3月付」?





■E1554■ 電子情報保存のファイル形式方針の実態調査<文献紹介>

篠田さん2本目。D-Lib Magazineからデジタルプリザベーションネタを……(どうしてこんな渋いネタを選んだのか気になるところ)。

この文献は、ARL参加館が機関リポジトリ電子図書館で採用しているファイル形式についての方針を調査した結果をまとめたもの。方針のうち、特に各形式の「信頼度」をどう評価しているかという点に注目されている。その結果はそんなに驚くようなものじゃないのだけど。

まず、え、方針?と思った。ついで、175館、253のサービス、118の方針という数字を見て、そうだよね、そんな方針ちゃんと決めて公表しているところばかりじゃないよね、と安心した。後半で「調査では,ファイル形式の方針を一から策定している機関がわずかであることも指摘されている」とあって、さらに安心した。方針のグッドプラクティスが紹介されているので参考にできそう。

最後の

また,ファイル形式の方針が,比較的小規模なデータ管理の実績を根拠として策定されていることも指摘されている。中程度の信頼度に分類される形式は,電子情報の長期保存の評価手法を厳格に適応したものというより,学内にその形式のユーザが存在した等の現実を反映したものと推測されている。現状では,図書館でのデジタル化等に使用される画像のファイル形式,ウェブ上の学術情報流通で使用されるテキストのファイル形式については,信頼度の高い形式があるが,表/データベースや動画のファイルは,信頼度が比較的低く,アプリケーション,コンピュータプログラム,地理空間情報,プレゼンテーションについては,信頼度が低い形式しか見いだされなかった。

というくだりで、研究データ管理の話に戻りますね。





次号は4月24日。