カレントアウェアネス-E No.278感想

昨年度最終号。4本すべて外部原稿。



■E1660■ あやかりの杜図書館 冬の特別企画「夜の図書館」

沖縄県北中城村にあるあやかりの杜図書館の「夜の図書館」企画の報告。執筆者は同館の與那原さん。

むかし中城城跡は行ったことある。その少し北にあるんだ。地図で見てみると、沖縄自動車道を挟んで向かいには米軍基地があるような環境らしい。で、企画はこんな雰囲気。

http://ryukyushimpo.jp/uploads/img54cd8cfbaedf7.jpg
写真出典:夜景と読書、満喫 「夜の図書館」今月中の金曜夜開館 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース

通常の図書館業務終了後の20時に主要灯をおとした状態で窓側のデスクライトのみを点灯し,夜景とともに読書ができる場所を確保した。本を探す際は,懐中電灯を持って静かに移動する楽しみもある。またプロジェクターを使用し,所蔵する映像資料等を大窓一面のブラインドへ投影した上映会や,BGMにJAZZやボサノヴァ等の音声資料を流すなど図書館が所蔵する資料の紹介を兼ねて,大人の雰囲気を意識した空間づくりを心掛けた。

映像や音声、キャンドルライトを添えるなど、いろいろとすてき。好評な声ばかりでクレームがなかったというのは通常の開館時間内に行うのではなく、特別に延長して行ったことがポイントなのかなと思った。

図書館は,生涯学習・宿泊機能を有した滞在交流室やキャンプ場等との複合施設であり,施設運営時間の22時まで職員が勤務していた。「夜の図書館」では,この特性を活かし,図書館の職員配置数を増やすことなく,22時まで開館時間を延長し,閲覧のみのサービスを行った。

指定管理でもそのあたり柔軟にできるのかな、課題はなかったのかな、というところがもうちょっと知りたかった。

(カレント-Eで参考文献がひとつもないのは初めて見た。)



■E1661■ 諸外国の国立図書館におけるセルフ撮影サービスの導入動向

複写課の奥村さん。ご自身で行った調査の報告。

また,近年,新たに閲覧室でのデジタルカメラの使用を認める国立図書館が増えている。ドイツ国立図書館(DNB)は,2014年10月に利用規則を改正し,閲覧室でのデジタルカメラの使用を認めることとした。英国図書館(BL)でも同様の動きがあり,2015年1月から,段階的に閲覧室でのデジタルカメラの使用を認める決定を行った。スコットランド国立図書館(NLS)は,同様のサービスについて試験的な実施を検討している。

自分でも過去に検討したことがあるテーマなので、記事内容はオーソドックスなものだと感じた。むしろNDL職員がこういうテーマで海外調査を行っている事実のほうが大きい。

著作権調査や手続きなどのオーバーヘッドが大きくなりすぎると利用者にとってかえって不便になるし、職員サイドも面倒くさくて運用が負担になる。とはいえゆるいルールを厳格化するのはうまくないし、まずはある程度キツめなルールで開始して、徐々にゆるめていくのがいいんだろう。いちばん問題なのは撮影後にどっかへデータを流出されることで、そこだけはきちんとしたいと思っている。デジカメで撮ったって、紙でコピーしてスキャンしたって、デジタルデータになるという点では同じなんだから、デジカメのほうだけ厳しくしてもあんまり意味はないのかもしれないけど。

撮影音を気にするなら一眼レフは使いづらいが、それに対して不満は出ないのだろうか。

# 自分は図書館でコピーした資料はスキャンして紙は読了後に捨てます。面倒くさいので最初からデジタルにしてほしいと思う。



■E1662■ オンライン資料の納本制度の現在(2)スウェーデン

収集・書誌調整課の間柴さん。

スウェーデン。2015年1月から「電子資料の法定納本に関する法律」が(約2年半の試行を経て)施行。eデポのようにDRMの有無や有償無償の別は問わないようだ。音楽や映像も入るというのも大きな違いか。

単体で見ててもよく分からないのでこのシリーズがある程度まとまったら比較表にしてほしい。。



■E1663■ NDLのウェブページを使い尽くそうアイデアソン<報告>

NDLオープンデータ・ワークショップ事務局。

インターナショナルオープンデータデイ2015の一環で行われたもの。NDLが〜ソンなるイベントをやるのは初めてではないかな。5月のじんもんこんの会場がNDLになっていたけど、こういうのいいですね。しかし今更ながらタイトルは「NDLのウェブページ」だったのか。データとかウェブサービスとかじゃなく。ちょっと違和感。

なお、id:haseharu が参加していて、彼の「デジコレエクステンション with Taggy Bank」も紹介されたらしい。(そして記事の参考文献に haseharu.org が入っているw)

まとまったアイディアのなかでは、地味だけど「レファレンス協同データベースと国立国会図書館サーチのリンク付け等による,レファレンス協同データベースの利活用促進」がいちばん気になった。レファ協のデータというのはある本の使い方や有用性を示すもの(Amazonのレビューとかと同じ)であると思っているので、書誌データベースの検索結果からレファ協にリンクするのは実現すべきアイディアだと思う。

個人的には、CiNii Books→NDLデジタルコレクションへのアイテム単位のリンクをやりたいわけです。(なんか進めてるという話を聞いたことがあるようなないような。



次号は4月9日。でもこれで編集部の体制も大きく変わるし、2年間続けたこの感想も今回で一区切りするかもしれません。

カレントアウェアネス-E No.277感想

今年度も残すところあと2号。今回も4本で、すべて外部原稿。



■E1656■ 長崎市立図書館「がん情報サービス」PV作成に込めた想い

長崎市立図書館の森さん。

こちらがそのPVなんだけど……ええ曲やな……で最後にクレジットを見たら、作曲者が曽我淳一ってあって。えええええ。トルネード竜巻の曽我さんかっ! すげー。ずりー。名古屋のApple Storeでトル竜のライブ見てからもう10年やん。そして曽我さんが新しいバンド(ともこ一角)を始めている。。写真の左下が歌い手のmaaayoさんかあ。

……という驚きでいろいろ吹っ飛んだ。取り乱した。@chik325 と @hiroyukiokano 先生とちょっと盛り上がった。

記事では、「図書館deサロン」という取組を通して

科学的根拠に基づいた正しい情報を与える事だけが,「がん情報サービス」ではないということに気付き,誰もが誰かの支えになり得ることを知った。

というくだりが刺さった。がん情報サービスは「らしく」生きるためのものであり、そのためにできることは情報提供だけではない、ということだと理解した。

レファレンスサービスのところでは「病院で説明を受けた時は何となく尋ねにくく,自分で調べる事は出来ないのかと考えていた」という男性が登場して、専門家には聞きにくいこともあるよね、そして、図書館員に聞いてくれたらいいのにとこちらが思うようなことでも、利用者は別のどこかのだれかに頼ったりしているんだろうなあ、とちょっと別のことを思った。

ところでこのPVは図書館で流したりしてるんだろうか。音は出るけど。と思って、こないだ有名な伊万里市民図書館に初めて行ったら、書架のそばにテレビが置いてあって、サッカー中継が音声ありで流れていたのにちょっと驚いたりしたんだった。

KooNeのからみでVictorに協力してもらった、のは、TRCがKooNeを取り入れてるからか。ここはちょっと微妙な感じがしないでもないけど、使えるものはなんでも使ったらいいのか。

がんといえばちょうど九大が線虫を使った低コストな検出方法を発見したというニュースが流れていた。



■E1657■ デジタル・アーカイブズによる琉球政府文書の利用促進

琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進事業の話で、事業受託者の株式会社Nanseiの上原さん・土井さんが執筆者。おふたりは「沖縄戦後史を研究する修士以上の学位をもった人材」らしい。

この事業については知らなかった。2013年度に開始されて、2015年度に一部公開予定という。沖縄県公文書館の「E1404 - 米国統治時代の沖縄関係資料の現地収集及びウェブ公開の意義」でも琉球政府文書の話が出てくるけど、まったく別の話なのかな。情報格差のくだりとか、今回の記事でも繰り返されている。と思っていたら、後半の「第二の作業」のくだりで公文書館が登場する。けど、デジタルの話ではない。よくわからん。

事業は「デジタル化業務」「普及業務」「個人情報マスキング業務」に分かれていて、同社は普及業務を担当し、2014年度はガイド作成に取り組んでいるという。ガイド作成のために行っている2つの作業がどちらも興味をそそる。第一の作業で使っている「自社で開発したソフト」というのはなんだろう。これを使うと「非公開にすべき個人情報が含まれる特定・分類」できるんだろうか。ちょっと読み取れない。第二の作業は沖縄県公文書館における琉球政府文書の利用状況を集計してニーズの把握を(資料の階層構造も意識して)行ったという。簿冊やマイクロが対象か。デジタルは勘定に入れるほどではなかった、ということなのだろうか。

この記事はデジタル化というテーマだけど、利用促進にフォーカスしてるんだ。いいな。



■E1658■ 千葉大学アカデミック・リンク・シンポジウム<報告>

小野くんだ。

千葉大には普遍教育センターというのがあるんだ。九大は基幹教育。

アカデミックリンクセンターの取組のなかでは、「学生アンケートを実施し,個人を特定できる番号に一方向性の暗号化を施したうえで,図書貸出記録や成績情報等との連動分析を行っている」と、「学生自身が学習行動を1か月間写真で記録する「フォト・ボイス・インタビュー」」をメモ。前者に関してはむかし「E1324 - 大学図書館の生み出した価値をデータに基づいて示す試み」という記事を書いた。分析結果が知りたいな。後者はセルフドキュメンタリーって感じで面白い。Yaleかどこかの取組でも見たけど、写真を使うというのはいいよね。

ディスカッションで出たという「2015年型アクティブラーニング」と「グローバルアクティブラーニングと称した国際交流や反転学習の環境整備事例」というのはよく分かりません。。



■E1659■ 第11回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>
                    
レファ協事務局。

今年のお題は「つながる図書館の情報サービス:『調べる方法』の公共性」。というとなんかすごいコンセプチュアルな内容だったように思えるけど、レファ協データのオープンデータ化が裏テーマだったのかな。インターナショナルオープンデータデイ2015の関連イベントにもなっていたらしいし。レファ協APIも出してるし、あとはライセンスの問題なのだろう。記事からは議論の詳細は読み取れなかったけど、結論としては「レファ協データのオープンデータ化は一律にすぐに実現するようなものではない」となったらしい。「レファレンスサービスの成果は図書館と利用者の共同生産物ではないか。オープンデータ化するに当たっては,『調べる方法』とレファレンスサービスのプロセスは分けて考えるべきではないのか」というあたりが課題か。

ちらっと目にしていたBUZZ、BUZZというキーワードは猪谷千香さんの講演からだったんだ。情報発信についての

図書館の情報を広範囲の利用者へ届けるには「BUZZ」(注)が必要であり,その条件として,予想を超える「サプライズ」,“中の人”の情熱が伝わる「パッション」,素早く対応する「アジリティ」,ユーザーの反応に対する「リスペクト」,最後に,継続は力なりとして「コンティニュイティ」などが挙げられた。

というくだりで、ちょうど読んでたりりぱ様のエントリが頭に浮かんだ。

自分はこういうの苦手なので、意識的にできるひとはすごいなあと感心する。

今年のフォーラムは山口大学の岡崎くんがまだすごい若いのに登壇されてたのがなんとなく嬉しかった。おつかれさま。すごいなあ。



次号は……刊行予定日が書いてないや。

カレントアウェアネス-E No.276感想

今回も4本、うち外部原稿が3本。大変そうですね。。



■E1652■ 東日本大震災後の図書館等をめぐる状況(2015年2月12日現在)

11月下旬以降の3か月弱のまとめ。まもなく4周年、か。

震災アーカイブの活用事例として、宮城県東松島市図書館の「まちなか震災アーカイブ」に興味を惹かれた。ステッカーやペンスタンドの設置場所にまつわる写真・体験談が見られる、というわけではないんだろうけど。ビジネスホテルに設置するというのは、市外・県外の人に見てもらうのにいい手かもしれないな、自分なら見そうだ、と思った。
http://www.lib-city-hm.jp/lib/osirase/osirase.html
http://www.lib-city-hm.jp/lib/2011y-library%20top/index.html

NDLのリリースした「総合調査 東日本大震災からの復興への取組の現状と課題」も大きい。
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2014/__icsFiles/afieldfile/2014/12/17/pr141225.pdf

まだまだ新しいアーカイブができたりしてるんだ。



■E1653■ 震災20年:神戸市立図書館が震災関連資料室をリニューアル

神戸市立図書館の松永さん。

こちらは阪神・淡路大震災。市の「震災20年継承・発信事業」で図書館の「震災関連資料室」の展示をリニューアルしたというはなし。時間が経つにつれ「最近は入室する方も少なくなっていた」という。最後の「しかしながら,神戸大学附属図書館や兵庫県立図書館で進められている,資料のデジタル化は当館では手つかずである」は認識してなかった。

ちょうどNHKオンデマンド(うちにはテレビがございません)でこの番組を見ていたら、中学生くらいの女の子が学校で防災学習を受けたあとで「でも体験せな分からんなって思うほんまに。話聞いとうだけじゃほんまに分からへん」と言っていた。自分が小学生のころに見せられた伊勢湾台風(昭和34年)のビデオを思い出して、そりゃそうやろうなあと思ったりした。ほかには、ある若い男の子が、両親は不仲だったのにそのときは一致団結して自分を守ってくれて「だからなんかええ思い出としてもなってる」と話していた(いや、えんえんとラップで語っていたんだが)のも印象強く残った。

最初の女の子の素直な感想を考えると、こういう展示ではなおさら“体験”できることが重要になってくるんだろうなあと思った。予防接種、みたいな。体験しなかった世代に疑似体験してもらうためにはどういったコンテンツを残し、どういった見せ方をすればいいのか。……こうして言うのは簡単だけども。

先日は東海新報の連載記事で神戸大学附属図書館の震災文庫が取り上げられていた。小村さんも登場、っていうか出まくり。

震災文庫の小村さんは「こんな内容のものを探している」と同文庫を訪れた人にいろいろと提案し、「それが相手のストライクゾーンに入ったときは達成感がある」と笑顔を見せる。利用者が求めるものを提供するためのノウハウがあるのは、同文庫の強みだ。

「勉強会に使いたいので、当時の消防署員やレスキュー隊の活動を知りたい」と訪れる消防士。「母国で大きな地震が起きたから、阪神淡路と比較したい」とやってくる留学生や外国人研究者もいる。

「本当にこんな物も必要だろうか」「どこまで集めたらいいのか」。職員がそんなふうに悩むことがあろうと、震災文庫が貫くのはあくまで「網羅的であること」だ。

誰が、なんのために、どんな物を求めているか分からない。「『時間が経過したからこそ書ける』というような資料も出てきますし」と小村さん。発災から20年たっても、収集作業の手はゆるめられない。一方にはまったく意味をなさない資料でも、他方にはどうしても必要とされていたりするのだ。

いいお仕事をされてるなあ、と思った。



http://current.ndl.go.jp/e1654:title-■E1654■ 愛知教育大学 図書館『種』プロジェクト

愛知教育大学の沓名さん。

図書館総合展でポスターを見かけて、嬉しくなって、勝手に執筆交渉をしてきたもの、です。(Refに挙がってる中日新聞の記事を見て、おおう、年下の方だったのかーwと驚いたのは内緒。)

海の向こうの取組を単にモノマネするのではなく、しっかりと自大学の環境にあわせてローカライズされてるのがすごいと思う。

米国の図書館で種を貸し出しているという記事を初めて見た時,とても面白いなと感じた。同時に本学でこれを取り入れるとしたら,どのように企画するかを考えた。そして本学の特性から,将来教員を目指す学生の経験と環境教育に重点を置いたものにすることを決めた。

実績としては、2013年度は69名に貸出、17名から返却。2014年度は花だけじゃなく野菜も増やして、140名に貸出、12名から返却。大学祭や、附属小学校・幼稚園にも進出していって、連携講座も実施。「関連資料の貸し出しも増えた」と、ちゃんと本業にもリターンがあったという。種の貸出なんていうのは図書館サービスの“本質”ではないと批判するひともいそうだけど、こうしてなんとなく関係づいてしまうところが図書館という存在の面白さであると、あらためて思ったりした。

最後の

たくさんの図書館で『種』プロジェクトをはじめることで,図書館サービスの新たな一面を多くの利用者に示せるのではないかとも考えている。

という呼びかけにはちょっとわくわくする。



■E1655■ 「忘れられる権利」の適用範囲-EUとGoogleの見解

調査局・今岡さん。

E1572E1585に続く第3弾。過去の経緯は正直すっかり頭から消えていましたよ……。それもあってちょっと難しかった。

ええと、去年5月の裁定に対して、最近、EU側が運用ガイドラインを出し、Google側は報告書を出したらしい。今回の記事では「削除対象ドメインの範囲」についての両者の見解の違いにフォーカスして解説している(ここがいちばん重要なポイントだと判断されたのかな。原文は読んでないので、そのへんはちょっと追いきれてない)。

つまり、削除したいURLが「Google.frなどのEU圏のものからアクセスできないようにすれば十分か、Google全体でアクセスできないようにしなければいけないか」という話、かな。見解の違いといっても、当然、EU側は「不十分」というだろうし、Google側は「十分」というだろう。実際そうだったというふうに読める。

以下はGoogle側の見解についての部分で、

こうした背景によれば,原則として,欧州諸国の地域バージョンについて削除を行えば,現状,データ主体の権利は適切に守られると諮問委員会は考える。確かに,欧州諸国以外の地域バージョンや国際的なバージョンについても削除を行えば,データ主体の権利を完全に保護することができるかもしれない。しかし,そのデータ主体の権利保護と競合し,さらにそれを上回る利益(情報へアクセスできるという公衆の利益)もあるという意見が委員会では多数派を占めた。

難しく書いてあるけど、結局「個人の不都合」vs「公衆の利益」という話らしく、そりゃそうだよね、と思った。

個人的には削除ドメインを限定するかしないかで実際のGoogle側のオペレーションにどう違いがあるのかという点が知りたかったりする。



次は3月5日。

カレントアウェアネス-E No.274感想

# 遡及入力。

新年一発目。外部原稿4本、内部原稿1本。


■E1643■ JALプロジェクト2014:公開ワークショップ<報告>

東近美の水谷さん。

JAL = Japanese-art librarian。JALプロジェクトは2014年度に開始されたということでいいのかな。2013年度まで行われていた「日本専門家ワークショップ」(E1408参照)の美術資料特化版というイメージを持った。

記事では、招聘された7名による最終報告会という位置づけのワークショップ「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」について報告されている。フリーランスの方がいるのにちょっとびっくり。提言のまとめとして特徴的な点が3つ述べられているけど、小出さんの言にあるとおり「日本美術に限らず,海外の日本研究の全般において」共通の問題だろう(と思えるのは、ひとえに江上さんのおかげか)。美術資料特有の課題はなかったのだろうか?

来年度のプロジェクト継続は未定、か。



■E1644■ 電子図書館サービス実証実験@山中湖情報創造館

丸山さん。3月末までの実証実験の、ちょうど中間報告。

2014年12月31日において貸出可能な電子書籍は1,823点。図書館向けの電子書籍の提供に賛同するKADOKAWA,学研,講談社,筑摩書房,文藝春秋インプレス等の出版社の協力による充実した作品群での提供である。また利用者においては山中湖情報創造館の利用者登録者(暗証番号登録者)が利用可能であり,のべ総ログイン数1,294回,のべ電子書籍貸出数836点という結果となった。

どんなタイトルが借りられて *いない* のか、が気になる。手に取ってもらえるものとそうでないものの差は。

後半は“New media for new audiences”という(図書館総合展でも聞いた)フレーズを引き合いに、新しいユーザへのアプローチについて述べられている。メディアが増えれば、ユーザ層も増える。しかしこれ、存じ上げなかった。>「山中湖情報創造館においては10年前の開館時に新聞折込広告を」

国産の電子図書館サービスシステムは,まだ誕生したばかりだといってもいい。基本的な機能はあるものの,フィジカルな図書館における開架書架のような一覧性には乏しい。

は図書館向けのサービスだけじゃなくて、どこでも同じという感じ。



■E1645■ アーカイブ座談会「担い手が語る/若手が語る」<報告>

なちさん。

2回の座談会の報告。NDLの職員が何名も関わっている「アーカイブ立国宣言」(Kindle版で買いました)の出版記念イベント。記事では主催者が明記されてないんだけど、版元のポット出版

アーカイブ立国宣言

アーカイブ立国宣言

しかし有名人のオンパレードだ。。記事で紹介されているのはこの界隈では繰り返し言われ続けていることという印象(それだけ重要で、難しい問題だということなんだけど)。

司会の福島幸宏氏(京都府立総合資料館)による,よいアーカイブとは何か,という問題提起に対し,登壇者は回答にやや苦心していたように見えた。

ここがいちばんおもろかったw それに対する生貝先生の回答は

検索エンジンでヒットしないものは存在しないとすら考えているようなデジタル世代が,文化の楽しさや素晴らしさを,これまでの世代と同様にもしくはそれ以上に享受できるもの

だったそうだ。「デジタル世代」がそんなふうに考えているかどうかは自分には分からないけど、ちょっと気になったときに検索したらコンテンツを見ることができるようにしておかなければ(他のコンテンツに勝つのは)無理だろう、とは思う。薄い関心を持続してもらうのはとてもむずかしい。世の中には他の「楽しさや素晴らしさ」がたくさんある。

# 文化資源戦略会議のブログもニュースソースとしておすすめです。



■E1646■ 米国デジタル公共図書館(DPLA)戦略計画2015-2017

篠田さん。

春には2周年を迎えるDPLA、の戦略計画の紹介。ざっくり言って、まだまだやることがたくさんあるフェーズなんだという印象を受けた。

菊池さんの記事(E1429)で知ったService Hub / Content Hubという手法はやっぱり面白いなあ。国立国会図書館サーチも都道府県ごとにアグリゲータを設けないとやっていけないという日が来るのだろうか。

個人的にはHathiTrustとの関係が気になっていて、「現在の枠組みでは対象外のコンテンツ(電子書籍,視聴覚資料,学術研究の成果等)を収集対象とするプロジェクトの実現」のところに反応した。あとは、

DPLAではボランティアを活用し,地域のコミュニティのあらゆる立場の人々にDPLAを普及させる“Community Reps”というプログラムを実施している。2014年には,全米50州および5か国からの200名をCommunity Repsとして承認した。Repsは,図書館,博物館,企業,学校でのイベントの運営や,DPLAのコンテンツや技術を紹介する入門的な資料の作成などを行っている。

もすごいなあ。サポーター、って感じか。どういうひとたちがなるんだろう、と気になって地図を見てみると、やっぱり図書館員が多いけど、大学教員やITコンサルなども。



■E1647■ 第4回日中韓電子図書館イニシアチブ(CJKDLI)会議<報告>

出席者4名連名。

毎年恒例のCJKDLI。去年は韓国開催だった(ので id:kzakza さんにチューブのコチュジャンをもらった)けど、今年は中国(なので福山さんに烏龍茶をもらった)。来年は日本か。。

各国報告のところはともかく、合同事業としては、

  • 中日韓デジタル図書館データベース構築計画(中国、今回新規提案)→今後検討
  • 国立国会図書館サーチ連携実施計画案(日本)
  • 統合的情報サービス(ポータル)(韓国、前回合意)→ちょっとは進んでいる?

という感じなのかな。進捗の実態がよく分からん。

NDLからは,「国立国会図書館サーチ連携実施計画案」について概要を説明した。この「実施計画案」は,国立国会図書館サーチが今後連携対象とする機関・システム,今後概ね5年間を目途に実現を目指す連携拡張の規模,効率的な連携拡張の方式等を明確化することを目的として現在作成を進めているものである。

がとても気になる。特に「効率的な連携拡張の方式」のところ。

カレントアウェアネス-E No.275感想

#前号書いてないけどとりあえずこちらを先に。

4本、うち外部1本。オーファンワークス、デジタルプリザベーション、リサーチデータと地味に重たい号。



■E1648■ 英国における孤児著作物に関する新ライセンス・スキーム

局・齋藤さん。

2014年10月末導入の新スキーム。南さんのE1582の続きですね(当時の感想)。このネタも経緯が長い。。

このスキームは、

  1. 拡大集中許諾制度(先行実施済み)
  2. 孤児著作物ライセンスに関する規則(英国内限定、広範)
  3. EU孤児著作物指令を実施する規則(文化施設が非商業的になどの制限がある)

から構成されているという。記事では主に2, 3を紹介。

EU指令は各国に影響が出るので内容が弱いところがあり、英国内限定のほうではより踏み込んだことを言っているという関係かな。英国は今回単にEU指令の適用(後者)だけに留まらなかったのが偉い、と評価すればいいのだろうか。「このスキームにより,約9,100万点の孤児著作物(英国政府による推計)を利用する道が新たに開かれた。」

後段で日本の制度と比較して「英国内ライセンス・スキームは(中略)日本の裁定制度とも類似している」としている。逆に相違点がよく分からなかった。すっかり忘れてたけどここでいうライセンス料に相当する「補償金」なるものが日本の制度にもあるし……。



■E1649■ 図書館のためのデザイン思考

安原さん。

まさか図書館の文脈でIDEOを目にするなんて、という。元ネタはまだちゃんと見てないんだけど、フレームワーク自体は一般的なもので、図書館の領域に適用した事例を添えているということなのかな。主に、inspiration→ideation→iteration、というフェーズの紹介。個人的には他2つはわりとなじみのある感じだったけど、最初のinspirationの内容が興味深かった。課題ファーストじゃなくてまずターゲットユーザを定めるんだ、とか、ユーザと課題について幅広く&深く調査していくさまとか。



■E1650■ 電子情報保存の研修への要望に関する調査報告書(米国)

武田さん。

LCのプログラムが行なったアンケート調査の報告書(前回調査は2010年)。研修、というのがなんだか目新しいが、ニーズ調査なんですね。オープンな調査ではなく「米国本土と準州における電子情報保存に関係する機関」が対象。回答数436。MLAだけでなく、歴史学会なんていうアクターも入っているらしいのが面白い。

研修に対するニーズについては、電子情報保存という領域だからといって特別な違いがあるのかどうかはよく分からなかった。国や地域によって距離感とか違うだろうしなあ。

「電子情報保存担当の職員数や配置について,この4年間で変化が見られたのが重要な発見であるとされる」から「報告書では,専門職員数に関するこの知見は,文化遺産を長期保存するためのデジタル保存に取り組む団体にとってよい傾向を示しているとしている」のくだりはちょっと覚えておきたい。



■E1651■ RECODE:研究データのあるべきオープンアクセス方針とは

ラストは篠田さん。

Policy RECommendations for Open Access to Research Data in Europe(RECODE)による、研究データのOAに関する10の提言を紹介。FP7のプロジェクトなんだ。

「学問分野固有の研究プロセスやデータ収集等への配慮に欠けていることが課題であると認識」にうんうん。論文のOAよりも文化差が激しい気がする。提言をまとめるにあたって「物理学,医学,生物工学,環境学,考古学の5つの学問分野に係るインタビュー調査を元に」とあるけど、個人的には地球科学の存在感がけっこう大きいと感じている。環境学、がこのなかだと比較的近い領域と言えるのかな。

提言のうち、データらしさが感じられるものとしては、

  • (5)OAデータの長期的な管理・保存の計画を策定する
  • (6)高品質な研究データへのアクセスと長期保存を実現するため,技術面,インフラ面で広範囲にわたる協力的な解決策を検討する
  • (7)研究データの技術的,科学的な品質基準を検討する
  • (9)研究データをOAにすることから生じる法的・倫理的な課題を体系的に検討する

あたりかなあ。特に(7)に興味がある。

これとは別にステークホルダー(助成機関、研究機関、データ管理者、出版者)別の提言もまとめられているらしい。



次回は2月19日。