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カレントアウェアネス-E No.262感想

先日「地域活性化志向の公共図書館における経営に関する調査研究」のEPUB版が追加公開されてましたね。

EPUB形式でのパブリッシュは、カレントアウェアネス・ポータルのコンテンツでは初めてのはずだし、もしかしたらNDL全体でも初めてなんじゃないだろうか……(曖昧)。ただ、PDF版は国立国会図書館デジタルコレクションに登録されているけれど、EPUBのファイルはそうではないというのが気になるところ。登録ポリシーかなにかによるものなのかな……。



さて、今回は6本中、外部原稿が5本。


■E1578■ 神戸市立図書館が「神戸賀川サッカー文庫」を開設

神戸市立中央図書館の松永さん。

賀川さんという、神戸市出身の編集者からの寄贈資料5000点を特別コレクションとして整備し、館内の専用資料室(火・木・土のみ開室)で公開したというはなし。どうもフリューゲルスが合併したときに私のなかでサッカーに対する興味は失われたので資料自体についてはコメントできないのですが、会話OKというデザインによって生まれた場のありかたが素晴らしいなと思いました。

賀川氏の「図書・資料に囲まれて仲間とサッカーを語り合うルームを持ちたい」という望みを叶えるため,室内では自由に会話をしていただけるような配慮を行った。開室日は毎週火・木・土となっており,それに合わせて賀川氏も来館される。開室日にはサッカー資料の閲覧より賀川氏との“サッカー談義”を楽しみに来館される方もおられる。

「神戸賀川サッカー文庫」は賀川氏の望んだサッカー関連の図書や雑誌に囲まれた人と人がつながる場となりつつある。中央図書館内にありながら,ドアを開けて部屋に入ると別世界なのである。

特に、ご本人が来館されるというくだりからは、公共図書館での「住み開き」とか、ヒューマンライブラリー(リビングライブラリー)といったキーワードが頭に浮かびました。同じような文庫をたくさん作るのは場所やコストの面からいって無理があるでしょう。でも、今回のようにパーマネントなコレクションとして受け入れるという方法ではなく、市民のコレクションをもっと“動的”に公共図書館に取り込む方法を考案できたら、さまざまな展開が考えられるのではないか、と想像していてちょっと楽しくなりました。図書館のコレクションだけが、その自治体のコレクションではないはず。(大学でいえば研究室資料みたいな。ちょっと違うか。)

お願いしたいことが2つあって。1つは書き出しが「神戸市」になっているところ。今回は別の箇所で「兵庫県」という単語がなんとか含まれているからいいものの、この記事が「兵庫県」という検索キーワードでヒットするようにしておいてほしい。というのも先日E1484が「北海道」でヒットしなくて困ったという経験があったので(札幌じゃなかったっけ?と数分悩んだ)。日本については都道府県別のタグを付与するのもアリかもしれない(遡及入力が大変だけど)。

もう1つはサッカーやスポーツに関するコレクションというのは日本でどれくらいあるのかという言及が欲しい。「レビュー」という特色を大切にしているカレントアウェアネス・ポータルの一コンテンツとしては、事例報告であっても、単にそれだけにはとどまらずに、レビューという視点を持って他館の取り組みについても盛り込んでいってほしいなと。



■E1579■ 日本におけるOAジャーナル投稿とAPC支払いをめぐる調査

NIIの高橋さん。意外にも初めてのご執筆だったそうで(自分のときにお願いしておけばよかった……)。

SPARC Japanが5月に出した「オープンアクセスジャーナルによる論文公表に関する調査」という報告書の紹介。高橋さんと調査の関わりが明記されてないけど、WGのキーパーソンということで良いのかしら。

なお、この調査をテーマにしたSPARC Japanセミナーが8月4日に行われますね。早川さんが紹介されるJAEAの事例が気になってます(長屋くんからちょこちょこ聞いていたけど)。

APCの訳語はまだ定着してないと認識してますが、今回は「論文処理費用」を使用している。調査は、予備調査と本調査(アンケート調査、インタビュー調査)の2段階で構成されている。予備調査はDOAJとScopusをもとに作成した「APCによるOAジャーナルリスト」をベースに、53大学に呼びかけ、44大学が参加。本調査のうちアンケート調査はウェブで実施し、44大学から2475件の回答。インタビュー調査は8機関。アンケート調査の対象は理系研究者のようで、人社系でAPCのOAジャーナルって多くはないだろうけど全くないのかなというのが気になった(Open Library of Humanitiesはまだなのか)。

結果に関しては、研究者の行動も図書館の現状も特に自分の認識とはズレはなく。でも、

・論文の投稿先を選ぶ際に「オープンアクセスであること」はあまり重視されておらず,「分野における評価」,「雑誌の対象範囲と論文の合致」,「適切な査読の提供」等の従来からの決定要因に適合するOAジャーナルの出現が,OAジャーナルでの掲載論文数の増加を駆動している可能性がある。

はきちんと押さえておく。プロの研究者の大多数は、OAジャーナルだから投稿しているわけではない、のだな。(OAじゃない媒体になにか書きたいとはあんまり思わない自分とは違う。)

記事にもあるように、まずは大学全体としてのAPCの状況を把握することが必要で、次いで大学全体としてのOAポリシーの策定(とそれに伴い求められるAPC支出への支援)の検討、ですよね。OAから話ずれますが、紙の図書についても、費用(消耗品)として購入されているものって図書館で把握しきれてないよなあ。大学によって状況は違うだろうし、国立と私立でまた異なるのかもしれませんが。図書館を通さずに購入されている消耗品の図書から見える利用者のニーズってものがあるのかもしれない。

しかし、シリアルズクライシス→OA(機関リポジトリ)だ!→APCだっ!→……? という一進一退の攻防が面白いといえば面白いです。まあ、図書館サイドはちっとも勝ててないのですが。

なんにせよ、こういう報告書を読むたびに思うのは、自分も早くこういう調査/報告書に関われるようになりたいとことだけです。



■E1580■ ニューヨークとシカゴで公共図書館がインターネットを“貸出”

いろいろ貸します系記事に定評のある依田さん。

タイトルは若干ミスリーディングな気もするんだけど(ダブルクォーテションはインターネットに付けるべきだと思う)、NYPLのプロジェクト名“Check Out the Internet”を受けているのだろう。

公共図書館の館内におけるインターネットアクセスの提供からさらに一歩踏み込んで、モバイルWi-Fiルーターを貸し出すという取り組みを、ニューヨークとシカゴ(またエマニュエル市長か!)で実施予定だという。いずれも財源はナイト財団の助成。どちらも在住者向けなので旅行者がふらっと借りられるようなものではないらしい。ニューヨークでは最大1年、シカゴでは最大3週間と貸出期間には違いが見られるが、貸出のバーターとして、オンラインでの?学習プログラムやリテラシー講習に参加しないといけないというしくみになっている。

タイミング的に記事には含められなかったのだと思いますが、オハイオでも同様の取り組みが。



■E1581■ 文化情報資源と創造産業の融合:Europeanaアプリコンテスト

電子情報サービス課の安藤さん(恐るべき新人さんと耳にする)。

図書館・博物館・文書館でデジタル化した文化情報資源は学術領域だけではなく産業分野において(どういった)活用が可能なのか? というような問題意識にもとづいたアプリコンテスト。今回は第1回目で、テーマは「2つの教養部門(自然史教養部門,歴史教養部門)」という。最優秀賞を受賞したのは“Pathway Authoring Tool for Museums”、“Trimaps”、“Zeitfenster”という3つのアプリケーション。それぞれキュレーション、古地図(伊勢ぶらり的な)、AR、という感じ。最後のZeitfensterはGoogle Glass向きかな。

このコンテストでは,(中略)市場での成功可能性や,実現にかかる予算などの運営計画も重要な評価ポイントとなる。

ということなので、最優秀賞のアプリはその点でも高く評価されたんだろう。各アプリの評価されたポイントについての言及もちょっと欲しかったかなあ。いまいち市場での成功可能性が見えてこなかったので。

以前にも書いたような気がするけれど、こういったアプリコンテストから、コンテンツのメタデータに足りないものへのフィードバックができると嬉しい。



■E1582■ 英国政府,孤児著作物利用促進のための制度設計の方針を公表

南さん。この感想執筆史上もっと難しかった記事。

ECの孤児著作物指令の英国内適用の期限が10月末迫っているという状況で、英国政府が規則案を策定してパブコメを行った。英国政府からの質問に対して寄せられた意見を、政府方針とともに取りまとめた報告書「孤児著作物に関する専門的コンサルテーションへの政府回答」が5月末に公表された。今回の記事はこの報告書の内容紹介で、27の質問のうち5つを取り上げている。著作権者サイドと利用者サイドで意見が分かれ、その間で政府が落としどころを見つけているもよう。

……概要はこうだと思うのだけど、読むのにすごい時間がかかってしまった。編集の工夫でもっと読みやすくできるのではと思い、理由を考えてみた。

つまづいた箇所は主に次のふたつ。ひとつは、第4段落で登場する「27の質問」が誰から誰への質問なのかが分からなくなったこと。ネタが「政府回答」なので国民からの質問なのかとつい思いこんでしまったけど、これは政府の質問に対する国民からの意見に対する政府の回答なんですよね。ややこし。もうひとつは、質問1で質問と回答が対応してるのか理解できなかったこと(今でもよく分かってない)。「認可機関」の解説がないし……。最初の質問でつまづいてしまって、以後ちょっとつらかった。質問6の「請求がなかった料金」もしくみがよく分からず(請求しないというケースがありうる制度なのかな)。

あとで他の記事も読みつつ勉強していたら、E582、E1206は参照しておいたほうがいいと思えた。

また、

この報告書は,上述の経過を示した上で,(1)英国でのみ適用されることを想定するライセンスの枠組み案と,(2)EU指令を適用する場合の枠組み案を示し,2014年1月10日の意見募集の際に提示した,これらの枠組みを適用する際の27の質問について,質問ごとに,意見の要約と,これらに対する英国政府の方針を示している。

この1・2と各質問の関係が気になってしまった。そこはあんまり重要じゃないのかなあ。



■E1583■ 持続可能なデジタル人文学のために:大学における支援の現状

菊池さん。

Ithaka S+Rの「Sustaining the Digital Humanities」というレポートの紹介。レポートの内容についてはコンパクトにまとめ、文脈を丁寧に解きほぐしているからとても読みやすい。今回のレポートは2011年の「Funding for Sustainability: How Funders' Practices Influence the Future of Digital Resources」(CA-Eで未紹介)の続編になる。Digital Resourcesから、Digital Humanitiesへ。主題がこう変わったことによって、中身に実質的な変化はあるんだろうか?というのは気になった。単にこう表現するのが今風だということなのかな。

記事のポイントは

しかし,大学内においてプロジェクトの企画立案段階での支援は充実しているものの,プロジェクトのライフサイクル全体を考慮した支援は少なく,特にプロジェクトの持続に関わる段階へのサポートは,どの部署が担当するのかすらはっきりしていないようであった。

にあると思う。で、「持続に関わる段階へのサポート」ってなんだというと、デジタル保存やアウトリーチについての支援だという。

うーん、そうなのだろうか。大学内で次々に生まれては死に体のまま放置されがちな数々のプロジェクトの維持に必要なのはほんとうにそんな支援なんだろうか?という事務屋側からの疑問は残る。あんまり書かないけど。

DHに限らず、長期的なサステナビリティを確保するためには、そのプロジェクトを親機関のミッションや目標と密接にからめていくのが最善の手だろう。そういった意味でベストプラクティスとされているDHのプロジェクトってどういうものがあるんでしょう?>菊池さん 例えば、機関リポジトリが博士論文の公開プラットフォームとして(そう法で定められているわけじゃないけど、事実上)認められたというのはひとつの成功事例だと思う。

しかし「toolkit」ってなんかいい訳ないだろうか、とよく悩む。このことばが実際に指すものとしてはExcelファイルやチェックシートだったりするんだけど、「ツールキット」と訳すとどうもおおげさな感じになってしまう。「フレームワーク」についても同じで。



次は7月24日(その週末は大分大学ソフトバレー大会が……)。