田中あずささんの日
昨日は午後から、講演会、意見交換会(内輪)、懇親会(水炊き)と、田中あずささん(@azusata)の日でした。(なつのとも風)
●講演会:A Journey to Become a Librarian
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/0722
司書課程の講義と絡めてることもあり、たくさんの学生さんを含めてあの広い部屋がぎっしりだった。テーマはサブジェクトライブラリアンとなっているけど、図書館から離れて、留学や海外での就職といったキャリア教育の機会になっていたと思う。共催のアメリカンセンターの方も「留学に興味を持った方はぜひEducationUSAアドバイジングセンター」へと(日本語で)挨拶していた。
田中さんの講演は一言でいえば「キラキラ」してた。図書館に就職したい学生さんがこんなの聞いたら「サブジェクトライブラリアンになりたい!」と憧れてまうやろなあ、と思った。一方の自分はこういうキラキラと活躍されているひとの話を聞くと(自分の状況と比較してしまって)体調が悪くなりがちなんだけど、今回は大丈夫だったので、たぶんいまは幸せなんだろうとしみじみ思ったりした。
講演は75分程度で、主なトピックは
- ライブラリアンを目指した理由
- 就職までに踏んだステップ
- 現在の仕事のようす
の3点。
田中さんとの初対面から3年ほどになるけど、初めて聞くエピソードも多く、なにより一連のストーリーとして聞けたのがとても良かった。流れ、大事。スクリーンの前に出てきて話すスタイルで、「人前で話すのが苦手」なんて嘘じゃないのかというくらいかっこよかった。
サブジェクトライブラリアンというテーマになると、「日本では……」「異動が……」という話になりがちなんだけど、そこはひとまずどうでもいいじゃんと思えた。日本でサブジェクトライブラリアンが実現不可能でも、たとえユーザに求められていなくても、講演じたいはとっても魅力的だったし、得るものがあったと思う。事前告知とは違って、講演タイトルには「A Journey to Become a Librarian」と"Subject"が入ってなかったし。
これだけハードな環境にいるひとたちと同じ“librarian”なんて言ってしまっていいのか、と思わなくもないのだけど、かっこいいなあ、少しでも近づきたいなあと、目線がくっと上向くような講演会だった。
理由
田中さんの経歴は、日本の大学を卒業(英文学)→ワシントン大学(シアトル)で韓国学修士号取得→コロンビア大学でアーキビストアシスタント→シラキュース大学で図書館情報学修士号取得→ワシントン大学(セントルイス)で日本・韓国研究担当サブジェクトライブラリアン→ワシントン大学(シアトル)で日本研究担当サブジェクトライブラリアン、というもの。
この留学時にサブジェクトライブラリアンから手厚いサポートを受けたことが、サブジェクトライブラリアンを目指すことになったきっかけだったそう。
なお、ふたつのワシントン大学は別物で、セントルイスにあるWashington University in St. Louisは私立大学、シアトルにあるUniversity of Washingtonは州立大学。
転職時の紹介(CEALのメーリングリスト)でも経歴が紹介されてる。
http://cealnews.blogspot.jp/2013/07/new-japan-studies-librarian-univ-of.html
現在、サブジェクトライブラリアンに関する本を日本語で執筆中とのこと。どうしたら日本で参考になる内容になるか苦心されているようだった。
ステップ
CA1737 - 米国の図書館就職事情 / 田中あずさ
http://current.ndl.go.jp/ca1737
を読んだこともあって、米国での就職が厳しいことは知っていた。日本研究のサブジェクトライブラリアンと限定すれば、さらにポストは限られる。田中さんもサブジェクトライブラリアンになりたいと思い始めてから、実際になるまでに4年かかったそうだ。そのプロセスを具体的に話してくださり、だいたいこんな感じだった。
- まずは図書館で働いてみようと思い、いろいろな図書館に50件くらい履歴書を出したが全部落ちた。
- コロンビア大学の日本研究司書アシスタントに落ちたとき、電話をかけて理由を聞いてみたら「地元の人を採用した」と言われた。今度アーカイブのプロジェクトでアシスタントを募集するという情報も得た。
- ので、ニューヨークに引っ越した。←ここがすごい。西から東へ。
- ぶじ、Barbara Curtis Adachi Bunraku Collectionのアシスタントの仕事に採用された。「毎日起きるのが楽しくて、天職だと思った」。
- サブジェクトライブラリアンになりたいと言ったら、上司のカグノ麻衣子さんがいろいろな会議に連れて行ってくれたり、レファレンスデスクに座らせてくれたりした。
- ライブラリースクールを受験。受験校を選ぶときの条件は、(1)ライブラリアンの求人条件を見てALA認定校、(2)どうせ行くならトップスクール(トップ6のうち4つ受けた)、(3)地理的に東アジア図書館でインターンができそうなところ、(4)授業料と生活費のサポートがあるところ(ワシントンでもシラキュースでも、TAをして授業料を免除してもらっていたとか)。
- ライブラリースクールではアカデミックライブラリアン向け科目を中心に、保険のためにプログラミングやデジタルライブラリといったホットな授業も受講した。「ライブラリースクールに入るときには、どういうライブラリアンになりたいかというのを決めておいたほうがいいですよ」
- アジア学会でワシントン大学セントルイスの日本研究ライブラリアンと出会い、「もうすぐ別のところに移るつもりなの」という情報を得る。目録の仕事が多いと聞いたので、目録のインターンシップをすることに。
- ライブラリースクール1年目が終わるころにその人が移った。サブジェクトライブラリアンのポストは空きがほとんどないので応募することにして、大学院は2年→1.5年で修了することに。
- 採用試験は、履歴書(条件的にはMLIS取得済みじゃないといけないけど、そのライブラリアンが話を通しておいてくれた)、エッセイ(自分がいかにこのポジションに向いているのか、どうして自分を採用すべきなのか)、電話インタビュー(自分の経歴や今後の展望を何枚もの紙に書いてアパートの壁に貼った写真が面白かった。でも準備したことはまったく聞かれなかったらしい)、キャンパスインタビュー(2日くらい。この時点で2人くらいに絞られている)、インタビューディナー、プレゼン(大学院生や学部生にワークショップを行うときに気をつけることというお題で20分)、という流れ。大学院で就職活動のサポートを受けたらしい。
なんというか、必要なのはガッツだと思った。そして、自分の希望をまわりのひとに伝えること。
仕事内容
ここはjob description見れば分かることでもあるのでさらっと。
仕事のひとつに「予算管理」というのがあり、何をやるのかと思ったら予算獲得のためにドナーへの働きかけをしたり、ファンドに応募したりということらしく、日本での「予算管理」とはずいぶん意味合いが違っていた。
代表的な一日として紹介されていたのは……
0800 | 選書・リサーチガイドの手直し |
0900 | 日本チーム会議 |
1000 | 東アジア図書館スタッフミーティング |
1100 | 委員会のミーティング(Web design, Diversity, DHの委員会に参加) |
1200 | ブラウンバッグ・ミーティングや研修 |
1300 | インストラクション(授業に出張) |
1400 | リファレンス |
1500 | ドナーの方とお話し |
1600 | コーヒーアワー(学部横断的に日本に関する研究をしているひとを集める場) |
1700 | 学部で行われるレクチャーに参加 |
1800 | ジム |
1900 | 学外の図書館関係者と交流 |
2100 | 執筆や学会準備 |
というもの。出勤時間は固定されてないという。そして米国のライブラリアンでもアジア系はよく働く傾向があるらしい。
以下はワシントン大学の紹介ビデオ。
多様性とアイデンティティ
田中さんの研究テーマのひとつに「多様性(diversity)」がある。図書館というのは多様なものを包含した場であるのにそこで働く人に対するイメージは白人女性ばかりで……という話には深く頷いた。
書籍『The Librarian Stereotype』所収の論文「Unpacking Identity: Racial, Ethnic, and Professional Identity and Academic Librarians of Color」が、ワシントン大学のリポジトリで読める。
https://digital.lib.washington.edu/researchworks/handle/1773/27322
The Librarian Stereotype: Deconstructing Perceptions and Presentations of Information Work
- 作者: Nicole Pagowsky,Miriam Rigby
- 出版社/メーカー: Amer Library Assn
- 発売日: 2014/06/30
- メディア: ペーパーバック
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非白人で3年以下のライブラリアンを対象にしたワークショップがある、というはなしは初めて聞いたので驚いた。【追記】田中さんからMinnesota Institute for Early Career Librarians from Traditionally Underrepresented Groupsというものだと教えてもらいました。ACRLとミネソタ大学図書館の共催で1998年に始まり、2年に一度開催されているとのこと。
最後は、アイデンティティのはなし。アメリカン大学の“No matter who you are”というビデオを流しつつ、参加者に「あなたのアイデンティティは?」と問いかけてまわっていた。
締めのメッセージは“Be yourself”。
●情報交換会
内輪の情報交換会では「日本でサブジェクトライブラリアンが根付くべきか?」に始まり、昇給の率や基準、姫デコ研究で学位を取った学生とそれをサポートする資料とか、いろいろなディスカッションをした。
私からは「ワシントン大学でいちばんホットなことは?」と質問して、「Primo/Alma、RDA、Digital Humanities」と伺った。Orbis Cascade AllianceでAlmaをコンソーシアム導入したんだけど、してるんだけど、なんとも大変そう。。セラピードッグ。。
http://www.thedigitalshift.com/2012/10/ils/orbis-cascade-alliance-signs-agreement-with-ex-libris/
http://www.exlibrisgroup.com/default.asp?catid=%7B916AFF5B-CA4A-48FD-AD54-9AD2ADADEB88%7D&details_type=1&itemid=%7BC1ECEE5D-8B12-4DDC-9D5C-9B404093E70C%7D