揺れたとき本を落とすか落とさないか,あるいはどううまく落とすか

12月20日,国立国会図書館東京本館で第23回保存フォーラム「地震に対する図書館の備え―良かったこと,分かったこと」が開催されました.関西から中継で見てました.

柳瀬博夫さんによる写真たっぷりの分かりやすい講演「地震による書架の転倒及び資料落下防止策について」に続いて,宮城県図書館,福島県立図書館,東北学院大学中央図書館,国立国会図書館東京本館からの事例報告がありました.計3時間.



いちばん印象に残ったのは東北学院大学の佐藤恵さん(やっとお顔を拝見)のプレゼンの最後らへんで言及された,地震によって図書館が大きく揺れたさいに,書架から本を「落とす」か「落とさないか」という話.彼女はそれぞれの選択のメリット・デメリットを以下のように整理していました.

メリット デメリット
落とす 書架にかかる負荷の軽減 落下図書により避難経路の確保が困難,資料の損傷
落とさない 落下図書が直撃することによる人的被害を防ぐ 書架全体にかかる負荷の増大,書架転倒の危険性増大

そして,「資料や設備を守るか?人命を守るか?」という決断をするべきときに来ているんじゃないか,と問題提起されていました.

書架が資料を落下させることなくそのまま転倒し,もし利用者が下敷きになったら…….分厚い製本雑誌が端から端までぎっしりと詰まった重たそうな書架の写真と重ねてそう問われると,いっそうの怖さを覚えます.

質疑応答では,震災発生当時に東北大学附属図書館にいらっしゃった小陳さんが,「どちらかと言えば本を落とす派.本を抱えて倒れる書架が一番怖い」とおっしゃっていました.また,宮城県図書館の熊谷さんは,「落下防止のバーや紐は,落下を防げなかったときにも,ノークッションで落下して利用者に直撃することを避けることができるという効果もある」と補足されていました.

僕も資料を落とすことで人命が守られるのならためらいなく落とすほうを選ぶなと考えながら聞いていました.ただし,なんでも落とせばいいってもんでもないのですよね.落下した本で通路が埋まることで避難しづらくなってしまうことも考えられる(車椅子の方とか).うまく,落とすことが必要なのだろうと思います.落とすべき場所と落とすべきではない場所があるのかもしれない.言うのは簡単ですけど…….図書館によっても事情はさまざまでしょうし,ひとつの図書館のなかでも,場所によって判断は異なってくるはず.それをコストなどの現実的制約のもとで決断しないといけない.



……という,非常に恥ずかしながらこれまで認識していなかった問題に気付くことのできたフォーラムでした.今後意識していきたいと感じています.なお,佐藤さんの講演ではその他にも印象に残る言葉がちらほらあって,せっせとメモりつつ,このひといいひとだなぁと思って聞いていましたよ.