専門性とかシステムズライブラリアンとかどうでもよくて(E1459感想)

6月末に「江別の鈴木」さんこと鈴木敬二さんがDSpaceのコミッターになったというニュースが流れました.
http://current.ndl.go.jp/node/23811



鈴木さんは元大学図書館員(職場の大先輩)で,DSpaceは機関リポジトリ用のオープンソースソフトウェアのひとつです.僕はこの記事を読んですぐさまはてブで「働き方」「生き方」というタグをつけました.残念ながら鈴木さんにはこれまで一度もお会いしたことはありません.就職した当初に機関リポジトリにうっすら関わっていたときにお名前を見知ったと記憶してます.更新頻度の高いブログもずっと見ていました.また,id:sabarya から「システムの仕事がしたいと言いながら辞めていったんだよ」というようなことも聞きました(正確な言い回しは失念).そうして,同じような想いを持った人間として,面識もないのに勝手に共感しちゃって,いつかお会いできたらなぁと思っていました.



そんな鈴木さんのインタビューがカレントアウェアネス-Eに.

就任を機に彼の大学図書館員としての,そしてシステムズライブラリアン[*1][*2]としての生き方や働き方にフォーカスした,という企画の妙.いいですね.なんでこれ編集してるの俺じゃないの?と思ってしまいました.



ある意味,退職エントリ.

インタビューの前半はDSpaceのコミッターになった経緯や仕事内容,今後の目標について.でもこんなものは正直前座です(ぇ

後半でキャリアの話に.20年の大学図書館員生活でいろいろ経験されたポジションのなかから思い出に残るものとして選ばれたのは,「新卒3年目に配属されたシステム管理」とNACSISの図書室で働いていたころのエピソード[*3].さらに,大学図書館員になった理由については「コンピュータを扱う仕事をしたかった」からだと(共感).

そして,「日本の図書館員は,システム面で世界への貢献が少ないという声もあります。大学図書館の外の立場から図書館界をご覧になって,どのようにお考えでしょうか?」という質問を受けての,最終段落.

大学図書館がシステムを導入して30年以上たち,図書館システムは図書館運営にとって不可欠な存在となり,かつ,その技術は日々進化しています。これらに迅速に対応してサービスの向上を図るためにシステムライブラリアンの存在は不可欠だと思うのですが,早々に不要だと判断して育成しなかった日本の大学図書館界には残念ながら失望しています。定員がますます少なくなり専門性を持った職員の処遇が難しいという現実があるかもしれませんが,広く浅い専門性の図書館員ばかり増やしていては,いずれ図書館員自体が不要だと言われる日が来ると思います。

攻めてる.カレント編集部が攻めてるのか鈴木さんが攻めてるのか判然としませんが,とにかく攻めてる.

太字にした部分のうち前者については,裏になにがしかご自身の大きな経験があるんだろうと拝察しました.そうでなかったらこのような場で「失望」という表現はきっと使えないし,通せない.これは,20年ぶんのキャリアと,退職という決断と,その後の10年間,それらすべてが乗っかったメッセージなんだと思いました.過大評価かしら.

鈴木さんのようなひとが「失望」せず,システムズライブラリアンが必要だと判断して,後進への道を切り開いていてくださっていたら…….そんな願いのようなものが頭をよぎります.まあ,そんなこと知ったこっちゃないよ,と言われてしまったら,そりゃそうですよね,と返すしかないんですが.もちろん,鈴木さんはご自身の決断を通して,何がしかを教えてくださってると思っています.



このインタビュー,2000字では足りないですね.もっと読みたい.




* * *

こんな仕事をしたいという強い想いがあってこの世界に入ってきて,自分がその仕事をすることが組織のためになるのだと信じているからこそ,必要とされるスキルや知識を日々磨いて,でもそれがかなうひととかなわないひとがいて,彼らと,自分とを,分けているのはなんなんだろうかと思い悩んだりして.……そんなふうに苦しんでいるひとは少なくないんじゃないかなあと思うんです.たぶん.



@dorobunemk2 さんがむかし言っていたように,

うー、こういう仕事したい。ただそれだけ。


http://dorobunemk2.blog42.fc2.com/blog-entry-27.html

そう,それだけなんですよ.



自分はいわゆる「専門性」の議論には興味がありません.この領域についてそれほど勉強しているわけではないのにこんなことを言って大変申し訳ないのですが,少なくとも,この方面で議論を積み重ねることが自分の願いに対してプラスに働くという希望を持てていないからです[*4].同じような理由で,「システムズライブラリアン」という肩書きないし制度についても,残念ながら,日本で定着するという期待はあまり持っていません(もちろん,できたらいいな,なりたいな,とは思いますが).

そんな大きな枠組を追い求めるよりも,いまの自分に必要なのは小さな闘いなのだろうと思っています.自分の望みに正直になること,自分は間違ってないと信じること,それを表明しつづけること,諦めないこと.正直,それで勝てるという気はしていませんが,他になにができるでしょうか.


*1:記事中では「システムライブラリアン」とされていますが,systems librarianという表記のほうが一般的だと思いますのでこちらを用います.

*2:ちなみに,カレントでシステムズライブラリアンを真っ向から扱った記事って意外と少ないんですよね.大きなところではCA1634,CA1643,CA1735くらい? 自分は結局企画できなかったなぁ.

*3:NACSIS時代については,@yonezaado さんの指摘が気になります.当時どんなお仕事をされていたのかもっと知りたいなあ.https://twitter.com/yonezaado/status/365429317825605632 https://twitter.com/yonezaado/status/365441276855861248

*4:いわゆる「理論と現場の乖離」という話だとは思っていません.