「次世代OPAC」と「ディスカバリーインタフェース」の違い
(しばらくディスカバリーディスカバリーとぶつぶつ言うはめになっています。)
こないだある方から「次世代OPACとディスカバリーサービスの違いがわかりづらい」と言われました。結論から言うと「同じでいいんじゃね?」と考えています。当初「次世代OPAC」と呼ばれていたプロダクトが、しだいに「ディスカバリーインタフェース」や「ディスカバリーサービス」と呼ばれるようになったという意味において、ですが。
ただまあ、世の中に「次世代OPAC ディスカバリー 違い」でヒットするようなブログ記事がひとつくらいあってもいいかもと思い、世間(主に日本語圏)でどのように言われてるかをまとめてみました。いかがでしょ。
◯片岡さん@九大
CA1727 - 動向レビュー:ディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)の実装と今後の展望 / 片岡 真
http://current.ndl.go.jp/ca1727
「1. OPACからディスカバリ・インターフェースへ」において「ディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)」という表現を用い、脚注で以下のように説明しています。
これまで“next-generation library catalogs”の訳語として「次世代OPAC」がよく使われてきたが、この新しい製品がカバーするリソースや提供する機能は、もはや「OPAC」の枠にとどまらない。そのため海外では“discovery layer”などの表現がよく用いられているが、ここではブリーディング(Marshall Breeding)の“Next-Gen Library Catalogs”の記述に従い、「ディスカバリ・インターフェース(discovery interfaces)」を用いる。
Breeding, Marshall. “Introduction: Next-Gen Library Catalog Basics”. Next-Gen Library Catalogs. New York, Neal-Schuman Publishers, 2010, p. 2-3.
○マーシャルさん
Marshall Breeding "Next-Gen Library Catalogs"
http://www.amazon.co.jp/dp/1856047210
片岡さんの参照しているマーシャルさんの御本(pp.2-3)では以下のように書かれています。主に検索範囲という観点から"catalog"という表現は十分ではないと言っている、と理解。(なお、太字は原文通り、下線は引用者によります。)
A new genre of software has emerged that aims to replace the traditional online catalog. So what do we call these products that are emerging that involve providing access to library collections and services in some new ways? These products tend to be called next-generation library catalogs, although this terminology doesn't exactly capture the essence of the genre. The word "catalog" isn't especially helpful in describing this category of products. While we'll talk later about the specific features and concepts addressed by these emerging products, generally they aim to modernize the interface and expand the scope beyond what was possible with the earlier products. The online catalogs were delivered as a component of the ILS. These new products don't have the same relation with the library's automation environment; they usually address a broader set of content than what is managed by the broad set of resources that comprise library colletions.
This broader scope of search aims to help library users find resources managed in multiple systems, including content to which a library subscribes from external providers. These products aim to help library users discover the resources available among the many different aspects of a library's collections and to manage the process of making that resource available for them. This broader function has led to the term discovery interfaces.
○久保山さん@阪大
次世代OPAC(メーリングリスト)の終焉
http://blog.goo.ne.jp/kuboyan_at_pitt/e/06cbd536b927586e046fdb77e7d72c72
片岡さんとともにnxopacというメーリングリストを立ち上げ、運営されていた久保山さん。メーリングリストを終了させるに当たってこのように述べています。「移っており」という表現から、当時は「次世代OPAC」と「ディスカバリーサービス」が違うものだと考えられていたことが伺える、のかな。深読み?
2008年6月に開始して以来、「次世代OPAC」についての国内での情報交換、情報共有を目的に運用しておりました。
最近は、業界の話題もディスカバリーサービスに移っており、当メーリングリストは役割を終えたと判断しました。
◯飯野さん@佛大その1
佛教大学図書館におけるSummonの導入 : ディスカバリーサービスとシステム連携
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008723196
Summonのような製品について、「次世代OPACの次世代型」という表現を。
当時「次世代OPAC」という言葉で、オープンソースあるいは企業による製品として、いくつかの新しいタイプの「横断的な」検索システムの名前が取りざたされていた。その中には、さまざまなウェブコンテンツをハーベストし、自らのサーバ内でインデキシングした後に、検索に供するシステムが存在していることが判明した。これらは言わば「次世代OPACの次世代型」の検索システムであり、GoogleやYahoo!といったウェブ検索エンジンに近い存在である。
◯飯野さん@佛大その2
http://www.daitoken.com/research/annual_conference/2012/02/DS_1.pdf
2012年8月の大学図書館問題研究会全国大会での講義資料。ディスカバリーサービスは「次世代OPAC」「ウェブスケールディスカバリー」「ウェブ検索エンジン」を指すとし、以下のように述べています。
さまざまな見解がありますが、ここでは、「ディスカバリーサービス」という言葉を用いて、①のNGCを指す言葉として利用します
なお、飯野さんには「CA1772 - 動向レビュー:ウェブスケールディスカバリの衝撃」というレビューもあります。こちらでは「ウェブスケール」ということばの本質に迫ろうと試みています。
NGC(引用者注:次世代OAPC)としての特徴を備えた上で、「ウェブスケール」である製品のみがWSD(引用者注:ウェブスケールディスカバリ)と称される。
◯宇陀先生@筑波大
「重なり合う実空間と電子空間:ラーニングコモンズ×ディスカバリーサービス」(第11回情報メディア学会研究大会参加記録その2)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20120709/1341816727
第11回情報メディア学会研究大会(2012/7/7)でラーニングコモンズとディスカバリーサービスをテーマにしたパネルディスカッションが行われました。そのときの宇陀先生の発言(を @min2fly さんが記録したもの)はこうなっています。「すぐに」の典拠が気になります!
次にディスカバリー・サービス。これは最初は「次世代OPAC」と言われたが、それではなんだかわからないのですぐに「ディスカバリー」という名前に変わった。
いろいろ調べてみると割りとぴったりした名前であることがわかる。
OPACが図書館資料を検索するものなのに対し、実空間と電子空間全体から情報が発見されやすいようにするのがディスカバリー・サービス。
私がずっとこだわっているのは「検索する」から「発見する」に移っている、ということ。
情報検索は蓄積が前提で、いくら広くても範囲はわかっている。
ディスカバリー・サービスはDBがたくさん存在し、有限の範囲の中から探すことを超えている。問題自体、情報検索とは違うし、アプローチも違うはずと考えている。
ちなみに宇陀先生には「ディスカバリサービスに関する少し長いつぶやき」という文章もあります。「ディスカバリサービスと検索システムが本質的に異なるとすれば、その違いは何か?」と述べてはります。
◯ユサコさん(Ex Libris代理店)
Primo Discovery & Delivery
http://www.usaco.co.jp/products/exlibris/primo.html
ちょっとずるい書き方w
次世代OPAC、ディスカバリーインターフェースに分類される統合検索システムです。
OPAC、機関リポジトリ、SFX® のナレッジベースなどのローカル資源をハーベストし、単一のインターフェースを通して利用者に提供するシステムです。
○サンメディアさん(Serials Solutions代理店)
Summon
http://www.sunmedia.co.jp/e-port/serialssolutions/summon/
「次世代OPACを越える」と。ウェブスケールですからね。なお、Serials Solutionsは「AquaBrowser」という次世代OPACを販売しています(した?)。AquaBrowserはマーシャルさんの御本(p.32)で“the first product in this genre and is the most widely deployed”と書かれています。
Summonは統合検索や次世代OPACを越える全く新しい検索サービスです。グーグルのようなシンプルなインターフェイスから図書館独自の広範囲で信頼性の高い情報へすばやくアクセスすることができます。
○EBSCOさん
http://www.ebsco.co.jp/e-solution/about_eds.html
特に「次世代OPAC」的なことばは使ってないようですね。
EBSCO Discovery Service -EBSCOが提供するWebスケール ディスカバリー
○CMSさん
http://www.cmsc.co.jp/modules/office/index.php?id=25
九大などが採用しているeXtensible Catalog(XC)の導入支援を行っているベンダーです。なんだろう、こちらもあいまいな書き方……。
「次世代OPAC」 新しい検索サービス!ディスカバリインターフェース「eXtensibleCatalog”XC”」
○おわりに(個人的見解)
Web2.0という懐かしいことばが出始めたころと、自分が図書館と関わりはじめた時期はちょうど重なります。そのころからずっとOPACというものを、そういう目線で見てきました。
その間、「OPAC2.0」「次世代OPAC」「ディスカバリーインタフェース」「ディスカバリーサービス」「ウェブスケールディスカバリサービス」ということばが次々と登場してきました。「ディスカバリーサービス」については「ディスカバリーインタフェース」「ディスカバリーレイヤー」「ディスカバリープロダクト」「ディスカバリーツール」という類似表現もありますね。うしろふたつはともかくとして、「ディスカバリーサービス」はSaaS(Software as a Service)型で提供されるものを指しているのでしょう。また、これは想像にすぎませんが、「ディスカバリーレイヤー」からは、従来のOPACとは違って統合図書館システム(ILS)とは距離を置くんだ、別のレイヤーに属しているんだ、という思想が透けて見えます。“decoupled from ILS”というフレーズをよく見かけましたし。
日本語圏では見かけませんが“(next generation) library interefaces”という表現もありました。
「ウェブスケール」であるためにはセントラルインデクス(当初はpre-populated indexという表現をされていた)の存在が本質的だと思っています。それだけで十分かについては議論が分かれると思いますが。
マーシャルさんがおっしゃってるように、長らく使われてきた、図書館の所蔵資料を検索するツールとしての“catalog”ということばでは、現在の(あるいは昔からそうだったのかもしれません)ユーザが求めるリソースを探すためのサービスは、表現することができない。というわけで新たな呼称が生み出されたのでしょう(江上さんの2008年のエントリ「loser - 負け続ける図書館目録」にはっとした日のことを思い出します)。たとえ「次世代OPAC(と呼ばれていた製品)」=「ディスカバリーサービス(と呼ばれるようになった製品)」が正しいとしても、それでもやはり両者の世界観はまったく異なるものだと思っています。このへんは、AACR2→RDAという移行のなかで“catalog”という語が落とされたこととパラレルでもあると見ています。
それじゃあ、数あることばのなかからどうして“discovery”という単語が採用されたのか、最初にいつ誰がどこで言いはじめたのか、これが“next generation catalog”に取って代わったのはいつごろなのか、というのが気になってくるわけです。図書館システム史ですね。
というわけで、このはなし、続きます。